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« INSIDER No.370《NORTH KOREA》金正日は“狂気”なのか?──臨検に踏み込む日本の危うさ
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INSIDER No.372《AGRI》農業補助金と所得保障の違い──今日のサンプロ議論の補足 »

INSIDER No.371《安倍政治用語事典・その1》早くも始まった安倍「教育再生」の迷走──猫かぶりをいつまで続けられるのか?

 安倍晋三首相は政権発足早々に、歴史認識、靖国参拝=A級戦犯、対中国関係、教育など、政治家としてアイデンティティを問われる重要問題で“迷走”し始めた。それらの問題を巡る安倍の機会主義的な発言はいずれも、彼のこれまでの言動やそれを評価してきたブレーンや取り巻き連中の主張からすれば我慢の限界を超えるような“後退”ぶりであり、首相として採らなければならない建前と国家主義的右派のプリンスとしての個人の本音との間の股裂き状態が今後ますます深刻になっていくことを予感させる。

 安倍のブレーンの中には、「村山談話を否定できるかどうか」「秋の例大祭に靖国に堂々参拝できるかどうか」が試金石だというようなことを書いている者もおり、それをしなかった場合に、それらブレーンに煽られた右翼少年が安倍を「裏切り者!」と断じてテロを仕掛けることすら心配されるほどである。

 これから順次、分野ごとに彼の迷走ぶりを「安倍政治用語事典」シリーズとして取り上げていくが、第1回は「教育再生」である。

●教育再生を野依良治に託す?

 教育再興は安倍の中心公約の1つであり、その目的は、著書『美しい国へ』によれば、「志ある国民を育て、品格ある国家をつくること」であり、そのために国の学校監査を制度化し「ダメ教師には辞めていただく」ようにすることである。9月28日の所信表明演説でもその趣旨を繰り返し、「まず教育基本法案の早期成立を期す」とともに「内閣に『教育再生会議』を早急に発足させる」と述べて、早速その人選を山谷えり子=首相補佐官と下村博文=官房副長官に命じていた。

 山谷と下村は、安倍の主張する国家主義的教育改革の旗振り役で、これまでも「歴史教科書の自虐史観は官邸がチェックして改めさせる」「ジェンダーフリー教育は即刻やめさせる」など過激な発言を繰り返しており、「中教審のようにバランスに配慮した人選はしない」という基本方針の下、人選を進めていた。ところが、蓋を開けてみれば座長に内定したのは、どちらかと言えばリベラルな教育観を持つノーベル化学賞受賞者で理化学研究所理事長の野依良治。彼は文部科学省の科学技術・学術審議会の会長、中央教育審議会の委員であり、文科省との関わりも深い。

 野依は、03年1月の中央教育審議会基本問題部会でのヒアリングでは「教育は、国が一方的に押しつけるのではなく、家庭を基本にした自立的なものであるべき。国民は多くの共通項も持つが、一人一人違うのが当然である」と述べている。また02年1月の中日新聞新年特集での河合隼雄京都大学名誉教授(後に文化庁長官)との対談でも、河合が「日本人はみんなが一緒になるのがすごく好きで、下手をすると創造的な人の芽を早い時期に摘んでしまう面がある」と言うのに対して、野依は次のように語る。

「私もそう思う。日本という国が民族的に均一性が高いからだろう。教育の面でも均一性を尊ぶところがある。教育がトップダウンで行われ、権力者がいかに国を組織し支配するかという側面も強かったのでは。……世界全体も均一になると面白くない。いい意味での帰属意識は必要だが、多様な人がいることが大事で、それぞれの違いを尊重した上で協調していかないと」

 これでは、安倍の考える愛国心の上からの押しつけ、国家の教育現場への管理強化の路線とはむしろ正反対のリベラル的教育観ではないか。

●それ以外のメンバーの色合い

 野依の下に集ったその他の16人は次の通り。

《教育界》
■海老名香葉子(エッセイスト)
■小野元之(日本学術振興会理事長、元文科次官)
■陰山英男(立命館小副校長)
■門川大作(京都市教育長)
■小谷実可子(日本オリンピック委員会理事)
■品川裕香(教育ジャーナリスト)
■義家弘介(横浜市教育委員、ヤンキー先生)

 海老名は故林家三平夫人で、師匠の死後、30人の弟子の面倒を見て一門を守りながら4人の子供を育てた“日本のお母さん”。東京大空襲の悲惨を経験して、その記念碑建立に奔走した筋金入りの平和・護憲論者であるが故に共産党の好みであるらしく、『赤旗』紙上や赤旗祭りイベントで志位委員長と対談したりしている。陰山は「百ます計算」で有名になった教育タレントで、現場教師時代は全教(共産党系教職組)の組合員だった。義家も「ヤンキー先生」の愛称で知られる教育タレントで、『赤旗』紙上で教育基本法改正反対を語り、『世界』の国歌・国旗反対特集にエッセイを寄稿したり、イラク派遣自衛隊の撤退要求署名に参加したりしている。講演も全教系が多いという。その義家が教育再生会議の事務局に当たる「担当室」の室長を任された。

 品川は発達障害、学習障害の問題を精力的に取材するだけでなく、そうした問題のNPOの運動などに積極的に関わっている市民派と言える。門川は、唯一の公明党推薦委員で、学校評価制度の推進に熱心であることが買われたようだが、公明党が「教育改革が国家主義的になるのを懸念して」(17日付東京新聞)送り込んだというから、これも安倍的とは言えない。

 小野は、もろに文科官僚で、しかも保守派が嫌悪する「ゆとり教育」を打ち出した張本人。官邸主導を警戒する自民党の文教族が強引にメンバーに押し込んだ。在任中に「若い頃は過激な学生運動を経験した」と“告白”して批判を浴び、弁明させられたりしたこともあり、保守派はそのことを取り上げて“左翼くずれ”と批判している。

 小谷は「スポーツ関係者」ということだろうが、純粋にタレントとしての起用。こうして見ると、野依を含めた以上7人に安倍的な勇ましい人は誰もいない。

《学術・文化界》
■浅利慶太(劇団四季代表)
■川勝平太(国際日本文化研究センター教授)
■小宮山宏(東大総長)
■白石真澄(東洋大教授)
■中嶋嶺雄(国際教養大学長)

 中曽根のブレーンというかスタイリストだった浅利が今どき何故出てくるのかはよく分からないが、小渕〜森時代に教育改革国民会議委員を務め、文科省の中央教育審議会のメンバーだったこともある実績からだろうか。しかし今までの改革論議を乗り越えようとするのであればむしろ老害ではないか。川勝と中嶋は論調的には保守派寄りで、特に川勝は「新しい教科書をつくる会」の賛同者である。中国問題専門の中嶋は保守派というより中教審の外国語専門部会主査として小学校からの英語必修化を主張したことが評価されたのだろう。

 小宮山は化学工学専門で、東大の理工系学部が産学提携で企業から何百億円もの研究費をせしめる路線を切り開いた人。実績というより肩書きによる登用だろう。白石は、教育バウチャー制、子育ての社会化などを主張しているが、これも主張というよりテレビのワイドショーのコメンテーターとして活躍していることからタレント的な意味合いでピックアップされたに違いない。

《経済界》
■池田守男(資生堂相談役、東洋英和女学院理事長)
■葛西敬之(JR東海会長、海陽中等教育学校副理事長)
■張富士夫(トヨタ自動車会長、海陽中等教育学校副理事長)
■渡辺美樹(ワタミ社長、郁文館中高)

 経済界と言っても、見るとおりいずれも学校経営に関わっている人ばかり。このうち葛西と張は共に安倍を囲む経済人の集い「四季の会」のメンバーであり、また中京地方の財界が設立した英国型の全寮制中高一貫学校の副理事長である。葛西は経済人には珍しいほど保守的というよりゴリゴリのタカ派的な主張を隠さない人で、「新しい歴史教科書をつくる会」の賛同者である。しかし張は、天下のトヨタのトップだからそんな過激さはない。

 池田は座長代理を務めるが、資生堂の企業モットーに「ジェンダーフリー」を掲げたことで知られていて、ジェンダーフリーに敵意を持つ安倍・下村・山谷とはその点では相容れない。渡辺は、居酒屋チェーン「和民」を展開する一方、自ら学校を経営する経験をもとに学校間の市場競争を活発にするバウチャー制導入を強く主張している。

《担当室》
▼事務局長 山谷えり子(首相補佐官)
▼室長   義家弘介
▼室長代理 土居征夫(企業活力研究所理事長、通産官僚からNEC常務)
▼副室長  山中伸一(前文部科学省私学部長)

 義家の室長には周辺から強い反対があったが、安倍が「再チャレンジ」の象徴だからと押し切ったと言われる。土居は右翼の「日本教育再生機構」のホームページに自分の教育改革論を寄稿しているので、保守派だろう。しかし彼は非常勤なので、実際の担当室は“左がかった”義家と文科省派遣の山中で取り仕切ることになるのではないか。

 こうして見ると、17人の委員に担当室の土居・山中を加えた19人のうち、はっきりと安倍の教育改革ブレーンに近い考え方なのは川勝、葛西、土居の3人で、さらに中嶋、張、渡辺あたりを加えても5〜6人というところで、リベラル系と勢力拮抗している。また文科官僚は2人、中教審その他文科省がらみは野依を筆頭に6〜7人いて、「文科省と喧嘩しても」「中教審のようにはしない」という当初の意気込みはどこへ行ったのかと思わせるほどで、結局、保守系、リベラル系、文科省系の三すくみということにもなりかねない。

●高まる安倍「教育」ブレーンの不満

 安倍ブレーン「5人組」の1人で、元「新しい教科書をつくる会」会長の八木秀次高崎経済大学教授が、野依の座長就任が決まったその日に記者会見を開いて、野依が中教審委員であることに「不安が残る」と、遠慮がちながら不満を鳴らしたのは当然と言える。彼は「文科省主導による教育政策を一度壊すくらいの提言をすべきだが、それが出来る陣容になるか、若干おとなしめの人が集まるのかなと見ている」とも述べた。

 八木は、まさか自分が座長に指名されるとは思っていなかっただろうが、同じ有名人でも例えば「つくる会」人脈に直結する桜井よし子のような人物が真っ先に委員に呼ばれると思っていたのではなかろうか。「つくる会」の内紛で同会の会長を追われた八木は、「5人組」の中西輝政京都大学教授、島田洋一福井県立大学教授、西岡力東京基督教大学教授らとともに10月22日に東京で「第1回教育再生民間タウンミーティング」を開いて「日本教育再生機構」を正式に立ち上げ、その後、全国約10カ所で「国民集会」を開くなどして「一般の方々の声も官邸に届ける」運動を展開しようとしている。

 同機構ホームページによると、その趣旨はこうである。

「このたび発足した安倍政権は政策の最重要課題に『教育の再生』を掲げています。それだけ教育の立て直しは喫緊の課題ということです。日本教育再生機構も7月に教育再生に向けた提言を発表しましたが、安倍首相が自民党総裁選で発表した教育再生政策と多くの点で共通点を見ることができます」

「日本教育再生機構は安倍政権の教育再生政策の趣旨に基本的に賛同し、民間の立場から支援すると同時に教育再生をあるべき方向に導きます。その際に重要になってくるのは教育再生に期待する国民の声です。国民の切実な声を政策に反映させるのでなければ、真の教育改革とは言えないからです。そこで国民各層から我が国の教育が抱える問題点とその解決のための提言などを述べていただき、意見交換する場として全国で『民間タウンミーティング』を開催します。当日は政府関係者にも出席を要請し、国民の切実な思いを聞いていただこうと考えています」

「10月22日(日)の東京を皮切りに、全国約10会場でのタウンミーティングを2月頃までには終える予定です。教育再生を望む全国の声を集めて当局に届け、民間の立場から政府の教育再生政策をリードしていきたいと思います」「また、この企画を機に学校(教職員等)、保護者(家庭)、地域の三者が一堂に会し、各地で教育再生ネットワークの礎が構築できれば幸いです。これまで各地方ごと団体ごとに単発で発していた「教育危機」の問題点を集約し、今こそ国民が一丸となって教育再生に取り組むべきだと考えます。皆様のご協力を賜りますようお願いいたします」

 さらに同ホームページでは、10月10日付で「教育再生会議の人選に異議あり」と題した主張を掲げている。

「教育再生会議の設置がきょう閣議決定され、メンバーが発表されました。報道でご承知かと思いますが、葛西敬之JR東海会長、門川大作京都市教育長、渡辺美樹ワタミ社長ら教育問題に見識のある方が委員に就任しました」

「一方で、社是に『ジェンダーフリー』を掲げる資生堂の池田守男相談役、フェミニスト的子育て論を展開している白石真澄東洋大教授、『しんぶん赤旗』に頻繁に登場するエッセイストの海老名香葉子氏、全日本教職員組合の元組合員で多くの現場教員から『百ます計算』を批判されている陰山英男立命館小副校長、ゆとり教育導入時の文部事務次官で過激な学生運動経験を明らかにしたことのある小野元之日本学術振興会理事長らの人選は、教育再生会議に期待する多くの良識派を失望させるものとなりました(朝日新聞ですら『安倍色薄い人選』と冷笑しています)」

「特に、国旗・国歌や教育基本法をめぐって「しんぶん赤旗」や雑誌「世界」で左翼的主張を繰り返してきた義家弘介横浜市教育委員が、事務局の担当室長に就任したことには強い疑問を抱かざるを得ません。果たしてこのメンバーで、安倍首相が総裁選で掲げた教育再生の具体策を示すことができるのでしょうか」

※日本教育再生機構 http://kyoikusaisei.blog73.fc2.com/

 これによると、公明党推薦の前川は、同党の狙いとは違って保守派の容認するところらしい。

 それはともかく、彼らの言う“自虐史観”の撲滅を目指した「つくる会」の歴史教科書は、昨年度、全国の公立学校の0.4%にしか採用されないという大惨敗に終わり、それ故に西尾幹二、小林よしのりが次々に去って、残された人々の間で版元の扶桑社の思惑も絡んだ醜い内紛が繰り返された挙げ句、、八木、中西輝政らも追い出されて、去る6月にはようやく、小林正(神奈川県教組委員長から社会党で参議院議員となり新進党に参加、後落選)を会長に、藤岡信勝拓殖大学教授を副会長の1人に据えて“再建”されたが、もはや影響力の低下は覆うべくもない。そこで、八木、中西らを中心に改めて草の根からの教育保守化の運動を盛り上げて、官邸の動きに呼応しようということである。なお、「つくる会」の小林も、日本教育再生機構には呼びかけ人として参加しており、八木と小林の間で何らかの手打ちが行われたものと推測される。

 八木は同機構について「勝手連的に(設立を)計画したが、安倍氏周辺の感触はいい。政権と一体になるのではなく、草の根運動が政権を動かし、教育再生につなげたい」と語っている。「安倍氏周辺」とは、山谷、下村のことだろうが、果たして安倍・山谷・下村と八木らブレーンとの間で、教育再生会議そのものは世間の批判を予め回避するために“薄めた”人選とし、日本教育再生機構は外から過激なことを言って突き上げるという構図を了解し合った上でこのように仕組んでいることなのかどうか。そうでないとしたら、両者の間の裂け目は広がって安倍自身のアイデンティティもまた引き裂かれることになろう。

 『産経新聞』は16日付で「教育再生会議、顔ぶれに期待と不安/「官邸主導」は?」という記事で、期待というより不安を滲ませた。「官邸主導は?」という副見出しに「どうなっちゃったんだ!」という苛立ちが表現されている。この記事によると、葛西・渡辺・門川・浅利・中嶋・川勝・品川が“合格”(品川は歴史教科書を作った扶桑社の編集者出身であることが評価されているようだ)、野依・小野らは“文科省の影”、義家・海老名・陰山・池田・白石らは左寄りもしくはリベラル的で“失格”、小谷は“未知数”——という区分けになる。

●安倍の国家観と教育観

 さて、安倍がイメージする「志ある国民」とは何か。『美しい国へ』第3章で彼は、太平洋戦争末期に特攻隊で飛び立って行った23歳の少尉の日記から「はかなくも死せりと人の言わば言へ、我が真心の一筋の道」という句を引いて、彼らが単に父母兄弟をはじめ愛しい身近な人々を守るためだけでなく、日本という国の悠久の歴史が続くことを願って大義に殉じたのであることを強調し、さらにこう述べる。

「今日の豊かな日本は、彼らがささげた尊い命の上に成り立っている。だが、戦後生まれのわたしたちは、彼らにどう向き合ってきただろうか。国家のためにすすんで身を投じた人たちにたいし、尊崇の念をあらわしてきただろうか。たしかに自分のいのちは大切なものである。しかし、ときにはそれをなげうっても守るべき価値が存在するのだ、ということを考えたことがあるだろうか」

 これは「国のために死ねるか!」という、“公”を直ちに“国”と同一視して公共心を盲目的愛国心にすり替える小林よしのりの呼号と同工異曲のもので、時代錯誤の国家主義である。人は“公”の大義のために命を捨てることがあり得るが、それは例えば、現存の国家あるいは政府が誤った行動や政策を採った時に抗議し批判し阻止しようとする場合や、戦乱や飢餓に苦しむイラクやアフリカの子供たち救おうとする場合などを含むのは当たり前のことである。教育を通じて育むべきなのは、安倍の好きな孟子の言葉を借りれば「自ら反(かえり)みて縮(なお)くんば千万人といえども吾(われ)行かん」という独立不羈の思考力と勇気ある行動力であって、自国の政府のためならば是非もなく命を捧げるといった短絡的な直情であるはずがない。そもそも、特攻隊員の悲壮な覚悟を字義通りに愛国心の発露とだけ受け取って、その裏にある怒りや絶望や諦めが交ぜこぜになった張り裂けそうな葛藤に目を向けないのは、それこそ短絡的な一面化にすぎない。

 安倍が教育問題に関心を向けたのは、恐らく、拉致問題→従軍慰安婦・朝鮮人強制連行問題→歴史認識問題→歴史教科書問題→学校教育……という経路からのことだろう。彼は父・晋太郎の秘書を務めていた88年に、拉致被害者=有本恵子の両親が晋太郎事務所を訊ねてきたことから拉致問題に関心を抱き、やがて93年に初当選を果たすと、この「問題の解決に向けてできるだけのことをしようと決意」するが、94〜96年は村山政権時代で関心を持つ者は自民党内でも少なかった。97年3月に、脱北した北朝鮮元工作員の証言で横田めぐみの拉致事実が明らかになり、家族が実名を公表して救出運動を行なうことを決断したことをきっかけに「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(家族会)」が結成されると、安倍は直ちに4月、中山正暉を会長に担いで「北朝鮮拉致疑惑日本人救援議員連盟(旧拉致議連)」を立ち上げた。また、家族会を支援する地方組織が各地に生まれ、98年4月にはその全国連絡組織として「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)」が結成された。その会長は佐藤克巳、常任副会長は西岡力、副会長の1人は島田洋一で、西岡と島田は安倍のブレーン「5人組」のメンバーである。

 旧拉致議連は、しかし大した活動をするでもなく停滞し、やがて会長の中山が北朝鮮に同情的なような発言を繰り返すようになったため内部が紛糾し、02年3月に中山が辞任、超党派の「北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟(現拉致議連)」として再結成され、やがて平沼赳夫が会長に就いた。

 この間、拉致問題と並行して安倍が取り組んでいたのが、歴史認識/教科書問題で、93年8月結成の自民党「歴史・検討委員会」に中川昭一、平沼赳夫らと共に参加。ここに西尾幹二らを呼んで勉強会を開いたことがきっかけになって、97年1月、国民運動組織として「新しい教科書をつくる会」が結成され、すぐさまそれに呼応して翌月、会長=中川昭一、事務局長=安倍、幹事長=平沼で「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」がスタートするのである。

 同議連、は、99年に文部省幹部、教科書出版社の社長、教科書執筆者などを呼んで、侵略戦争や慰安婦問題などの記述について厳しく問い質し、さらに慰安婦問題で旧日本軍と日本政府の関与を認めた93年の河野洋平官房長官談話について「確たる証拠もなく『強制性』を先方に求められるままに認めた」と糾弾、河野を呼びつけて撤回を迫ったりした。これらの“勉強会”の成果を要約した同議連の「日本歴史教科書問題・中間報告」は、今も安倍の古い方のホームページには残っている。

※安倍の旧HP http://www.s-abe.or.jp/poritics/textbook/textbook.htm
※安倍の新HP http://www3.s-abe.or.jp/

 そのような立場から同議連は、「つくる会」教科書の採択を支援する活動を行ったがその後停滞、04年2月にセンター試験問題の朝鮮人強制連行出題問題から活動を再開し、会の名称から「若手」をとり、「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」として再出発、同年6月には「つくる会」教科書の検定・採択を支援する自民党シンポジウムを開催した。

 こういう流れが、安倍のイデオロギッシュな国家観・教育観を育ててきたのであって、それがどこまで彼の血となり肉となっているのかは別として(理解度の問題があるから)、少なくとも小泉のようなノン・イデオロギーの機会主義そのものというのとは全く違う文化もしくは教養風土を持っていることは、認識しておかなければならない。が、それでも総理になれば、村山談話も河野談話も容認するという機会主義を採らなければならないところに彼の基本的ディレンマがある。

 西尾幹二は自分のブログで、こう述べている。

「安倍氏が首相になって『真正保守』の化の皮が剥がれる変身をとげたのは、それ自体は驚くに当らない。私は前稿で……『権力は現実に触れると大きく変貌するのが常だ』と書いたが、その通りになっただけである。ただそれにしても、歴史問題で彼が次から次へ無抵抗に妥協したのは、日米中の三国で『靖国参拝を言外にする』以外のすべてを事前に取りきめていたのではないかと疑われるほどの無定見ぶりだが、恐らくそうではないだろう。妥協なのではなく、あの政治家の案外のホンネなのかもしれない。……村山談話、河野談話、祖父の戦争責任等の容認発言は、『戦後っ子』の正体暴露であ」る、と。

※西尾幹二 http://nishiokanji.com/blog/

 いやあ、この深い失望と諦め。安倍にとってこの股裂き状態は深刻である。▲

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【参考資料1】安倍の“教育改革人脈”

 安倍首相が本来大事にしなければいけない“教育改革人脈”とは誰か。今年7月に開かれた「八木秀次さんとともに日本の教育再生を考える夕べ」の発起人(■)と、そこで基本構想が発表された「日本教育再生機構」の発起人・呼びかけ人(●)とをミックスして50音順に並べると次の通りである。なおこの「夕べ」には安倍晋三(官房長官)、山谷えり子(内閣府大臣政務官)、武部勤(自民党幹事長)が祝電を送り、ゲストとして岡崎久彦(外交評論家)、桜井よし子(ジャーナリスト)、松本零士(漫画家)などが挨拶に立った。また以下に名前がなくて「日本教育再生機構」に提言を寄稿しているのは、小浜逸郎(評論家)、土居征夫(企業活力研究所理事長、教育再生会議担当室長代理)、二宮清純(スポーツ・ジャーナリスト)、渡部昇一(上智大学名誉教授)である。

■ 秋山昭八  弁護士
● 阿部孝   廣池学園常務理事
■●石井公一郎 元臨教審専門委員、元ブリヂストンサイクル社長
■ 磯前秀二  名城大学教授
■●伊藤隆   東京大学名誉教授
■ 井上雅夫  同志社大学教授
● 岩田啓成  モラロジー研究所顧問
■ 宇佐美忠信 富士社会教育センター理事長
■ 潮匡人   評論家
■ 内田智   弁護士
● 江部満   明治図書相談役)
● 大蔵雄之助 東京都杉並区教育委員
● 大多和聡宏 開成中高校長
● 小田村四郎 前拓殖大学総長
● 小原芳明  玉川学園理事長
■ 鍵山秀三郎 イエローハット相談役
■ 加瀬英明  外交評論家
■ 勝岡寛次  明星大学戦後教育史研究センター
■ 加藤寛   千葉商科大学学長
■●加藤十八  中京女子大学名誉教授 
■ 川上和久  明治学院大学教授
● 川島信雄  東京都国立市立第二小校長、東京都教育研究連盟常任理事
■ 菅野覚明  東京大学教授
■ クライン孝子ノンフィクション作家
■ 蔵琢也   進化生物学者
■ 古賀俊昭  東京都議会議員 
● 小林弘治  千葉県八千代市立大和田中学教諭
● 小林正   新しい歴史教科書をつくる会会長
● 貞松修二郎 日本教育新聞編集局長
● 佐藤健二  駒場東邦中高教頭、東京都教師会会長
● 佐藤康広  栃木県栃木市教育長
■●篠沢秀夫  学習院大学名誉教授
■●島田洋一  福井県立大学教授
■ 清水誠一  北海道議会議員
● 鈴木勲   日本弘道会会長、元文化庁長官
● 鈴木勝己  全日教連副委員長、栃木県教職員協議会会長
■ 反町勝夫  東京リーガルマインド社長
■ 高谷朝子  元宮内庁内掌典
■●高橋宏   首都大学東京理事長
● 高森明勅  新しい歴史教科書をつくる会理事
● 高山正之  帝京大学教授
■ 武原誠郎  イムカ社長
■●田下昌明  小児科医、豊岡中央病院理事長
● 田中英道  東北大学名誉教授、元新しい歴史教科書をつくる会会長
■●種子島経  元東京BMW社長、前新しい歴史教科書をつくる会会長
■ 千葉真一  俳優
■ 土屋たかゆき東京都議会議員
■ 鄭大均   首都大学東京教授
■ 中條高徳  日本国際青年文化協会会長
● 中田勝己  埼玉県教科書改善連絡協議会代表代行
■●中西輝政  京都大学教授
■●中村粲   独協大学名誉教授
■ 中村勝範  平成国際大学名誉学長
■●西岡力   東京基督教大学教授
● 西川淳   甲子園学院中学教頭
■ 新田均   皇学館大学教授
● 野原清嗣  岐阜県立岐阜農林高校教諭
● 樋口雅子  明治図書編集部長
● 久板順一朗 扶桑社取締役
● 平田静子  扶桑社執行役員
■ 藤尾秀昭  致知出版社社長
■ 前野徹   アジア経済人懇話会会長)
■ 松浦光修  皇学館大学教授
■ 松平康隆  日本バレーボール協会名誉会長
■●三浦朱門  元文化庁長官
■ 三宅久之  政治評論家
■●三好祐司  全日教連委員長
■●向山洋一  TOSS代表
■ 村上和雄  筑波大学名誉教授
■ 村田良平  元駐米大使
■●森田健作  元文部政務次官
● 安元百合子 全国退職女性校長会顧問
■ 山口宗之  九州大学名誉教授
■ 山田英雄  元警察庁長官
■ 屋山太郎  政治評論家
■ 吉田利幸  大阪府議会議員
■●米長邦雄  永世棋聖、東京都教育委員
■●和田秀樹  精神科医、教育評論家
■●渡辺利夫  拓殖大学長

 ちなみにこの中で、「新しい教科書をつくる会」の八木秀次元会長の解任をめぐる内紛では、内田智、新田均、勝岡寛治、松浦光修が八木派、種子島経は八木解任を主張した藤岡信勝ら藤岡派で八木の後に一時会長に、高森明勅は中間派だった。種子島の後に06年6月に会長になったのが小林。同時に選任された「新しい教科書をつくる会」の役員は次の通り。この中では小林だけが上に名を連ねていて、他は重なっていない。

《新しい歴史教科書をつくる会・役員》
会長  小林正   評論家、元参議院議員
副会長 高池勝彦  弁護士
副会長 福地惇   大正大学教授
副会長 藤岡信勝  拓殖大学教授
理事  石井昌浩  評論家、拓殖大学客員教授
    上杉千年  歴史教科書研究家
    遠藤浩一  評論家
    小川義男  狭山ヶ丘高校校長
    九里幾久雄 浦和大学理事長
    桜井裕子  ジャーナリスト
    杉原誠四郎 武蔵野大学教授
    高森明勅  日本文化総合研究所代表
    濱野晃吉  コンサルタント会社社長
    福田逸   明治大学教授
    吉永潤   神戸大学助教授
監事  平野富國  元(株)藤沢小田急代表取締役社長
    梅澤昇平  尚美学園大学教授
顧問  井尻千男  拓殖大学日本文化研究所所長
    工藤美代子 ノンフィクション作家
    田久保忠衛 杏林大学客員教授
    芳賀徹   東京大学名誉教授

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