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INSIDER No.368《ABE》むしろ凡庸な安倍政権の出発──能あるタカは爪を隠す?

 朝日=63%、毎日=67%、読売=70%、日経=71%──28日付各紙の世論調査で、安倍晋三政権は戦後歴代内閣の発足時としては2位もしくは3位の高い支持率を得たものの、これは期待も含めたご祝儀相場にすぎない。党・内閣人事の顔ぶれも29日の所信表明演説の中身もむしろ凡庸で、何のサプライズも強烈なメッセージもなく、5年半前に小泉純一郎前首相が登場した時の“衝撃性”とは比ぶべくもない以上、この政権は、臨時国会での重要法案審議や10月10日に迫った大阪9区と神奈川16区の衆院補選、さらには米軍再編の是非も絡んだ11月19日の沖縄知事選などで、どれ1つ取り落とすことなく着実に成果を上げていくことよりほかに、この支持率を維持する方法がない。仮に、激戦とされる大阪の補選に負けるようなことになれば、それだけでたちまち与党内がざわつき、世論が離反し始めかねない、薄氷を踏む出発である。

●“最後の切り札”の後を引き受けるつらさ

 考えてみれば、そもそも小泉は自民党にとって“最後の切り札”だったのであり、その後に実はもう1枚“最後の最後の切り札”が残っていたなどという旨い話がある訳がない。

 あの当時、そのまま森喜郎総理の下で夏の参院選を迎えれば大敗は必至、森退陣では済まずに自民党分裂、政局混乱で総選挙に転がり込んで政権喪失かとも言われた深刻な見通しの中で、急遽総裁選が4月に繰り上げられて、もう誰でもいい、変人・奇人でも構わない、参院選を乗り切ってさえくれれば……という、ほとんどやけのやんぱち気分に近い剥き出しの政権維持本能から、はぐれ者の一匹狼を総裁に担ぎ上げるという空前絶後の奇策が生まれた。そんなことでもなければ自分ごときが総裁・総理になどなるはずもなかったことを百も承知の小泉は、露悪的なまでに開き直って、自民党内の旧橋本派を中心とする族議員を“抵抗勢力”とレッテル貼りして仮想敵に仕立て上げ、「自民党をブッ壊す」とまで言い放って自らを“疑似野党化”し、人々の反自民党感情までも味方にした。

 こんな二重三重にトリッキーな小泉流を、上回ることはもちろん真似することさえ出来るはずがなく、その意味では後を襲うのが誰であるにせよ、凡庸に傾かざるをえない。しかも安倍は、小泉の非正統に対して正統、ヤクザ風がらっぱちの家系に対して政界きっての名門の血筋、喧嘩上手に対して調和重視、情に対して理、毒気に対して上品、非常識に対して常識等々、むしろ対極にある優等生タイプであって、それ以上のことを要求するのが酷というものだろう。それでも彼が、ほとんど党内満場一致のようにして小泉後継に選ばれたのは、彼が他の候補に比べて「テレビ映りがいい」というだけの理由であり、なぜそうなのかと言えば、ルックスがよくて、拉致問題やミサイル騒動など対北朝鮮の強硬姿勢が国民のナショナリスティックな気分に合致したという程度の話であり、そこには“小泉劇場”のような自民党総裁が自民党を自己否定するといった衝撃的なまでのダイナミズムは働いていない。

 小泉劇場には及ぶべくもないが、せめてテレビ映りのいい安倍で何とか来夏参院選の大敗を免れられないかという藁をも掴む思いから、我も我もと安倍支持に殺到するというこの総裁選の有様は、自民党の強さでなく弱さ、一層の組織的な劣化の現れであり、やはり“最後の切り札”の後にもう1枚別の切り札が袖口から出てくるという手品のようなことは起こらなかったのである。

●タカ派色を薄めてそろりと船出

 しかし安倍も馬鹿ではないから、総裁戦圧勝と高支持率の陰に潜む自民党の劣化と自分の政権の脆さを知っているのだろう、嵩に懸かって彼本来のタカ派ナショナリスト的な主張を剥き出しにするようなことは慎重に回避した。

 29日の所信表明演説では、彼の終局目標である憲法改正については「新しい時代にふさわしい憲法のあり方についての議論が与野党において深められ、方向性がしっかりと出てくることを願い」つつ、「まずは、憲法改正手続き法案の早期成立を期待する」と、終わりの方でサラリと述べるに留まった。また彼にとっての改憲の最大眼目である集団的自衛権の解禁については、従来の言説を大幅にトーンダウンさせ、「日米同盟がより効果的に機能し、平和が維持されるようにするため、いかなる場合が憲法で禁じられている集団的自衛権の行使に該当するのか、個別具体的な例に即し、よく研究していく」という言い方に落ち着いた。さらに、これまた改憲への地ならしとも言える教育基本法改正案については「教育再生」の下りで「早期成立を期す」と一言触れただけだった。そして、肝心要の靖国参拝問題とそれに関連した歴史認識問題については一切口にしなかった。

 しかし、トーンダウンしたとはいえ、就任演説で集団的自衛権の研究を表明した首相はたぶん彼が始めてであり、タブー破りであることは間違いない。塩崎恭久官房長官はこれについて、新たに首相の私的懇談会を設置し「ハイレベルのプロに集まってもらい、国民が納得し、近隣のアジア諸国も心配しないような結論が出る枠組みを考えて人選していく」と語ったが、この問題に関する安倍の師匠は、時代錯誤のアングロサクソン信仰で有名な岡崎久彦元大使、『集団的自衛権』の著書のある佐瀬昌盛元防衛大学教授のラインであり、彼らが中心となった懇談会が出来るのであれば、なかなか国民も納得せず、アジア諸国も不安に駆られることになるだろう。

 また、靖国参拝問題と歴史認識問題での安倍のブレーンは、伊藤哲夫(日本政策研究センター所長)、西岡力(東京基督教大学教授)、島田洋一(福井県立大学教授)、中西輝政(京都大学教授)、八木秀次(高崎経済大学教授)の通称「5人組」で、このうち西岡と島田は「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)」の副会長、八木と中西は「新しい歴史教科書をつくる会」の元代表と元理事、またほぼ全員が安倍政権支持のために「正論」「諸君」文化人が結成した「立ち上がれ!日本ネットワーク」及びこの10月に安倍教育改革に民間から連動することを狙って発足する「日本教育再生機構」の中心メンバーである。そしてこれらの背景には、日本の草の根保守運動のセンターである「日本会議」や彼らの宣伝機関である「チャンネル桜」に結集する広大な保守・右翼・宗教人脈がある。安倍は、「拉致日本人救出議員連盟」「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」「神道政治連盟国会議員懇談会」「日本会議国会議員懇談会」などを通じてそれらと密接に関わってきた“活動家”であり、この靖国参拝、歴史教科書、教育、拉致をめぐる国家主義という意味でのナショナリズムにこそ彼の思想的アイデンティティがあることは疑いもない。今は靖国問題と歴史認識問題には触れない方がいいと迂回をアドバイスしたのはこの5人組であり、いずれ安倍にその本性を露わにさせるタイミングを計っているに違いない。安倍は所信の中で「我が国の叡智を結集して、内閣に“教育再生会議”を早急に発足させる」と言明したが、この“叡智”とはたぶん「日本教育再生機構」の代表である八木秀次や代表発起人である中西輝政らのことであり、だとすればその行き着くところは見えている。

●勝共連合とも3代の深い繋がり

 この「日本会議」を大きな背景として五輪マークのように連なる靖国、教科書、教育、拉致の人脈に加えて、もう1つ無視できないのは統一教会=国際勝共連合との関わりである。去る5月13日に福岡市で8000人を集めて開かれた統一教会の別働組織「天宙平和連合」の宗教儀式・合同結婚式に、安倍は官房長官でありながら祝電を送っており、統一協会の霊感商法や合同結婚式の被害者の救済に当たっている弁護士や市民グループから「次期総理の最有力候補が統一教会の広告塔として利用されているのは由々しきこと」と批判を浴びた。勝共連合は文鮮明教祖が68年に韓国と日本で結成した反共政治組織で、日本の初代会長は統一教会会長でもあった久保木修己、名誉会長は笹川良一だが、安倍の祖父の岸信介元首相も熱心な支持者で、74年5月には東京の帝国ホテルで開かれ祖文鮮明の「『希望の日』晩餐会」の名誉実行委員長を務めたりもした。『週刊現代』9月30日号によると、父の晋太郎も勝共の機関誌『思想新聞』で「勝共推進議員」として紹介されたことがあるという。このように3代に及ぶ勝共との付き合いがあればこそ、98年に亡くなった久保木の遺稿集『美しい国日本の使命』(04年、世界日報社刊)から安倍が自分の中心スローガンを借用したのもまた自然なことだったと言えるだろう。

 勝共連合は、日本会議の前身である「日本を守る国民会議」や神道はじめ宗教団体による「日本を守る会」と連携して、旧ソ連や北朝鮮のスパイ摘発のためのスパイ防止法制定、北方領土復帰、自主憲法制定などの右翼的運動を盛んに展開したが、84年に久保木が天皇の名代として文鮮明に礼拝する秘密儀式を行っていたことが露見したため、日本の右翼・民族派が激怒、両者の間にヒビが入る。しかし勝共はその後も、霊感商法などで得た豊富な資金で自民党への浸透作戦を進め、86年の衆参ダブル選挙では130人もの「勝共推進議員」を当選させ、その多くに秘書や事務所スタッフを送り込んだ。現在の日本会議にも、そうとは名乗らずに勝共人脈が潜り込んでいて、日本会議理事長の戸澤眞=明治神宮権宮司は元勝共連合顧問である。

 冷戦が終わって旧ソ連が消滅し、勝共運動の目標を失った彼らは、北朝鮮の脅威を誇大に描き上げてそれを新たな攻撃目標とし、また国家体制としての共産主義は消滅してもイデオロギーとしての共産主義は生きていて、家庭における過激な性教育やジェンダーフリーなどに姿を変えて日本の伝統基盤を崩壊させようとしていると主張しており、これもまた安倍が自民党内に「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」を作り、今総理として教育再生をスローガンにして官邸にチームを作ろうとする思想背景をなしている。

 こうして、「日本会議」を中心とする保守・右翼運動の側から見れば、安倍政権とは、彼らの長年の運動が実って自分らのエージェントを権力中枢に送り込むことに成功したことを意味しており、それが今後、諮問会議や懇談会などのメンバー選びを通じて実際に内部に入り込んでくることになろう。小泉はろくな思想もイデオロギーもなく、従ってまた余りに国権強化的なナショナリズムは忌避する傾向があったが、安倍はそうではなく、筋金入りの反共活動家、タカ派のナショナリストである。

●安倍を引き裂く基本的なディレンマ

 とはいえ、総理ともなると、そのホンネをさらけ出したのでは自民党内もまとまらず、世論の離反も防ぐことが出来ず、来夏参院選までの一連の選挙に勝つことは難しい。だからといって、タカ派色を出すのをためらってばかりいては、裏の保守・右翼ブレーンが黙ってはいない。そのディレンマは、今回の所信表明では、「格差是正」などを前に出して、教育と憲法は後回しにして余り長く触れないようにするという形で処理されたが、今後も彼はそのような思想的なホンネと世間向けの「ええかっこしい」との間で揺れ動き続けることになろう。

 目前に迫った2つの補選は、大阪では自民党は公募新人の原田憲治と民主党前職の大谷信治の対決で、民主党優勢が伝えられる。神奈川16区は、自民党は故亀井善之元農水相の地盤を継いだ長男の亀井善太郎が優位と言われるが、民主党の元経産省課長補佐の後藤祐一もなかなか強力な玉で接戦が予想されている。どちらか1つでも自民党が落とすことになれば「選挙に強い」という安倍神話が崩れ始めるため、どちらにとっても来年参院選の前哨戦として負けられない戦いとなる。また11月19日の沖縄知事選では、野党6党が一致して糸数慶子参院議員を担ぎ、自民党の元沖縄電力会長=仲井真弘多を押している。同日の福岡市長選も、五輪誘致に失敗した自民党現職の山崎広太郎が民主党の元新聞記者=吉田宏に追い上げられていて、どこもかも危ない。この秋に1つ2つと取りこぼすと、自民党はますます参院選が苦しくなるのは必然で、福岡政行の『週刊ポスト』10月6日号の予測では「自民46議席vs民主52議席で安倍政権は10カ月の短命に終わる!」とのことである。

 タカ派色を隠したくらいでは安倍政権の安全航行には何の足しにもならない。この政権で唯一凄みのある存在は中川秀直幹事長で、彼は谷内外務事務次官と組んで、補選前日に安倍を中国・韓国に送り込んで両国との関係修復をうたいあげるという軽業的な日程を作り上げた。これが成功すれば、2つの補選は一気に自民有利に傾くことになろう。▲

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