Calendar

2006年5月
  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

Recent Trackbacks

« 2006年4月 | メイン | 2006年6月 »

2006年5月30日

INSIDER No.356《KOREA》野党ハンナラ党の圧勝か、韓国統一地方選挙──盧武鉉の“太陽政策”に行き詰まり感

in060530.jpg

kougi060530.jpg

koushi060530.jpg

 「ジャーナリスト高野孟と最新韓国を見る旅」といういささか風変わりなツァーを引率して、2泊3日でソウルを訪れた。私が長年にわたり月1回の講座「新・世界地図の読み方」を持っている中日新聞社「栄文化センター」の40周年を記念した「特別現地講座」として企画されたもので、同講座の受講者やその家族などのほか、《ざ・こもんず》での告知を見た東京、九州、沖縄からの方々を含め約20人が参加した。

 26日朝に中部国際空港出発、昼前に仁川空港に着いて、途中「石焼きビビンバ」の昼食を摂ってソウル南郊・水原の「サムソン本社工場」を見学、夕方ホテルにチェックインして18時半から1時間余、ソウル在住のジャーナリスト=池東旭(チトンウク)さんから韓国の政治経済事情についてレクチャーを受け、20時から「骨付きカルビ」の夕食。27日は朝8時ホテル出発、38度線近くの、北朝鮮がソウル突撃作戦のために掘った「第3トンネル」と「トラ山展望台」を見学、帰路途上で「プルコギ」の昼食、ソウルに戻って青瓦台、景福宮、宋廟を観光、ホテルに戻って18時から約1時間、延世大学名誉教授で国防省顧問の李基鐸(イギテ)教授から南北関係の本質についてレクチャーを受け、その後19時半から民俗舞踊鑑賞と「宮廷料理」、さらに希望者は南大門市場散策。28日は朝8時ホテル出発、1時間半ほど南下した天安の「独立記念館」で日本の植民地支配の暴虐ぶりを示す展示を拝観、ソウルに戻って「海鮮鍋」の昼食後、シーラ免税店、仁寺洞骨董街、仁川の食品ショップでお買い物をして19時過ぎ離韓——というまことに周密なお勉強中心のツァーだった。

 参加者はもちろん、レクチャーをお願いした2人の先生や現地ガイド兼通訳の世一観光の呉淑恵さんからも、「こんな(クソ)真面目なツァーは初めて」と喜ばれたり感心されたりして、気をよくした中日新聞社や旅行実務を仕切った中日旅行会としては、今後もこのようなテーマ性を持ったツァー企画を年に1〜2度、打ち出していきたいという意向である。私としては差し当たり、次は台湾を考えている。

●ブッシュより酷い盧武鉉の支持率

 5月31日が4年に一度の統一地方選挙の投票日で、ソウル市内でも与党=ウリ党はオレンジ、野党=ハンナラ党はブルーのTシャツを着た若者たちを引き連れた候補者が遊説に走り回る姿が見受けられた。この選挙では地方自治体の首長・議員3867人が選ばれるが、焦点は7大都市(ソウル、釜山、大邱、仁川、光州、大田、蔚山)の市長と日本の県に当たる9道の知事の計16の主要首長選の行方で、衆目の一致するところ、ウリ党は16のうち1つか2つを取るのが精一杯という大惨敗に終わるだろう。

 金大中(キムテジュン)政権を支えた「新千年民主党」から盧武鉉(ノムヒョン)支持派が集団離脱して03年11月に結成したウリ党は、元々地方の基盤が弱い。新千年民主党として闘った02年の前回統一地方選でも、主要16首長選で2つを取っただけで、ハンナラ党に11を奪われた。その半年後の大統領選では、市民運動やネット世代の若者たちの支持を集めて盧大統領を誕生させ、さらに04年の総選挙でも勢いに乗って議席を一気に3倍に増やし、国会の過半数を抑えた(ウリ党142、ハンナラ党124、民主党11)。しかしウリ党が華やかだったのもそこまでで、イラクに韓国軍を派遣したことがきっかけで盧の人気は急落、05年の再選挙・補欠選挙では敗北続きで、支持率は最近はブッシュ以下の20%台で低迷している。

 人権派弁護士から国会に転じ、全斗煥政権時代の不正追及で国民的スターとなった盧だが、行政能力が乏しい上に政策面でも定見がなく、韓国民の最大関心事である国内経済格差の是正に関しても有効な対策を打ち出すことが出来ないでいる。外交面では、金大中の“太陽政策”を引き継いで北朝鮮との融和を重視する一方、米国や日本とは距離を置く姿勢を採っているが、これとても人気取りのために外交を弄ぶかのような危うさがついて回る。選挙戦入りを前にした4月下旬、ことさらに竹島問題に火を着けて強硬談話を発表したのはその典型で、“反日”を煽れば支持率が回復するという狙いからのことである。

 また、投票6日前の5月25日に38度線を超えた南北鉄道連結の試運転という歴史的なイベントを行い、さらにその鉄道を使って6月に金大中前大統領をピョンヤンに送って南北首脳会談のお膳立てをさせようという段取りを組んだのも、選挙目当ての作戦である。25日の試運転は前日になって北朝鮮が「安全保障上の理由」からキャンセルを通告してきたため中止となり、盧の思惑は外れたが、これが本当に安全保障上の理由なのか、懸案となっている海上境界線の見直し交渉のための駆け引きなのか、それとも半ば死に体化している盧政権は相手にせずとの意思表示なのか、韓国メディアも北の真意を量りかねているものの、いずれにせよウリ党にとっては新たなマイナス要因である。

 加えて、20日には、ハンナラ党の朴槿恵(パククンヘ)代表が遊説中にカッターナイフを持った男2人に襲われ、顔を60針も縫うほどの重傷を負う事件が起きた。朴は、故・朴正煕(パクチョンヒ)大統領の長女で、父も母も銃弾に倒れた後、独身を貫いて政治活動に身を捧げてきたその悲劇的運命への賞賛もあって人気が高く、04年に同党代表に就任、来年12月の大統領選の有力候補の1人とされている。この事件で彼女への同情論が一挙に高まり、それでなくとも有利に選挙戦を進めていたハンナラ党はますます優勢を固めた。最大焦点のソウル市長選では、4月初旬にはウリ党の女性候補=康錦実(カングムシル)がハンナラ党の前国会議員=呉世勲(オセフン)を僅かにリードしていたが、事件直後の調査では呉の支持率は51.8%と、康の24.9%を倍以上も上回った。

 警察当局は、男2人は酒に酔っていて特別な背景はないと発表したが、李基鐸教授は我々へのレクチャーの中で「北朝鮮がやらせたのではないか」との推測を口にした。いささか深読みし過ぎの感もあるが、もしそうだとすると、鉄道試運転のドタキャンと併せて、北の「ウリ党はもう結構。ハンナラ党を勝たせたいが、といって同党が反北政策に転じるようなことをすれば容赦しないぞ」という複雑なメッセージだったのかもしれない。

●来年大統領選の構図

 ハンナラ党では、朴と共にもう1人、李明博(イミョンパク)現ソウル市長が大統領候補である。李は、貧しい農家出身の一介のサラリーマンから現代建設の社長にまで上り詰め、さらに全人口の22%、1000万人が集中する首都の長に転じて辣腕を振るい、人気絶大。経済政策も明快で、「小さな政府」と減税で経済成長を実現し富の配分を増すことを通じて格差を縮めていくと主張する。朴も、「漢江の奇跡」と言われた経済成長を導いた父親のイメージを背景に、「地方選では政府の経済失政を集中攻撃し、政権交代の足がかりを築く」と全党を叱咤激励していて、盧政権の経済無策への失望がハンナラ党の経済成長策への期待に繋がる可能性が高い。2人は外交面では、「米日との関係重視」への回帰を主張している。

 とはいえ、ハンナラ党がこの選挙で勝ちすぎると油断が出るし、候補者の一本化が難しくなって保守陣営から乱立、かえって大統領選を失う危険も出てくる、と池東旭は指摘する。実際、4年前の地方選で圧勝したハンナラ党はその半年後の大統領選で負けて盧政権の誕生を許したという前例もあるので、決して安心は出来ない。

 ウリ党では、盧政権樹立の立役者である鄭東泳(チョンドンヨン)議長、金槿泰(キムクンテ)最高委員が大統領候補である。2人とも、朴軍事独裁政権時代に民主化闘争を闘った、日本で言う全共闘世代で、とりわけ金は投獄され拷問を受けても屈しなかったカリスマ的な闘士で、党内左派のリーダーである。ハンナラ党の候補が朴で、ウリ党が金なら、因縁の対決ということになる。しかし、この地方選でウリ党が前回並みかそれ以上の大敗に終われば、盧政権がますますレイムダック化するのは必至で、鄭と金はこのままウリ党に留まって挽回を図るのか、それとも同党左派を率いて離党し、金大中派や無党派で人気のある高建(コゴン)元首相らを巻き込んで政界再編に打って出るのか、決断を迫られるかもしれない。

 ウリ党はどちらかというと「大きい政府」論で、格差解消についても、高額所得者への課税を強化して低所得者や債務に苦しむ人々に所得再配分するという政策を採ってきた。しかし、その実が上がっていない上に、このやり方では景気が目に見えて回復することはあり得ず、そこを野党から突かれると苦しい。

 金大中訪朝が実現し、今後1年半の間に首脳会談開催など南北関係が大きく改善し、それを機に6者協議も進展して北の核問題に解決の道筋が見えてくる——ということになれば、ウリ党が盛り返すのは間違いない。しかし、北の態度から見てそうなる公算は大きいとは言えない。となると、「北に甘い顔をして金をむしり取られただけじゃないか」という野党からの批判が強まるだろう。

●どうなる?“太陽政策”の行方

李基鐸教授は金大中〜盧武鉉の“太陽政策”は結局、北に時間稼ぎをさせただけだったと指摘し、さらに次のように述べた。

▼金大中は「北は本気で核兵器を持とうとしているのでなく、そのそぶりをして米国との交渉のカードにしようとしているだけだ」という判断の下、金正日を「識見ある指導者」と賞賛し、休戦協定の和平協定への置き換えを通じて緩やかな連邦への道を切り開こうとした。

▼その主要な手段はカネで、韓国から非公式も含めれば10億ドルも注ぎ、さらに日本と北との修交を促して日本から北に賠償金を払わせ、また米国からも援助を引き出そうとした。

▼しかし、クリントン政権の頃には米当局者は「北はすでに核弾頭1個は持っていて、もう1個は組み立て中」と言っていたのに、最近では「7〜8個持っている」と言っている。北の脱冷戦化=非共産化は“太陽政策”によっては何も進まなかった。

▼ブッシュ政権の登場によって、米国の対北政策は「悪の枢軸」路線に変わり、北の様々の状況を想定して「5027作戦」から「5030作戦」まで軍事攻撃シナリオを準備しつつも、経済制裁、人権批判、心理戦などで追い詰めて“レジーム・チェンジ(体制転覆)”する方針を採り、韓国の太陽政策と真っ向から対立した。ブッシュ政権当局者は「韓国が余り強く反対するので北朝鮮を後回しにしてイラクを先にやったが、間違いだった。戦争は避けなければなるまいが、ブッシュの残り2年半の任期中に何としても北にレジーム・チェンジを起こさなければならない」と言っている。

▼米国の攻め口は最近、「悪の枢軸」から「犯罪国家」に転換した。犯罪国家とは、麻薬、偽ドル札、拉致・誘拐などのことだ。米国は徹底的に調査し、日本の公安警察とも連携して締め上げようとしている。こうした犯罪によって得たカネは“主席資金”として金正日が握り、それを彼に対する唯一の対抗勢力である軍にバラ撒くことで支配を保っている。その資金が枯渇すれば金正日の支配維持は難しくなり、レジーム・チェンジが起こる、と米国は見ている。

▼北にとって核は確かに対米交渉カードの一面があって、金日成の言う“半島の非核化”とは、「ウチも1個持っている。これを廃棄するから戦術核を持つ在韓米軍も撤退しろ」ということだった。当時、在韓米軍は1500発の戦術核を北に向けていたが、これはブッシュ父が撤去した(が、依然、海上核によって脅されていると北は感じている)。金正日も父親と同じようにしたいのだが、核開発は完全に軍が管理していて、放棄に反対している。金正日は核放棄しないと自分が米軍のステルス爆撃機によるピンポイント爆撃で殺されると思っているので「父の遺訓だ」と言って軍を抑えようとしているが巧くいかない。自分の生き残りのために軍を抑えて核放棄するか、それがダメなら自暴自棄で“革命”(韓国への侵略=武力統一)に打って出るか、金正日の決断の瞬間が近づいている……。

 池東旭はもっと端的にこう語った。「金日成は、そういう名前の抗日パルチザンの英雄の名を騙った偽物で、ただの馬賊の親分をソ連が傀儡に仕立てて送り込んだだけの人物。馬賊の仕事といえば、テロ、人さらい、ゆすり・たかり、麻薬、偽札と決まっている。そんな北に、韓国は戦争が怖い一心でカネを注いでいる。北を増長させるだけだ」と。

 韓国が戦争を嫌い、ブッシュ政権に安易な“先制攻撃”など止めてくれと言うのは当然である。米国がステルス機を送り込んで金正日を爆殺したり核施設を破壊したりすれば、米軍兵士は1人も死なないかもしれないが、北は破れかぶれで、ありったけのミサイルを南に撃ち込み、100万の軍隊を南に雪崩れ込ませるので、数十万か数百万かの韓国民が死傷する。そんなことを韓国の最高指導者としてOKできる訳がない。それは、政権がハンナラ党に代わっても同じで、行き過ぎた“太陽政策”によるカネのバラ撒きは是正されるだろうが、米国による軍事作戦容認に転換することはあり得ない。さすがのブッシュ政権もそこは理解し始めていて、だからレジーム・チェンジという訳だが、その場合も最後の決め手としての金正日爆殺のオプションは手離さないだろう。その発動の手順を1つ間違えれば戦争になる。

●日本も当事者である

 この薄氷を踏むような半島情勢から日本も自由ではあり得ない。李教授は「米日韓の共助関係は56年前の朝鮮戦争の時から始まっている」と言い、以後今日に至るまで日本は「韓国のヒンターランド(後背地域)である」と指摘した。

 それはその通りで、朝鮮戦争勃発と同時にまず沖縄はじめ在日米軍が半島に急派され、そのガラ空きになった米軍基地の警護を主目的として自衛隊の前身=保安隊が創設された。GHQの指揮下で日本の旧軍人が動員されて秘密の特殊工作部隊や掃海作戦部隊が現地に送り込まれ、また軍需物資調達のための“朝鮮特需”が起こって破滅状態だった日本経済は一気に戦前の工業水準を回復してその後の高度成長への足がかりを得た。韓国軍の将校として戦ったのが日本陸軍士官学校や満州軍官学校出身者ばかりだったことを含めて、日本がなければ韓国はこの戦争を戦うことが出来なかった。

 1960年の日米安保条約の改定で、第5条で日本有事の際の米軍来援を規定すると同時に、第6条で極東有事の際の在日基地からの米軍出撃を規定したのは、疑いもなく朝鮮戦争の再発に備えて米日韓共助を実体化したもので、その第6条は日本では「極東条項」と呼ばれているけれども韓国では「韓半島条項」と呼ばれている、と李教授は言った。そして、その朝鮮有事の際に、米軍が出ていくだけでなく日本自衛隊が後方支援に参加できる道を拓いたのが、小泉政権が作った「周辺事態法」ということになる。

 逆に北朝鮮から見れば、朝鮮戦争以来今日に至るまで、「周辺事態法」が出来てからはなおさら、日本は准敵国である。北の立場では、拉致や覚醒剤汚染や偽札バラ撒きというのも准敵国に対する戦闘形態の1つである。向こうから見ると日本がそう見えているということを思うことなく、無関係の平和な日本に何で拉致などという酷いことをするのかと言うのは、想像力の欠如である。

 ちなみに、拉致について池東旭はこう言った。「北は、生きている人は全部返した。後はいない。“真相解明”と言っても、北の秘密工作機関が何らかの記録を残しているはずがないから、まず不可能。“犯人処罰”と言っても、本当の犯人は金日成であり金正日だから、処罰出来るはずがない」

 おおむねそういうことだろう。金正日は韓国の映画俳優の拉致などは直接指示しているだろうが、日本人拉致被害者のほとんどは金日成時代の話で、いくつもある軍や党の秘密工作機関が自ら実行した拉致事件の記録を残している訳がないし、既に廃止・消滅している機関もあるだろう。逆に、今も残っている機関は、この問題を表沙汰にすることに抵抗して、偽情報を繰り出したりもするだろう。向こうの外務省の役人に政府として責任ある回答を求めたところで、日本と違ってあの国では外務省の窓口など何の力も権限もなく、党と軍が物事の決定権を握っているから、“子供の使い”にしかならない。しかも、金正日は“独裁者”には違いないが、父親の世代がまだ影響力を持っている軍は自由に操ることが出来ない。もちろん日本としては、真相解明と犯人処罰を求めて徹底的に交渉する必要があるけれども、金正日と言えどもどうしようもない部分があるであろうことは計算に入れて対処しなければならないのではないか。

 もう1つ、池東旭は大事なことを言った。「韓国は今、中国に吸い込まれつつある」と。米中露とも日本が韓国と仲良くなることを望んでおらず、とりわけ中国はそうである。韓中の貿易は往復800億ドルで韓国にとって中国は最大の貿易相手になった。韓国から中国に行っている留学生は20万人だが、日本には3万人しか行かない。日本帝国主義の韓国支配は38年で、戦後の米国支配は50年だが、中国の半島支配はそれ以前の1500年間であって、韓国が本当に怖いのは中国である。このまま日本が中国とも韓国とも首脳会談さえ開けない状態を続けていると、東アジアは大陸(中国+韓国)vs海洋(米国+日本)に分裂して、米中対立の代理戦争を日韓が戦わされることになりかねない、と。その通りで、日本は自前の東アジア戦略を確立しない限り、21世紀の生存条件を確保することが出来ない。そこを漂流させてしまった小泉政権の罪は深く、そのことの総括なしには9月自民党総裁選も意味がない。▲

2006年5月15日

INSIDER No.355《IRAN CRISIS》イラン攻撃に前のめりになる米国——戦術核兵器使用を真剣に検討

 イランに「30日以内にウラン濃縮活動を停止する」よう求めた3月末の国連安保理議長声明をイランが無視したことから、米政府高官たちのイラン非難の合唱はますます高潮しつつある。

 ライス国務長官は4月27日ブルガリアでの会見で、安保理が非難決議や経済制裁などもう一歩踏み込んだ措置をとるよう求め、さらに30日にはワシントンでの会見で、「国連安全保障理事会が迅速に行動しなければ、有志国が追加的な措置を検討することもできるし、そのつもりだ」と言明。中国やロシアの抵抗で今後の安保理協議が不調に終われば、欧州や日本など同盟国を中心とした制裁に動く可能性を示唆した。資産凍結を含む経済制裁だけでなく、対イラク型の有志連合による軍事攻撃も視野に入れた、あからさまなイランへの脅迫である。

 ブッシュ大統領も5月8日の独紙とのインタビューで、アハマディネジャド大統領をアルカイダのウサマ・ビンラディンや副官のザワヒリ、イラク国内のアルカイダ系武装組織の指導者ザルカウィと同列のテロリストの親玉であると断じ、イラン指導部が核兵器を入手すれば実際にそれを使ってイスラエルを攻撃する可能性があると警告した。

 もちろんライスは、「安保理を通じての外交交渉を最優先する」との立場を基本的に崩していないし(30日TV番組)、ブッシュ大統領も「外交努力は始まったばかりだ」と慎重態度を保っている(5月8日ドイツのTVのインタビュー)ものの、中国とロシアを含め安保理が制裁決議に踏み切る可能性はほとんどゼロであり、「始まったばかり」の外交努力は夏までに挫折し、9月の9・11事件5周年、11月米中間選挙の2カ月前というタイミングで、ブッシュ政権が強引にイランへの軍事行動に踏み切る公算が大きくなっていると見るべきである。

●いつか来た道

 《ざ・こもんず》の中村忠彦の「ワシントン・コンフィデンシャル」が4月21日付で書いているように、これは「いつか来た道」である。

 まず第1に、イラクのサダム・フセインと同様、イランのアハマディネジャドを米国を破滅させようと狙っているテロリストの悪魔的な親玉であると一方的に決めつける。

 第2に、あやふやな(結果的には虚偽の)情報を誇大に膨らませて、イラクと同様イランが、核および大量破壊兵器を極秘裏に開発・保有していると宣伝する。

 第3に、そのあやふやで実際には虚偽である場合が多い情報の端緒は、イラクの場合と同様イランの場合も、“反体制の亡命者”からもたらされた。亡命者は、米国に自分らを売り込んで活動資金を引き出し、あわよくば米国の力を借りて本国政府を打倒して凱旋したいので、あることないことを言う。

 第4に、本当にあるかないか確証のない核・大量破壊兵器の“脅威”が、繰り返し「もしあったらどうするんだ」という調子で語られているうちに、次第に証拠などどうでもよくなって、「あるに違いない」という雰囲気に、言っている方も言われている方も染め上げられて行く。そこでは、イラクもしくはイランの核・大量破壊兵器の問題が国際社会にとってまだ“疑惑”の段階(証拠がない)なのか、“懸念”の段階(明らかな兆候的証拠がある)なのか、“潜在的脅威”(実際に開発を進めていて数年中には実用化される可能性がある)にまで達しているのか、さらには早急に軍事的対処が必要な“現実的脅威”(すでに実用化して使用される可能性がある)にまで高まっているのか——という初歩的な戦略分析の区分などかき消されて、疑惑がいきなり現実的脅威と(意図的に)混同されて騒ぎ立てられる。

 第5に、その戦略論的理性の喪失状態の中で、疑惑だけでも攻撃の理由になるという「先制攻撃論」がまかり通り、国際法違反の一方的な軍事攻撃が発動される……。

 結局、ブッシュ政権はイラク戦争の惨憺たる結末がなぜもたらされたのかについて、何も理解しないまま、また同じ間違いを繰り返しつつある。しかも、イランの場合がイラクの場合と違うのは、(1)ブッシュの支持率は主要調査で20%台にまで下落し、歴代大統領の中でも最低水準に達しつつあって、9・11後の愛国的熱狂は再現しない、(2)国際社会は以前よりもなおさら武力行使を支持せず、英ブレア首相と小泉首相の右大臣・左大臣は共にレイムダック状態に近い、(3)米財政はイラク戦費の下血状態をこのままに新たにイラン戦費をひねり出すことは出来ない、(4)仮に戦費を調達しても現実に投入する軍隊がない、(5)従って、ほとんど唯一の現実的な攻撃は、戦闘機の低空突入もしくは巡航ミサイルによる疑惑施設への強力爆弾もしくは戦術核兵器投下ということになるだろうが、疑惑施設の特定さえ難しい状況では、とんでもない民間被害が出て米国は全世界的非難を浴びることになろう。

 問題を、「なぜイランには原子力平和利用の権利が制限されるべきなのか」という原点に戻すべきである。イランが言っているように、原子力平和利用は「奪うことの出来ない、締約国の固有の権利」(核不拡散条約第4条)であり、目的用途を事前申告し、査察を受け入れて開発する限り、誰もそれを制約することは出来ない。イランは現にIAEAによる査察も受け入れており、そこで疑惑が発見されたとしてもそれはあくまで査察の徹底を通じて解明すればいいだけのことで、査察は頼りにならないから軍事攻撃だというのでは無法の世界である。イラクの大量破壊兵器疑惑も国連が長年にわたり査察を行い、97%がたの確率でそれが存在しないとの結論に達していたにもかかわらず、ブッシュ政権は、国連および査察団の能力は信用ならないとして、軍事攻撃を急いだ。そうではなくて、さらに査察を強化して疑惑を徹底解明することが当時、唯一の合理的な解決策であったはずで、結果として大量破壊兵器は存在せず、ブッシュは大恥をかいた。

 同じ間違いを繰り返しながら、米帝国は自滅の道を転がって行くのである。▲

INSIDER No.354《FROM THE EDITOR》

●小沢一郎“待望”論が広がっている!

 イスタンブールからロンドン乗り継ぎで成田に戻って自宅に一泊、翌12日は読売TV『激テレ金曜日』の生放送で大阪へ。新横浜駅でリクルート社のビジネスマン向け情報誌『R21』を何気なく手に取って車内で開くと、その巻頭記事が「13年前に知識人が絶賛した1冊、小沢一郎代表のベストセラー『日本改造計画』を今こそ読んでみる」というものだったので、ちょっと驚いた。

 当時、政治家の著書としてはまったく異例なことに80万部を売ったこの本の新版を出してほしいということは、私が番組などで小沢に直接言い、また鳩山にも9月自民党総裁選前にそれを出して、さて安倍なり福田なり与謝野なりの“国家論”はどういうものなんだ、テレビ映りがいいとか悪いとかじゃなくて、この次元で論争しようじゃないか、とこちらから仕掛けて行かないとダメだ、と進言したりしてきたことなので、一般誌にこういう記事が出てくるのは我が意を得たりというところだ。

 それで新大阪で降りて1Fの大きな本屋を覗くと、何とその『日本改造計画』が平積みになっている。いやあ講談社も抜け目ないね。奥付を見ると、初版1993年5月30日、本体価格1500円のその本を06年5月8日、第23刷発行、価格はそのままで増刷している。

 14日のサンプロも、田中眞紀子久々登場で、かつてコンビというか“母と息子”のような関係だった小泉をボロクソに言う反面、今度は小沢一郎を「小泉の5年間で日本社会のバランスが悪くなって、右に寄ってしまった。それを真ん中に戻せるのは小沢さんしかいない」と持ち上げることしきり。「じゃあ田中さんは民主党に入らないと」と言う田原総一朗に、真紀子は「いやあそれはありません。私はあくまで自由な立場で」とかわす。田原がさらに「入らなくてもとにかく小沢を応援するんですね」と畳み掛けると、「いや、だってまだ応援してくれと言われている訳でもないし、うるさいから来ないでくれと言われたりして、ワッハッハ」とはぐらかしてはいたけれども、やる気は満々のようだった。

 こういう番組をやると、すぐに「小沢を持ち上げ過ぎだ」「不偏不党を逸脱している」といった批判や抗議が来るけれども、そうではないんで、小沢代表を得て民主党がようやく野党らしい野党になって選挙を通じての正々堂々の政権交代が実現することが、日本の民主主義にとって望ましいし、何より政治を面白くするという観点から「小沢頑張れ!」と挑発するのが、田原および番組のスタンスである。小沢は、暗い、言葉が少ない、分かりにくい、人が付いてこないのに対して、真紀子は、明るい、おしゃべり、分かりやすい、人を引きつける力がある。いいコンビになるのではないか。

 真紀子の舌鋒は相変わらずで、ポスト小泉の自民党候補たちについて「あんな程度の議員はいくらでもいるし、経済界とかにはもっと優れた人がたくさんいる。安倍なんて、耳学問だけで政治信念も何もなく、森永発売のヘナチョコでしょう」と一刀両断。森永のヘナチョコって分かりますよね、安倍夫人は第3代森永製菓社長森永太平の孫なんですね。これはちょっと、森永製菓の広報室から「当社のチョコにはヘナチョコという商品はない」とクレームが来るかもしれないなあ。冗談ではなくて、前に財部誠一がリポーターになって中国市場をめぐる自動車戦争を特集したときに、財部が「ワーゲンは…」と連発したら、フォルクスワーゲン・ジャパンから「当社の社名はフォルクスワーゲンであってワーゲンではない」と強硬な抗議があって、番組プロデューサーはそのお詫びに1週間も2週間も同社に呼びつけられて大変な目に遭った。私を含め出演者は勝手なことを言っているが、その陰でプロデューサーは年がら年中、信じられないようなバカバカしいクレームへの対応に飛び回っているものなのである。▲

2006年5月12日

INSIDER No.353《FROM THE EDITOR》

●ロンドンで「スルタンの象」を、イスタンブールで「ジンガロ」を観た!

 5月4〜5日に鴨川自然王国で約70人が大集合しての田植えがあり、翌日早々に成田を発ってロンドンに行き、フランスを代表する“ストリート・アート集団”=ロワイヤル・ドゥ・リュクス(Royal de luxe)のイギリス初公演「スルタンの象」を観て、それからイスタンブールに飛んで、これまたフランスが世界に誇る馬と人と音楽が織りなす“騎馬オペラ”=ジンガロ(Zingaro)の新作「バットゥータ」の初演を観て来また。どちらも、世界に類例のない強烈な個性を持ったダイナミックなパフォーマンスで、改めてフランスの持つ文化的創造力・発信力の凄さに打ちのめされる思いの5月連休だった。

 ロワイヤルは、「文化で町興し」の世界ナンバーワンの成功例と言われる(それゆえに日本の各自治体の文化担当者の巡礼地とさえなっている)仏ナント市を本拠に、巨大な機械仕掛けの操り人形を街頭に繰り出して、町民や子供らはもちろん訪れる観光客のすべてまでをも巻き込んで、町全体を舞台として駆使して幻想的な物語を縦横に展開するという壮大なパフォーマンスで知られるアート集団。30年に渡って欧州各地をはじめ世界中で公演して好評を博しているが、保守的なイギリスでは今回が初めてで、大変な騒ぎが現出した。

今回の出し物は「スルタンの象」で、今から100年ほど前、インドのスルタン(首長)が重症の不眠症に陥って、夜な夜なろくに眠れぬままに夢枕に幾度も美しい少女が現れる。治癒のためにはこの夢の世界の少女に会うしかないと思い立って、技術者に命じてタイムマシンとなる巨大な象の建造を命じ、それに乗ってタイムトラベルに出発する。そのスルタンと象とが少女に出会う場所が(今回は)ロンドンな訳で、まずそのスルタンとお妃たちや侍従たちが乗った高さ12メートル弱、全長約20メートル、自重42トンの巨大な象がトラファルガー広場に現れると、その夜、近くの路上に身長5メートルの少女が木製のロケットを地面に突き立てて姿を現す。その象と少女の絡み合うドラマが3日間に渡って繰り広げられ、象と少女は時には一緒に、時には別々に、ロンドンのピカデリー通りなど中心街や公園の中を動き回って、最後は、スルタンよりも象のほうが少女に惚れてしまって、悲しげに泣きながら鼻を振って別れを惜しむ中、少女はロケットに乗って彼方に去っていくのである。

 この震えるような凄さは口で言っても分からない。英BBCの特別サイトにはたくさんの写真、映像、解説があるので、それのほうがまだ説得的だろう。また、「スルタンの象」のHPもある。

http://www.bbc.co.uk/london/features/sultans_elephant/

http://www.thesultanselephant.com/home.php

 これを日本に持ってこようという話があって、そのために観に行ったのだが、さあ東京にせよ大阪にせよ、こんなとんでもないものを受け入れることが出来るだろうか。汚い電線と歩道橋だらけの町ででは到底無理だし、かと言ってお台場の空き地でやっても何の意味もない。さあ、どうしたもんだろうか。

 ジンガロは、パリに本拠を置く騎馬オペラ劇団で、昨年初には初の日本公演が実現した。私が実行委員会の責任者となってこの誘致と馬の検疫問題クリアのため奔走したことは本誌でも何度か報告した。その時の出し物は「ルンタ」で、チベット僧の声明(しょうみょう)をバックミュージックにしてラマ教的な生と死の夢幻世界を描いたやや哲学的・内面的なものだったが、5月5日からトルコのイスタンブールの世界演劇フェスティバルの一環として初演されている新作「バットゥータ(Battuta)」は、ジプシーの生活の様々な場面を賑やかに、かつスピーディに描く、ひたすら楽しいコミカルなもので、08年3〜5月に再びこの作品で来日公演を企画していることから、敢えて初演早々を関係者数名と共に見に行ったのだ。

 円形劇場の中央には天井から地面に向かって流れる水柱が立ち、それが照明によって色が変化するのがほとんど唯一の舞台装置。伴奏はもちろん古典的なジプシーの民俗音楽で、5人の弦楽団のメランコリックなメロディーと、反対側の高いところに陣取った10人のブラスバンドの元気のいいリズムが交錯して雰囲気を盛り上げる。ストーリーというほどのものはないのだが、「逃げた花嫁」の物語とでも言うのだろうか、それを通じて若い農夫や村の長老らしい父親や花嫁衣装の娘の曲乗りがめまぐるしいテンポで展開され、ラスト近くになるとジプシーの村の猥雑なまでに人間臭い暮らしぶりのあれこれを象徴する馬車が次々に登場してクライマックスを迎える。

 観劇後、座長のバルタバスとスタッフ数名、日本側3人でボスポラス海峡を見渡すシーフード・レストランで夜更けの会食。「今回のは分かりやすくて、子供でも無条件に楽しめるのがいい。始まって4日目にしては完成度が高いね」と言うと、彼は「まだ場面の切り替えのところがうまく行っていないところがある」と言っていた。とにかくスピード感が勝負という演出だから、切り替えのところで少しでもテンポが崩れるのが我慢ならないのだろう。

 前回の日本公演は、最初7〜8割程度の入り、1カ月ほどして中盤に入ってあちこちで話題になってほぼ満席、最後の方はプレミアムがついたり朝からキャンセル待ちの行列ができるほどになったが、2年後の今回は、その下地がある上に、作品の分かりやすさ・楽しさで大話題になることは確実だ。しかし問題は前回と同じく日本の当局の馬に対する検疫体制で、当局としてはBSEや鳥インフルエンザで世論が厳しい折、やたら検疫基準を厳格にすることに命懸けになっていて、前回同様、何頭かの馬が入れなくなる可能性がある。「食うんじゃないんだから」と言ってもお役人には通じない。さあ、この難題をどうしたものだろうか。

 CNNトルコその他トルコのメディアのHPを見ると、トルコ語は分からなくても写真が何枚かあって雰囲気は感じることが出来る。

http://www.cnnturk.com/KULTUR_SANAT/DIGER/haber_detay.asp?PID=116&haberID=177230

http://www.ntvmsnbc.com/news/371622.asp

 このあとジンガロは、8月22日〜9月14日にベルギー、そのあとルクセンブルクで公演して、10月から来年3月までパリの本拠でロングラン公演を行う。

※ベルギー公演予告 http://www.battuta.be/

 ジンガロのHPは、まだ「ルンタ」のままになっていて、新作「バットゥーバ」は反映されていない。

※ジンガロ http://www.zingaro.fr/

 パリ公演は毎回、数カ月前にチケット完売なので、パリに観に行こうという方は手配をお早めに。パリの後、欧州各地や米国などを巡回、もう一度パリに帰るのかな。そして08年春の日本公演ということになる。楽しみだ。▲

Profile

現在、INSIDERニュースレターの内容は、ご覧の《THE JOURNAL》内でブログの形で公開されております。
誰でも無料で閲覧し、またそれについて感想や意見を書き込むことが出来るようになっておりますが、従来通り、お手元に電子(Eメール)版配信もしくは印刷版郵送の形で講読を希望される方は、引き続きEメール版:年間6,300円(税込)、ペーパー(紙)版:年間12,600円(税込)をお支払いください。[法人購読の場合は年間105,000円(税込)になります]
ウェブ上で無料で閲覧できるものが、Eメール版・ペーパー(紙)版が有料なのはどういうわけだと思われるかもしれませんが、後者の場合、読者名簿管理と請求の事務、配信と郵送の手間が必要であり、とりわけ印刷版の場合は紙代、封筒代、印刷代、郵便代のほか宛名を印刷して封筒に貼り、印刷されたものを三つ折りして封入し、糊付けし、紐で束ねて郵便局に運び込むのに膨大な手間とコストがかかっていることをご理解下さい。
また、無料で閲覧できるならそちらに切り替えたいという方もおられると思いますが、残余の購読期間は引き続きEメール版もしくはペーパー(紙)版を配信させて頂き、購読料を途中返還することは致しませんのでご了解下さい。

BookMarks

TOKYO KALEIDO SCOOP
http://www.smn.co.jp/

INSIDER(インサイダー)
http://www.smn.co.jp/insider/

→ブック・こもんず←



当サイトに掲載されている写真・文章・画像の無断使用及び転載を禁じます。
Copyright (C) 2008 THE JOURNAL All Rights Reserved.