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INSIDER No.374《COLLAPSE》米軍が用意する「北朝鮮崩壊」の作戦シナリオ──日本に出番はない

 今週の『クーリエ・ジャポン』11月16日号では、ベテラン軍事ジャーナリスト=ロバート・カプランの「北朝鮮崩壊後の世界」が面白い。『アトランティック・マンスリー』に載った論文の翻訳で、クーリエ・ジャポン誌で8ページに及ぶ力作である。

 中国は、北朝鮮の現体制の存続を望みながらも、“将軍様”亡き後(もしくは亡き者にした後)の北をどうするかの計画をいくつも練っているが、それは米国も同じで、陸軍特殊部隊をはじめ米軍内部や内外専門家へのディープな取材に基づいてカプランが描いているところを思い切って(私の主観も交えて)整理・要約すれば、次のようになる。

●崩壊への7段階

 朝鮮半島の軍事問題の専門家であるロバート・コリンズによると(とカプランは書いている)、幸いにも、北朝鮮の崩壊は段階的に進む公算が大きい。

(1)国力消耗
(2)国力消耗による国家インフラ維持不能
(3)党地方幹部や軍司令官の暴走および腐敗の横行
(4)これら不満分子が危険なほど力をつけつつあるとみた金体制による弾圧の試み
(5)中央政府に対する公然とした反抗
(6)体制崩壊
(7)新たな国家指導体制の確立

 北は恐らく90年代半ばに第4段階に達したが、中国・韓国はじめ外からの支援によって救われ、今は第3段階にまで回復している。金正日は、軍部を徹底支配することで第4段階以降に進むことを阻もうとして、ミサイルや核弾頭の実験を派手に演出して軍を自分に引きつけようとしている。しかし、120万の北朝鮮軍の規模は大きすぎて、食糧などで十分に厚遇できるのは約10万人の特殊工作部隊をはじめ精鋭部隊に限られていて、大多数の通常部隊は一般国民と同様、極貧に喘いでいる。仮に大衆蜂起やクーデターが起きても、彼らは命令に従ってそれを鎮圧する側に回るよりも、むしろ歓喜して参加したり扇動したりするかもしれない(第5段階)。精鋭部隊だけでとうてい抑えきれなくなれば、たちまち体制崩壊である(第6段階)。

●崩壊過程をコントロール出来るか?

 問題は、その崩壊過程をコントロール出来るかどうかである。核弾頭は実用に足るかどうか疑わしい数発があるだけだが、北は世界最大規模の生物・化学兵器を持っていて、それを通常兵器に着けてソウルに撃ち込むことが出来る。金体制の指揮系統が崩壊し、地方の軍司令官が敵味方に分かれて撃ち合ったり、生き残りを求めて勝手に走ったりすることに加えて、パニックに陥った国民の間で無法な略奪行為が横行し、一部は難民化して国外(主に鴨緑江を越えて中国東北)に溢れ出すといった無政府状態が生じた場合、それら大量破壊兵器は誰の手に落ちてどんな使われ方をするか分かったものではなく、現在のイラク内戦より遙かに危険な状態が現出する。

 では、そのような大崩壊が始まる前に、米国が先制的な「ピンポイント爆撃」を仕掛けるというシナリオはどうか。これこそ金の思う壺で、北はソウル中心部にある米軍の龍山駐屯地に的を絞って5分か10分程度、集中的にミサイル砲火を浴びせ、すぐに攻撃を中止し、和平交渉を要求する。韓国・中国はじめ世界中が米国の暴挙を非難し、北の求める和平交渉に応じるべきだと声を揃え、米国は政治的に苦況に陥る。交渉の結果、北は新たな支援を獲得し、政権を延命させることが出来る。ピンポイントで金を爆殺出来ればその後の事態は異なるかもしれないが、それはサダム・フセインの場合よりさらに難しく、また北はそのことを十分想定して反撃プログラムを自動化しているだろうから、金を首尾良く爆殺出来ても同じ結果になるかもしれない。

 そこで、経済制裁を徹底化して北をとことん追い詰めて崩壊させるという「経済戦争」のシナリオが浮上するが、これも余り賢明とは言えない。金がまだ軍を掌握している段階でそこまで追い詰めれば、窮鼠猫を噛むような軍事行動に打って出て、数少ない核兵器でも生物・化学兵器でも、ありったけブチ撒けることになるだろう。また、経済制裁を効果的にするには中国の協力が不可欠だが、中国はすでに北の鉱山や鉄道をはじめ経済的・軍事的に価値のある資産を確保していて、それを無にするような制裁も崩壊のさせ方もしないだろう。そのためこのシナリオは巧く行ったとしても中国の主導権を許す結果となる。

 ピンポイントも経済戦争も、金体制の崩壊前に仕掛けても満足すべき結果が得られない可能性が大きいということである。

●北の韓国奇襲

 では、こちらから仕掛けていないのに、北が韓国に全面攻撃を開始するというケースはあり得るだろうか。その可能性は20年前と比べて低くはなっている。金日成体制下の北はもっと強い国だったし、韓国軍の練度も低かったからだ。

 もし北が突然、韓国侵略を開始するとすれば、ミサイル、大砲、多発ロケットランチャーを総動員してソウルに1時間に30万発以上もの爆弾を降り注いだ上で、潜入した特殊工作部隊があちこちで破壊工作を実施し、それから陸軍が侵攻する。が、この作戦に成功の見込みは全くない。在韓・在日・在グアムなどの米航空戦力が圧倒的に制空権を確保して、北の砲撃基地だけでなく戦略中枢を徹底的に破壊し、進撃する地上部隊を焼き尽くすだろうからである。金正日はそのことを百も承知しており、崩壊が第5段階から第6段階に進む過程で、自暴自棄になって集団自殺的な玉砕を選んだ場合だけだろう(ほとんど起こり得ない)。この全面攻撃と、「ピンポイント爆撃」への極めて限定された反撃との中間規模の作戦はないわけでなく、1時間に30万発も撃ち込むことは避けてほどほどの流血に止め、すぐに停戦と和平を提案し、金体制の存続を策することである。しかし、この場合、米国が先制攻撃したという北に有利な条件は存在しないので世界の非難は北に集中するし、北の意図に関わらず米・韓の反撃は徹底的なものとなって北は焦土と化すので、金に生き残りの可能性はほとんどない(従ってこれもほとんど起こり得ない)。

 北が韓国を攻撃して金体制が生き残る可能性があるのは、米の先制攻撃に対して限定的な反撃をした場合のみと考えてさしつかえない。

●崩壊と同時に国際部隊が進駐?

 そうしてみると、北の崩壊がコントロールされない形で爆発してアジアと世界にとんでもない災禍をもたらすのを防ぐ方法は、どうやら1つしかない。第5段階が第6段階に移行した瞬間に、米・韓・中・露の4カ国を中心とする連合軍が(たぶん国連軍のヘルメットを被って——ということはそれ以前にそのような国連決議が行われていなければならないが)北朝鮮に進駐し、金に忠誠を誓って抵抗する北の軍部隊を撃破する戦闘作戦を進めつつ、同時に社会崩壊と難民流出、大量破壊兵器の拡散を防ぐ治安確保作戦を展開することである。

 この戦闘と同時に治安維持と人道的救済を実施するこの作戦は、米軍単独で成し遂げることは出来ない。北の軍と戦いつつ、戦意を失った将軍や司令官を侵攻軍に従わせて治安確保を図っていくには、北の軍内部にパイプを持つ中国との連携が不可欠である。中国は、崩壊後の北の運命を米国に委ねるつもりなど毛頭なく、むしろ積極的に連合軍に参加して、特に鴨緑江・図們江の中朝国境地帯の南側の経済既得権益を維持し、その北側の延辺朝鮮族自治区を中心とする一体を緩衝地帯として確保しようとするだろう。ロシアには大した力はないが、北はもともとはスターリンがデッチ上げた国家であり、連合軍から排除されることはロシアのプライドが許さないはずなので、入れておく方が問題が少ない。

 韓国はもちろん北を他国に任せることは出来ないので参加する。急激な南北統一で過大な負担を背負うことは避けたいので、国連軍が入り、ひとまず安定化を図った上でここを「国連信託統治領」として、2つの朝鮮国家が相当期間、併存しながら統一の条件を成熟させていくような筋道が、韓国にとってもメリットがある。

●日本は

 日本はもちろんこの連合軍にお声はかからない。日本の憲法上・法律上の制約がどうあれ、北朝鮮人も韓国人も、2度と再び日本軍が朝鮮半島に踏み込むことを許さないという点では完全に一致している。従って“統一朝鮮”(上記のように国連管理下で緩やかに統一に向かう南北朝鮮という意味)は中国主導の21世紀アジア経済共栄圏の要として機能し、米国は脇に押しやられ、日本は敵視されるだろう。中国プラス統一朝鮮を日本が“脅威”と感じて再軍備し日米安保条約を維持し続ければ、朝鮮はなおさら中国に傾斜し、日本と敵対する。そうならないためには、北が崩壊し中国が後ろから巧妙に管理するであろう新体制が出来た後も、米国が1万人程度の象徴的な部隊を朝鮮半島に駐留させ、米国が日本の再軍備化に対して統一朝鮮を見捨てないというメッセージを発し続けるのが賢明だが、中国人よりも米国人を嫌う韓国・朝鮮人が米軍駐留を許すかどうかは分からない。

 安定し繁栄する未来の朝鮮半島から最終的に収穫を得るのはどうやら中国になりそうだ、というのがカプランの結論である。

 確かに、北の核実験に対して「日本も核武装だ!」と呼号しかねない政治家が政権中枢にいるような有様の延長上では、日本はこのような繊細かつ大胆な金正日体制の消去もしくは崩壊もしくは安楽死のプロセスとそれをめぐる各国の“暗闘”とも言うべき駆け引きに加わることは出来ず、ひたすら孤立の道を突き進むしかなくなるに違いない。本誌が繰り返し説いてきたように、21世紀は大局として中国、インド、ロシア、EUの4極を骨格とする「ユーラシアの世紀」だが、今ここで北への対処を誤ることで北東アジアの安定、引いては東アジアの発展に主導権を発揮できないどころか発言力さえ失うことになれば、そのユーラシアの大繁栄とリンクしながら日本自身の展望を見出すことは封じられ、衰退し後退する米国にすがりつきながら孤立の中で縮小していくことになる。そうでない朝鮮半島との関わりをどう構想するかが問われている。▲

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