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INSIDER No.376《ISG REPORT》米「イラク研究グループ」報告書の要点 »

INSIDER No.375《BUSH》民主党の勝利でなくブッシュの敗北──米中間選挙の結果でイラクはどうなる?

 NYタイムズが「イラク戦争についての国民投票」と位置づけた11月7日の米中間選挙で、ブッシュ大統領は事実上の不信任を突きつけられ、戦争遂行の直接の責任者であるロナルド・ラムズフェルド国防長官の首を差し出すことで国民の赦しを得なければならなかった。とは言え、同長官の放逐とロバート・ゲイツ元CIA長官の任命それ自体は、泥沼の内戦に陥りつつあるイラクの現状に何ら影響を与えるものではなく、ブッシュが地獄を這いずり回る思いで残り2年間の任期を過ごさなければならないことに変わりはない。

 世界にとって警戒すべきは、ブッシュの頭が破裂して、やけのやんぱちで新たな騒動を引き起こすことである。英紙ガーディアンが今月初めに調査した「世界平和に危険をもたらす指導者」ランキングで、ウサマ・ビンラーディンが87%でトップに立ったのは当然として、第2位はブッシュで75%、第3位は金正日で69%だった。米国大統領がビンラーディンに次ぐ、そして金正日よりも危険な「世界平和の敵」であるという異常な現実の中で、イラクでこれ以上たくさんの人々が死ぬことを少しでも防ぐ道筋を見つけ出すことが課題である。

●ベーカーvsチェイニー

 確かに、ラムズフェルド解任は1つの前進であるには違いなく、取って代わったゲイツ新長官と「イラク研究チーム」を率いるジェームズ・ベーカー元国務長官の穏健派コンビが泥沼からの脱出策を模索していくことになる。しかし、『ボストン・グローブ』のコラムニスト=ロバート・カトナー以外に指摘する人が少ないが、この戦争に大統領とアメリカ国家を引っ張り込んだ最高責任者、言わばA級戦犯であるディック・チェイニー副大統領はまだブッシュの側を離れないし、またイスラエル右派がホワイトハウスに送り込んだ“トロイの馬”であるネオコンの有力な一員=エリオット・アブラハムズはなお安全保障担当副補佐官(中東民主化政策責任者)として政権内にいて、チェイニーと密接に連携し合っている。リチャード・パール国防総省「国防政策委員会」委員長、ポール・ウォルフォウィッツ国防副長官ら他の多くのネオコンは、ブッシュ政権第1期末以降に離任しているが、アブラハムズはまだ残り、そしてそのネオコン庇護者のNo.2だったラムズフェルドは去ってもNo.1のチェイニーが残っているのでは、政策転換もままなるまい。

 実は、ラムズフェルド解任のシナリオは、選挙の数週間前にベーカー、その親分であるブッシュ父、政権内のコンドリーザ・ライス国務長官、そしてチェイニーを交えた秘密会合で話し合われていたもので、チェイニーは盟友ラムズフェルドを生け贄にして自分は勝ち組に乗ってベーカーと妥協し、生き残りを図ったのだ、とカトナーは指摘する(ヘラルド・トリビューン11月20付「ラムズフェルド後/で、チェイニーはどうなんだ?」)。

 ベーカーやゲイツ、それにブレント・スコウクロフト元安保担当補佐官らはいずれもブッシュ父政権の中心スタッフであり、ブッシュ父を含めイラク開戦には慎重論を唱え、当時のコリン・パウエル国務長官を支援してチェイニーを頭目とするタカ派&ネオコン連合を潰そうと努めてきた。彼らは、欧州諸国との関係修復、イランやシリアやパレスチナなどとの対話、イラク国内に関しては旧支配勢力であるスンニ派との対話とそれなりの処遇などを主張してきたが、その主張のすべてをチェイニーは忌み嫌ってきた。犬猿の仲とも言えるベーカー・チームとチェイニーの間で妥協が成り立ったとすれば、それはチェイニー側がいよいよ策が尽きて困り果てたからに違いないが、逆に見れば、ベーカーの軍門に下ったふりをしてあくまでブッシュの脇に留まってベーカー・チームに勝手なことをさせないようにする作戦なのかもしれない。結局、チェイニーまで首にしなかったブッシュは、そのことによって、そうでなくても難しいイラク政策の転換をなおさら複雑にしたことになる。

●イラクに解決策はあるのか?

 実際、今頃「イラク研究チーム」を作るくらいなら、戦争を始める前にもっとよく研究すればよかったじゃないかと思うほどだが、ここまで泥沼化した事態を綺麗に解決する名案などあるはずがない。

(1)即時ないし早期撤退論──次期上院軍事委員長に就任するカール・レビン上院議員(民主党)は「4カ月から6カ月のうちに撤退を開始させるべきだ」と主張しており、ハリイー・リード民主党上院院内総務も「数カ月以内に撤退開始」と語っている。メディアにも「米軍がいつまでも面倒を見ているからイラク政府がしゃっきりしないので、先に撤退期限を打ち出すべきだ」という論調は少なくない。しかしこれは最も恐ろしい選択で、たちまち本格的な内戦に突入、周辺諸国も介入して中東全体が大動乱に転がり込んでいく危険が大きい。戦争そのものが間違いだったことは措くとして、占領後に米国が、長い歴史の中で人口的には少数のスンニ派が一貫して支配勢力であった国情を全く理解せず、スンニ派=フセイン残党と捉えて敵視し、彼らをシーア派と和解させそれなりの処遇を与えることに全力を注がなかったことが、間違いの始まりだった。しかも、多数決原理の単純民主主義を持ち込んで無理矢理選挙をやらせ、そうすれば人口の過半を占めるシーア派が勝ってそれ主体の政府が出来て国家も社会も取り返しが付かないほど分裂してしまうことが分かり切っているのに、焦って強行したことが間違いの上塗りとなった。政府とその下の治安軍がシーア派主体で、なおかつシーア派民兵が紛れ込んで治安軍の制服を着てスンニ派を虐殺しているのでは、殺し合いが激化するばかりである。かといって、これれほどまでに双方の憎しみが噴火状態にある中で、今更時計を巻き戻して、スンニ派との対話を始めることなど出来るわけがない。和解によるイラク政府の再組織化が出来ないまま米国が撤退すれば、結果は悲惨であり、米国は無責任を非難されて国際社会で致命的に信用を失墜することになろう。

(2)米軍の一時増強論──ジャック・リード上院議員(民主党)のように「一時的に戦力を増強して早めに平定させるのが得策だ」という意見もあるが、少々の部隊増強で事態が改善するような状況ではなく、やるなら現在の数倍の兵力を一挙投入して力で制圧する以外にない。が、すでに米軍にそれだけの物理的な余裕はなく、また何よりも米兵士の犠牲が増え続けていることに苛立ち怒っている米国民をとうてい説得できないという政治的な壁がある。イラク国内でもスンニ派だけでなくシーア派の反米強硬派も含めた反米気運を煽ることになって、いいことは1つもない。リード議員の意見は現地事情の無知から来ている。こんな呑気なことを言っていないで、民主党は議員調査団でも送り込んで実状を徹底的に調べ上げて打開策を提言するくらいのことをしたらどうなのか。

(3)現状維持──ブッシュ大統領が口癖のように言い続けてきた「Stay on the course」で、それでどうしようもないからベーカー・チームが登用されたのではないか。現状維持は無策のまま事態を悪化させる道である。

(4)周辺国への協力要請──ベーカーが採りうる1つの方策がこれで、その提言を待たずにまずチェイニーが11月24日、サウジに飛んだのに続いて29日にはブッシュ自身がヨルダンを訪れてそこでアブドラ国王を中に入れてイラクのマリキ首相と会談するのは、すべてがベーカー頼りでないことを示すチェイニーの必死の演出である。しかしサウジやヨルダンではまだ周辺の周辺にすぎず、問題はブッシュ政権がこれまで採ってきた「敵とは対話せず」という子供じみた方針を転換して、イラク国内のシーア派に最も大きくかつ直接的な影響力を持つイラン、イラク過激派支援の通路となっていてレバノン情勢安定の鍵も握っているシリア、さらにイラク侵攻米軍の通過を拒んで以来険悪な関係になっていたがイラク国内のクルド族をどう抑えるかについて密接に協議しなければならないトルコなど、真の意味の周辺国──つまり、それらとの調整抜きにはイラク内戦が中東大動乱に発展するのを防ぎようがない国々──との精力的な対話を開始し、それを、次期上院外交委員長のジョゼフ・バイデン上院議員が言うような「イラク、イラン、シリア、トルコなどの周辺国、さらに米国をはじめとする主要国を加えた大規模な国際会議を開催する」といったところにまで繋げていけるかどうかである。その成否は、しかし、ブッシュ政権が余りに寛容だったイスラエルのパレスチナ虐殺をきっぱりと止めさせ、イスラエルの利益のための「中東民主化構想」というネオコン的誇大妄想を正式に廃棄できるかどうかにかかっている。主要国と言っても、大陸欧州諸国やロシア、中国などは簡単には米国の救済に動かないし、国連もそうである。開戦に当たってチェイニーやラムズフェルドが独仏などを「古い欧州」と蔑み、国連を「役立たず」と罵倒したことの傷は、ブッシュが心から頭を下げて詫びることなしには、容易に塞がらないだろう。

 こうして、イラク打開策は目途が立たない。根本的には、イタリアのブロディ首相がラジオでコメントしたように「この選挙結果は、国際社会で起きている米国一国主義から多国間協調主義への流れに寄与するだろう」というふうにブッシュ政権自身が受け止めるかどうかである。その21世紀の大局的なトレンドが理解できていないところがブッシュ政権のすべての間違いの根源であるけれども、そのことに同政権が気が付くことはないだろう。そうである以上、後2年間の地獄は続く。次が民主党政権になるとしても、そこが分からなければ同じことになるだろう。

●保守革命は終わったのか?

 民主党が上下両院で多数を占めるのは、94年の中間選挙で「小さな政府」「減税」「道徳的価値」「力による平和」をスローガンとした共和党が勝利して両院を支配して以来、12年ぶりのことである。当時、その4本柱を「アメリカとの契約」と名付けてキャンペーンの先頭に立ったのはギングリッジ下院議員で、その颯爽たる様子をメディアは「保守革命」と呼んで称えた。それがひっくり返って、さてこれは民主党の「リベラル革命」の始まりであって、08年大統領選での同党の政権奪還に直結していくのかどうか。

 選挙戦のいくつかの特徴を捉えれば、確かに米国社会にリベラル側への揺り戻しが働いているのは事実である。両院での女性議員の数は過去最多になり、それを象徴するかのように民主党のナンシー・ペロシ下院院内総務が史上初の女性下院議長に就任する。ミネソタ州では、これも史上初のイスラム教徒の下院議員キース・エリソンが当選を果たしたし、エリソンと同じくアフリカ系のバラク・オバマ下院議員はイリノイ州の枠を超えてあちこちの選挙応援に引っ張り出される大人気で、次期大統領候補の呼び声も高い。州知事選でも、史上2人目の黒人知事が誕生した。総じてマイノリティの健闘が目立ち、9・11後の米社会の多様性・多元性そのものを拒絶するかのような社会的風潮に多少とも緩みが出てきたことが感じられる。

 36州で行われた知事選では、選挙前に共和党22:民主党14だったのが16:20に大逆転したが、民主党が勝ったというよりも、全体として「賢くて知識豊富で冷徹でイデオロギーに流されない、つまりブッシュと正反対のタイプ」(ニューズウィーク)が選ばれていて、そこにも、ブッシュ政権のよろず刺々しくも騒がしいイラク戦争やテロ対策、同性愛や妊娠中絶への反感などを超えて、もう少し落ち着いて米国の将来像を再建していきたいと思う米国民の心情が現れているのだろう。オバマ人気もそこに根ざしている。

 他方、共和党はカネとセックスをめぐるスキャンダルに足を取られた。カネでは、トム・ディレイ下院院内総務はじめ何人もの議員が逮捕され失脚したし、選挙直前には、フロリダ州選出の共和党大物のトム・フォーリー下院議員が少年に対して猥褻なメールを送りまくっていたことが露呈し、加えて、同性愛反対キャンペーンの急先鋒だった全米福音派協会のテッド・ハガード会長が、何と、プロの男娼を買い漁っていた事実が暴露されて会長を辞任する騒ぎとなった。ブッシュ政権と共和党、その最強の支持基盤であるキリスト教右派が共有する“価値観”が戯画と化してしまった訳で、これではキリスト教右派も選挙に力が入らないし、その我が物顔の跳梁跋扈を苦々しく思っていたカトリックやプロテスタント諸派など他の宗教勢力が余計に民主党に傾いたのも当然である。

 こうして、政治的地合いは全体として民主党寄り、リベラル寄りになってきて、それが2年後の大統領選では民主党有利に働くであろうことは確かだが、かと言って民主党はこの選挙で、イラク戦争や共和党スキャンダルへの批判は激しく展開したものの、リベラル革命への能動的な綱領を打ち出して人々の共感を得ることには失敗している。イラク解決策1つをとっても、ブッシュ政権を批判はしても、これといって有効な方策を全党一致で打ち出しているわけでもない。さらに、民主党の勝利は下院40人、上院9人の新人が共和党現職を打ち破ったことによるところが大きいが、その大半は、伝統的な民主党リベラルの主張とはほとんど無縁のいわる“ニュー・デモクラット”で、共和党穏健派とどこが違うのかよく分からない中道右派的な人物が多い。

 その意味では、80年に当選したレーガン大統領の小さな政府、市場主義を柱とした経済的保守主義と対ソ新冷戦、94年ギングリッジ保守革命の社会的価値観の強調といった流れはまだそれほど大きく修正されているわけではなく、ただ00年ブッシュ大統領の登場で始まったキリスト教右派の大量の政治的動員による過度の道徳主義とネオコンの浸透による極端な対外政策など、保守革命の行き過ぎが是正されつつあるというのが本当のところで、保守革命が終わってリベラル革命が始まったという事態ではないと捉えるべきだろう。

 従って、2年後に民主党が勝って米国の21世紀を軌道に乗せるには、まずそれまでの2年間に議会が積極的に参与してイラクによりましな状態を作り出すこと、その実績を背景に、国内における多様性と寛容性の回復と国際社会における多国間協調主義への同調とを、1つに統合された新しいリベラル哲学として示すことが求められるだろう。民主党の大統領候補として有力なのは、上述のオバマと、ヒラリー・クリントン上院議員だが、彼らがその力量があるかどうかが問われている。▲

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