INSIDER No.347《MEDIA》ネットはテレビを殺すのか?——『NEWSWEEK』メディア特集の続編
先週の特集「ブログは新聞を殺すのか?」に続いて、今週の『NEWSWEEK』は第2弾として「ネットはテレビを殺すのか?」と題した特集を組んでいる。新聞だけでなくテレビもまたネットニュースの台頭で従来の地位に甘んじていることは出来なくなった。その状況は、日本でも基本的に変わらない。
以下、同特集の拾い読み。
▼かつて米国では、6時半になると家族全員がリビングルームのテレビの前に集まって、地上波3大テレビ(ABC、NBC、CBS)のニュース番組を観るという習慣があった[つまり、テレビ局が国民のニュースを視聴する時間と場所を支配していた]。が、70年前後には3大ネットワーク合計で35.2%あった夕方のニュースの視聴率は下がり続け、今では19%を切っている。
▼1つの要因は、80年にCNN、89年にCNBC、96年にFOXと、ニュース専門のケーブル配信局が相次いで開局し、ライフスタイルや好みに応じて視聴時間を選んでニュースに触れることが出来るようになったことである。もう1つの要因は、ヤフーやグーグルやMSNなどネットニュースが台頭して、視聴時間だけでなく視聴場所も自由に選べるようになったことである。加えて、9・11の後、ブッシュが「我々の味方になるか、さもなければ敵だ」と言われて怯えた旧メディアが[戦争翼賛報道に走り]ますます国民の信用を失い、ネットニュースを勢いづけた。
▼その先に姿を現しつつあるのは、テレビ、新聞、ラジオ、雑誌という「報道機関」の枠組みが壊れ、それら既存メディアとヤフー、グーグル、MSN(マイクロソフト・ネットワーク)などネット企業が入り乱れて、ネットユーザーの好みやライフスタイルに合った新しいニュースプログラムをいかに作り出すかのボーダレス化した戦いである。
▼その中で、テレビの場合は、広告収入に頼るというビジネスモデルそのものが揺らいでいる。1つには、ハードディスク・レコーダーの普及、とりわけCMを自動的にスキップする機種の登場で、マス広告の意義が薄れていく。もう1つには、例えば家庭用品大手のP&Gが「ホームメード・シンプル」という女性向けの情報を充実させたオンライン雑誌を出して好評を集めているように、広告主であった企業がネットで直接消費者向けのメディアを持ち、その分宣伝費を削るようになる。そもそもテレビが何百万という単位で視聴者を確保し、そのスケールによって広告枠に高い値を付けられるのは、電波を飛ばせるのはテレビ局だけという単純な事実に基づいている。ケーブルによる多チャンネル化によってその特権性は拡散し、ネットニュースの登場によってその崩壊が始まった。
▼ネット上のビデオ形式のブログ、携帯電話向けのテレビ放送など、ニュース視聴のユビキタス化はさらに進展しつつあり、そうなると個々人は持ち歩いている携帯端末でニュースを受信するだけでなく、今目の前で起きている事件を音声や映像でリアルタイムで発信するようにさえなってくる。04年に米国とカナダで始まった携帯電話向けのテレビ放送サービス「モビTV」は、月9.99ドルの利用料でABCやNBCのニュース、CNN、経済ニュース専門のCNBC、スポーツ専門のESPN、ウェザー・チャンネルなど30チャンネルのニュース番組を視聴出来るもので、加入者は50万人を突破した。電池の容量が許せば、人々はこれを「つけっぱなしにしておくテレビ」として利用し、しかも必要に応じて目の前の出来事や自分の意見をテレビ局に伝える双方向メディアとして活用するようになるだろう。
※モビTV http://www.mobitv.com/
▼もちろんテレビ局の側もこの状況への対応を模索している。ABCは04年に、ネットを通じてニュース映像を検索して必要なものだけを視聴できる有料サービス「ABCニュース・ナウ」を開始し、年39.95ドルもしくは月4.95ドルを払う加入者はすでに500万人を超えた。CNNは昨年12月に「CNNパイプライン」というネット向けの有料ライブ・チャンネルを立ち上げた。これはケーブル放送本体から全く独立して、4種類の生中継の画像のみを流すもので、年29.95ドルまたは月4.95ドルの利用料で視聴できる。余計な編集や解説は排除するのが趣旨で、ホワイトハウスの会見などもそのまま流し、タイで大規模な反政府集会があった時には通訳なしでタイ語のまま中継した。NBCはニュースとブログを連動させようとしていて、代表的なニュース番組「ナイトリー・ニュース」のキャスター=ブライアン・ウィリアムズはブログを通じて、その日の番組で報じたニュースへの感想や背景開設などを毎日書き、視聴者のコメントに対応している。またブッシュ大統領の一般教書演説の際には、それをライブで中継しながら、同時にホワイトハウス担当記者がブログで数分おきにそれを茶化したり皮肉ったりしながら解説した。
※ABCニュース・ナウ http://abcnews.go.com/Video/VideoLive/
※CNNパイプライン http://us.cnn.com/pipeline/
※NBCナイトリー・ニュース http://dailynightly.msnbc.com/
▼ネットニュースは、既存メディアから配信されたニュースにリンクを張る「アグリゲーター(集める人)」の役割に徹していて、記者や特派員はもちろんプロの編集者さえ持たないのがほとんどであり、そこに弱みがある。ところが、ヤフーは違っていて、昨年9月に初の本格的なオリジナル・コンテンツ「ケビン・サイトのイン・ザ・スポット」をスタートさせた。ケビン・サイトはNBCやCNNで活躍したジャーナリストで、彼がデジタルビデオカメラ、パソコン、最低限の通信機器をバックパックに詰めて1人でバルカン半島やアフガニスタンやその他世界中の紛争地点を歩き回り、映像と音声と文章をミックスしたブログの形式で毎日リポートし、さらにそれを巡って視聴者と、あるいは視聴者同士で、議論を展開する。専従スタッフは、彼の他はプロデューサーとリサーチャーの計3人だけ。ネットの特性を活かして、トップレベルのジャーナリズムと同じことを極めて低いコストで実現でき、しかも双方向のコミュニケーションまで1つのパッケージにした、画期的なモデルである。
※ケビン・サイトのイン・ザ・スポット http://hotzone.yahoo.com/
以上が今週の『NEWSWEEK』特集の要点である。この後に日本の動向についての記事が1本あるが、さして見るべきものもないので省略する。
ある意味で3大ネットワークは自業自得で、80年代を通じてコスト削減を理由に海外支局を閉鎖し特派員をカットして、ニュース、特に国際ニュースを軽視してきた。そこを埋めたのがCNNで、91年湾岸戦争では同局だけが最後までバグダッドに特派員を置いて一人勝ちした。ネットニュースの波が押し寄せる中で、より徹底的に現地生中継を強化しようというのがCNNパイプラインであるけれども、ヤフーがネットニュースの側から特派員を世界に派遣するというのは凄い切り返しで、ネットニュースの新しい可能性を示したと言える。実を言うと、本誌がブログ集合サイト《ざ・こもんず》を通じて目指している1つはこれで、今後、各ブログを必要なところから映像化、というか文章と音声と映像をミックスしたものにすると共に、肝心な時には各ブロガーが現地に飛んでライブでレポートをするようにしたいと考えている。それには、現在の実験運用段階ですでに月間150万ページビュー程度に達している《ざ・こもんず》がさらにその10倍ほど、つまりライブドア並みの読者を得、それに見合ったサポーター企業を獲得することが必要で、私としては来年には部分的にでもそういうことを始めたいと考えているので、皆様の応援をお願いしたい。▲
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「Yahoo!Japan」が3月16日取り上げた「Web検索ワード」中に見える、本「論評」以外の記事の中に、高野 孟(インサイダー代表取締役兼編集長)の「日米英“イラク戦争3兄弟”の躓き」と題するものがあり(http://www.t-fj.jp)、この記事の末尾に、米大統領ブッシュが、「パラノイア(偏執病)と誇大妄想の傾向がある未回復のアルコール中毒患者である」ということを、今アメリカで話題になっているという精神分析医ジャスティン・A・フランク博士の著書『診療台の上のブッシュ/大統領の心の内側』に基づいて言及している。
是非読んでみてください
投稿者: 俊介 | 2006年3月20日 20:30