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2007年1月28日

INSIDER No.380《NEW YEAR 2》2007年の世界と日本・その2──早くも始まった米大統領選挙

 ブッシュ米大統領の「イラク新政策」は、前号で予想したとおり中途半端な兵員増強策になり終わり、それに対する議会と国民の理解と賛同を求めるための絶好の機会となるはずだった23日の年頭一般教書演説も、米メディアから「何の新味もない」と酷評される体のもので、政権の死に体化を防ぎ、1年10カ月後の大統領選に向けて共和党勝利の道筋を残す上で何の役にも立たなかった。

 イラク現地では、15日にバグダッドに到着した増派部隊の第1陣が早速にスンニ派武装勢力だけでなくシーア派過激派とそれを支援するイラン人顧問をも攻撃・殲滅する二正面作戦を開始したものの、20日には米軍ヘリが撃墜されて死亡した12人含め1日で19人もの米兵が死亡した。22日にはバグダッド市内の自爆テロで88人が死亡し160人が負傷する大惨事も起きて、事態は悪化の一途を辿っている。

 他方、ライス国務長官は外交面の立て直しに懸命で、サウジアラビア、ヨルダン、エジプトなど周辺の親米的な穏健派各国と協調してイラン、シリア、ヒズボラ、パレスチナのハマスなど過激派を孤立させる工作を進めているが、ワシントン・ポスト17日付は「この地域を穏健派と過激派に色分けして対立を煽るもので、しかも穏健派は民主主義とは縁遠い独裁的な国であるのに対し、彼女が敵視する過激派のほうが曲がりなりにも民主政権である」「さらに、穏健派はみなスンニ派だが、イラクのマリキ政権はシーア派で、イランと通じている」——何をやっているのか訳が分からず、そのようにして米国は「中東で迷路に陥っている」と指摘している。「イラク研究グループ」の提言は、イランやシリアなど過激派こそを対話の相手として事態の打開を図れという妥当なものだったが、ブッシュとライスはそれを無視し、敵・味方を観念的に峻別して敵とはいかなる交渉もしないという従来のネオコン流の路線を修正しようとしない。

 これでは、軍事的にも外交的にも打開の糸口を掴むことは出来ず、すでに泥沼に腰の辺りまで浸かったブッシュは、そこから逃れるどころか、さらにズルッ、ズルッと深みに嵌りながら残りの任期を過ごすことになろう。

●ヒラリーが立候補宣言

 すでに以前から“最有力候補”と目されていた民主党のヒラリー・クリントン上院議員が21日、ブッシュ演説の直前というタイミングを選んでインターネットを通じて立候補宣言をしたのは、そのブッシュ演説が共和党にとっての事実上の選挙戦のスタートになることを見越してのことだったろう。

 「私は参加します。勝つために。ブッシュが米国に与えるダメージに歯止めをかけるために力を尽くします。新しい大統領だけがブッシュの失政を元に戻し、希望と楽観を取り戻すことができるのです」

 もちろん彼女も民主党も、これという抜本的な妙策がある訳ではない。が、ヒラリーはこの直前にイラク現地を視察した上で、ブッシュの増派策では何ら事態の改善に役立たないどころかますます米兵の犠牲を増やすだけだと明確に批判している。議会では、一部共和党大物も含めて増派反対を本会議で決議しようという動きが急で、決議だけなら拘束力はないが、さらに増派のための予算案が否決されるようなことになれば、ブッシュは窮地に立たされる。まずはそのようにしてブッシュの手足を縛った上で、すべての周辺国の協力によるイラク国内の大和解会議の開催であるとか、欧州との連携によるイラン核問題の交渉を通じての解決策であるとか、パレスチナ問題を含む全中東の和平プロセスの再建であるとかいったものの包括的なパッケージを示して、内外世論を引きつけることが、ヒラリーと民主党にとっての勝利への道となろう。

 ヒラリーは知名度においては圧倒的で、選挙資金の集金力も申し分ない。夫のクリントン大統領がセックス・スキャンダルで議会の弾劾まで受けるという大ピンチに陥った際に、いささかも怯むことなくそれに立ち向かい夫を守り抜いたその態度は、「類い希な精神力」「危機管理の見本」という賞賛と、「自分のキャリアを守るためなら仮面の夫婦でも何でも演じる鉄面皮」という悪評という相反する反応を生み出し、今でも“ヒラリー嫌い”の人は少なからずいるけれども、その後の彼女の上院議員としての活躍はその否定的評価をかなりの程度まで打ち消した。

 イラク戦争に関しては、開戦決議に賛成したことが弱みではある。彼女は、「国連の査察団をイラクに復帰させるという目的のために賛成したのだ」と説明しているが、そういうことは後になって言っても弁解にしか聞こえない。

●2番手を走るオバマ

 その点では、まだ上院に議席を得て2年余りのバラク・オバマ上院議員は、その決議に「愚かな戦争だ」と言って反対票を投じており、経歴に陰りがない。

 彼は、コロンビア大学とハーバード大学法科大学院を出た法律家・弁護士で、シカゴ大学法科大学院で憲法を講じたこともある。ケニア系黒人の父と白人の母親から生まれ、ハワイで育ち、イリノイ州の上院議員を2期務めた後に連邦上院に転じた。『父の夢を継いで』『希望を勇気に』の著書はいずれもベストセラーとなっており、演説も上手い。いつも静かな自然体で、他人を激しく批判するよりも自分の希望を穏やかに語ることを好むその人柄は人気の的で、昨秋の中間選挙でも民主党候補者の応援に全国で引っ張りだこだった。そうは言ってもヒラリーに比べればまだ知名度はなく、政治家としての資質も未知数であるところから、ギャラップの1月中旬の世論調査ではヒラリーの29%に対して18%と水を空けられているが、十分に有力な民主党大統領候補の1人である。

 ヒラリーとオバマが民主党内で先頭を走る選挙となると、イラクはじめ政策的な転換の行方とは別に、初めての女性大統領か、もしくは初めての黒人大統領か、ということもまた大きな関心を呼ぶだろう。とにかくこれまで220年間、米国民は「白人」で「キリスト教徒」の「男性」以外の大統領を選んだことがない。民主党が勝つ可能性が極めて高く、しかもその民主党内レースがこのまま2人で争われることになれば、「白人」でない大統領か「男性」でない大統領のどちらかがホワイトハウスの主の座に据えられることになるのである。

 26日付ニューヨーク・タイムズは「ホワイトハウスに女性がいるところを想像してみよう」という記事を掲げている。もし「候補者が女性でも十分な適格性があれは投票するか」という問いに対しては、86%(ニューズウィーク先月調査)から92%(CBS/NYT昨年調査)がイエスと答える。ところが奇妙なことに、「アメリカ(社会)は女性(もしくは黒人)の大統領を受け容れる準備が出来ているか」と問うと、55%(ニューズウィーク)、61%(ギャラップ)のイエスに留まってしまう。

 米国では、インテリほどそこそこの穏健リベラル風でいたいという願望のようなものがあるので、前者のように問われれば、女性や黒人に対して寛容な答えが増える。ところが後者のように「あなた自身はそうかもしれないが、米社会全体としては(客観的に)どうなのか」と問われれば、同性結婚、妊娠中絶などリベラル的な価値観への敵意がまだまだ根強く残っていることによる社会的な分裂のことが頭に浮かんで、「うーん、まだ時期尚早なのかな」と思ってしまうのだろう。ということは、最後の最後、煮詰まった時にヒラリーやオバマに投票することをためらう人が出てくる可能性があるということである。

 とはいえ、ブッシュ時代を彩った「敵意の政治学」にはもうウンザリだという心情も広く存在する。ネオコン的な外交政策は「悪の枢軸」やら何やらを敵にして武力で抹殺したり屈服させようとしたりして米国の対外的信用に破滅をもたらしたし、国内ではキリスト教右派勢力によるリベラル狩りの風潮が社会に深刻な亀裂を生んだ。格差は放置され、未だに救済を待つニューオルリンズのハリケーン被災者に対してはブッシュは年頭演説でねぎらいやお詫びの一言すら発しなかった。

 米国は、無知、粗野な刺々しさ、居丈高な暴力といったブッシュ的属性と正反対なものを求めていて、それは今のところヒラリーやオバマによる癒しへの待望論となって表れているのだろう。その意味で08年大統領選は、共和党のこれから浮上するであろう有力候補も含めて、「誰が一番ブッシュと対極的か」で争われることになろう。▲

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