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INSIDER No.361《MISSILES》北朝鮮ミサイル連射の狙い──ブッシュに米朝協議への決断促す?

 「まるで花火大会」(韓国政府高官)のような北朝鮮の長・中・短距離取り揃えた7発のミサイル発射について、ライス米国務長官が「意図は分からない」と言ったのはおとぼけで、狙いはハッキリしている。第1に、これだけ一遍に発射する派手なパフォーマンスで世界の耳目を引きつけ、存在感を誇示すること。第2に、テポドンII(射程3500〜6000キロ?)の発射実験を通じて米国に「このまま我々を無視し続けると本当に米本土に届く大陸間弾道弾を完成させてしまうがそれでいいのか?」と揺さぶりをかけ、またノドンA(同1300キロ)とスカッドC(同300〜500キロ)の発射訓練を通じて日本と韓国に「お前らなんかいつでも撃てるんだぞ!」と脅しをかけること。第3に、とりわけ米国に対して、昨年9月以来の金融制裁を解除して米朝2国間協議に応じるよう決断を促すこと——である。

●テポドンIIは“失敗”だった?

 今回初めて姿を現したテポドンIIは、韓国の国家情報院の発表では「発射から42秒間エンジン燃焼を続けて正常軌道を飛行し、その後発射から7分間惰性で499キロ地点まで飛行した。不完全燃焼による振動衝撃か、燃焼室の内部亀裂など、エンジンの欠陥が原因で失敗した」。また日米両政府の分析でも「(飛距離を伸ばそうという)開発目的に沿った飛び方でなく、速度や高度が推定能力より著しく低かったことから、1段目のロケットに何らかの異常が発生し失敗に終わった」と考えられている。そうだとすると、北は本当は北海道上空をかすめて北太平洋もしくはハワイ沖まで飛ばすつもりだったということになる。普通なら、最低数分あるいは6〜7分は第1段目のエンジンが燃焼し、高度200〜300キロに達したところで第2段目を分離してそのエンジンに点火してさらに飛び続けるはずだが、その分離地点に達する遙か手前で第1段目のエンジンがトラブルを起こしたということなのだろう。

 それに対して、失敗でないかもしれないという見方もあって、(1)アラスカもしくはハワイに届こうかというところまで飛ばしたのでは米国を刺激しすぎるので、最初から日本海に落とすつもりだった、(2)そのため第2段目はもちろん、第1段目も満タンの1〜2割しか燃料を入れていなかったか、あるいは燃料の調達に苦労していて、入れたくても入れられなかった、(3)第1段目の新型ブースターの点火とエンジン作動、機体制御などのデータ収集さえできれば十分と考えていた、(4)実際、1998年に日本列島上空を通過して三陸沖に達したテポドンIの場合、第1段目は発射地点から180キロの地点で海に落ちており、それに比べると今回は第1段目が500キロまで飛んでいるので、北にとってはそれなりに“成功”だったのかもしれない——などの指摘がある。

 北にとってこれは命懸けのデモンストレーションであり、燃料が調達できなかったというケースは考えにくい。米国を刺激しすぎてやぶ蛇になりたくないという政治的理由と、第1段目の新型ブースターのデータ収集をしたいという技術的理由との抱き合わせで、意図的に燃料を少な目にしたという可能性はまだ消えてはいないものの、もともと北は、このテポドンIIの発射準備を、白昼公然と、米偵察衛星に観測されやすいように、しかも燃料注入などにわざと時間をかけて、行ってきたのであり、せめてテポドンIより先まで飛ばなければお話になるまい。ミサイルやロケットの実験に失敗は付き物で、初めての発射実験が北にとって不本意な結果だったとしても、何の不思議もないが、実験の責任者はさぞかし厳しい処罰を受けていることだろう。

●“ならず者国家”の自己証明

 もちろん、中国、ロシアなど友好国の制止をも無視して敢行したこのような“ミサイル外交”が、国際社会の常識や最低限のルールも踏みにじる暴挙であり、ブッシュ米大統領が言う“ならず者国家”であることを自ら証明する愚行であることは言うまでもない。とはいえ、北朝鮮の側から見て状況がどのように映っているかについて想像力を巡らせることは必要である。

 第1に、米国の“ミサイル外交”に晒されているのは北朝鮮である。軍事アナリスト=小川和久が指摘するように、「例えば、神奈川県横須賀を母港とする米海軍の空母キティホークの機動部隊のうち7隻の巡洋艦と駆逐艦(いずれもイージス艦)は約200発のトマホーク巡航ミサイル(射程1300キロ)を標準装備し、北朝鮮全域を射程圏内に収めている。しかも、これは、米軍が北朝鮮に投入できる戦力のごく一部でしかない。……脅えているのは北朝鮮のほうだという現実」(毎日8日付)がある。米朝間の協約は53年前の休戦協定だけで、両国は国際法的には休戦中の交戦国同士の関係でしかない。その米国が(北の目から見れば)朝鮮の南半分を“占領”し、韓国内の地上の戦術核兵器はブッシュ父の時代に撤去したけれども、日本を母港とする海洋核戦力を配備していつでも北の全土を焦土化出来るだけのミサイルを突きつけられていて、しかもブッシュ現大統領は北を“ならず者”とか“悪の枢軸”とか呼んで軍事的先制攻撃をも辞さない態度を示している。その米国と軍事的に対抗し、かつ外交的に対等に振る舞うには、核とミサイルを開発し続け、最終的には米本土に届く大陸間弾道弾を保有する以外に道がないと北が思い込むのは、一面において無理からぬことである。かつて1950年代、中国の毛沢東は貧窮に喘ぐ中でも核開発に資源を集中し、それをテコにして世界からも米国からも大国として認められるようになった。それに北も学んでいるのである。

 第2に、北が望んでいるのは、米国との直接の2国間交渉を通じての相互“核軍縮”とそれを前提とした休戦協定の恒久的な和平協定への置き換え、そして米朝国交樹立である。今回のミサイル発射についての北外務省スポークスマンの談話でも「朝鮮半島の非核化を対話と協議を通じて平和的に実現しようとする我々の意思は変わらない」と述べているが、ここで言う「朝鮮半島の非核化」とは、米国が核とミサイルによる脅迫を止めれば北が核とミサイルを開発する理由はなくなる、という意味である。北が「6者協議」の枠組みを嫌うのは、それがテーマにしているのが北の核開発を諦めさせることだけであり、しかもそれを5:1の力関係で押し込もうとするものだからである。それでも北がそこから離脱しないでいるのは、「6者」と並行して米朝2国間協議が行われる機会がありうるからで、ブッシュが頑なに「2国間交渉はしない」と言っている限り6者の再開もない。約1カ月前に米国がイランの核開発問題に関して態度を軟化させ、2国間対話に応じてもよいという姿勢を打ち出したが、その翌日、北は6者協議の米国務省担当者クリストファー・ヒルズにピョンヤンを訪問するよう呼びかけた。それをホワイトハウスが拒絶したので、北はミサイル発射準備に入ったのである。

 第3に、北が核とミサイルの開発、そして今回のミサイル発射の実験・訓練を「主権国家の合法的権利」だと主張しているのは、原理的には正しい。核拡散防止条約は、既存の核大国に核廃棄の義務を負わせることなく、それ以外の国が核を持つことを禁じたあからさまな不平等条約であり、またミサイルやロケットの開発と発射を禁じた国際条約はない。日本も含めて多くの国々が軍事訓練のためのミサイルや宇宙開発のためのロケットを発射していて、それが公海上に飛翔・落下する場合は、しかし、数日前から周辺国の関係機関および航空機・船舶に繰り返し通告して安全に万全を期すのが事実上の国際ルールであり、前回のテポドンI発射も今回も、北がその当たり前のルールも守らないところにその“ならず者”性が現れている。国際社会がまず彼らに要求すべきことは、「発射するな」ではなく、「発射するなら事前に情報公開せよ」ということであるはずで、今回のような事態を受けてテレビのワイドショーが「もし日本の領土に撃ち込まれたら防げるのか」「その場合反撃するのか、出来るのか」といった調子で騒ぎ立てるのは過剰反応である。

●対応を迫られるブッシュ政権

 ブッシュは基本的に北朝鮮を忌み嫌って(detest)おり、イラクとアフガニスタンの泥沼に加えてイランの厄介を抱えて、出来れば北については放っておきたい気分であるため、その対北対応は一貫性を欠いてきた。この6年間を振り返っても、当初は無視、若干の関与、先制攻撃論のちらつかせ、体制転覆路線への傾き、一転して6者協議の促進、昨年9月北の偽ドル疑惑による金融封鎖と6者の遮断──という具合で、昨年9月以降はほとんど放置状態のままだった。

 しかし今回の事態で、何らかの対応をせざるを得なくなったのは事実で、その意味ではミサイル発射は政治的に一定の効果があったと見るべきだろう。NYタイムズのデビッド・サンガーは「ミサイル発射それ自体よりももっと重要な問題は、大統領が残り任期2年間に北朝鮮に対して何の手も打たずに、問題をさらに悪化させたまま次の政権に負の遺産として残すのかどうかだ」と書いている。またクリントン政権の国務長官としてピョンヤンを訪問するなど北との交渉に積極的だったオルブライトも「圧力に屈して北朝鮮との直接対話を行うべきではないが、北朝鮮を取り込んでいくようなより積極的な外交を行わなければならない」と言っている。このように、北朝鮮問題をブッシュの外交的失敗のリストに付け加えつつ、無策を批判する論調は米国内で広がっている。

 ワシントン・ポストは6日付社説で「先制攻撃も選択肢の1つ」と主張し、ウォール・ストリート・ジャーナルもそれに同調しているが、ホワイトハウスはとっくの昔に「純軍事的には核疑惑施設や金正日の居所のピンポイント爆撃は可能だが、それによって北が暴発した場合の災禍は予測不能」というひとまずの結論に達しており、今更、先制攻撃に打って出る可能性は極めて小さい。ライスらが言うように「あくまで外交的努力で」対応することになるが、国連安保理の決議も中国とロシアが同調しない限り難しく、結局は、日米の経済制裁で圧力を加えつつ、米朝2国間協議を並行して行う含みを持たせながら北の「6者」復帰を促すということしかないのではないか。

●金正日のプレゼント

 しかし、ブッシュは金正日に感謝すべきことがある。今回のミサイル騒動で、在日米軍再編のために日本の国費3兆円を支出する問題はほとんど抵抗なく通り、また日米共同のミサイル防衛体制の整備は繰り上げ実施されることになる。額賀福志郎防衛庁長官は6日、急遽開かれた衆院安全保障委員会の閉会中審議に出席し、2007年度から開始する予定だった地対空誘導弾パトリオットの最新型「パトリオット3(PAC3)」の配備を今年中に始めるなど、ミサイル防衛システムの構築を急ぐ意向を示した。

 PAC3は、まず米軍が近々、沖縄県嘉手納空軍基地に配備し、続いて航空自衛隊が埼玉県入間、静岡県浜松などの基地に順次広げていく。これにより、(1)米軍が青森県つがる市の航空自衛隊車力分屯基地に配備した移動式早期警戒レーダー「Xバンド・レーダー」(6月下旬に稼働開始)、航空自衛隊が08年度から国内4カ所に配備を計画している(これもたぶん繰り上げ)長距離ミサイル探知のための警戒管制レーダー「FPS-XX」、海上自衛隊の電子偵察機「EP-3」と洋上のイージス艦などによる探知、(2)イージス艦の「スタンダード・ミサイル(SM3)」による迎撃、(3)それで撃ち漏らしたものを地上の日米PAC3で迎撃、(4)それらすべてを東京都横田米軍基地の米第5空軍司令部とその隣り合わせに移転する自衛隊航空総隊司令部とによる日米合同ミサイル防衛司令部で統括する──という態勢が整う。海自のEP-3を、より能力の高いRC-135Sに置き換える案も浮上している。

 金正日にしてみれば、自らの挑発行為で日米のミサイル防衛強化を手伝ってしまうという皮肉な結果となった訳で、全体としてこの花火大会は、もし米朝交渉のきっかけが掴めればプラス、中国を含めて国際社会を怒らせたことはマイナス、日米ミサイル防衛強化もマイナスで、収支計算が合っていない。▲

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コメント (1)

毎回 高野先生のコメントは切り口が素晴らしい。

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