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INSIDER No.372《AGRI》農業補助金と所得保障の違い──今日のサンプロ議論の補足

 今日のサンプロの菅直人出演のコーナーの終わり近くで、農業補助金のことがちょっとだけ話題になって、民主党の「全農家に所得保障を」という政策について田原さんが「それじゃあ、補助金バラ撒きと同じじゃないか」と言ったので、私が口を出して「補助金と所得保障は考え方が全然違うので、もっと時間のある時にそこをきちんと区別した上で議論しないと意味がないですよ」という趣旨のことを発言した。これは確かになかなか難しい問題で、整理した議論が必要なところである。今ここで簡単にメモして、私が何を言おうとしたかの理解の一助にしたい。

●デカップリング

 99年に38年ぶりに農業基本法が改定され「食料・農業・農村基本法」が成立したのを機会に、日本の伝統的な農業保護政策である、品目ごとに高い輸入関税をかけそれと国内価格との差額を補助金によって補填する「価格支持政策」は、原則として廃止に向かい、それに代わって、一定の条件を満たす個々の農家に対して財政から直接、所得の不足分を支払う「所得保障政策」を適用するという、農政史上の大転換が進んでいる。

 これは、国際的には「デカップリング」と呼ばれる欧米が先行しWTOでも基準化されている政策転換で、辞書的には「農業保護費削減のため価格支持をやめ直接所得補償を行う方式」と定義されている。デカップリングとは、文字通りでは「分離」「関係を薄める」という意味で、従来は各国とも、国内農業の基本を高関税と国内価格支持によって間接的に農家の生産意欲を維持させ、結果的にすべての農家にバラ撒くという方策を採っていたのに対し、政府による価格維持補助金から農業保護政策を「切り離し(デカップル)」て、やる気のある農家や特別の事情によって所得を減らさざるを得なかった農家に対して個々に直接に支払って所得を保障するものである。

 これによって、あくまで原理的には、ということではあるが、

(1)高関税と価格補助がなくなることで、輸入自由化が促され、農業がより市場原理的になり、WTOが促進される。
(2)政府は、バラ撒き型の補助金を減らし、財政資金を重点的・効果的に使うことが出来る。
(3)従来は、補助金分が消費者負担に転嫁され、結果的に消費者が高い農産物を買わされていたが、これからは安くなる。そのかわり、所得保障分は納税者負担となる。
(4)やる気のある農家が一層頑張るようになり、構造改善が促される。

——ということが期待されており、つまりは、「主として保護、従として市場」という考え方から、「主として市場、従として保護」への転換が狙いである。

 ヨーロッパでは、EUの共通農業政策としてこのデカップリング政策が導入され、例えば、

(1)生産調整(日本で言う減反のこと)をした地域、
(2)農業する条件の不利な地域(日本では中山間地など)、
(3)景観を保護しなければならない地域、
(4)過疎地域、山岳農家、
(5)水質汚濁防止のために窒素・リン系農薬をあまり使わない地域、

 等々、一定の基準を設けてそれに該当する農家に対して、EU予算、各国政府予算、また場合によっては民間の寄付(環境NPOが特定の森林を守るためにお金を集めるとか)や投資(企業がこのやり方の有機栽培なら儲かると判断して出資するとか)を募るなど直接お金を支払うことで農業の活性化を図っている。具体的には、毎年の穀物・畜産物の生産高に関係なく、この地域では牛や豚一頭あたりいくらとか、農薬を使わなかった牧草地1ヘクタールあたりいくらとか、休耕地1ヘクタールあたりいくらとかというように、細かく基準を決めている。

●きめ細かい議論を

 イギリスでは、狂牛病で100万頭もの牛が廃棄されたが、所得保障政策によって牧畜農家の破綻は回避された。このように、臨時の危機的な状況に対してもこの政策は効果を発揮する。

 スイスでは、国内全農地の10%近くで有機農業が行われ、特に山間部では畜産や酪農を中心に最大30%に及んでいるが、これは政府が山岳地などの条件不利地域で有機農業・牧畜に積極的に挑戦する農家に有利な所得保障政策を導入しているからで、このように、恒久的に不利な条件にある農家を保護・奨励したり、消費者の利益(有機への関心の高まり)を満たすために政策的な誘導を行うためにも、この政策が活用されている。

 日本の場合は、スイスのようなきめ細かい議論が抜けていて、所得保証の対象となる農家の規模を、都府県の個別経営で4ヘクタール以上、北海道は10ヘクタールとし、また、個別ではその規模に達しない場合に村単位で共同で20ヘクタール以上の「集落営農」を行えば対象とするという具合に、かなり機械的に営農面積だけで線を引いたので、全国平均で農家数の半分を占める小規模農家やじいちゃん・ばあちゃん農家が切り捨てられる形になっていて、民主党はそれを批判して、小規模も含めた全農家に一律、所得保障を出すべきだと主張しているが、これは農水省側にも民主党側にも議論の余地があって、けっこうな論争になるべき事柄である。

 簡単に言うと、農水省側は、旧農基法の大規模化・効率化・高収益化一本槍という路線の間違いを十分に反省しないまま、新農基法になってもそれを追求しようとばかりしている。それに対し民主党側は、それによって切り捨てられる小規模農家の救済を強調していて、それだと全農家保護の昔と同じことになってしまいかねない。さて、その中間で、「経済=産業政策」として強い農家を育てつつ、「環境=社会政策」「格差是正政策」として弱い農家を維持し、さらに田舎暮らし志向の移住者も増やしていくというような巧妙な政策ミックスが可能なのかという、これはかなり高級な議論である。しかし、両者とも価格支持政策から所得保障政策への原理的大転換は踏まえた上での論争なので、そこはきちんと踏まえておかないといけない。

 が、そこが突破できれば、21世紀の日本は「農の世紀」となり、その面からアジアと世界をリードすることが出来るかもしれない大きなテーマである。サンプロでも、農業政策について真正面から議論することをやって貰いたいものである。▲

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コメント (1)

本日のTVタックルでも、農業問題をめぐって「自民党VS民主党」の議論があるようですね。

http://lj21.seesaa.net/

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