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2007年8月31日

INSIDER No.406《NEW TERMINOLOGY 1・2》シックカー・医薬の軍事化

シックカー

 『FACTA』最新号(8月号)が「“車内汚染”シックカーの恐怖」という4ページの記事を掲げている。住宅に使われる化学物質などによるシックハウス症候群はさんざん騒がれてきたが、実は車の内装材の材料や接着剤などに含まれる化学物質の問題も深刻で、新車に乗ってくしゃみが出たり鼻が痛くなったりするくらいならまだしも、過敏症の人だと目まいや吐き気を催すことさえあるという。マスコミは大スポンサーである自動車メーカーに遠慮してほとんど取り上げないから、私もそうだが、こういう問題があること自体に気付かずにいる人は多いだろう。

 自動車部品最大手であるデンソーの元社員で、転じて環境ジャーナリストとなって「エコライフ研究所」を設立した中野博氏が昨年12月に『新車は化学物質で汚染されている!シックカーは怖い』(現代書林)という本を出版したのが、日本どころか世界でもたぶん初めての正面切った問題提起だったようだ。

※エコライフ研究所
http://www.ecohouse.ne.jp/
※『新車は化学物質で汚染されている』
http://item.excite.co.jp/detail/ASIN_4774507989/

医薬の軍事化

 英リーズ・メトロポリタン大学応用倫理学部のスティーブ・ライト教授の「医薬の軍事化/危険な処方箋(Militarization of medicine:Dangerous prescriptiion)」と題した論説が30日付『インタナショナル・ヘラルド・トリビューン』に載っている。英国医師会(The British Medical Association=BMA)の最近の報告書を紹介しつつ、薬品の軍事利用が一層拡大する傾向にあることを警告したもので、その内容には慄然とする。

 化学薬品や細菌の軍事利用は今に始まったことではないが、技術的には、近年のバイオテクノロジーや神経科学の発展によって、政治的には、9/11以後の対テロ作戦のためなら何でもありの風潮によって、これまでとは次元の異なった“進化”したドラッグ兵器の開発に拍車がかかっている。

 1つは、味方の兵士を勇敢に戦わせるために、恐怖や苦痛や疲労を感じさせないよう“化学的に武装した部隊”を戦場に送り込むことである。イラク戦争の現実を見るまでもなく、戦場では精神的に傷害を被る兵士は肉体的に負傷する兵士の5倍にも及ぶ。兵士から罪の意識を除去し後々のトラウマによるストレスを軽減する軍用薬品が出現したとしてもSF世界の話ではない。

 もう1つは、敵方を無力化し、出来れば死に至らしめることなく鎮圧することである。02年10月にモスクワの劇場で起きたテロリスト集団による人質事件では、ロシアの特殊部隊が突入して912人中130人の犠牲を出しながらも残りの人々を救出したが、この時突入部隊は明らかに麻酔剤を使用した。この一事を以てしても、「死に至らしめることなく(non-lethal)」相手を無力化するなどということ自体が幻想にすぎないが、このようなドラッグ兵器の開発は対テロや内乱鎮圧作戦に有効との考え方から、例えば蛇の毒と似た分子構造を持つエンドセリンを基にした物質を散布して相手を痺れと痛みで動けなくする薬剤とか、血液循環に変調を来すような生体制御剤などはすでに実験に入っている。

 これらを目標に投入するための運搬装置の研究も盛んで、安定飛行する注射針、化学薬品を散乱させる迫撃弾、蛍光塗料入り弾丸(ペイントボール)の改良型、車両の乗り降りに反応して化学薬品入りの極小カプセルを飛散させるペレット弾などが設計されている。このようなドラッグ兵器の利用が進めば、その延長では、他国民の気分や記憶や免疫力、さらには出産能力にさえ影響を与えるような薬品をばらまくことにもなりかねない。このような兵器が、逆にテロリストたちの手に落ちたらどうなるのか……。

 このBMAのレポートは、同ホームページからDrugs as Weaponsで検索するとpdfファイルでダウンロードすることが出来る。

※BMA
http://www.bma.org.uk/ap.nsf/content/home

2007年8月29日

INSIDER No.405《NEW CABINET》「自民党をブッ壊さない」がメッセージ?!──安倍新内閣の顔ぶれ

 一見すると、「エッ、こんな政治家いたっけ」という無名閣僚が1人もいない、ベテラン実力派揃いの、適材適所とは言い切れないもののそれなりに安定感のある閣僚・党人事で、これでトップが安倍晋三首相でなければ「なかなかいい内閣じゃないか」と言われたことだろう。御厨貴=東大教授が「本来なら一番取り替えなければいけない人が上に座っている」(28日付朝日)と言っているのは、その通りである。ということは、これは安倍の求心力の表れというよりも、むしろ逆で、トップが空虚であり、その下で近々総選挙を迎えて政権を失うことになりそうな切迫した危機感の中で派閥の論理が大復活して、派閥代表者会議のような内閣ができたのである。その意味では、「ポスト小泉なんか誰もやりたくない」という自民党全体を覆う無気力状態の中で、ほぼ満場一致のようにして安倍が総裁に選ばれた1年前の状況は、本質的に変わっていないどころか、一層深刻化して、何があろうとせめて我が派閥だけは生き残らなくてはという古い自民党の派閥政治の岩盤のようなものが露呈してきた姿と言える。

●消えた安倍カラー

 この人事が世間に発しているメッセージを一言で言えば、「自民党をブッ壊さない」ということである。元々安倍が、小泉改革路線の後継者であるかどうかは疑わしい。それでも彼は彼なりにこの1年間、憲法改正を真正面に掲げ、それへの地ならしと言える教育基本法の改定や国民投票法の成立を成し遂げ、また公務員制度改革にも取り組むなど、政治偏重でしかもタカ派色の濃い方向ではあったけれども、安倍流の改革イメージを打ち出そうと腐心してきた。その辛うじての安倍カラーも、それを担った「チーム安倍」がほぼ解体されたのに伴って消え失せて、後に立ち現れたのは森政権以前の古い自民党でしかなかった。

 本誌が何度も指摘してきたように、小泉純一郎前首相が自民党総裁でありながら「自民党をブッ壊す」と言い放ったのは、小渕・森両政権を通じてそうでも言わなければもはや国民の支持を繋ぎ止めようもなくなった同党のどん詰まりの中での禁じ手の発動だった。実際に小泉がやったことはと言えば、自民党そのものではなく宿敵=旧田中派(現津島派)の道路や郵政にまつわる利権構造を叩き壊すことでしかなかったけれども、「改革だ!」という全体ビジョン不明のままの空疎な呼号と、局面局面を戦術的な過激さで乗り切っていく派手なパフォーマンスを散りばめることで、それは確かに一定の効果を発揮した。しかし、それで本当に自民党が生まれ変わった訳でも何でもない以上、次に出てくる者は、小泉と同じ手法は無理としても、何らかの方法で「自民党は変わりうるのだ」という印象ないし幻想を与え続ける以外に政権を長続きさせることは出来ないはずだった。

 本当に安倍カラーを押し出すなら、事前に取り巻きの右翼学者らが主張していたように、昨年秋の例大祭に正々堂々と靖国公式参拝を断行して旗幟鮮明にすべきだったろう。しかし現実には、小泉との違いを際だたせるための中川秀直前幹事長の苦心の演出による就任早々の韓国・中国訪問があったために、公式参拝どころか靖国のヤの字も口に出来ないディレンマに陥った。それでも気を取り直して、今年初め頃には「憲法改正を正面に掲げて参院選を戦う」と意気込んではみたものの、トラブル続きの政権運営でそれどころではなくなって、憲法のケの字も言わずに参院選に突入。「生活第一」を主張した民主党に惨敗して、「参院選の結果は、中央と地方の格差の問題に政治がもっと配慮すべきだという教訓だ」(27日会見)と、政治偏重へのブレを自ら否定せざるをえなくなった。この一言で、それでなくとも中途半端だった政治的な安倍カラーは死んだのである。

 読売28日付1面の論説は、「憲法改正よりも生活が大事。それが参院選で示された国民の意思だ、というまことしやかな解説がある。そんなことはない。……世界の大きな潮流も見据え、あるべき社会や国家の姿を示すのは政治の責任である。憲法改正はその重要な柱である」と、改憲路線放棄への危惧を露骨に表明しながら安倍を煽ってはいるけれども、それは悔し紛れというもので、朝日同日付社説の見出しのように「“脱安倍色”で、さて何をする」というのが、むしろ安倍自身の心境に近いに違いない。

●経済路線も行方不明

 経済路線で安倍カラーと言えるものがあったとすれば、小泉〜竹中〜中川(秀)が敷いた改革→経済成長→消費税引き上げ先延ばしのいわゆる「上げ潮戦略」である。甘利明=経済産業相と大田弘子=経済財政相、渡辺喜美=金融行革相の留任は一応、その継続を図る意味をなのだろうが、キーマンの中川が消えて、その中川が強く反対した与謝野馨が官房長官に、また選挙中に「安部政権は経済成長戦略を修正すべきだ」と公然と主張していた額賀福志郎が財務省に就いたことで、この面での安倍カラーもまた風前の灯となった。与謝野は、小泉政権末期の党政調会長として、財務省サイドに立って消費税アップによる財政再建優先論を主張、竹中・中川と激しく論争した経緯があり、その与謝野を霞ヶ関との調整の要である官房長官に据えた安倍の意図は理解不能で、推測するに、路線などもうどうでもよくて、党内安定重視という安倍の心境の現れではないか。ともかくも財務省は与謝野の官邸入りを大喜びしている。

 また与謝野はリベラル派で、拉致議連を名指しこそしないが「偏狭でコントロールの利かないナショナリズムには気を付けないといけない」と、アジア近隣と徒に敵対する安倍の取り巻きへの不快感を露わにしているし、さらに靖国についても靖国神社が自主的にA級戦犯を分祀すべきだという持論を持っていて、安倍とは全く相容れない。この面でも与謝野の官房長官起用は政治面での安倍カラーの自己否定にもなるだが、それについて安倍がどう考えているのかは不明である。

 増田寛也=前岩手県知事の総務相登用はかなり大胆な人事で、舛添要一の厚労相起用と並んでこの内閣の数少ない“攻め”の人事である。それは、「中央と地方の格差への配慮」という安倍の参院選結果への教訓に直結してのことではあるのだろうが、増田が改革派知事としてこれまで主張してきた補助金の廃止と地方への税源移譲を実行しようとすれば、公共事業費や地方への補助金の削減に反対する額賀=津島派はじめ古い自民党と真っ向対決することにならざるをえない。そこを安倍がどう捌くつもりなのかもこの人事からは見えてこない。

 安部政権はこの秋にも、消費税アップを含めた税制改革論議を煮詰めることを公言しているが、それをどういう方向に導こうとしているのかはこの人事では見えてこない。

●拉致問題で頓死も

 外相に町村信孝、防衛相に高村正彦という、いずれも外相経験者で派閥の長でもある2人を持ってきたのは、テロ特措法の延長期限が11月1日に迫っている中での精一杯の配置である。しかしこの問題は、日米同盟重視=集団的自衛権解禁論か国連中心主義=集団的自衛権制約論かという原理的な次元のものであり、小沢=民主党と安易な妥協など成り立つ訳がなく、この2人を以てしても合意は不可能だろう。参議院が同法の延長を否決もしくはサボタージュして安倍政権が対米関係上で立ち往生することは大いに考えられる。

 さらに重大なのは、マスコミは余りそのことに言及していないが、安倍の拉致問題最優先の立場が対米関係を行き詰まらせる可能性である。本誌がこれまでも述べてきたように、米国のブッシュ政権は北朝鮮との核問題の決着を急いでいて、この秋にも「テロ支援国家」のレッテル貼りを解除するだろう。そうなれば、5月訪米でそのことをお願いしに行ったはずの安倍のメンツは丸潰れで、それだけでも内閣総辞職の事由になりかねない。北の核問題のグローバルなテロとの戦いの緊急性を重視することなく、専ら心情的な拉致問題のドメスティックな心情に依拠して人気を作り出してきた安倍にとって、これは致命傷となる公算大で、これは町村外相としても防ぎようがないのではあるまいか。

 こうして、安倍改造内閣は何が何だか分からないような政権である。根本的には、小泉政権がそもそも自民党にとって“最後の切り札”であったのに、その後にもう1枚、最後の最後の切り札なぞあるはずがなかったという状況の中で何とか足掻かざるをえなかったのが安倍政権であり、それが遠からず終わって次の総選挙で民主党政権が実現することで、それが何ぼのものであるかは別として、日本の民主主義は一歩前進することになるのえある。▲

2007年8月21日

INSIDER No.404《SUB-PRIME》サブプライム問題ごときでなぜ世界がガタガタするのか?──電子的金融カジノのふしだらさ

 米国の低所得者向け住宅ローン(サブプライム・ローン)の焦げ付きという些細な問題をきっかけに、全世界の資本・株式・為替市場がたちまち混乱に陥り、相乗的な下落スパイラルに填り込みかねない不安に晒されている。複雑系理論で言う「北京の蝶(が羽ばたくとニューヨークでハリケーンが起きる)」モデルを絵に描いたようなこの不思議な光景から透けて見えるのは、いきなり結論を言えば、電子化された金融カジノによって徒に消費と投資を煽るアメリカ帝国のみせかけの繁栄を、もはや世界がいつまでもアテにしているわけにはいかなくなってきたという大きな時代の流れである。

●消費の蟻地獄

 サブプライム・ローンの残高は約1兆3000億ドル(約147兆円)で、決して少ない額ではないが、それでも全米の住宅ローンの10%を占めるにすぎない。その焦げ付き比率が4年半ぶりに上昇して15%程度まで達したというのが今回の問題の発端で、それは確かに憂慮すべきことではあるけれども、世界を揺るがすような話ではない。サブプライム・ローンは元々、普通なら銀行にローンを組んで貰えない低所得者層や過去にクレジットの支払い遅延を起こしてブラックリストに載ってしまっている人たちに、無理矢理にでもマイホームを建てさせようという狙いで住宅金融会社などが通常よりも2〜4%高い金利で提供してきたもので、その金利の高さにすでにリスクの大きさが織り込まれている。しかも、最初から高金利では敷居が高いので、当初は5〜7%程度に金利を抑えて借り易くしておいて、3年後から10〜15%に跳ね上がるように設計してあって、当然それ以降に返済が続かない人が出てくることもまた想定内であったはずなのだ。

 米経済の好調を支えてきたのは旺盛な個人消費で、その推進力となってきたのは住宅建設である。その住宅建設ブームに低所得者層までも引っ張り込んでさらに住宅消費を掻き立てようとするための奸計がサブプライム・ローンであり、それが焦げ付き始めたというだけなら、まだ「住宅ローン問題」の範囲内である。しかし問題は、サブプライムが単に低所得者層の住宅消費への吸引口となっているだけではなく、さらにその住宅を担保にした別種のローンで使途自由な資金を手に入れて散財してしまうローン地獄への誘導路にもなっていることである。例えば「キャッシュアウト」は、住宅ローンを借り換える際に、残額を上回る融資を受けてその差額分を現金で受け取るもので、3000万円のサブプライムローンで建てた家があったとして、何年か経って半分返済して残額が1500万円になった時に、「これまで順調に返済してきたことだし、もう少し金利の有利なローンに乗り換えましょう。住宅価格が値上がりして担保価値も上がっているので、2000万円ご融資します。差額の500万円で、どうですか、新車を買ってご家族でメキシコ旅行でもなさったら」という話になる訳である。「ホーム・エクイティ・ローン」も似たようなもので、値上がりした住宅を担保にして、その時点での嵩上げされた査定価格から住宅ローン残高を差し引いた額の7〜9割に当たる使途自由の現金を融資されるもの。いずれも住宅バブルが続いていればこそ可能な、屋上屋を重ねるがごとき過剰融資で、こうした金融的な手品を媒介に住宅ブームが消費ブームに変換・拡張されて、「借りたいだけ借りて使いたいだけ使う」という米国式のふしだらな浪費癖が低所得者層まで巻き込んで膨張した。サブプライム問題は、米国的な過剰融資と過剰消費の相乗性の象徴なのであり、そこが躓くと米経済そのものが転びかねないのである。

●証券化=不可視化

 貸す方も借りる方もふしだらだが、金融側にはさらなるふしだらがあって、それがリスクを世界中に拡散させる。住宅金融会社は住宅ブームの行け行けドンドン気分の中で、それでなくとも危ないサブプライム・ローンの融資審査をますます甘くして顧客を増やし、しかもその取り立てに自ら責任を負うことなく、ローン債権を一括して証券会社などに売却してリスクを回避する。その時点で個々の顧客の顔は消え、従ってそれぞれのケースに応じたリスク対応策の必要性も失せて、リスクはあるが高利回り(であるはず)の抽象化された債権の塊となる。証券会社はサブプライムをはじめいくつかの住宅ローン債権を組み合わせて「住宅ローン担保証券(RMBS)」や、それを資産的裏付けとする「債務担保証券(CDO)」などのさらに抽象化された高配当の金融商品を世界中の投資家に販売するのだが、その高配当の元手はと言えば、大元のサブプライムの借り手が支払う利息であるけれども、それがどこでどうやって取り立てられるものなのかは既に誰にも見えなくなっていて、ただ高利回りの理論的可能性だけが売り買いされる。

 例えば、パリバの「高利回りですよ」との営業トークに誘われて金融商品を買ったフランスの投資家が、その商品を構成する多様な証券の中身など理解しているはずもない。パリバが運用するファンドは時価総額3600億ユーロ。そのうち米国の債務担保証券を組み込んだファンドは3種類、総額20億ユーロで、同証券の組み込み比率は3割程度にすぎず、その中でサブプライムが占める比率はさらに少ないだろうから、パリバの全ファンドの中でサブプライムは0.1%にも満たないはずである。それでも「サブプライムが危ない」と報道されただけで解約が殺到、同行は一時解約を凍結しなければならず、それが引き金になって欧州全体に不安が広がり、欧州中央銀行が緊急に流動性供給に走る事態にまで発展した。世界中の銀行やファンドが米国の高利回り証券をアテにしてカネを回しているから、ちょっとした不安が湧いただけで短期市場の銀行間資金調達からM&Aのための巨額な資金調達までがたちまち危なくなって、それが株式の下落や為替の変動にまで繋がっていくのが、金融資本主義の爛熟形態としての“ファンド資本主義”である。

 しかもその爛熟は、80年代に始まった金融の電子化とそれを通じた世界的一体化が、インターネットの普及とコンピューター技術のハード・ソフト両面の高速化・精緻化によって極限まで進んだ。70年代までは、カネは基本的にモノの取引の決済手段であって、世界の貿易総額の1割増程度の国際金融取引があったにすぎなかった。それが今では、モノの取引の何十倍ものカネが世界中に溢れかえって、しかも札束をスーツケースに入れて運搬する必要すらなくて、ただひたすら電子空間を数字が飛び交うだけでとてつもない利益や損失が刹那的に生まれたり消えたりしている。ディーラーのキーボードを叩く指の一瞬の遅れが何億ドルもの損失をもたらしたりするような、この万人参加の電子的金融カジノでは、「北京の蝶」などとシャレた言葉を使わなくとも、日本に昔からある「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざどおりの疑心暗鬼の思惑の神経衰弱症的な交錯が日常茶飯となる。

●世界政府?

 余談ながら、小学館『ことわざ大辞典』によると、この意味は「思いがけないところに影響が出ることのたとえ。また、あてにならないことを期待することのたとえ」で、原型は桶屋でなく箱屋だった。「今日の大風で土ほこりが立ちて人の目の中へ入れば、世間にめくらが大ぶん出来る。そこで(盲人は三味線を習って身を立てるから)三味線がよふ売れる。そうすると猫の皮がたんといるによって世界中の猫が大ぶん減る。そふなれば鼠が暴れ出すによって、おのづから箱の類をかじりおる。そこで箱屋をしたらば大ぶんよかりそふなものじゃと思案は仕だしても、是も元手がなふては埒明ず」(『浮世間学者気質』)——これはサブプライム問題での世界中大慌ての様子そのものである。

 問題の根源は、モノから切り離されたカネが、その本来の無政府性を解き放たれて、際限もなく肥大化ながら奔放に世界中を駆けめぐって、銀行やファンドはもちろん各国の政府・中央銀行の誰もそれをコントロールすることが出来なくなっていることである。12日の「サンデー・プロジェクト」は第3コーナーで、中原伸之=元日銀審議委員、水野和夫=三菱UFJ証券チーフエコノミストをゲストに迎えて「世界同時株安」を論じたが、核心に触れ始めた辺りで時間切れとなってしまった。それで、終了後の化粧落としの間に私とゲストの間で交わされた禅問答風の会話。

高野「結局、サブプライム問題というのは単なる住宅ローン問題でなく、アメリカ経済の放埒の象徴なんですよね」
水野「そうです。カネ、カネ、カネの欲望がどこまでも広がる」
高野「マネーの無政府性が解き放たれて誰も制御できない」
水野「だから、世界中央銀行が必要なんですね」
中原「いや、そうなると税もやらないと」
高野「あ、世界政府ですか」
中原「そう」

 世界政府は究極のソリューションには違いないが、それが出来るまでの間、世界は米国を頼りにせずに生きる術を身につけなければならない。▲

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