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2006年10月29日

INSIDER No.372《AGRI》農業補助金と所得保障の違い──今日のサンプロ議論の補足

 今日のサンプロの菅直人出演のコーナーの終わり近くで、農業補助金のことがちょっとだけ話題になって、民主党の「全農家に所得保障を」という政策について田原さんが「それじゃあ、補助金バラ撒きと同じじゃないか」と言ったので、私が口を出して「補助金と所得保障は考え方が全然違うので、もっと時間のある時にそこをきちんと区別した上で議論しないと意味がないですよ」という趣旨のことを発言した。これは確かになかなか難しい問題で、整理した議論が必要なところである。今ここで簡単にメモして、私が何を言おうとしたかの理解の一助にしたい。

●デカップリング

 99年に38年ぶりに農業基本法が改定され「食料・農業・農村基本法」が成立したのを機会に、日本の伝統的な農業保護政策である、品目ごとに高い輸入関税をかけそれと国内価格との差額を補助金によって補填する「価格支持政策」は、原則として廃止に向かい、それに代わって、一定の条件を満たす個々の農家に対して財政から直接、所得の不足分を支払う「所得保障政策」を適用するという、農政史上の大転換が進んでいる。

 これは、国際的には「デカップリング」と呼ばれる欧米が先行しWTOでも基準化されている政策転換で、辞書的には「農業保護費削減のため価格支持をやめ直接所得補償を行う方式」と定義されている。デカップリングとは、文字通りでは「分離」「関係を薄める」という意味で、従来は各国とも、国内農業の基本を高関税と国内価格支持によって間接的に農家の生産意欲を維持させ、結果的にすべての農家にバラ撒くという方策を採っていたのに対し、政府による価格維持補助金から農業保護政策を「切り離し(デカップル)」て、やる気のある農家や特別の事情によって所得を減らさざるを得なかった農家に対して個々に直接に支払って所得を保障するものである。

 これによって、あくまで原理的には、ということではあるが、

(1)高関税と価格補助がなくなることで、輸入自由化が促され、農業がより市場原理的になり、WTOが促進される。
(2)政府は、バラ撒き型の補助金を減らし、財政資金を重点的・効果的に使うことが出来る。
(3)従来は、補助金分が消費者負担に転嫁され、結果的に消費者が高い農産物を買わされていたが、これからは安くなる。そのかわり、所得保障分は納税者負担となる。
(4)やる気のある農家が一層頑張るようになり、構造改善が促される。

——ということが期待されており、つまりは、「主として保護、従として市場」という考え方から、「主として市場、従として保護」への転換が狙いである。

 ヨーロッパでは、EUの共通農業政策としてこのデカップリング政策が導入され、例えば、

(1)生産調整(日本で言う減反のこと)をした地域、
(2)農業する条件の不利な地域(日本では中山間地など)、
(3)景観を保護しなければならない地域、
(4)過疎地域、山岳農家、
(5)水質汚濁防止のために窒素・リン系農薬をあまり使わない地域、

 等々、一定の基準を設けてそれに該当する農家に対して、EU予算、各国政府予算、また場合によっては民間の寄付(環境NPOが特定の森林を守るためにお金を集めるとか)や投資(企業がこのやり方の有機栽培なら儲かると判断して出資するとか)を募るなど直接お金を支払うことで農業の活性化を図っている。具体的には、毎年の穀物・畜産物の生産高に関係なく、この地域では牛や豚一頭あたりいくらとか、農薬を使わなかった牧草地1ヘクタールあたりいくらとか、休耕地1ヘクタールあたりいくらとかというように、細かく基準を決めている。

●きめ細かい議論を

 イギリスでは、狂牛病で100万頭もの牛が廃棄されたが、所得保障政策によって牧畜農家の破綻は回避された。このように、臨時の危機的な状況に対してもこの政策は効果を発揮する。

 スイスでは、国内全農地の10%近くで有機農業が行われ、特に山間部では畜産や酪農を中心に最大30%に及んでいるが、これは政府が山岳地などの条件不利地域で有機農業・牧畜に積極的に挑戦する農家に有利な所得保障政策を導入しているからで、このように、恒久的に不利な条件にある農家を保護・奨励したり、消費者の利益(有機への関心の高まり)を満たすために政策的な誘導を行うためにも、この政策が活用されている。

 日本の場合は、スイスのようなきめ細かい議論が抜けていて、所得保証の対象となる農家の規模を、都府県の個別経営で4ヘクタール以上、北海道は10ヘクタールとし、また、個別ではその規模に達しない場合に村単位で共同で20ヘクタール以上の「集落営農」を行えば対象とするという具合に、かなり機械的に営農面積だけで線を引いたので、全国平均で農家数の半分を占める小規模農家やじいちゃん・ばあちゃん農家が切り捨てられる形になっていて、民主党はそれを批判して、小規模も含めた全農家に一律、所得保障を出すべきだと主張しているが、これは農水省側にも民主党側にも議論の余地があって、けっこうな論争になるべき事柄である。

 簡単に言うと、農水省側は、旧農基法の大規模化・効率化・高収益化一本槍という路線の間違いを十分に反省しないまま、新農基法になってもそれを追求しようとばかりしている。それに対し民主党側は、それによって切り捨てられる小規模農家の救済を強調していて、それだと全農家保護の昔と同じことになってしまいかねない。さて、その中間で、「経済=産業政策」として強い農家を育てつつ、「環境=社会政策」「格差是正政策」として弱い農家を維持し、さらに田舎暮らし志向の移住者も増やしていくというような巧妙な政策ミックスが可能なのかという、これはかなり高級な議論である。しかし、両者とも価格支持政策から所得保障政策への原理的大転換は踏まえた上での論争なので、そこはきちんと踏まえておかないといけない。

 が、そこが突破できれば、21世紀の日本は「農の世紀」となり、その面からアジアと世界をリードすることが出来るかもしれない大きなテーマである。サンプロでも、農業政策について真正面から議論することをやって貰いたいものである。▲

INSIDER No.371《安倍政治用語事典・その1》早くも始まった安倍「教育再生」の迷走──猫かぶりをいつまで続けられるのか?

 安倍晋三首相は政権発足早々に、歴史認識、靖国参拝=A級戦犯、対中国関係、教育など、政治家としてアイデンティティを問われる重要問題で“迷走”し始めた。それらの問題を巡る安倍の機会主義的な発言はいずれも、彼のこれまでの言動やそれを評価してきたブレーンや取り巻き連中の主張からすれば我慢の限界を超えるような“後退”ぶりであり、首相として採らなければならない建前と国家主義的右派のプリンスとしての個人の本音との間の股裂き状態が今後ますます深刻になっていくことを予感させる。

 安倍のブレーンの中には、「村山談話を否定できるかどうか」「秋の例大祭に靖国に堂々参拝できるかどうか」が試金石だというようなことを書いている者もおり、それをしなかった場合に、それらブレーンに煽られた右翼少年が安倍を「裏切り者!」と断じてテロを仕掛けることすら心配されるほどである。

 これから順次、分野ごとに彼の迷走ぶりを「安倍政治用語事典」シリーズとして取り上げていくが、第1回は「教育再生」である。

●教育再生を野依良治に託す?

 教育再興は安倍の中心公約の1つであり、その目的は、著書『美しい国へ』によれば、「志ある国民を育て、品格ある国家をつくること」であり、そのために国の学校監査を制度化し「ダメ教師には辞めていただく」ようにすることである。9月28日の所信表明演説でもその趣旨を繰り返し、「まず教育基本法案の早期成立を期す」とともに「内閣に『教育再生会議』を早急に発足させる」と述べて、早速その人選を山谷えり子=首相補佐官と下村博文=官房副長官に命じていた。

 山谷と下村は、安倍の主張する国家主義的教育改革の旗振り役で、これまでも「歴史教科書の自虐史観は官邸がチェックして改めさせる」「ジェンダーフリー教育は即刻やめさせる」など過激な発言を繰り返しており、「中教審のようにバランスに配慮した人選はしない」という基本方針の下、人選を進めていた。ところが、蓋を開けてみれば座長に内定したのは、どちらかと言えばリベラルな教育観を持つノーベル化学賞受賞者で理化学研究所理事長の野依良治。彼は文部科学省の科学技術・学術審議会の会長、中央教育審議会の委員であり、文科省との関わりも深い。

 野依は、03年1月の中央教育審議会基本問題部会でのヒアリングでは「教育は、国が一方的に押しつけるのではなく、家庭を基本にした自立的なものであるべき。国民は多くの共通項も持つが、一人一人違うのが当然である」と述べている。また02年1月の中日新聞新年特集での河合隼雄京都大学名誉教授(後に文化庁長官)との対談でも、河合が「日本人はみんなが一緒になるのがすごく好きで、下手をすると創造的な人の芽を早い時期に摘んでしまう面がある」と言うのに対して、野依は次のように語る。

「私もそう思う。日本という国が民族的に均一性が高いからだろう。教育の面でも均一性を尊ぶところがある。教育がトップダウンで行われ、権力者がいかに国を組織し支配するかという側面も強かったのでは。……世界全体も均一になると面白くない。いい意味での帰属意識は必要だが、多様な人がいることが大事で、それぞれの違いを尊重した上で協調していかないと」

 これでは、安倍の考える愛国心の上からの押しつけ、国家の教育現場への管理強化の路線とはむしろ正反対のリベラル的教育観ではないか。

●それ以外のメンバーの色合い

 野依の下に集ったその他の16人は次の通り。

《教育界》
■海老名香葉子(エッセイスト)
■小野元之(日本学術振興会理事長、元文科次官)
■陰山英男(立命館小副校長)
■門川大作(京都市教育長)
■小谷実可子(日本オリンピック委員会理事)
■品川裕香(教育ジャーナリスト)
■義家弘介(横浜市教育委員、ヤンキー先生)

 海老名は故林家三平夫人で、師匠の死後、30人の弟子の面倒を見て一門を守りながら4人の子供を育てた“日本のお母さん”。東京大空襲の悲惨を経験して、その記念碑建立に奔走した筋金入りの平和・護憲論者であるが故に共産党の好みであるらしく、『赤旗』紙上や赤旗祭りイベントで志位委員長と対談したりしている。陰山は「百ます計算」で有名になった教育タレントで、現場教師時代は全教(共産党系教職組)の組合員だった。義家も「ヤンキー先生」の愛称で知られる教育タレントで、『赤旗』紙上で教育基本法改正反対を語り、『世界』の国歌・国旗反対特集にエッセイを寄稿したり、イラク派遣自衛隊の撤退要求署名に参加したりしている。講演も全教系が多いという。その義家が教育再生会議の事務局に当たる「担当室」の室長を任された。

 品川は発達障害、学習障害の問題を精力的に取材するだけでなく、そうした問題のNPOの運動などに積極的に関わっている市民派と言える。門川は、唯一の公明党推薦委員で、学校評価制度の推進に熱心であることが買われたようだが、公明党が「教育改革が国家主義的になるのを懸念して」(17日付東京新聞)送り込んだというから、これも安倍的とは言えない。

 小野は、もろに文科官僚で、しかも保守派が嫌悪する「ゆとり教育」を打ち出した張本人。官邸主導を警戒する自民党の文教族が強引にメンバーに押し込んだ。在任中に「若い頃は過激な学生運動を経験した」と“告白”して批判を浴び、弁明させられたりしたこともあり、保守派はそのことを取り上げて“左翼くずれ”と批判している。

 小谷は「スポーツ関係者」ということだろうが、純粋にタレントとしての起用。こうして見ると、野依を含めた以上7人に安倍的な勇ましい人は誰もいない。

《学術・文化界》
■浅利慶太(劇団四季代表)
■川勝平太(国際日本文化研究センター教授)
■小宮山宏(東大総長)
■白石真澄(東洋大教授)
■中嶋嶺雄(国際教養大学長)

 中曽根のブレーンというかスタイリストだった浅利が今どき何故出てくるのかはよく分からないが、小渕〜森時代に教育改革国民会議委員を務め、文科省の中央教育審議会のメンバーだったこともある実績からだろうか。しかし今までの改革論議を乗り越えようとするのであればむしろ老害ではないか。川勝と中嶋は論調的には保守派寄りで、特に川勝は「新しい教科書をつくる会」の賛同者である。中国問題専門の中嶋は保守派というより中教審の外国語専門部会主査として小学校からの英語必修化を主張したことが評価されたのだろう。

 小宮山は化学工学専門で、東大の理工系学部が産学提携で企業から何百億円もの研究費をせしめる路線を切り開いた人。実績というより肩書きによる登用だろう。白石は、教育バウチャー制、子育ての社会化などを主張しているが、これも主張というよりテレビのワイドショーのコメンテーターとして活躍していることからタレント的な意味合いでピックアップされたに違いない。

《経済界》
■池田守男(資生堂相談役、東洋英和女学院理事長)
■葛西敬之(JR東海会長、海陽中等教育学校副理事長)
■張富士夫(トヨタ自動車会長、海陽中等教育学校副理事長)
■渡辺美樹(ワタミ社長、郁文館中高)

 経済界と言っても、見るとおりいずれも学校経営に関わっている人ばかり。このうち葛西と張は共に安倍を囲む経済人の集い「四季の会」のメンバーであり、また中京地方の財界が設立した英国型の全寮制中高一貫学校の副理事長である。葛西は経済人には珍しいほど保守的というよりゴリゴリのタカ派的な主張を隠さない人で、「新しい歴史教科書をつくる会」の賛同者である。しかし張は、天下のトヨタのトップだからそんな過激さはない。

 池田は座長代理を務めるが、資生堂の企業モットーに「ジェンダーフリー」を掲げたことで知られていて、ジェンダーフリーに敵意を持つ安倍・下村・山谷とはその点では相容れない。渡辺は、居酒屋チェーン「和民」を展開する一方、自ら学校を経営する経験をもとに学校間の市場競争を活発にするバウチャー制導入を強く主張している。

《担当室》
▼事務局長 山谷えり子(首相補佐官)
▼室長   義家弘介
▼室長代理 土居征夫(企業活力研究所理事長、通産官僚からNEC常務)
▼副室長  山中伸一(前文部科学省私学部長)

 義家の室長には周辺から強い反対があったが、安倍が「再チャレンジ」の象徴だからと押し切ったと言われる。土居は右翼の「日本教育再生機構」のホームページに自分の教育改革論を寄稿しているので、保守派だろう。しかし彼は非常勤なので、実際の担当室は“左がかった”義家と文科省派遣の山中で取り仕切ることになるのではないか。

 こうして見ると、17人の委員に担当室の土居・山中を加えた19人のうち、はっきりと安倍の教育改革ブレーンに近い考え方なのは川勝、葛西、土居の3人で、さらに中嶋、張、渡辺あたりを加えても5〜6人というところで、リベラル系と勢力拮抗している。また文科官僚は2人、中教審その他文科省がらみは野依を筆頭に6〜7人いて、「文科省と喧嘩しても」「中教審のようにはしない」という当初の意気込みはどこへ行ったのかと思わせるほどで、結局、保守系、リベラル系、文科省系の三すくみということにもなりかねない。

●高まる安倍「教育」ブレーンの不満

 安倍ブレーン「5人組」の1人で、元「新しい教科書をつくる会」会長の八木秀次高崎経済大学教授が、野依の座長就任が決まったその日に記者会見を開いて、野依が中教審委員であることに「不安が残る」と、遠慮がちながら不満を鳴らしたのは当然と言える。彼は「文科省主導による教育政策を一度壊すくらいの提言をすべきだが、それが出来る陣容になるか、若干おとなしめの人が集まるのかなと見ている」とも述べた。

 八木は、まさか自分が座長に指名されるとは思っていなかっただろうが、同じ有名人でも例えば「つくる会」人脈に直結する桜井よし子のような人物が真っ先に委員に呼ばれると思っていたのではなかろうか。「つくる会」の内紛で同会の会長を追われた八木は、「5人組」の中西輝政京都大学教授、島田洋一福井県立大学教授、西岡力東京基督教大学教授らとともに10月22日に東京で「第1回教育再生民間タウンミーティング」を開いて「日本教育再生機構」を正式に立ち上げ、その後、全国約10カ所で「国民集会」を開くなどして「一般の方々の声も官邸に届ける」運動を展開しようとしている。

 同機構ホームページによると、その趣旨はこうである。

「このたび発足した安倍政権は政策の最重要課題に『教育の再生』を掲げています。それだけ教育の立て直しは喫緊の課題ということです。日本教育再生機構も7月に教育再生に向けた提言を発表しましたが、安倍首相が自民党総裁選で発表した教育再生政策と多くの点で共通点を見ることができます」

「日本教育再生機構は安倍政権の教育再生政策の趣旨に基本的に賛同し、民間の立場から支援すると同時に教育再生をあるべき方向に導きます。その際に重要になってくるのは教育再生に期待する国民の声です。国民の切実な声を政策に反映させるのでなければ、真の教育改革とは言えないからです。そこで国民各層から我が国の教育が抱える問題点とその解決のための提言などを述べていただき、意見交換する場として全国で『民間タウンミーティング』を開催します。当日は政府関係者にも出席を要請し、国民の切実な思いを聞いていただこうと考えています」

「10月22日(日)の東京を皮切りに、全国約10会場でのタウンミーティングを2月頃までには終える予定です。教育再生を望む全国の声を集めて当局に届け、民間の立場から政府の教育再生政策をリードしていきたいと思います」「また、この企画を機に学校(教職員等)、保護者(家庭)、地域の三者が一堂に会し、各地で教育再生ネットワークの礎が構築できれば幸いです。これまで各地方ごと団体ごとに単発で発していた「教育危機」の問題点を集約し、今こそ国民が一丸となって教育再生に取り組むべきだと考えます。皆様のご協力を賜りますようお願いいたします」

 さらに同ホームページでは、10月10日付で「教育再生会議の人選に異議あり」と題した主張を掲げている。

「教育再生会議の設置がきょう閣議決定され、メンバーが発表されました。報道でご承知かと思いますが、葛西敬之JR東海会長、門川大作京都市教育長、渡辺美樹ワタミ社長ら教育問題に見識のある方が委員に就任しました」

「一方で、社是に『ジェンダーフリー』を掲げる資生堂の池田守男相談役、フェミニスト的子育て論を展開している白石真澄東洋大教授、『しんぶん赤旗』に頻繁に登場するエッセイストの海老名香葉子氏、全日本教職員組合の元組合員で多くの現場教員から『百ます計算』を批判されている陰山英男立命館小副校長、ゆとり教育導入時の文部事務次官で過激な学生運動経験を明らかにしたことのある小野元之日本学術振興会理事長らの人選は、教育再生会議に期待する多くの良識派を失望させるものとなりました(朝日新聞ですら『安倍色薄い人選』と冷笑しています)」

「特に、国旗・国歌や教育基本法をめぐって「しんぶん赤旗」や雑誌「世界」で左翼的主張を繰り返してきた義家弘介横浜市教育委員が、事務局の担当室長に就任したことには強い疑問を抱かざるを得ません。果たしてこのメンバーで、安倍首相が総裁選で掲げた教育再生の具体策を示すことができるのでしょうか」

※日本教育再生機構 http://kyoikusaisei.blog73.fc2.com/

 これによると、公明党推薦の前川は、同党の狙いとは違って保守派の容認するところらしい。

 それはともかく、彼らの言う“自虐史観”の撲滅を目指した「つくる会」の歴史教科書は、昨年度、全国の公立学校の0.4%にしか採用されないという大惨敗に終わり、それ故に西尾幹二、小林よしのりが次々に去って、残された人々の間で版元の扶桑社の思惑も絡んだ醜い内紛が繰り返された挙げ句、、八木、中西輝政らも追い出されて、去る6月にはようやく、小林正(神奈川県教組委員長から社会党で参議院議員となり新進党に参加、後落選)を会長に、藤岡信勝拓殖大学教授を副会長の1人に据えて“再建”されたが、もはや影響力の低下は覆うべくもない。そこで、八木、中西らを中心に改めて草の根からの教育保守化の運動を盛り上げて、官邸の動きに呼応しようということである。なお、「つくる会」の小林も、日本教育再生機構には呼びかけ人として参加しており、八木と小林の間で何らかの手打ちが行われたものと推測される。

 八木は同機構について「勝手連的に(設立を)計画したが、安倍氏周辺の感触はいい。政権と一体になるのではなく、草の根運動が政権を動かし、教育再生につなげたい」と語っている。「安倍氏周辺」とは、山谷、下村のことだろうが、果たして安倍・山谷・下村と八木らブレーンとの間で、教育再生会議そのものは世間の批判を予め回避するために“薄めた”人選とし、日本教育再生機構は外から過激なことを言って突き上げるという構図を了解し合った上でこのように仕組んでいることなのかどうか。そうでないとしたら、両者の間の裂け目は広がって安倍自身のアイデンティティもまた引き裂かれることになろう。

 『産経新聞』は16日付で「教育再生会議、顔ぶれに期待と不安/「官邸主導」は?」という記事で、期待というより不安を滲ませた。「官邸主導は?」という副見出しに「どうなっちゃったんだ!」という苛立ちが表現されている。この記事によると、葛西・渡辺・門川・浅利・中嶋・川勝・品川が“合格”(品川は歴史教科書を作った扶桑社の編集者出身であることが評価されているようだ)、野依・小野らは“文科省の影”、義家・海老名・陰山・池田・白石らは左寄りもしくはリベラル的で“失格”、小谷は“未知数”——という区分けになる。

●安倍の国家観と教育観

 さて、安倍がイメージする「志ある国民」とは何か。『美しい国へ』第3章で彼は、太平洋戦争末期に特攻隊で飛び立って行った23歳の少尉の日記から「はかなくも死せりと人の言わば言へ、我が真心の一筋の道」という句を引いて、彼らが単に父母兄弟をはじめ愛しい身近な人々を守るためだけでなく、日本という国の悠久の歴史が続くことを願って大義に殉じたのであることを強調し、さらにこう述べる。

「今日の豊かな日本は、彼らがささげた尊い命の上に成り立っている。だが、戦後生まれのわたしたちは、彼らにどう向き合ってきただろうか。国家のためにすすんで身を投じた人たちにたいし、尊崇の念をあらわしてきただろうか。たしかに自分のいのちは大切なものである。しかし、ときにはそれをなげうっても守るべき価値が存在するのだ、ということを考えたことがあるだろうか」

 これは「国のために死ねるか!」という、“公”を直ちに“国”と同一視して公共心を盲目的愛国心にすり替える小林よしのりの呼号と同工異曲のもので、時代錯誤の国家主義である。人は“公”の大義のために命を捨てることがあり得るが、それは例えば、現存の国家あるいは政府が誤った行動や政策を採った時に抗議し批判し阻止しようとする場合や、戦乱や飢餓に苦しむイラクやアフリカの子供たち救おうとする場合などを含むのは当たり前のことである。教育を通じて育むべきなのは、安倍の好きな孟子の言葉を借りれば「自ら反(かえり)みて縮(なお)くんば千万人といえども吾(われ)行かん」という独立不羈の思考力と勇気ある行動力であって、自国の政府のためならば是非もなく命を捧げるといった短絡的な直情であるはずがない。そもそも、特攻隊員の悲壮な覚悟を字義通りに愛国心の発露とだけ受け取って、その裏にある怒りや絶望や諦めが交ぜこぜになった張り裂けそうな葛藤に目を向けないのは、それこそ短絡的な一面化にすぎない。

 安倍が教育問題に関心を向けたのは、恐らく、拉致問題→従軍慰安婦・朝鮮人強制連行問題→歴史認識問題→歴史教科書問題→学校教育……という経路からのことだろう。彼は父・晋太郎の秘書を務めていた88年に、拉致被害者=有本恵子の両親が晋太郎事務所を訊ねてきたことから拉致問題に関心を抱き、やがて93年に初当選を果たすと、この「問題の解決に向けてできるだけのことをしようと決意」するが、94〜96年は村山政権時代で関心を持つ者は自民党内でも少なかった。97年3月に、脱北した北朝鮮元工作員の証言で横田めぐみの拉致事実が明らかになり、家族が実名を公表して救出運動を行なうことを決断したことをきっかけに「北朝鮮による拉致被害者家族連絡会(家族会)」が結成されると、安倍は直ちに4月、中山正暉を会長に担いで「北朝鮮拉致疑惑日本人救援議員連盟(旧拉致議連)」を立ち上げた。また、家族会を支援する地方組織が各地に生まれ、98年4月にはその全国連絡組織として「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)」が結成された。その会長は佐藤克巳、常任副会長は西岡力、副会長の1人は島田洋一で、西岡と島田は安倍のブレーン「5人組」のメンバーである。

 旧拉致議連は、しかし大した活動をするでもなく停滞し、やがて会長の中山が北朝鮮に同情的なような発言を繰り返すようになったため内部が紛糾し、02年3月に中山が辞任、超党派の「北朝鮮に拉致された日本人を早期に救出するために行動する議員連盟(現拉致議連)」として再結成され、やがて平沼赳夫が会長に就いた。

 この間、拉致問題と並行して安倍が取り組んでいたのが、歴史認識/教科書問題で、93年8月結成の自民党「歴史・検討委員会」に中川昭一、平沼赳夫らと共に参加。ここに西尾幹二らを呼んで勉強会を開いたことがきっかけになって、97年1月、国民運動組織として「新しい教科書をつくる会」が結成され、すぐさまそれに呼応して翌月、会長=中川昭一、事務局長=安倍、幹事長=平沼で「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」がスタートするのである。

 同議連、は、99年に文部省幹部、教科書出版社の社長、教科書執筆者などを呼んで、侵略戦争や慰安婦問題などの記述について厳しく問い質し、さらに慰安婦問題で旧日本軍と日本政府の関与を認めた93年の河野洋平官房長官談話について「確たる証拠もなく『強制性』を先方に求められるままに認めた」と糾弾、河野を呼びつけて撤回を迫ったりした。これらの“勉強会”の成果を要約した同議連の「日本歴史教科書問題・中間報告」は、今も安倍の古い方のホームページには残っている。

※安倍の旧HP http://www.s-abe.or.jp/poritics/textbook/textbook.htm
※安倍の新HP http://www3.s-abe.or.jp/

 そのような立場から同議連は、「つくる会」教科書の採択を支援する活動を行ったがその後停滞、04年2月にセンター試験問題の朝鮮人強制連行出題問題から活動を再開し、会の名称から「若手」をとり、「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」として再出発、同年6月には「つくる会」教科書の検定・採択を支援する自民党シンポジウムを開催した。

 こういう流れが、安倍のイデオロギッシュな国家観・教育観を育ててきたのであって、それがどこまで彼の血となり肉となっているのかは別として(理解度の問題があるから)、少なくとも小泉のようなノン・イデオロギーの機会主義そのものというのとは全く違う文化もしくは教養風土を持っていることは、認識しておかなければならない。が、それでも総理になれば、村山談話も河野談話も容認するという機会主義を採らなければならないところに彼の基本的ディレンマがある。

 西尾幹二は自分のブログで、こう述べている。

「安倍氏が首相になって『真正保守』の化の皮が剥がれる変身をとげたのは、それ自体は驚くに当らない。私は前稿で……『権力は現実に触れると大きく変貌するのが常だ』と書いたが、その通りになっただけである。ただそれにしても、歴史問題で彼が次から次へ無抵抗に妥協したのは、日米中の三国で『靖国参拝を言外にする』以外のすべてを事前に取りきめていたのではないかと疑われるほどの無定見ぶりだが、恐らくそうではないだろう。妥協なのではなく、あの政治家の案外のホンネなのかもしれない。……村山談話、河野談話、祖父の戦争責任等の容認発言は、『戦後っ子』の正体暴露であ」る、と。

※西尾幹二 http://nishiokanji.com/blog/

 いやあ、この深い失望と諦め。安倍にとってこの股裂き状態は深刻である。▲

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【参考資料1】安倍の“教育改革人脈”

 安倍首相が本来大事にしなければいけない“教育改革人脈”とは誰か。今年7月に開かれた「八木秀次さんとともに日本の教育再生を考える夕べ」の発起人(■)と、そこで基本構想が発表された「日本教育再生機構」の発起人・呼びかけ人(●)とをミックスして50音順に並べると次の通りである。なおこの「夕べ」には安倍晋三(官房長官)、山谷えり子(内閣府大臣政務官)、武部勤(自民党幹事長)が祝電を送り、ゲストとして岡崎久彦(外交評論家)、桜井よし子(ジャーナリスト)、松本零士(漫画家)などが挨拶に立った。また以下に名前がなくて「日本教育再生機構」に提言を寄稿しているのは、小浜逸郎(評論家)、土居征夫(企業活力研究所理事長、教育再生会議担当室長代理)、二宮清純(スポーツ・ジャーナリスト)、渡部昇一(上智大学名誉教授)である。

■ 秋山昭八  弁護士
● 阿部孝   廣池学園常務理事
■●石井公一郎 元臨教審専門委員、元ブリヂストンサイクル社長
■ 磯前秀二  名城大学教授
■●伊藤隆   東京大学名誉教授
■ 井上雅夫  同志社大学教授
● 岩田啓成  モラロジー研究所顧問
■ 宇佐美忠信 富士社会教育センター理事長
■ 潮匡人   評論家
■ 内田智   弁護士
● 江部満   明治図書相談役)
● 大蔵雄之助 東京都杉並区教育委員
● 大多和聡宏 開成中高校長
● 小田村四郎 前拓殖大学総長
● 小原芳明  玉川学園理事長
■ 鍵山秀三郎 イエローハット相談役
■ 加瀬英明  外交評論家
■ 勝岡寛次  明星大学戦後教育史研究センター
■ 加藤寛   千葉商科大学学長
■●加藤十八  中京女子大学名誉教授 
■ 川上和久  明治学院大学教授
● 川島信雄  東京都国立市立第二小校長、東京都教育研究連盟常任理事
■ 菅野覚明  東京大学教授
■ クライン孝子ノンフィクション作家
■ 蔵琢也   進化生物学者
■ 古賀俊昭  東京都議会議員 
● 小林弘治  千葉県八千代市立大和田中学教諭
● 小林正   新しい歴史教科書をつくる会会長
● 貞松修二郎 日本教育新聞編集局長
● 佐藤健二  駒場東邦中高教頭、東京都教師会会長
● 佐藤康広  栃木県栃木市教育長
■●篠沢秀夫  学習院大学名誉教授
■●島田洋一  福井県立大学教授
■ 清水誠一  北海道議会議員
● 鈴木勲   日本弘道会会長、元文化庁長官
● 鈴木勝己  全日教連副委員長、栃木県教職員協議会会長
■ 反町勝夫  東京リーガルマインド社長
■ 高谷朝子  元宮内庁内掌典
■●高橋宏   首都大学東京理事長
● 高森明勅  新しい歴史教科書をつくる会理事
● 高山正之  帝京大学教授
■ 武原誠郎  イムカ社長
■●田下昌明  小児科医、豊岡中央病院理事長
● 田中英道  東北大学名誉教授、元新しい歴史教科書をつくる会会長
■●種子島経  元東京BMW社長、前新しい歴史教科書をつくる会会長
■ 千葉真一  俳優
■ 土屋たかゆき東京都議会議員
■ 鄭大均   首都大学東京教授
■ 中條高徳  日本国際青年文化協会会長
● 中田勝己  埼玉県教科書改善連絡協議会代表代行
■●中西輝政  京都大学教授
■●中村粲   独協大学名誉教授
■ 中村勝範  平成国際大学名誉学長
■●西岡力   東京基督教大学教授
● 西川淳   甲子園学院中学教頭
■ 新田均   皇学館大学教授
● 野原清嗣  岐阜県立岐阜農林高校教諭
● 樋口雅子  明治図書編集部長
● 久板順一朗 扶桑社取締役
● 平田静子  扶桑社執行役員
■ 藤尾秀昭  致知出版社社長
■ 前野徹   アジア経済人懇話会会長)
■ 松浦光修  皇学館大学教授
■ 松平康隆  日本バレーボール協会名誉会長
■●三浦朱門  元文化庁長官
■ 三宅久之  政治評論家
■●三好祐司  全日教連委員長
■●向山洋一  TOSS代表
■ 村上和雄  筑波大学名誉教授
■ 村田良平  元駐米大使
■●森田健作  元文部政務次官
● 安元百合子 全国退職女性校長会顧問
■ 山口宗之  九州大学名誉教授
■ 山田英雄  元警察庁長官
■ 屋山太郎  政治評論家
■ 吉田利幸  大阪府議会議員
■●米長邦雄  永世棋聖、東京都教育委員
■●和田秀樹  精神科医、教育評論家
■●渡辺利夫  拓殖大学長

 ちなみにこの中で、「新しい教科書をつくる会」の八木秀次元会長の解任をめぐる内紛では、内田智、新田均、勝岡寛治、松浦光修が八木派、種子島経は八木解任を主張した藤岡信勝ら藤岡派で八木の後に一時会長に、高森明勅は中間派だった。種子島の後に06年6月に会長になったのが小林。同時に選任された「新しい教科書をつくる会」の役員は次の通り。この中では小林だけが上に名を連ねていて、他は重なっていない。

《新しい歴史教科書をつくる会・役員》
会長  小林正   評論家、元参議院議員
副会長 高池勝彦  弁護士
副会長 福地惇   大正大学教授
副会長 藤岡信勝  拓殖大学教授
理事  石井昌浩  評論家、拓殖大学客員教授
    上杉千年  歴史教科書研究家
    遠藤浩一  評論家
    小川義男  狭山ヶ丘高校校長
    九里幾久雄 浦和大学理事長
    桜井裕子  ジャーナリスト
    杉原誠四郎 武蔵野大学教授
    高森明勅  日本文化総合研究所代表
    濱野晃吉  コンサルタント会社社長
    福田逸   明治大学教授
    吉永潤   神戸大学助教授
監事  平野富國  元(株)藤沢小田急代表取締役社長
    梅澤昇平  尚美学園大学教授
顧問  井尻千男  拓殖大学日本文化研究所所長
    工藤美代子 ノンフィクション作家
    田久保忠衛 杏林大学客員教授
    芳賀徹   東京大学名誉教授

2006年10月15日

INSIDER No.370《NORTH KOREA》金正日は“狂気”なのか?──臨検に踏み込む日本の危うさ

 先週の『週刊新潮』は「“狂気”の衝撃波/核ミサイル来年発射で東京の死者130万人!」と、『週刊文春』も同様に「“狂気”の金正日開き直りの核実験/中西輝政緊急提言・米の核ミサイルを即時日本に配備せよ」と、どちらが狂気かと疑うほどの勢いで特集を繰りだしている。

 確かに核兵器はそれ自体が狂気の究極兵器であり、核実験と聞いただけで恐怖に陥るのは理解できないことではないけれども、本誌前号でも指摘したように、(1)金正日はこのタイミングで核実験を強行することで米国との2国間交渉のきっかけを掴もうとするそれなりの計算に立ってこの挙に出た、(2)しかしそうかと言ってその計算に成算があるわけではなく、むしろ客観的には自業自得の結果に陥る公算が大きい、(3)それでもこの賭けに打って出たのは、金融制裁などで追い詰められて窮鼠猫を噛む的な心理に陥っているからで、そのため計算違いが更なる計算違いを引き起こす危険がある——つまり、狂気そのものと狂気の演出(すなわち狂気の振りをすること)とは違うことを一旦認識した上で、なおかつ狂気の振りが本当の狂気に転がり込む可能性があって、それは具体的にはどういうケースであるかについて冷静に分析しておかないと、この事態への対処を誤ることになる。

●ドント・パニック、ジェントルメン!

 ドナルド・グレッグ元安保担当補佐官は、9日付『ヘラルド・トリビューン』紙への寄稿で「パニックに陥るな(Don't panic)。金正日の目的は生き残りであって、自殺ではない」と述べたが、その通りで、その背景には、金は(米国の忌み嫌うイスラム原理主義者ではないので)本当に狂気の行動に出ることはありそうにないというワシントンの外交政策マフィアにほぼ共通する認識がある。ブッシュ政権が今のところ比較的冷静に振る舞っているのも、アフガニスタン、イラク、それにイランへの対応で精一杯で北朝鮮に構っていられないという事情はもちろんあるけれども、それ以上に、最も現実的な本当の危険は北が自分で米国へ向かって核を発射することではなく、アル・カイーダなどに核弾頭を売り渡し、それが米国内でのテロ攻撃に使われることにあると考えているからである。もしそのようなことが起きるか、起きそうになって辛うじて予防されたという場合、米国は、今度は慎重に証拠を押さえて国際社会の同意を取り付けた上で、北朝鮮への軍事攻撃に踏み切るだろう。今はまだその遙かに手前の段階である。

 北朝鮮研究者であるB.R.マイヤーズは13日付の『ヘラルド・トリビューン』で、面白いことを書いている。「裕仁天皇は宗教的狂信派でも自殺願望的でもなかったが、勝ち目のない戦争に日本を導いた。北朝鮮はスターリン主義国家と思われているが、実はその世界観は遙かにファッショ時代の日本に近い」と。数千年に及ぶ民族の血の繋がりを誇り、その象徴として指導者が、白い雪を頂いた峰を背景に白い馬に跨ってみせた挙げ句、その民族的純潔性を守るために「死を以て国を守れ」と国民に呼びかける辺りは、裕仁と金はそっくりである。もちろん金はたくさんの人を殺すことは出来るが、かつての帝国日本ほど世界の安全保障にとっての脅威をもたらすことはないし、そもそも帝国を築こうともしていない。しかし北の世界観がそのように非合理的なものである以上、北が自分で核兵器を使うことはないと決めつけることは出来ない……とマイヤーズは言う。

 蛇足ながら、白い雪を頂いた峰とは、日本では富士山、北では白頭山である。ヒトラーも白い馬に乗っていた。

 実際、北の共産独裁と韓国の一時期までの軍事独裁は、大日本帝国の植民地支配が産み落とした不肖の兄弟とも言うべき一面があって、北の奇行や愚行に怒ったり笑ったりする前に、日本もほんの60年前までは今の北と似たような訳の分からぬ怖い国と世界中から思われていたこと、そして日本がそのDNAを彼の地に残したことが今の北を生む少なくとも一因になっていることに、少しだけ思いを馳せるべきだろう。エリック・クラプトンの歌に「Before you accuseme, take a look at yourself(俺を責める前に、お前自身のことをちょっと振り返って見ろよ)」という科白があって、まあこれは男女の痴話喧嘩の話なのだが、第3者から見て「目くそ鼻くそを笑う」類だと嘲笑されないような北への対処が日本に求められているのである。

●日本に核ミサイルは降るか?

 週刊誌が言うように、来年、東京に北の核ミサイルが撃ち込まれるという事態があり得るのだろうか。結論を言えば、極めてあり得ない。

 13日付『毎日新聞』経済欄のコラム「経済観測」が次のように解析しているのはおおむね正しい。

▼北朝鮮は韓国や日本には少しも軍事的脅威を感じておらず、ターゲットはもともと米国だった。……米国の脅威にさらされている体制の安泰を図るため、米国に対する抑止力になる長距離ミサイルと核兵器の開発を急いでいるのだ。

▼したがって、北朝鮮は韓国を攻撃する意図はないし、日本を攻撃したいとも思っていないだろう。だが、米国が北朝鮮の核施設をピンポイント爆撃したり、完ぺきな経済制裁を主導したりすれば、自暴自棄になって韓国を攻撃するだろう。そうなればソウルは火の海になるに違いなく、軍事オプションは不可能なのだ。

▼国際社会として可能なのは、じわじわと経済制裁を強化しつつも完全に命綱を断つことなく、中露に北朝鮮への働きかけを強化させるしかない。成功する保証はないが、他のオプションは実際上とれないし、一方で人道支援もやめられないだろう。結局、悪名高い太陽政策は放棄できないことになる……。

 そのへんの軍事専門家よりもこの匿名の市場ウォッチャーのほうが余程的確に事態を見透している。すなわち、第1に、北の軍事的・外交的ターゲットは最初から一貫して米国である。かつて北朝鮮は、“自国の南半分”を占領している米帝国主義に対して中国と旧ソ連の支援を受けて戦争を仕掛けて駆逐しようとし、結果としてその目的を達しきれずに38度線を境に休戦協定を結んだのであり、そのようにして“南半分”を事実上占領し続けることになった米国が、以前は在韓米軍基地に地上配備した戦術核兵器で、現在は第7艦隊の戦略ミサイル原潜や水上艦船に積んだ巡航ミサイルや空母搭載の戦闘爆撃機など圧倒的な海洋核戦力で、常時、北の中枢部に狙いを定めていることが、北にとっての基本的な脅威であり恐怖なのである。その米国の脅威にさらされているからこそ、北はそれに対する抑止力として、苦しい中でも、核開発に励んできた。逆に言えば、米国による核恫喝がなければ、北は核開発をする理由がないことになる。それは、米国の支援を受けたイスラエルの核の脅威があればこそイランが核開発を急ぐのと同様で、この原因と結果の関係を取り違えてはいけない。

 従って、事態の根本的解決のためには、まず米国はじめ中国やロシアも含めて核大国が核実験禁止、核軍縮から核全面廃棄への道程を明示して誠実にそれを実行しつつ、朝鮮半島、中東、南アジアなど喫緊の地域の非核化を実現するための交渉の場を設営しなければならない。それを抜きに、米国があれこれの国を“ならず者”呼ばわりして先制攻撃も辞さないかの脅迫を行うから、それらの国がかえって核開発に突き進むことを煽る結果になっているのである。米国は、中国、イスラエル、インドと同様、96年の「包括的核実験禁止条約(CTBT)」に署名はしているが批准しておらず、日本政府内には「米中が批准し、条約発効に向けて機運が高まっていれば、北朝鮮に実験禁止を迫る国際圧力ももっと強まっていただろう」という声もある(15日付朝日)。

 第2に、北の原理的認識からすれば、韓国と日本はその米国に従属して、米軍に対して対北朝鮮攻撃のための出撃・補給基地を提供しているだけの従属国ないし傀儡国であり、それ以上の直接の軍事的脅威ではなく、何もない時にいきなり北が韓国や日本に核にせよ何にせよ攻撃を仕掛けてくることは基本的にはあり得ない。ほとんど唯一、韓国や日本が攻撃対象となり得るケースは、北と米国が戦闘状態に入って、その米軍の出撃基地や補給ルートを叩くために北がありったけのミサイルを韓国や日本にブッ放す場合である。日本が周辺事態法などを発動して米軍の後方支援に当たれば、北から見れば日本も参戦国となるから、その可能性はなおさら増す。仮に1発でも日本に飛んでくれば、「後方支援しかやっていないのにミサイルを撃ち込むとは何事か」「北の発射基地を叩け」「日本も核武装しろ」と世論が激高し、日本国憲法第9条は頓死する。

 ちなみに、この時、北が実用に足る核弾頭を保有しているか否かは本質的な問題ではない。北は通常爆弾を弾頭にしたミサイルで韓国や日本の原子力発電所を集中攻撃する作戦シナリオを用意していると言われており、本当のことを言えば、核開発などしなくても日韓を核攻撃することが出来る。

 従って、戦争になってしまえばどうしようもなく、まず戦争が起こらないようにすることに全力を尽くさなければならない。

●北の暴発はどうしたら防げるか?

 第3に、北と米国の戦争はどのようにして起こり得るか。北の暴発、ブッシュの暴発、船舶臨検などの小競り合いからの偶発などである。

 北の軍事的暴発は、経済・金融制裁が徹底的に行われて社会破綻と権力崩壊が起きるという場合に起こり得る。そこで、制裁には限度と出口の設定が伴わなければならない。限度を超えた徹底的な制裁とは、北の貿易総量約30億ドルの5割を占める中国と3割を占める韓国が全面禁輸に踏み切ることであり、とりわけ中国が丹東から鴨緑江をくぐって伸びるパイプライン経由の石油供給をストップすれば、北の経済も軍もたちまち麻痺してしまう。中国は93年の核危機の際にはこのパイプラインを一時止めて制裁に加わったが、今回はまだ止める気配を見せていない。

 また北は、正常な輸出による外貨収入とほぼ同規模の密輸収入があると見られており、それはミサイルなど軍需品のほか、国家的に密造した偽ドル、偽タバコ、覚醒剤、偽医薬品(バイアグラなど——ネットで米国発を装って販売されている安い薬の大半は北製で、不潔なところで製造された、所要成分がろくに入っていない粗悪品なのでご注意を!)などを中国、韓国経由で持ち出し、その稼ぎをマカオなどの銀行で洗浄して環流させる形を採ってきた。この不正資金の環流は金融制裁で相当程度打撃を受けているものと推測されるが、中国と韓国が貿易を止めれば密輸品も搬出路を失って北は完全に資金的に枯渇する。

 本当に制裁を効果あるものにするには、中国・韓国が全面協力してそこまでやらなければならないが、それは北の軍事的暴発に直結する危険があるので、両国は慎重である。とすると、単に船舶の臨検を議論するだけではダメで、とりわけ陸路を通じての中国経由の密輸品を含めた輸出入を段階的に締め上げて行きながら、「6者協議への復帰とその場を通じての米朝2国間協議開催」という出口に北を誘導していく緻密なロードマップを作って国際的に合意するのでなければならないだろう。

 ブッシュの暴発は、彼が北の生意気ぶりに切れて“先制攻撃権”を発動して北の核施設や金正日の居所をピンポイント爆撃することで、理論的には、北の暴発より遙かに起きやすい。しかし現実的には、イラクとアフガニスタンの泥沼化で身動きも取れない有様では、新しい戦線を開くことは事実上不可能であり、また上述のようにワシントンは北の核が密輸されてアルカイーダなどテロ組織の手に渡って核テロに使われることを最も恐れている(しかも北が実験を繰り返して持ち運び可能なところまで弾頭を小型化するには相当な時間がかかる)ので、少なくとも当分の間は米国側からの暴発はないだろう。しかし、米国務省の一部やペンタゴンには対北強硬論が根強く存在しており、北の挑発が度が過ぎるとブッシュが急にそちらに傾く危険は残っている。

 北からの核拡散を防ぎ米国の心配を取り除くためにも、制裁には海路だけでなく陸路での核弾頭を含む密輸を規制する措置が盛り込まれるべきだろう。しかしこれはなかなか難しいことで、シンガポール防衛戦略研究所のバーナード・リー助教授は「北朝鮮はテロ組織との取引を視野に入れるだろう。……外貨が欲しい北朝鮮にとって、潤沢な資金を持つとされるアルカイーダは魅力的だ。……国際社会がいくら監視していても、抜け道はある。そうなったら悪夢だ」と指摘している(13日付読売)。

●臨検は武力紛争のきっかけになるか?

 国連安保理が満場一致採決した制裁は、“第7条決議”であるためそれへの参加は加盟国の義務となったという点で極めて厳しいものであるが、しかしあくまで“第41条”による制裁であることを(中国の必至の工作で)明記したので、臨検もその範囲に留まることになり、“第42条”による事実上の武力行使の第1段階としての陸海空軍による「示威、封鎖」となることは回避された。が、臨検の範囲、程度、方法についての各国解釈はバラバラで、それぞれが行動の基準とする国内法も色々なので、やり方次第ではそれが戦争を引き起こすきっかけになりかねない。

 決議直前まで米国と中国の間で議論の火花が散ったのは、まさにその点で、決議案づくりを主導した米国は、この決議が「PSI(大量破壊兵器の拡散防止のための安全保障構想)を補完し発展させたもの」であることを強調、決議で言う「貨物の検査(inspection)」が不審船に対する強制力を持つものだという解釈である。それに対して、そもそも「北朝鮮に対して挑発的すぎる」という理由でPSIに参加してこなかった中国は、もちろん反対で、米国と激しくやりあった末に、各国が「自国の当局と法律に基づき……貨物の検査を含む協調行動をとる」という文言を盛り込ませた。これは、米国流解釈に賛成でない場合に臨検に参加しない、もしくは自国流のやり方で参加する余地を残す意図だったと考えられる。

 PSIは、02年にブッシュ大統領が提唱し、各国の自発参加を呼びかけたもので、北朝鮮やイランなどによる大量破壊兵器の移転・輸送を、国際的に協力して阻止するための措置を検討し実践するための枠組み。これまでに75カ国以上が参加し、海上阻止行動を中心とする国際共同訓練を積み重ねてきた。このPSIが発展したものが今回の決議であるとすると、自由参加だったPSIが国連加盟国の義務に格上げされる訳で、中国が抵抗したのも無理はない。

※外務省HPのPSI解説:http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/fukaku_j/psi/index.html

 さて、一口に「臨検」というがその定義は曖昧で、従って41条に基づくそれであっても実際には限りなく42条のそれに近づいていく可能性を孕んでいる。今回の国連決議に使われているのはinspectionで、これは通常「船舶検査」と翻訳する。平時の国際法である「国連海洋法条約」では110条で、海賊行為、奴隷運搬、不法放送などを行っている疑いのある不審船や無国籍船に遭遇した軍艦がvisitを行うことが出来る権利を定めているが、これは通常「臨検」と訳される。他方、戦時の国際法である1902年ロンドン宣言など「海戦法規」では、封鎖に伴うsearch、visit、visit & searchなどの言葉が使われ、予め封鎖を宣言した対象国・地域に戦時禁制品を輸送する商船に停戦を命じ、臨検し、拿捕し、貨物を没収し、あるいは船舶を破壊することが出来ることになっているが、これも「臨検」と訳され、交戦権行使の1形態である。軍艦による臨検は、それを検査と呼ぼうと、「国連憲章第7章41条の実行性を高める半軍事行動であり、41条と42条の間の行動であり戦時国際法の概念である」とする解釈もあり(Wikipedia「臨検」の項)、そうなるとますます41条と42条の境目ははっきりせず、限りなくグラデーションになる。

 米国は国内法で、警告と威嚇のための低空飛行や周辺海面への射撃、あるいは船長の同意を得ずして武装兵士がヘリコプターからロープで降下して強行乗船するテークダウンなどを行って強制臨検し、抵抗すれば必要な範囲で武力行使することになっている。従って、米軍主体の臨検となれば、実際には41条と42条の区別など掻き消されてしまう。

●日本は周辺事態法で参加できるのか?

 日本では、海洋法条約110条に辛うじて対応する国内法は海上保安庁法17条の「立入検査」で、ここでは「船舶、積荷及び航海に関し重要と認める事項を確かめるため船舶の進行を停止させて立入検査をし、又は乗組員及び旅客に対しその職務を行うために必要な質問をすることができる」とされている。が、海洋法条約110条で定めているのは平時における軍艦による臨検であり、日本の海上自衛隊がそれを行うための根拠法はない。海上自衛隊が臨検を行うのは、周辺事態で「船舶検査活動法」を発動した場合と、武力攻撃事態で「外国軍用品等海上輸送規制法」を発動した場合で、後者は日本が侵略されている最中に自衛権行使の一環として行うことなので今回の問題とは関係がない。

※防衛庁HPの「海上輸送規制法」の概要と条文:http://www.jda.go.jp/j/yujihousei/index02_1.html

 周辺事態とは、簡単に言えば朝鮮半島や台湾海峡などで戦争になり米軍が出動した場合のことである。99年周辺事態法には「そのまま放置すれば我が国に対する直接の武力攻撃に至るおそれのある事態等我が国周辺の地域における我が国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」が起きて米軍が出撃した時に、自衛隊が領海内だけでなく公海上に出てその後方支援を行うことことを定めていて、さらに同法の関連法として「船舶検査活動法」がある。その第2条には、(1)周辺事態の下で、(2)「貿易その他の経済活動に係る規制措置」すなわち経済制裁や臨検、封鎖などが実行され、(3)日本もそれに参加している時、(4)国連安保理が決議して必要な措置を執るよう要請してきた場合に、(5)あるいは安保理の要請がない場合はその船舶の旗国(本国のこと)の同意を得て——その船舶の検査を行うことにしている。

 しかし、公海上での本格的な臨検は「武力の行使または武力による威嚇」となり違憲なので、実際の実施に当たっては(1)航行状況の監視、(2)信号弾などによる自己の存在の顕示、(3)無線を通じての船舶の名称などの照会、(4)停止の要請、(5)船長の承諾を得ての乗船検査・確認、(6)目的地や航路の変更の要請、(7)船長などに対する説得、(8)接近、追尾——という遠慮がちなものにとどまらざるを得ず、また武器の使用も海上保安庁並みに制限されることになっている。

※防衛庁HPの船舶検査活動法の概要:http://jda-clearing.jda.go.jp/hakusho_data/2003/2003/html/15252200.html
※同法の条文:http://www.ron.gr.jp/law/law/syuhe_se.htm

 で、いま日本政府は、北朝鮮の核実験とそれに対する安保理の制裁発動を“周辺事態”と認定してこの「船舶検査活動法」を発動、臨検の主力になるであろう米軍に対して後方支援を行おうとしているのだが、これに対しては、当の防衛庁に「いくら何でも核実験だけで周辺事態と認定するのは無茶。周辺事態法を外交の道具として弄ぶものだ」という強い抵抗があり、また自民党内にも「臨検に日本が加担した場合、北朝鮮は宣戦布告と見なして暴発する可能性がある」(山崎拓、14日鹿児島での発言)など慎重論がある。

 周辺事態と認定するための基準として6類型があり、その第4は「ある国の行動が国連安保理で平和に対する脅威などと決定され、安保理決議の経済制裁の対象となり、日本の平和と安全に影響する」となっていて、文字面だけ読めば今回の事態に合致するのは確かだが、しかし周辺事態法が全体として想定しているのは、すでに武力紛争が発生しているがまだ日本への直接攻撃が行われていない場合であるから、防衛庁が考えるように、これを周辺事態とするのは拡大解釈であり、法律的に無理がある。また現実的にも、山崎が心配するように、北のほうから見れば、米軍主体の臨検そのものが武力行使であり、日本は後方支援だけだなどと言っても通用せず日本も参戦国とみなして攻撃対象とするに決まっているので、簡単に紛争に巻き込まれる。

 もともと周辺事態法が持っている曖昧さが呼び起こす危険が露呈した形であり、それを避けようとすれば、すでに自民党国防族の間ではしゃいだ声が出ているように、船舶検査に強制力を持たせ、また米軍以外の艦船にも後方支援を提供できるよう特別措置法を制定すべきだということになるが、これはもちろん憲法上、新たな問題を浮上させる。

 このように、ちょうどアフガニスタン戦争で押っ取り刀で対米後方支援の特措法を作った時と同様の、ブッ飛んだような議論が政府・与党内を駆け抜けているが、そもそも本来、この制裁活動は安保理が主体になって実施すべきもので、自動的に米軍主体で臨検体制を敷くのが当たり前のような話になって、日本がそれを前提に「米軍への協力の仕方をどうするか」と色めき立っているのはいかがなものなのか。米軍が能力的にその任に最も適していることに疑いの余地はなく、また制裁決議を主導したのが米国であるという経緯からしても、そうなるのは自然の流れとも言えるが、考えてみれば、それは北に「米国が国連を手先に使って武力攻撃を仕掛けてきた」という受け止め方をされて仕方のない挑発的なやり方であって、制裁のプロセスを巧みにコントロールしながら北を出口に導いて行くには最も適さないかもしれない。本当にそれでいいのか、また中国や韓国も参加して陸路を含めた物資制限を段階的に実施するにはどうするか、など落ち着いた検討が必要ではないか。

 北の狂気の振りを本当の狂気に転化させないための、特に6カ国協議参加の5カ国の緊密な連携こそ大事で、米国に付いて行きさえすれば大丈夫というような小泉流を安倍が継承するだけでは危ない。▲

2006年10月11日

INSIDER No.369《NORTH KOREA》“最後の切り札”を切った北朝鮮の自暴自棄──国連安保理は船舶臨検に踏み切るか?

 北朝鮮が9日に強行した地下核実験について、世界200カ所の地震観測所をネットワークして核実験を監視している「包括的核実験禁止条約機関(CTBTO)準備室」は、マグニチュード4.0(誤差0.3以内)、TNT火薬換算1.5キロトンとしており、また韓国の地質資源研究院はマグニチュード3.58〜3.70、TNT火薬換算0.4〜0.8キロトンとしている。他方、ロシアや日本の観測値はもっと大きく、現時点で特定は難しいが、東京大学地震研究所の阿部勝征教授は0.5〜3キロトンと推測している。いずれにせよCTBTOが観測対象としている「1キロトン程度以上」に引っかかるか引っかからないかのぎりぎりの小規模のものだった公算が大きい。1キロトンは、広島型の濃縮ウラン原爆の15分の1、長崎型のプルトニウム原爆の20分の1程度に相当する。米紙ワシントン・ポストが9日伝えたところでは、米政府当局者は「本当に核爆発だったかどうか判断がつきかねるほど小規模で、どちらかといえば失敗だったのではないか」「爆弾の一部だけが爆発した可能性もあり、その場合、北は引き続き追加実験を行うかもしれない」と見ているという。

 北朝鮮が、実験室レベルの核弾頭を数発(7〜8発?)程度、保有しているであろうことは既に推測されていたことで、これが実際に爆発実験に付されたことで、核兵器の実用化に一歩近づいたことは確かだが、そうかといって多数の核弾頭をテポドンやノドンに装着して実戦配備したという事態にはほど遠い。核実験という、言わば究極のカードを振り回して隣国や国際社会を恫喝しようとする金正日の政治的野蛮は徹底的に糾弾され、国連安保理を中心とする一層厳しい制裁措置の対象となって当然であるけれども、かといって直ちに核の脅威への軍事的対応を迫られているかのように大袈裟に騒ぎ立てる必要もない。多くの専門家が指摘するように、一度核実験をやったから明日から核兵器を発射出来るというものではなく、実験を繰り返して精度を上げつつある程度まとまった数の弾頭を蓄えて、それ以外にも多くの技術的関門を突破して初めて本物の核保有国になるのである。

●なぜこの時期に?

 この時期に北が暴挙に出たのは、第1に、金融的窒息状態がいよいよ我慢の限界に来たからである。昨年の6者協議中断後の1年間に、米国を先頭に日本、シンガポール、タイ、オーストラリア、さらには中国までも含めて20カ国が戦列に加わって、北朝鮮の軍需品調達や偽ドル・偽タバコ・麻薬などの国家的な国際犯罪ビジネスの拠点になっている疑いのある銀行口座を次々に封鎖し、包囲網を狭めてきたことが奏功して、元々空っぽに近い国庫の外貨収入だけでなく、金正日が軍部をはじめ権力内部にバラ撒いて不満をなだめるために蓄えている裏金も、ほとんど干上がってしまったと言われており、窮鼠猫を噛むの心境に追い込まれる中で「金融制裁を解除しないと核でも何でもブッ放すぞ」という国際社会への脅迫手段に出たのだろう。とりわけ、長年にわたって北の対外経済工作の最大基地となってきたマカオで、バンコ・デルタ・アジアと中国銀行の口座を封じられ、貿易商社やそれを装った工作機関が総引き上げしなければならなくなったのは大打撃で、それはもちろん米国の差し金によるものだが、それを許容した中国に対しても北は恨みを募らせており、中国への意趣晴らしという意味合いも含まれているかもしれない。しかし、国際社会が核実験に驚いて制裁を解除するなどということがある訳はなく、むしろ制裁の一層の強化を招いて自分の首を絞めるだけである。

 第2に、米朝2国間協議に応じろというワシントンへのメッセージである。北にしてみれば、そもそも米国が北を核で恫喝しているから自らも核を開発して対抗しなければならないのであって、初めから相手は米国以外ではありえない。ところが6カ国協議の枠組みは、米中露日韓が寄ってたかって北に圧力をかけて核を止めさせようというもので、米国の核という“原因”を不問にして北の核という“結果”だけを取り除こうとする不当かつ一方的な構図でしかない。そこで、核実験に踏み切ることで、6カ国の話し合いで北だけが核を放棄することなどあり得るはずがなく、米国が2国間協議に応じて“核保有国”同士として相互(!?)核軍縮を進める以外にこの問題の根本的解決はないのだということを、誰よりも米国に思い知らせようとしているのである。が、毒を以て毒を制する式のこのような粗暴なやり方で、米国が考えを改めて2国間協議に応じてくる可能性はほとんど絶無であり、むしろ逆効果である。とりわけブッシュ政権は、世界を敵と味方に二分して、イラン、シリア、ヒズボラ、パレスチナなど気に入らない相手とは一切交渉しないという頑なな外交姿勢を採っていて、その稚拙さを内外から批判されているけれども、今更それを転換するつもりはない。従って、北はこれによって、「6カ国協議に復帰して、その場を通じて米朝2国間協議を実現する」という唯一現実的な打開策を自ら閉ざしてしまったことになる。

●武力行使の寸前まで進む?国連

 国連安保理は、常任理事国5カ国に安保理議長国である日本を加えた6カ国による大使級会合などを通じて、憲章第7章に基づく制裁決議の採択に向かって協議を進めている。第7章は「平和に対する脅威、平和の破壊及び侵略行為に関する行動」を規定しており、最初の第39条で安保理が「平和に対する脅威、平和の破壊又は侵略の存在を決定し、並びに、国政の平和及び安全を維持し又は回復するために、勧告をし、又は第41条及び第42条に従つていかなる措置をとるかを決定する」とした上で、第40条では、その勧告または措置の決定に至る以前の「暫定措置」、第41条では、「経済関係及び鉄道、航海、航空、郵便、電信、無線通信その他の運輸通信の手段の全部又は一部の中断並びに外交関係の断絶」を含めて「兵力の使用を伴わない措置」、第42条では、前条の措置では不十分な場合は「国際連合加盟国の空軍、海軍又は陸軍による示威、封鎖その他の行動」を含めて「国際の平和及び安全の維持又は回復に必要な空軍、海軍または陸軍の行動」をとることが出来ると定めている。第43条以下は、それでも間に合わない場合の国連軍の出動であって、米日が提案している核・ミサイル関連の物資や技術の北への禁輸は第41条に該当し、北朝鮮に出入りする船舶の臨検は第42条に該当するの
で、憲章の条文上も、また実際に臨検を行えば武力衝突になる危険も出てくるという現実上でも、武力行使の寸前まで進むというのが「第7章制裁」の意味である。

 中国とロシアは、余り北を追い詰めると軍事的暴発や内部崩壊を引き起こしかねないという考慮から、これまで第7章制裁には反対してきたし、今も慎重な態度を保っているが、今回は米日主導の案に賛成せざるを得ないものと観測されている。しかし、暴発や崩壊を起こさせずにこれ以上、北を追い込む巧い手段などある訳がなく、これは国連と国際社会にとっても瀬戸際の対応策となるだろう。臨検を行うのが米国の艦船だった場合、北は「米帝国主義が国連を手先に使って我が国を攻撃している」と宣言して、軍事的報復に出る可能性もある。金正日の自暴自棄的な愚行によって、北東アジアの緊張はにわかに高まっているが、これは直ちに核の脅威への対処ではないことを確認しつつ、あくまで北を無用に挑発して紛争を引き起こすことのないよう慎重に行動することが関係国に求められるだろう。▲

2006年10月 2日

INSIDER No.368《ABE》むしろ凡庸な安倍政権の出発──能あるタカは爪を隠す?

 朝日=63%、毎日=67%、読売=70%、日経=71%──28日付各紙の世論調査で、安倍晋三政権は戦後歴代内閣の発足時としては2位もしくは3位の高い支持率を得たものの、これは期待も含めたご祝儀相場にすぎない。党・内閣人事の顔ぶれも29日の所信表明演説の中身もむしろ凡庸で、何のサプライズも強烈なメッセージもなく、5年半前に小泉純一郎前首相が登場した時の“衝撃性”とは比ぶべくもない以上、この政権は、臨時国会での重要法案審議や10月10日に迫った大阪9区と神奈川16区の衆院補選、さらには米軍再編の是非も絡んだ11月19日の沖縄知事選などで、どれ1つ取り落とすことなく着実に成果を上げていくことよりほかに、この支持率を維持する方法がない。仮に、激戦とされる大阪の補選に負けるようなことになれば、それだけでたちまち与党内がざわつき、世論が離反し始めかねない、薄氷を踏む出発である。

●“最後の切り札”の後を引き受けるつらさ

 考えてみれば、そもそも小泉は自民党にとって“最後の切り札”だったのであり、その後に実はもう1枚“最後の最後の切り札”が残っていたなどという旨い話がある訳がない。

 あの当時、そのまま森喜郎総理の下で夏の参院選を迎えれば大敗は必至、森退陣では済まずに自民党分裂、政局混乱で総選挙に転がり込んで政権喪失かとも言われた深刻な見通しの中で、急遽総裁選が4月に繰り上げられて、もう誰でもいい、変人・奇人でも構わない、参院選を乗り切ってさえくれれば……という、ほとんどやけのやんぱち気分に近い剥き出しの政権維持本能から、はぐれ者の一匹狼を総裁に担ぎ上げるという空前絶後の奇策が生まれた。そんなことでもなければ自分ごときが総裁・総理になどなるはずもなかったことを百も承知の小泉は、露悪的なまでに開き直って、自民党内の旧橋本派を中心とする族議員を“抵抗勢力”とレッテル貼りして仮想敵に仕立て上げ、「自民党をブッ壊す」とまで言い放って自らを“疑似野党化”し、人々の反自民党感情までも味方にした。

 こんな二重三重にトリッキーな小泉流を、上回ることはもちろん真似することさえ出来るはずがなく、その意味では後を襲うのが誰であるにせよ、凡庸に傾かざるをえない。しかも安倍は、小泉の非正統に対して正統、ヤクザ風がらっぱちの家系に対して政界きっての名門の血筋、喧嘩上手に対して調和重視、情に対して理、毒気に対して上品、非常識に対して常識等々、むしろ対極にある優等生タイプであって、それ以上のことを要求するのが酷というものだろう。それでも彼が、ほとんど党内満場一致のようにして小泉後継に選ばれたのは、彼が他の候補に比べて「テレビ映りがいい」というだけの理由であり、なぜそうなのかと言えば、ルックスがよくて、拉致問題やミサイル騒動など対北朝鮮の強硬姿勢が国民のナショナリスティックな気分に合致したという程度の話であり、そこには“小泉劇場”のような自民党総裁が自民党を自己否定するといった衝撃的なまでのダイナミズムは働いていない。

 小泉劇場には及ぶべくもないが、せめてテレビ映りのいい安倍で何とか来夏参院選の大敗を免れられないかという藁をも掴む思いから、我も我もと安倍支持に殺到するというこの総裁選の有様は、自民党の強さでなく弱さ、一層の組織的な劣化の現れであり、やはり“最後の切り札”の後にもう1枚別の切り札が袖口から出てくるという手品のようなことは起こらなかったのである。

●タカ派色を薄めてそろりと船出

 しかし安倍も馬鹿ではないから、総裁戦圧勝と高支持率の陰に潜む自民党の劣化と自分の政権の脆さを知っているのだろう、嵩に懸かって彼本来のタカ派ナショナリスト的な主張を剥き出しにするようなことは慎重に回避した。

 29日の所信表明演説では、彼の終局目標である憲法改正については「新しい時代にふさわしい憲法のあり方についての議論が与野党において深められ、方向性がしっかりと出てくることを願い」つつ、「まずは、憲法改正手続き法案の早期成立を期待する」と、終わりの方でサラリと述べるに留まった。また彼にとっての改憲の最大眼目である集団的自衛権の解禁については、従来の言説を大幅にトーンダウンさせ、「日米同盟がより効果的に機能し、平和が維持されるようにするため、いかなる場合が憲法で禁じられている集団的自衛権の行使に該当するのか、個別具体的な例に即し、よく研究していく」という言い方に落ち着いた。さらに、これまた改憲への地ならしとも言える教育基本法改正案については「教育再生」の下りで「早期成立を期す」と一言触れただけだった。そして、肝心要の靖国参拝問題とそれに関連した歴史認識問題については一切口にしなかった。

 しかし、トーンダウンしたとはいえ、就任演説で集団的自衛権の研究を表明した首相はたぶん彼が始めてであり、タブー破りであることは間違いない。塩崎恭久官房長官はこれについて、新たに首相の私的懇談会を設置し「ハイレベルのプロに集まってもらい、国民が納得し、近隣のアジア諸国も心配しないような結論が出る枠組みを考えて人選していく」と語ったが、この問題に関する安倍の師匠は、時代錯誤のアングロサクソン信仰で有名な岡崎久彦元大使、『集団的自衛権』の著書のある佐瀬昌盛元防衛大学教授のラインであり、彼らが中心となった懇談会が出来るのであれば、なかなか国民も納得せず、アジア諸国も不安に駆られることになるだろう。

 また、靖国参拝問題と歴史認識問題での安倍のブレーンは、伊藤哲夫(日本政策研究センター所長)、西岡力(東京基督教大学教授)、島田洋一(福井県立大学教授)、中西輝政(京都大学教授)、八木秀次(高崎経済大学教授)の通称「5人組」で、このうち西岡と島田は「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(救う会)」の副会長、八木と中西は「新しい歴史教科書をつくる会」の元代表と元理事、またほぼ全員が安倍政権支持のために「正論」「諸君」文化人が結成した「立ち上がれ!日本ネットワーク」及びこの10月に安倍教育改革に民間から連動することを狙って発足する「日本教育再生機構」の中心メンバーである。そしてこれらの背景には、日本の草の根保守運動のセンターである「日本会議」や彼らの宣伝機関である「チャンネル桜」に結集する広大な保守・右翼・宗教人脈がある。安倍は、「拉致日本人救出議員連盟」「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」「神道政治連盟国会議員懇談会」「日本会議国会議員懇談会」などを通じてそれらと密接に関わってきた“活動家”であり、この靖国参拝、歴史教科書、教育、拉致をめぐる国家主義という意味でのナショナリズムにこそ彼の思想的アイデンティティがあることは疑いもない。今は靖国問題と歴史認識問題には触れない方がいいと迂回をアドバイスしたのはこの5人組であり、いずれ安倍にその本性を露わにさせるタイミングを計っているに違いない。安倍は所信の中で「我が国の叡智を結集して、内閣に“教育再生会議”を早急に発足させる」と言明したが、この“叡智”とはたぶん「日本教育再生機構」の代表である八木秀次や代表発起人である中西輝政らのことであり、だとすればその行き着くところは見えている。

●勝共連合とも3代の深い繋がり

 この「日本会議」を大きな背景として五輪マークのように連なる靖国、教科書、教育、拉致の人脈に加えて、もう1つ無視できないのは統一教会=国際勝共連合との関わりである。去る5月13日に福岡市で8000人を集めて開かれた統一教会の別働組織「天宙平和連合」の宗教儀式・合同結婚式に、安倍は官房長官でありながら祝電を送っており、統一協会の霊感商法や合同結婚式の被害者の救済に当たっている弁護士や市民グループから「次期総理の最有力候補が統一教会の広告塔として利用されているのは由々しきこと」と批判を浴びた。勝共連合は文鮮明教祖が68年に韓国と日本で結成した反共政治組織で、日本の初代会長は統一教会会長でもあった久保木修己、名誉会長は笹川良一だが、安倍の祖父の岸信介元首相も熱心な支持者で、74年5月には東京の帝国ホテルで開かれ祖文鮮明の「『希望の日』晩餐会」の名誉実行委員長を務めたりもした。『週刊現代』9月30日号によると、父の晋太郎も勝共の機関誌『思想新聞』で「勝共推進議員」として紹介されたことがあるという。このように3代に及ぶ勝共との付き合いがあればこそ、98年に亡くなった久保木の遺稿集『美しい国日本の使命』(04年、世界日報社刊)から安倍が自分の中心スローガンを借用したのもまた自然なことだったと言えるだろう。

 勝共連合は、日本会議の前身である「日本を守る国民会議」や神道はじめ宗教団体による「日本を守る会」と連携して、旧ソ連や北朝鮮のスパイ摘発のためのスパイ防止法制定、北方領土復帰、自主憲法制定などの右翼的運動を盛んに展開したが、84年に久保木が天皇の名代として文鮮明に礼拝する秘密儀式を行っていたことが露見したため、日本の右翼・民族派が激怒、両者の間にヒビが入る。しかし勝共はその後も、霊感商法などで得た豊富な資金で自民党への浸透作戦を進め、86年の衆参ダブル選挙では130人もの「勝共推進議員」を当選させ、その多くに秘書や事務所スタッフを送り込んだ。現在の日本会議にも、そうとは名乗らずに勝共人脈が潜り込んでいて、日本会議理事長の戸澤眞=明治神宮権宮司は元勝共連合顧問である。

 冷戦が終わって旧ソ連が消滅し、勝共運動の目標を失った彼らは、北朝鮮の脅威を誇大に描き上げてそれを新たな攻撃目標とし、また国家体制としての共産主義は消滅してもイデオロギーとしての共産主義は生きていて、家庭における過激な性教育やジェンダーフリーなどに姿を変えて日本の伝統基盤を崩壊させようとしていると主張しており、これもまた安倍が自民党内に「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」を作り、今総理として教育再生をスローガンにして官邸にチームを作ろうとする思想背景をなしている。

 こうして、「日本会議」を中心とする保守・右翼運動の側から見れば、安倍政権とは、彼らの長年の運動が実って自分らのエージェントを権力中枢に送り込むことに成功したことを意味しており、それが今後、諮問会議や懇談会などのメンバー選びを通じて実際に内部に入り込んでくることになろう。小泉はろくな思想もイデオロギーもなく、従ってまた余りに国権強化的なナショナリズムは忌避する傾向があったが、安倍はそうではなく、筋金入りの反共活動家、タカ派のナショナリストである。

●安倍を引き裂く基本的なディレンマ

 とはいえ、総理ともなると、そのホンネをさらけ出したのでは自民党内もまとまらず、世論の離反も防ぐことが出来ず、来夏参院選までの一連の選挙に勝つことは難しい。だからといって、タカ派色を出すのをためらってばかりいては、裏の保守・右翼ブレーンが黙ってはいない。そのディレンマは、今回の所信表明では、「格差是正」などを前に出して、教育と憲法は後回しにして余り長く触れないようにするという形で処理されたが、今後も彼はそのような思想的なホンネと世間向けの「ええかっこしい」との間で揺れ動き続けることになろう。

 目前に迫った2つの補選は、大阪では自民党は公募新人の原田憲治と民主党前職の大谷信治の対決で、民主党優勢が伝えられる。神奈川16区は、自民党は故亀井善之元農水相の地盤を継いだ長男の亀井善太郎が優位と言われるが、民主党の元経産省課長補佐の後藤祐一もなかなか強力な玉で接戦が予想されている。どちらか1つでも自民党が落とすことになれば「選挙に強い」という安倍神話が崩れ始めるため、どちらにとっても来年参院選の前哨戦として負けられない戦いとなる。また11月19日の沖縄知事選では、野党6党が一致して糸数慶子参院議員を担ぎ、自民党の元沖縄電力会長=仲井真弘多を押している。同日の福岡市長選も、五輪誘致に失敗した自民党現職の山崎広太郎が民主党の元新聞記者=吉田宏に追い上げられていて、どこもかも危ない。この秋に1つ2つと取りこぼすと、自民党はますます参院選が苦しくなるのは必然で、福岡政行の『週刊ポスト』10月6日号の予測では「自民46議席vs民主52議席で安倍政権は10カ月の短命に終わる!」とのことである。

 タカ派色を隠したくらいでは安倍政権の安全航行には何の足しにもならない。この政権で唯一凄みのある存在は中川秀直幹事長で、彼は谷内外務事務次官と組んで、補選前日に安倍を中国・韓国に送り込んで両国との関係修復をうたいあげるという軽業的な日程を作り上げた。これが成功すれば、2つの補選は一気に自民有利に傾くことになろう。▲

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