INSIDER No.382《ABE》支持率急落で“破れかぶれ”に傾く安倍首相(その1)──衛藤復党決断と拉致固執演出
26日付毎日に載った世論調査では、内閣不支持率は1月の前回調査より5ポイント増えて41%に達し、同4ポイント減の支持率36%を初めて上回った。20日付朝日の調査でも、不支持率40%で、支持率37%を初めて上回った。黄信号の点滅が次第に速くなって、やがて30%台前半に入ると赤信号の点滅に切り替わる目前の政権末期的様相である。
不支持の理由としては、毎日では「首相の指導力に期待できない」が前回比7ポイント増の49%、「首相が経験不足で頼りない」21%、「首相の政策に反対」19%など。指導力や経験不足という印象が増しているのは、閣議の“学級崩壊”状況を批判した中川秀直幹事長発言が大いに響いていると推測される。
朝日では、「首相の仕事ぶりが期待はずれ」が37%で、「もともと期待していない」32%と合わせて69%が不満。「柳沢厚労相を辞めさせる必要がある」が53%で、この問題が不支持増加に影響が大きかったことが窺える。政策面では、「格差問題への取り組みを評価する」が21%に止まり、「評価しない」が54%と過半数を占めた。反面、「拉致問題が前進しなければ北朝鮮を支援しないという姿勢」については、「評価する」が81%と、圧倒的多数を占めた。
●“決断”はいいが、その方向は?
この状況で、官邸周辺から漏れ伝わるところ、最近、安倍晋三首相の口から「私が決断する」というせりふが出ることが増えているという。指導力を示さなければならないという狙いからのことであるのは言うまでもないが、その真情は「周囲の意見を聞いても内閣支持率が下げ止まらず、最近は『思い通りに決断して国民の審判を仰いだ方がいい』という思いが強くなっている」というもので(24日付読売)、座して死を待つよりも破れかぶれでやって、駄目なら責任を取ればいいんだろうという、ほとんど悲壮な覚悟である。
その現れが、唐突に浮上した、郵政造反・落選組の衛藤晟一前衆議院議員を復党させて参院比例選から出馬させる問題である。これが破れかぶれなのは、そもそも安部内閣の支持率が大きく落ち込み始めたきっかけが、昨秋の造反・当選組12人の復党問題であり、その際に落選組17人(引退者や他党入党者を除くと復党対象者は9人)については参院選前には復党は認めないとの自民党執行部の方針決定があったというのに、敢えて首相の“決断”でそれを覆して指示したからである。
指示された中川幹事長は、元々昨秋の当選組復党には慎重な立場で、対象となった12人に党の決定に従うとの「誓約書」を提出させるなどのハードルを設け、結果的に平沼赳夫の復党を阻んだ。この時、安部が世論の反発や与党内の慎重論の強さに惑いながらも最終的に復党を認めたのは、誰よりも、思想・信条的に近く歴史教科書問題など右翼的政治運動の同志として重んじてきた平沼を復党させたいという思いからであった。が、中川の設けたハードルでそれを阻まれ、挙げ句にその心労から平沼は脳梗塞に倒れて入院するという悲惨な結末となった。安部にとっては平沼と同じく同志である衛藤の復党指示は、一面において、中川に対する意趣返しである。中川は、今回の指示に反対であるに違いないが、直前に「閣僚は首相に絶対的な忠誠と自己犠牲の精神が求められている」と発言したばかりで、総裁である安部に幹事長として従わざるを得なかったのだろう。しかし、このことで安部・中川関係は陰に籠もって悪化し、政権運営にさらなる支障が出てくることが予想される。
衛藤復党は、公明党との関係も一気に険悪にした。公明党はこれまで通り、参院選挙区で自民党候補を全面支援する代わりに、比例では自民党から票を貰う、「選挙区は自民党へ、比例は公明党へ」という選挙協力態勢を採っており、衛藤の元々の地元である大分県でも自民党候補者を応援する異を決めている。しかし衛藤が比例に立候補した場合、自民党支持者の比例票が衛藤に流れ公明党には余り回ってこないことが予想される。その結果、衛藤は当選したが公明党は比例で1人取り落とすことになりかねず、単に大分県の選挙協力が壊れるというだけの話ではなくなる。安部はもちろんそのことを承知していて、23日に記者団に「我が党の候補者だから我が党で決めたい。ただ、選挙協力は両党の信頼においてしっかり組むことが大切だ」と語っているが、まさにその信頼関係に敢えて亀裂を入れたに等しい。
公明党は、安倍政権発足とほぼタイミングを合わせて大田昭宏代表体制に切り替わり、その時から「安部自民党とどこまで付き合うのか」という悩みを抱えてきた。一応「平和と福祉」を売り物にしてきた同党にとって、改憲を呼号する安部は小泉以上に路線的・体質的に相容れない部分があり、それでも自民党との連立=選挙協力を続ける以外に社民党並みの少数政党に転落することを防ぐ道がないという判断から安部の同伴者となって何とか彼を盛り立てようとしてきたのだが、今回のようなことがあると、この政権への思いが急速に冷めて、形の上では選挙協力態勢を敷いても今ひとつ組織動員に力が入らないということが十分に起こり得る。
言うまでもなく、参院選は自公連立として過半数を維持できるかどうかの勝負で、それには全部で29の一人区で、前回は27区で14勝13敗だった拮抗状況を上回って議席を確保できるかどうかが焦点である。そうでなくとも、参院選に限らず衆院選の小選挙区でも、今や自民党は独力で過半数を確保して政権を維持する力は失っていて、多くの選挙区で平均数万の創価学会票が自民票に上乗せされることで辛うじて民主党を上回っている場合が少なくない。増して今回は、小沢=民主党がまさにその一人区を最大ターゲットとして地を這う選挙戦術を採ってきており、自公の過半数確保は危ないと見られている。その時に、どうして公明党=創価学会のやる気を削ぐような挙に出るのか、政治的判断として理解不能である。自民党内でも、特に再選を控えた舛添要一参院政調会長は危機感を募らせ、「百害あって一利なし。間違った判断だ。こういうことを続けるとますます支持率が下がる」と、公然と安部を批判している。
衛藤という友人1人を救うことで、中川は陰に籠もり、参院は怒り、公明党はやる気を失い、世論は呆れる。何もいいことがないどころか、自殺願望かと思わせるほどの安部の政局判断で、こういうのは“決断”ではなく単なる破れかぶれである。[続く]▲