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2006年11月26日

INSIDER No.375《BUSH》民主党の勝利でなくブッシュの敗北──米中間選挙の結果でイラクはどうなる?

 NYタイムズが「イラク戦争についての国民投票」と位置づけた11月7日の米中間選挙で、ブッシュ大統領は事実上の不信任を突きつけられ、戦争遂行の直接の責任者であるロナルド・ラムズフェルド国防長官の首を差し出すことで国民の赦しを得なければならなかった。とは言え、同長官の放逐とロバート・ゲイツ元CIA長官の任命それ自体は、泥沼の内戦に陥りつつあるイラクの現状に何ら影響を与えるものではなく、ブッシュが地獄を這いずり回る思いで残り2年間の任期を過ごさなければならないことに変わりはない。

 世界にとって警戒すべきは、ブッシュの頭が破裂して、やけのやんぱちで新たな騒動を引き起こすことである。英紙ガーディアンが今月初めに調査した「世界平和に危険をもたらす指導者」ランキングで、ウサマ・ビンラーディンが87%でトップに立ったのは当然として、第2位はブッシュで75%、第3位は金正日で69%だった。米国大統領がビンラーディンに次ぐ、そして金正日よりも危険な「世界平和の敵」であるという異常な現実の中で、イラクでこれ以上たくさんの人々が死ぬことを少しでも防ぐ道筋を見つけ出すことが課題である。

●ベーカーvsチェイニー

 確かに、ラムズフェルド解任は1つの前進であるには違いなく、取って代わったゲイツ新長官と「イラク研究チーム」を率いるジェームズ・ベーカー元国務長官の穏健派コンビが泥沼からの脱出策を模索していくことになる。しかし、『ボストン・グローブ』のコラムニスト=ロバート・カトナー以外に指摘する人が少ないが、この戦争に大統領とアメリカ国家を引っ張り込んだ最高責任者、言わばA級戦犯であるディック・チェイニー副大統領はまだブッシュの側を離れないし、またイスラエル右派がホワイトハウスに送り込んだ“トロイの馬”であるネオコンの有力な一員=エリオット・アブラハムズはなお安全保障担当副補佐官(中東民主化政策責任者)として政権内にいて、チェイニーと密接に連携し合っている。リチャード・パール国防総省「国防政策委員会」委員長、ポール・ウォルフォウィッツ国防副長官ら他の多くのネオコンは、ブッシュ政権第1期末以降に離任しているが、アブラハムズはまだ残り、そしてそのネオコン庇護者のNo.2だったラムズフェルドは去ってもNo.1のチェイニーが残っているのでは、政策転換もままなるまい。

 実は、ラムズフェルド解任のシナリオは、選挙の数週間前にベーカー、その親分であるブッシュ父、政権内のコンドリーザ・ライス国務長官、そしてチェイニーを交えた秘密会合で話し合われていたもので、チェイニーは盟友ラムズフェルドを生け贄にして自分は勝ち組に乗ってベーカーと妥協し、生き残りを図ったのだ、とカトナーは指摘する(ヘラルド・トリビューン11月20付「ラムズフェルド後/で、チェイニーはどうなんだ?」)。

 ベーカーやゲイツ、それにブレント・スコウクロフト元安保担当補佐官らはいずれもブッシュ父政権の中心スタッフであり、ブッシュ父を含めイラク開戦には慎重論を唱え、当時のコリン・パウエル国務長官を支援してチェイニーを頭目とするタカ派&ネオコン連合を潰そうと努めてきた。彼らは、欧州諸国との関係修復、イランやシリアやパレスチナなどとの対話、イラク国内に関しては旧支配勢力であるスンニ派との対話とそれなりの処遇などを主張してきたが、その主張のすべてをチェイニーは忌み嫌ってきた。犬猿の仲とも言えるベーカー・チームとチェイニーの間で妥協が成り立ったとすれば、それはチェイニー側がいよいよ策が尽きて困り果てたからに違いないが、逆に見れば、ベーカーの軍門に下ったふりをしてあくまでブッシュの脇に留まってベーカー・チームに勝手なことをさせないようにする作戦なのかもしれない。結局、チェイニーまで首にしなかったブッシュは、そのことによって、そうでなくても難しいイラク政策の転換をなおさら複雑にしたことになる。

●イラクに解決策はあるのか?

 実際、今頃「イラク研究チーム」を作るくらいなら、戦争を始める前にもっとよく研究すればよかったじゃないかと思うほどだが、ここまで泥沼化した事態を綺麗に解決する名案などあるはずがない。

(1)即時ないし早期撤退論──次期上院軍事委員長に就任するカール・レビン上院議員(民主党)は「4カ月から6カ月のうちに撤退を開始させるべきだ」と主張しており、ハリイー・リード民主党上院院内総務も「数カ月以内に撤退開始」と語っている。メディアにも「米軍がいつまでも面倒を見ているからイラク政府がしゃっきりしないので、先に撤退期限を打ち出すべきだ」という論調は少なくない。しかしこれは最も恐ろしい選択で、たちまち本格的な内戦に突入、周辺諸国も介入して中東全体が大動乱に転がり込んでいく危険が大きい。戦争そのものが間違いだったことは措くとして、占領後に米国が、長い歴史の中で人口的には少数のスンニ派が一貫して支配勢力であった国情を全く理解せず、スンニ派=フセイン残党と捉えて敵視し、彼らをシーア派と和解させそれなりの処遇を与えることに全力を注がなかったことが、間違いの始まりだった。しかも、多数決原理の単純民主主義を持ち込んで無理矢理選挙をやらせ、そうすれば人口の過半を占めるシーア派が勝ってそれ主体の政府が出来て国家も社会も取り返しが付かないほど分裂してしまうことが分かり切っているのに、焦って強行したことが間違いの上塗りとなった。政府とその下の治安軍がシーア派主体で、なおかつシーア派民兵が紛れ込んで治安軍の制服を着てスンニ派を虐殺しているのでは、殺し合いが激化するばかりである。かといって、これれほどまでに双方の憎しみが噴火状態にある中で、今更時計を巻き戻して、スンニ派との対話を始めることなど出来るわけがない。和解によるイラク政府の再組織化が出来ないまま米国が撤退すれば、結果は悲惨であり、米国は無責任を非難されて国際社会で致命的に信用を失墜することになろう。

(2)米軍の一時増強論──ジャック・リード上院議員(民主党)のように「一時的に戦力を増強して早めに平定させるのが得策だ」という意見もあるが、少々の部隊増強で事態が改善するような状況ではなく、やるなら現在の数倍の兵力を一挙投入して力で制圧する以外にない。が、すでに米軍にそれだけの物理的な余裕はなく、また何よりも米兵士の犠牲が増え続けていることに苛立ち怒っている米国民をとうてい説得できないという政治的な壁がある。イラク国内でもスンニ派だけでなくシーア派の反米強硬派も含めた反米気運を煽ることになって、いいことは1つもない。リード議員の意見は現地事情の無知から来ている。こんな呑気なことを言っていないで、民主党は議員調査団でも送り込んで実状を徹底的に調べ上げて打開策を提言するくらいのことをしたらどうなのか。

(3)現状維持──ブッシュ大統領が口癖のように言い続けてきた「Stay on the course」で、それでどうしようもないからベーカー・チームが登用されたのではないか。現状維持は無策のまま事態を悪化させる道である。

(4)周辺国への協力要請──ベーカーが採りうる1つの方策がこれで、その提言を待たずにまずチェイニーが11月24日、サウジに飛んだのに続いて29日にはブッシュ自身がヨルダンを訪れてそこでアブドラ国王を中に入れてイラクのマリキ首相と会談するのは、すべてがベーカー頼りでないことを示すチェイニーの必死の演出である。しかしサウジやヨルダンではまだ周辺の周辺にすぎず、問題はブッシュ政権がこれまで採ってきた「敵とは対話せず」という子供じみた方針を転換して、イラク国内のシーア派に最も大きくかつ直接的な影響力を持つイラン、イラク過激派支援の通路となっていてレバノン情勢安定の鍵も握っているシリア、さらにイラク侵攻米軍の通過を拒んで以来険悪な関係になっていたがイラク国内のクルド族をどう抑えるかについて密接に協議しなければならないトルコなど、真の意味の周辺国──つまり、それらとの調整抜きにはイラク内戦が中東大動乱に発展するのを防ぎようがない国々──との精力的な対話を開始し、それを、次期上院外交委員長のジョゼフ・バイデン上院議員が言うような「イラク、イラン、シリア、トルコなどの周辺国、さらに米国をはじめとする主要国を加えた大規模な国際会議を開催する」といったところにまで繋げていけるかどうかである。その成否は、しかし、ブッシュ政権が余りに寛容だったイスラエルのパレスチナ虐殺をきっぱりと止めさせ、イスラエルの利益のための「中東民主化構想」というネオコン的誇大妄想を正式に廃棄できるかどうかにかかっている。主要国と言っても、大陸欧州諸国やロシア、中国などは簡単には米国の救済に動かないし、国連もそうである。開戦に当たってチェイニーやラムズフェルドが独仏などを「古い欧州」と蔑み、国連を「役立たず」と罵倒したことの傷は、ブッシュが心から頭を下げて詫びることなしには、容易に塞がらないだろう。

 こうして、イラク打開策は目途が立たない。根本的には、イタリアのブロディ首相がラジオでコメントしたように「この選挙結果は、国際社会で起きている米国一国主義から多国間協調主義への流れに寄与するだろう」というふうにブッシュ政権自身が受け止めるかどうかである。その21世紀の大局的なトレンドが理解できていないところがブッシュ政権のすべての間違いの根源であるけれども、そのことに同政権が気が付くことはないだろう。そうである以上、後2年間の地獄は続く。次が民主党政権になるとしても、そこが分からなければ同じことになるだろう。

●保守革命は終わったのか?

 民主党が上下両院で多数を占めるのは、94年の中間選挙で「小さな政府」「減税」「道徳的価値」「力による平和」をスローガンとした共和党が勝利して両院を支配して以来、12年ぶりのことである。当時、その4本柱を「アメリカとの契約」と名付けてキャンペーンの先頭に立ったのはギングリッジ下院議員で、その颯爽たる様子をメディアは「保守革命」と呼んで称えた。それがひっくり返って、さてこれは民主党の「リベラル革命」の始まりであって、08年大統領選での同党の政権奪還に直結していくのかどうか。

 選挙戦のいくつかの特徴を捉えれば、確かに米国社会にリベラル側への揺り戻しが働いているのは事実である。両院での女性議員の数は過去最多になり、それを象徴するかのように民主党のナンシー・ペロシ下院院内総務が史上初の女性下院議長に就任する。ミネソタ州では、これも史上初のイスラム教徒の下院議員キース・エリソンが当選を果たしたし、エリソンと同じくアフリカ系のバラク・オバマ下院議員はイリノイ州の枠を超えてあちこちの選挙応援に引っ張り出される大人気で、次期大統領候補の呼び声も高い。州知事選でも、史上2人目の黒人知事が誕生した。総じてマイノリティの健闘が目立ち、9・11後の米社会の多様性・多元性そのものを拒絶するかのような社会的風潮に多少とも緩みが出てきたことが感じられる。

 36州で行われた知事選では、選挙前に共和党22:民主党14だったのが16:20に大逆転したが、民主党が勝ったというよりも、全体として「賢くて知識豊富で冷徹でイデオロギーに流されない、つまりブッシュと正反対のタイプ」(ニューズウィーク)が選ばれていて、そこにも、ブッシュ政権のよろず刺々しくも騒がしいイラク戦争やテロ対策、同性愛や妊娠中絶への反感などを超えて、もう少し落ち着いて米国の将来像を再建していきたいと思う米国民の心情が現れているのだろう。オバマ人気もそこに根ざしている。

 他方、共和党はカネとセックスをめぐるスキャンダルに足を取られた。カネでは、トム・ディレイ下院院内総務はじめ何人もの議員が逮捕され失脚したし、選挙直前には、フロリダ州選出の共和党大物のトム・フォーリー下院議員が少年に対して猥褻なメールを送りまくっていたことが露呈し、加えて、同性愛反対キャンペーンの急先鋒だった全米福音派協会のテッド・ハガード会長が、何と、プロの男娼を買い漁っていた事実が暴露されて会長を辞任する騒ぎとなった。ブッシュ政権と共和党、その最強の支持基盤であるキリスト教右派が共有する“価値観”が戯画と化してしまった訳で、これではキリスト教右派も選挙に力が入らないし、その我が物顔の跳梁跋扈を苦々しく思っていたカトリックやプロテスタント諸派など他の宗教勢力が余計に民主党に傾いたのも当然である。

 こうして、政治的地合いは全体として民主党寄り、リベラル寄りになってきて、それが2年後の大統領選では民主党有利に働くであろうことは確かだが、かと言って民主党はこの選挙で、イラク戦争や共和党スキャンダルへの批判は激しく展開したものの、リベラル革命への能動的な綱領を打ち出して人々の共感を得ることには失敗している。イラク解決策1つをとっても、ブッシュ政権を批判はしても、これといって有効な方策を全党一致で打ち出しているわけでもない。さらに、民主党の勝利は下院40人、上院9人の新人が共和党現職を打ち破ったことによるところが大きいが、その大半は、伝統的な民主党リベラルの主張とはほとんど無縁のいわる“ニュー・デモクラット”で、共和党穏健派とどこが違うのかよく分からない中道右派的な人物が多い。

 その意味では、80年に当選したレーガン大統領の小さな政府、市場主義を柱とした経済的保守主義と対ソ新冷戦、94年ギングリッジ保守革命の社会的価値観の強調といった流れはまだそれほど大きく修正されているわけではなく、ただ00年ブッシュ大統領の登場で始まったキリスト教右派の大量の政治的動員による過度の道徳主義とネオコンの浸透による極端な対外政策など、保守革命の行き過ぎが是正されつつあるというのが本当のところで、保守革命が終わってリベラル革命が始まったという事態ではないと捉えるべきだろう。

 従って、2年後に民主党が勝って米国の21世紀を軌道に乗せるには、まずそれまでの2年間に議会が積極的に参与してイラクによりましな状態を作り出すこと、その実績を背景に、国内における多様性と寛容性の回復と国際社会における多国間協調主義への同調とを、1つに統合された新しいリベラル哲学として示すことが求められるだろう。民主党の大統領候補として有力なのは、上述のオバマと、ヒラリー・クリントン上院議員だが、彼らがその力量があるかどうかが問われている。▲

2006年11月 8日

INSIDER No.374《COLLAPSE》米軍が用意する「北朝鮮崩壊」の作戦シナリオ──日本に出番はない

 今週の『クーリエ・ジャポン』11月16日号では、ベテラン軍事ジャーナリスト=ロバート・カプランの「北朝鮮崩壊後の世界」が面白い。『アトランティック・マンスリー』に載った論文の翻訳で、クーリエ・ジャポン誌で8ページに及ぶ力作である。

 中国は、北朝鮮の現体制の存続を望みながらも、“将軍様”亡き後(もしくは亡き者にした後)の北をどうするかの計画をいくつも練っているが、それは米国も同じで、陸軍特殊部隊をはじめ米軍内部や内外専門家へのディープな取材に基づいてカプランが描いているところを思い切って(私の主観も交えて)整理・要約すれば、次のようになる。

●崩壊への7段階

 朝鮮半島の軍事問題の専門家であるロバート・コリンズによると(とカプランは書いている)、幸いにも、北朝鮮の崩壊は段階的に進む公算が大きい。

(1)国力消耗
(2)国力消耗による国家インフラ維持不能
(3)党地方幹部や軍司令官の暴走および腐敗の横行
(4)これら不満分子が危険なほど力をつけつつあるとみた金体制による弾圧の試み
(5)中央政府に対する公然とした反抗
(6)体制崩壊
(7)新たな国家指導体制の確立

 北は恐らく90年代半ばに第4段階に達したが、中国・韓国はじめ外からの支援によって救われ、今は第3段階にまで回復している。金正日は、軍部を徹底支配することで第4段階以降に進むことを阻もうとして、ミサイルや核弾頭の実験を派手に演出して軍を自分に引きつけようとしている。しかし、120万の北朝鮮軍の規模は大きすぎて、食糧などで十分に厚遇できるのは約10万人の特殊工作部隊をはじめ精鋭部隊に限られていて、大多数の通常部隊は一般国民と同様、極貧に喘いでいる。仮に大衆蜂起やクーデターが起きても、彼らは命令に従ってそれを鎮圧する側に回るよりも、むしろ歓喜して参加したり扇動したりするかもしれない(第5段階)。精鋭部隊だけでとうてい抑えきれなくなれば、たちまち体制崩壊である(第6段階)。

●崩壊過程をコントロール出来るか?

 問題は、その崩壊過程をコントロール出来るかどうかである。核弾頭は実用に足るかどうか疑わしい数発があるだけだが、北は世界最大規模の生物・化学兵器を持っていて、それを通常兵器に着けてソウルに撃ち込むことが出来る。金体制の指揮系統が崩壊し、地方の軍司令官が敵味方に分かれて撃ち合ったり、生き残りを求めて勝手に走ったりすることに加えて、パニックに陥った国民の間で無法な略奪行為が横行し、一部は難民化して国外(主に鴨緑江を越えて中国東北)に溢れ出すといった無政府状態が生じた場合、それら大量破壊兵器は誰の手に落ちてどんな使われ方をするか分かったものではなく、現在のイラク内戦より遙かに危険な状態が現出する。

 では、そのような大崩壊が始まる前に、米国が先制的な「ピンポイント爆撃」を仕掛けるというシナリオはどうか。これこそ金の思う壺で、北はソウル中心部にある米軍の龍山駐屯地に的を絞って5分か10分程度、集中的にミサイル砲火を浴びせ、すぐに攻撃を中止し、和平交渉を要求する。韓国・中国はじめ世界中が米国の暴挙を非難し、北の求める和平交渉に応じるべきだと声を揃え、米国は政治的に苦況に陥る。交渉の結果、北は新たな支援を獲得し、政権を延命させることが出来る。ピンポイントで金を爆殺出来ればその後の事態は異なるかもしれないが、それはサダム・フセインの場合よりさらに難しく、また北はそのことを十分想定して反撃プログラムを自動化しているだろうから、金を首尾良く爆殺出来ても同じ結果になるかもしれない。

 そこで、経済制裁を徹底化して北をとことん追い詰めて崩壊させるという「経済戦争」のシナリオが浮上するが、これも余り賢明とは言えない。金がまだ軍を掌握している段階でそこまで追い詰めれば、窮鼠猫を噛むような軍事行動に打って出て、数少ない核兵器でも生物・化学兵器でも、ありったけブチ撒けることになるだろう。また、経済制裁を効果的にするには中国の協力が不可欠だが、中国はすでに北の鉱山や鉄道をはじめ経済的・軍事的に価値のある資産を確保していて、それを無にするような制裁も崩壊のさせ方もしないだろう。そのためこのシナリオは巧く行ったとしても中国の主導権を許す結果となる。

 ピンポイントも経済戦争も、金体制の崩壊前に仕掛けても満足すべき結果が得られない可能性が大きいということである。

●北の韓国奇襲

 では、こちらから仕掛けていないのに、北が韓国に全面攻撃を開始するというケースはあり得るだろうか。その可能性は20年前と比べて低くはなっている。金日成体制下の北はもっと強い国だったし、韓国軍の練度も低かったからだ。

 もし北が突然、韓国侵略を開始するとすれば、ミサイル、大砲、多発ロケットランチャーを総動員してソウルに1時間に30万発以上もの爆弾を降り注いだ上で、潜入した特殊工作部隊があちこちで破壊工作を実施し、それから陸軍が侵攻する。が、この作戦に成功の見込みは全くない。在韓・在日・在グアムなどの米航空戦力が圧倒的に制空権を確保して、北の砲撃基地だけでなく戦略中枢を徹底的に破壊し、進撃する地上部隊を焼き尽くすだろうからである。金正日はそのことを百も承知しており、崩壊が第5段階から第6段階に進む過程で、自暴自棄になって集団自殺的な玉砕を選んだ場合だけだろう(ほとんど起こり得ない)。この全面攻撃と、「ピンポイント爆撃」への極めて限定された反撃との中間規模の作戦はないわけでなく、1時間に30万発も撃ち込むことは避けてほどほどの流血に止め、すぐに停戦と和平を提案し、金体制の存続を策することである。しかし、この場合、米国が先制攻撃したという北に有利な条件は存在しないので世界の非難は北に集中するし、北の意図に関わらず米・韓の反撃は徹底的なものとなって北は焦土と化すので、金に生き残りの可能性はほとんどない(従ってこれもほとんど起こり得ない)。

 北が韓国を攻撃して金体制が生き残る可能性があるのは、米の先制攻撃に対して限定的な反撃をした場合のみと考えてさしつかえない。

●崩壊と同時に国際部隊が進駐?

 そうしてみると、北の崩壊がコントロールされない形で爆発してアジアと世界にとんでもない災禍をもたらすのを防ぐ方法は、どうやら1つしかない。第5段階が第6段階に移行した瞬間に、米・韓・中・露の4カ国を中心とする連合軍が(たぶん国連軍のヘルメットを被って——ということはそれ以前にそのような国連決議が行われていなければならないが)北朝鮮に進駐し、金に忠誠を誓って抵抗する北の軍部隊を撃破する戦闘作戦を進めつつ、同時に社会崩壊と難民流出、大量破壊兵器の拡散を防ぐ治安確保作戦を展開することである。

 この戦闘と同時に治安維持と人道的救済を実施するこの作戦は、米軍単独で成し遂げることは出来ない。北の軍と戦いつつ、戦意を失った将軍や司令官を侵攻軍に従わせて治安確保を図っていくには、北の軍内部にパイプを持つ中国との連携が不可欠である。中国は、崩壊後の北の運命を米国に委ねるつもりなど毛頭なく、むしろ積極的に連合軍に参加して、特に鴨緑江・図們江の中朝国境地帯の南側の経済既得権益を維持し、その北側の延辺朝鮮族自治区を中心とする一体を緩衝地帯として確保しようとするだろう。ロシアには大した力はないが、北はもともとはスターリンがデッチ上げた国家であり、連合軍から排除されることはロシアのプライドが許さないはずなので、入れておく方が問題が少ない。

 韓国はもちろん北を他国に任せることは出来ないので参加する。急激な南北統一で過大な負担を背負うことは避けたいので、国連軍が入り、ひとまず安定化を図った上でここを「国連信託統治領」として、2つの朝鮮国家が相当期間、併存しながら統一の条件を成熟させていくような筋道が、韓国にとってもメリットがある。

●日本は

 日本はもちろんこの連合軍にお声はかからない。日本の憲法上・法律上の制約がどうあれ、北朝鮮人も韓国人も、2度と再び日本軍が朝鮮半島に踏み込むことを許さないという点では完全に一致している。従って“統一朝鮮”(上記のように国連管理下で緩やかに統一に向かう南北朝鮮という意味)は中国主導の21世紀アジア経済共栄圏の要として機能し、米国は脇に押しやられ、日本は敵視されるだろう。中国プラス統一朝鮮を日本が“脅威”と感じて再軍備し日米安保条約を維持し続ければ、朝鮮はなおさら中国に傾斜し、日本と敵対する。そうならないためには、北が崩壊し中国が後ろから巧妙に管理するであろう新体制が出来た後も、米国が1万人程度の象徴的な部隊を朝鮮半島に駐留させ、米国が日本の再軍備化に対して統一朝鮮を見捨てないというメッセージを発し続けるのが賢明だが、中国人よりも米国人を嫌う韓国・朝鮮人が米軍駐留を許すかどうかは分からない。

 安定し繁栄する未来の朝鮮半島から最終的に収穫を得るのはどうやら中国になりそうだ、というのがカプランの結論である。

 確かに、北の核実験に対して「日本も核武装だ!」と呼号しかねない政治家が政権中枢にいるような有様の延長上では、日本はこのような繊細かつ大胆な金正日体制の消去もしくは崩壊もしくは安楽死のプロセスとそれをめぐる各国の“暗闘”とも言うべき駆け引きに加わることは出来ず、ひたすら孤立の道を突き進むしかなくなるに違いない。本誌が繰り返し説いてきたように、21世紀は大局として中国、インド、ロシア、EUの4極を骨格とする「ユーラシアの世紀」だが、今ここで北への対処を誤ることで北東アジアの安定、引いては東アジアの発展に主導権を発揮できないどころか発言力さえ失うことになれば、そのユーラシアの大繁栄とリンクしながら日本自身の展望を見出すことは封じられ、衰退し後退する米国にすがりつきながら孤立の中で縮小していくことになる。そうでない朝鮮半島との関わりをどう構想するかが問われている。▲

2006年11月 4日

INSIDER No.373《FROM THE EDITOR》

●昨夜の「朝まで」は6者協議再開と日本核武装論!

「朝まで生テレビ!」(11月3日深夜)に久々出演。今回のテーマは北朝鮮の6者協議復帰と日本核武装の是非論だが、13人の出演者で3時間マイナスCMだから1人当たり10分強の発言時間しかなく、消化不良に終わった。せいぜい7〜8人でないと無理だよね。それに、第1コーナーの在ワシントンのロビイスト=伊藤貫のインタビューも、わざわざ衛星中継まで使って約10分間を費やすほどの中身ではなく、ほとんど意味がなかった。

私の関心に引き寄せて補足しながら大事なポイントを挙げれば……、

(1)北朝鮮はなぜ早々に6者協議に復帰したのか。

第1に、金融制裁が、マカオのバンコ・デルタ・アジアの北の口座封鎖だけではなく中国銀行など中国の4大商業銀行による送金停止が加わったことによって、金正日体制を窒息寸前に追い込むほどの効果を発揮した。

第2に、そのことを含め、これまで北に対して困惑しつつも同情的だった中国が、北の核実験後ははっきりと米国と歩調を合わせて北に厳しい圧力をかける側にスタンスを移し替え、北の体制転換(すなわち金正日除去)の可能性さえも否定しない態度を暗に示した。

第3に、北の狙いは初めから“生き残り”、ということは米朝交渉を通じての“朝鮮半島の非核化”と和平の達成、国交樹立であり、そこへの唯一の入口としての6者協議に復帰するしか選択がなかった。

実際、中国の胡錦涛主席の北への怒りは凄まじく、何としても第2回目の核実験を阻止しようとして決然と行動した。葉千栄によれば、銀行の送金停止だけでなく、(実験失敗による)放射能汚染に備えた軍の特別公衆衛生部隊の緊急編成、かつて朝鮮戦争に参加した東北地方の2つの陸軍機甲師団計6万人の中朝国境近くへの展開、密輸防止のための鴨緑江沿いの強固な鉄条網とパトロール用道路の建設促進、原油供給の一時停止などの措置が黙々と実施されたようだ。それを背景に、中国は北に「もし2回目を強行すれば米国は北に対して先制攻撃に打って出るかもしれないが、中国はそれを阻止できない」くらいのことを言って金正日を脅したに違いない。

金正日に亡命を勧告したという見方もあるが、これは金は絶対に受け容れず、それよりも米国に爆撃されて死ぬことを選ぶだろう。中国が北の軍内部に手を突っ込んで宮廷クーデターを策する可能性については、葉は、中国はそのようなことが起きても構わないとは思っているが自分で手を下すことはしないという判断だった。

(2)6者協議が再開しても北は時間稼ぎに利用するだけではないか。

確かに、これまで10年余りの北のやり方を思い返せば、再開後ものらりくらり、押したり引いたりを繰り返して、その間に一層多くの核物質を蓄積して次の恫喝を準備するということになりかねず、そうなれば最悪の展開となる。

しかし第1に、中国も米国もそんなことになれば国際的に一層の恥の上塗りになることを百も承知しており、米朝国交樹立という“出口”を唯一の落とし所として用意した上で、容赦なく北を追い詰めるだろう。今回の6者は、実質は米中朝の3者であり、その中国が「米中関係は“重(要)中の重(要事項)”」という態度に踏み切った以上、北は米中の意見の違いを利用して巧く立ち回るというこれまでのやり方を封じられるだろう。

第2に、再開される6者(実質3者)では、最初から具体的かつ生々しい話が出るだろう。まず、北は偽ドル・偽タバコ・麻薬など国家的犯罪ビジネスについて「我が国の一部がそのような犯罪行為に手を染めた」ことを(拉致を認めたのと同じ論法で)暗に認めてその根絶を表明し、それをよしとして米国は金融制裁を一部解除する。一部とは、偽ドルなど犯罪行為のお金の洗浄に世界各地の銀行口座が使われていないかを引き続き監視し、また国連制裁決議に沿って軍事・核関連の物資や技術の取引や贅沢品の取引は今後とも阻止するが、一般の貿易の決済や既存の金正日の個人口座などは条件付きで出し入れを許すというようなことだろう。次に恐らく、北のIAEA(国際原子力機関)復帰とその下での寧辺の各施設への査察を受け容れるかどうかである。これは簡単には行かないが、それを条件に米中朝の和平協議(38度線の休戦協定を恒久的な和平協定に置き換える)、それに伴う半島の核を含む軍縮協議、平行しての米朝国交交渉準備など一連のプロセスのロードマップが米中側から提示されれば、北が呑むこともあり得ないことではない。あるいは、北側からそのような包括的な提案を出せばもっと話が早い。

第3に、再開合意の中に「作業部会」の設置が盛り込まれたことは小さくない。これは報道では金融制裁についての作業部会とされているが、実際にはすべての問題について迅速かつ実務的に詰めて行くための場となるはずである。

(3)日本は核武装の是非を論議すべきなのか。

この点についてはほとんど時間がなく、煮詰まった討論は出来なかったが、ほぼ全員が、大いに議論して、なぜ日本の核武装が軍事的に無意味なばかりか政治的に自殺行為であることを明らかにすべきだという認識で共通していた。

第1に、北が核実験をやったから日本も核武装すべきだという一部の意見は、その間の10段階くらいを吹っ飛ばした感情的な暴論であり、まず北が数発の実用に足る核弾頭を完成してノドンに装着したとして、それが明日にも日本に向けて発射されるかのように騒ぐことが馬鹿げている。北にとって日本は直接の軍事的脅威ではなく、何もない時にある日突然北が日本を核攻撃する可能性はゼロに近い。逆に、朝鮮半島で米朝が戦闘状態に入った場合に、もし北にそれだけのゆとりがあれば、米軍の出撃基地となっている在日米軍基地や“後方支援”に携わる日本自衛隊基地の無力化を目的として日本を、核にせよ非核にせよ、攻撃する可能性は大いに高まる。とはいえ、米朝が戦端を切れば、緒戦で米国は北のすべての核基地を破壊するだろうから、北に第2撃力を日本に向けるゆとりがあるとはほとんど考えられない。いずれにせよ、北が核を持ったとしてそれが実際に日本にとってどのような脅威となりうるかの見積もりをしなければ、「北は3発持ったらしい。日本も5〜6発は持たないと」というような、軍事的には無意味な、全く幼稚な感情的爆発としての核保有論になってしまってお話しにならない。

第2に、それでも核を持つことで北の外交的威嚇の手段が増えるのは事実である。しかし、だからといって日本も外交的な発言権確保のために核武装すべきだということにはなるはずがなく、それによって世界的に総スカンとなって外交的また経済的に失うもののほうが100倍も大きい。簡単な話、NPTと IAEAを脱退した日本はウランの輸入先を失い、電力供給の4割を占める原発が止まる。そこで、日米同盟下で“核の傘”を差し掛けられることによって外交的に対抗することになるが、この核の傘が本当に機能しているかどうかは大いに怪しい。日米は“同盟”と言いながら核の傘の実質についてまともに話し合ったことは一度もなく、日本は「米国があると言っているんだから信じるしかない」という態度である。仮にそこを詰めて「実はなかった」ということになったとしても、だから日本も核武装ということにはならないのであって、核だけが抑止力・外交力の源泉ではない。現に米国は、戦術核の使用に踏み切るぞと半ば公然と敵を威嚇しながらも、朝鮮戦争では引き分けに、ベトナム戦争では敗北に終わっていて、核恫喝の威力など知れている。

第3に、日本がもっと声を大にすべきは、北に核実験を止めろと迫っている米国も中国も、包括的核実験禁止条約(CTBT)に署名はしたが批准しようとはしないし、もっと遡って、5大核保有国が核軍縮に向けて努力することを前提としてそれ以外の国々への核拡散を防止しようというNPTの初歩的な原則さえ、米国も中国も誠実に実行していないことである。確かに日本は毎年のように国連総会に「究極的核廃絶」への宣言を提出して非核国・唯一被爆国の責務を果たしているかのようではあるが、究極的核廃絶とお題目を唱えるだけなら5大核保有国も賛成で、実質的には意味がない。そうではなくて、今回の事態をきっかけにNPTやCTBTの行き詰まりを打開する新しい全世界的な核軍縮プロセスを日本が発起し、その下で北東アジアと朝鮮半島の非核化のためのステップを提唱するような、本気の核軍縮イニシアティブを発揮することが求められているのではないか。

かつてインド・パキスタンの相次ぐ核実験の後、梶山静六は「保有国に核廃絶を説得できるのは日本だけだ」と言い、野中広務は「(米国を含む既存の)核保有国に対して『あなたがたが核をなくした上で他国に核を持つなと言いなさい』と言う勇気を日本が持たなければ」と言った。梶山は官房長官を下りた後、野中は自民党幹事長代理の時だったろうか。今は山崎拓と加藤紘一が陰のほうでそういうことを口にしているだけで、自民党の真ん中にはそんなことを言う人はいない。▲

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