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INSIDER No.388《SEMINAR-1》高野孟の「インテリジェンスの技法」(1)──曼荼羅的な想像力と直感力/このゼミで何をしようとしているか/全体のイメージと若干のルール

INSIDER編集部より

 当「インテリジェンスの技法」は、本来、写真や図版等が多く含まれています。本文はINSIDERメール版を前提に編集してありますので、写真・図版付きバージョンを併せてご覧になりたい方は、下記URLよりダウンロードしてください。

http://www.smn.co.jp/insider/takano/takano-semi01.pdf

 なお、PDFファイルを開くソフトウェアをお持ちでない方は、アドビシステムズより、PDFファイルの表示・印刷用ソフト、"Adobe Reader"が無料で配布されています。下記URLからダウンロードできます。

http://www.adobe.com/jp/products/reader/

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●自己流の心象曼荼羅図

▲大隈塾ゼミ「インテリジェンスの技法」の授業イメージ図(画像略)

 このゼミで私が何をしようとしているか、まずはこのイメージ図を見てほしい。これは、トニー・ブザンが開発した「マインドマップ」の手法に見習いつつそれを私流に変造して「心象曼荼羅図法」と自称している方法によって描いている。この方法は、1つの問題なり課題を、自分の意識下にあることまで引き出しながら1枚の絵図に表現することで自分の頭を整理し、他人に分かりやすく伝達する準備を整えるためのもので、諸君も普段から授業や会議の記録をとる場合のノート術として活用して慣れておくとよい。今日から早速、こんなやり方でノートをとり始めたらどうだろうか。

 難しく考えることはなくて、ノートかA4の紙を横に置くかして(縦でもいいが横の方がやりやすい)、まず真ん中に「テーマ」を書き込んで、0時〜1時の方向から時計回りに枝を伸ばしていきながら「キーワード」を繋げていく。下図は、昨年の大隈塾社会人ゼミにパソナの南部靖之社長に来て頂いた時に、彼の約1時間の講演と田原総一朗さんのコメント、その後の学生との討論をA4の紙1枚にメモしたものだ。中身は読む必要がない。このくらい雑にノートをとればいいんだということを示すだけの見本である。

▲パソナの南部社長の講演と討論のメモ(画像略)

 ノートをとるのに頭から速記者のように講師の語る言葉を文脈ごと写しとろうとするのは最低のやり方で、講師の語りを自分の文脈の取り込んで瞬時に再構成しながらキーワードの連鎖に置き換えていくことに習熟しなければならない。社会に出て例えばジャーナリストとして誰かにインタビュー取材をする場合でも、会社に入って企画会議か経営会議に出席するような身分になった場合でも、市民運動の組織者となって運営会議を主催する立場になった場合でも、他人の文脈に従属して自分の文脈を作れないようでは何の役にも立たない。

 で、マインドマップだが、「さて、他方では......」と話が変わったら、適切なところまで戻って別の枝を描き出せばいい。聞きながら何か関連するイメージが浮かんだら、手早くアイコンのようなものをスケッチして図化しておくと表現が膨らむだろう。よく理解できないところに「?」マークを入れたり、「ここは重要だ!」と閃いたところは大きく描いたり色をつけたりして起伏を付けることもできる。そうすれば、的を射た異論を唱えたり、適切な質問をしたりすることも出来るだろう。そうやって一旦はラフに殴り書きしたものを、後でもう1度整理し修正しながら清書すると、復習にもなるし、マップの技法も向上する。A4かそれ以上の大判のノートかスケッチブックを1冊用意しておいて、そこに必ず清書するようにすれば、自分の成長記録にもなるだろう。

※トニー・ブザン著、神田昌典訳『ザ・マインドマップ』(ダイヤモンド社)
※ウィリアム・リード『記憶力・発想力が驚くほど高まるマインドマップ・ノート術』(フォレスト出版)
※ウィリアム・リード『ダ・ヴィンチ7つの法則』(中経出版)
※同上HP"agili":http://www.agili.jp/
※パソコン用マインドマップ作成ソフト"MindManager":http://mm.nvd.co.jp/
※マンダラビジネス手帳(クローバ経営研究所):http://www.myhou.co.jp/

 ウィリアム・リードは在日アメリカ人で72年に早稲田大学に留学、合気道と書道、それにタップダンスの師範級であると同時に、マインドマップやゲリラ・マーケティングを日本に紹介したコンサルタントでもある「文武両道」の人。《ざ・こもんず》のブロガーの1人でもある。昨年に続き今年もこのゼミに特別講師として来て貰うので、その時に直接彼から学んでほしいが、それ以前に最低限、彼の本は読んで研究しておくようにしよう。

▲ウィリアム・リードの自己紹介マインドマップ(画像略)

 曼荼羅とはインドで始まってネパール、チベット、モンゴル、中国、そして中国から空海によって日本にも伝えられた仏教の宇宙観の表象で、中でもチベットの「砂曼荼羅」は有名である。縦横1間ほどの板に設計図を描いて、様々な色の付いた砂を超絶的極精密技巧を駆使して何日もかかって描き込んでいく。が、その祭壇を作る目的である1つの法要が終わると、惜しげもなく掃いて壊して水に流してしまうところが、いかにも万物流転・諸行無常の仏教流である。とはいえ今も砂で描くのはチベットだけで、中国、モンゴル、日本に伝わる中で絵画化され、壁画や壁掛図、さらに日本ではミニチュア化された掛軸として飾られるようになった。

 mandalaはサンスクリット語で「円」を意味する。これに照応するチベット語は「キルコル」で、「キル」は中心、「コル」はその中心をとりまく円周状のものを意味している。円は全体性・完全性の表象で、その宇宙の全体的連環の中で自分自身のエッセンス(本質、真髄、生命の根源)を探究し抽出することで悟りに達していくということだろう(曼荼羅は中国でmandalaの音に漢字を当てただけで字自体に意味はない)。宇宙の全体構造は実は縮図となって人の心身にも凝縮していて、その我と宇宙の繋がりを直感的に媒介するものとして曼荼羅があるのではないか。こういうすばらしい精神的・芸術的技法がアジアと日本の伝統文化の中にあるのだから、何もカタカナで言うことはないし、第1、マインドマップというといかにもプラグマティックで軽い感じがする。

▲チベット僧が息を詰めるようにして描き上げる砂曼荼羅(画像略)

※正木晃ほか『チベット密教 図説マンダラ瞑想法』(ビイング・ネット・プレス)
※音楽CD『マンダラ/宇宙からの肉声/チベット仏教音楽の世界』(ワールド・ミュージック・コレクション、コロンビア)

●ユング心理学の中の曼荼羅

 ところで、カール・グスタフ・ユング(1875-1961)は、・ジークムント・フロイト(1856-1939)、アルフレート・アドラー(1870-1937)と同時代のスイスの精神病理学者・心理療法家で、最初は協働し後に分かれてそれぞれの道を進んだこの3人が、無意識の領域に探りを入れて人間行動の生理と病理を解明しようとする深層心理学の基礎を築いた。

 フロイトは深層心理を探るのに幼少期の抑圧された性衝動に着目して「精神分析」学説を打ち出し、それに対しアドラーは人間を突き動かすのはむしろ「権力への意思」、すなわち相手に対する支配欲であって愛や性もその手段にすぎないという考え方を採って、その学説を「個人心理学」と呼んだ。しかし、その両者に共通する、非合理なものを何とかして合理的に、厳密に理論化しようとする西欧近代科学的な方法に、ユングは不満で、個々人の抱える非合理を非合理のままに包摂しつつ直感的に分析し治癒するこを重視し、それ故に東洋思想の意識・無意識を超えた全体的・統合的な自己知の概念に接近し、それを「分析心理学」として打ち立てた。自分自身がほとんど精神病状態に陥ってあがいている過程で、憑かれたようにいろいろな図形を描いている自分に気が付いたことがきっかけとなって、彼はチベット仏教の砂曼荼羅に出会って心惹かれ、それにヒントを得て「描画療法」や「箱庭療法」を編み出した。

 心の病を抱える患者の深層心理を引き出す方法として「遊戯療法」があって、それは例えば子供とチャンバラをするとか、自由にお絵かきをさせるとか、いろいろな手法があるけれども、その1つが箱庭療法で、机に乗る程度の大きさのお盆のような木箱に砂を入れて、さらにその上に配置すべき家や木や人形や蛇など動物の模型などのおもちゃを一杯用意して、それを自由に使って好きなものを造形させることを繰り返す。まさに砂曼荼羅である。そのプロセスを観察し、時には介入することで、この患者の意識=無意識を診断し治療する(というか患者の自己治癒力を引き出す)わけである。

▲(左)ユングの患者が描いた自分の曼荼羅、(右)ヒンドゥー教のシヴァ神を呼び出す聖図(画像略)

 曼荼羅は仏教の専売特許ではない。上右図は、ヤントラと呼ばれるヒンドゥー教の曼荼羅で、左のユングの患者の1人が何十年にわたって描き続けた自らの心象曼荼羅の1枚と余りに似ているのに驚く。アメリカ先住民のナヴァホ族のシャーマンは、精霊への祈祷や冠婚葬祭や治療のために砂絵を描いたし、イギリス諸島の古代人はストーンサークルを建てて太陽を崇めた。ケルト人の複雑に編み込まれた組紐細工は宇宙のすべてが繋がり合っていることを表すまさに曼荼羅である。古代から世界のどこででも人間はそれぞれなりのやり方で曼荼羅を描いてきたのであり、それは様式化された巨大宗教が出現する以前の自然信仰の宇宙観・世界観表現にほかならなかった。ユングはそこから人類共通の無意識の普遍性に着目して「集合的無意識」の存在を主張した。そのことの文化人類学的意義はさておくとして、さしあたりの実用的価値としては、曼荼羅的手法は、無意識の領域まで含めて意識化する----もっと言えば、理屈で考えたことを文字で表しているだけでは左脳しか働いていないのに対して、それを図化して1つのアートとして仕上げていくことを通じて右脳の働きを活発にし、理屈を超えた想像力や直感力を思い切って解放するための手段と考えればいい。

※河合隼雄・谷川俊太郎『魂にメスは入らない/ユング心理学講義』(講談社α文庫)
※河合隼雄『ユング心理学入門』(培風館)
※ユング『個性化とマンダラ』(みすず書房)
※スザンヌ・F・フィンチャー『マンダラ塗り絵』(春秋社)
※マドンナ・ゴーディング『世界のマンダラ塗り絵100』(春秋社)
※河合隼雄『箱庭療法入門』(誠信書房)
※箱庭療法インデックス:http://www.pureness.co.jp/category/?l=cl0008&m=cm0071

●想像力の拡張

 さて、冒頭に掲げた私の曼荼羅図は右上から時計回りに描かれている。このゼミの目的は皆さんを「インテリ」に仕立て上げることで、まず「インテリジェンス」とは何かをしっかり掴んで貰わなければならないが、それについては後で詳しく述べることにして、まず大急ぎで図を一周することにしよう。インテリジェンスにとって致命的に大事なのは「想像力」であり、特にゼミ前期はほとんど、諸君が受験競争制度の中で限りなく衰弱させてきたであろう想像力の再開発と再拡張のために費やされる。

 まず、想像力は空想力とは違う。空想力(fantasy)は足がないのでどこへでもフワフワと飛んでいけるが、想像力(imagination)は足があってその足が地に着いていて、現実との間の緊張関係を絶えず維持し更新していないと何の役にも立たない。現実とは直接には「今この日本に生きる私」であるけれども、その《今・日本・私》は、雄大な歴史の流れの中の今であり、広大な宇宙と世界の中の日本であるという、歴史的時間軸と地理的空間軸の交点の所に乗っかって常に揺れ動いているのであるから、想像力はその両軸を中心に自由闊達・縦横無尽に伸縮するのでなければならない。私の意見では、歴史と地理こそ「教養」の基礎である(教養についてはまた別に語ることがあるだろう)。それは単に、歴史と地理の知識というよりも、宇宙〜地球〜生命〜人間〜世界〜日本〜地域〜自分までを串刺し的に一気通観しつつ、その中を孫悟空のように自由自在に飛び回る無限大のイメージ空間を自分の中に創出し培養することである。

 想像力には足があるけれども羽も生えていて、そのイメージ空間の中で視点を自由に移動させつつ1つの物事を矯(た)めつ眇(すが)めつ、いろいろな角度から眺めることを可能にする。そうするのは、世間の常識(の嘘)、表面的な理解、いつの間にか自分の中に巣くっている固定観念や偏見などといったものの呪縛から自由になって、自分なりの新鮮でユニークな視角、切り口、語り口を見つけるためで、例えば、目線の高さでは普段から見慣れたその同じ光景を、鳥になったつもりで遙か上空から見下ろしたり、虫になって地面すれすれから見上げたりすると、全く違った風に見えて新しい発見があったりする。あるいは、普通の世界地図を上下逆さまにして眺めるだけで、世界の印象はずいぶん見慣れないものになって、そこから先進国vs途上国の南北格差問題を捉える別の視点が生まれるかもしれない。あるいはまた、交通安全の問題を自動車の運転手の立場から考えるのと、歩行者の側から考えるのとでは、全く様相を異にして、とんでもない見落としがあったことに気付いて愕然とすることがあったりもする。

 次に、想像力には目も付いていなければならない。しかもその目は見えないものまで透視するほどの力を持たなくてはならないが、それにはそれ相当の認識論的な訓練が必要である。1つには武谷三男博士が提唱した「実体論」で、様々な「現象」からいきなり「本質」へと飛翔するのではなくて、その中間の「実体」の領域を重視しなければならない。その上で、もっと大事なのは「動体視力」で(私は「動態視力」と言いたいのだが)、ダイナミックに動いているものを一瞬のうちに構造的に捉えて、その局面では一体何と何がせめぎ合っていて、それが次にどういう局面を生み出そうとしているかを把握する力である。この動態視力を養うに最高の教科書だと私が思っているのは、毛沢東『実践論・矛盾
論』のとりわけ「矛盾論」で、毛沢東がどれほどの人物だったかも知らない皆さんにこんなものを読ませるのは気が引けるし、第一、かつては岩波文庫にも新日本文庫にもあって、我々世代には一般教養の一部であったものが、今はすべて絶版で、手に入れることすら難しい。仕方がないので、私が新日本出版社版の『毛沢東選集』から該当個所をOCRで起こしてWebに資料として掲げているので、それをダウンロードして熟読してほしい。

※毛沢東『矛盾論』フルテキスト
http://www.smn.co.jp/takano2.index/maozedong.html
※中国革命簡単年表
http://www.smn.co.jp/takano2.index/china-revo.html

 ところが、それを理解するには、ギリシャ哲学からヘーゲル、マルクスへと連なる西洋思想史について、最低限の常識が必要だし、さらにその延長では、相対性理論・量子力学から今日の複雑系理論にまで至る科学方法論の展開も視野に入れる必要が出てくるだろう。最近の「Web2.0」の議論などもそういうことを踏まえないと本当のところは見えてこない。あるいは、上に述べたユング心理学から刺激を受け取ろうとすれば、レオナルド・ダヴィンチからゲーテ、シュタイナーの「人智学」、そのシュタイナーの同時代人としてのユングといった自然思想の流れに目を向けなければならないかもしれない。そういう基礎教養を分厚く蓄えるほどに、想像力が逞しくなり、直感力が鋭くなるのである。

※内田信子『想像力/創造の泉をさぐる』(講談社現代新書)
※羽生善治『図解・羽生善治の頭脳強化ドリル/直感力・集中力・決断力・構想力を鍛える』(PHP研究所)

 ここまでが原理編で、図のここから先は応用編になるので今はこれ以上の説明は省くことにしよう。すでに「変なゼミに入っちゃったなあ」と後悔している人もいるかもしれないが、もはや逃れることは出来ない。そこでいくつかのルールを提起しておく。

(1)出席はとらない。が、事前のメールによる届け出なしの欠席と遅刻は許されない。このゼミに入りたくても入れなかった人たちに申し訳ないと思う、それこそ想像力を持ってほしい。

(2)成績は日常態度と前期・後期のレポートで評価する。毎回とは言わないが、積極的に質問・発言し、その時には必ず名前を名乗って私に対して自分をアピールして貰いたい。時間的に無理だった場合はメールでもいい。

(3)新聞は読まなければならない。出来れば2紙、理想的には英字紙含め3紙。その金がなければ30分早起きして図書館で読んでもいいし、ネットでも読まないよりはいい(但しネットでは本当の「新聞の読み方は鍛えられないので、せめて1紙を読んでプラスアルファのチェックのためにネットを活用するようにしたい)。《ざ・こもんず》のチェックも欠かさないように。ほぼ毎回、授業の冒頭で直近のニュースが話題になるので、何についても自分なりの意見を持って教室に来るように心がける。■

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