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2006年3月28日

INSIDER No.349《YOKOTA》横田、嘉手納の「空」を返せ!——在日米軍再編への疑問

 昨日のサンプロでは、大詰めを迎えている普天間海兵隊航空基地の名護移転問題がテーマの1つだった。ジュゴンのいる珊瑚礁の海をブッ潰す旧来案から、キャンプ・シュワブの海岸線に密着した沿岸案になったのはまだマシとして、それでも飛行ルートが住宅地の上空を通るというので、それを10度ほど海側に傾けて住宅地を避けたらどうか、といったところで最終調整が進んでいて、それについて出演した専門家たちの議論があった。私は、交渉事としてそういうところに煮詰まっていくのはそれで仕方がないとして、そもそも、何で米海兵隊が沖縄にいなければならないのか、7000人だか8000人だかの海兵隊がグァムに移るというならなぜ全部がグァムに移らないのか、米軍も日本政府も日本の納税者が納得できるように説明責任を果たす必要がある、という趣旨のことを発言した。

 名護に限らず、座間への陸軍第1軍団司令部進駐、岩国への米艦載機移転、東京横田空軍基地の「横田ラプコン」一部返還などを含め、在日米軍再編問題が全体として解せないのは、冷戦が終わったというのになぜ在日米軍はそれまでの配置を基本的に維持しているばかりか、部分的にはそれを強化さえしようとしているのかということについて、その経費を負担させれらている国民にも、事故の危険や騒音やレイプ事件などの被害が甚だしい現地住民にも、きちんとした説明がなされていないことである。出演者の1人である石波茂=前防衛庁長官は、そんなことは当たり前だという調子で、在沖縄の米海兵隊が「抑止力」だと言ったが、誰に対するどういう抑止力なのか。

 在日米軍がいるから中国や北朝鮮が日本を攻撃しにくい? 中国や北朝鮮が何で日本を軍事攻撃するんですか。彼らは日本と友好関係を保って経済・技術協力を得た方がいいに決まっていて、日本を攻撃して占領したとして、こんな高度成熟社会をマネージ出来るわけがないし、そもそも日本を占領できるだけの渡洋戦力を持っていない。話は逆さまで、在日米軍がいるから日本が攻撃されるのである。台湾海峡や朝鮮半島が有事になって米軍が介入する、日本も「周辺事態法」というアホな法律を作ってしまったのでその後方支援に出撃する。となれば、中国や北朝鮮としては、米軍及び自衛隊の出撃基地をミサイルで攻撃するのは当然で、それ以外に中国や北朝鮮が日本を攻撃する合理的な理由はありえない。

 つまり、在日米軍がいるから日本は攻撃を受けにくいのか、在日米軍がいるから攻撃を受けやすいのか、というのは自明の事柄ではなくて、その両面を国民がどう判断して、どこまでの基地負担を受容しようかという問題なのである。

 それにしても、日本国民は日米安保下の現実をあまりにも知らないか、知っていてもそのことに鈍感である。この図を見ていただきたい。

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 これは私が東北旅行中にたまたま手にした12日付『河北新報』に載ったもので、共同通信配信であるかと思われるが、無断で搭載する。驚くべきことに、米軍は東京のみならず栃木、群馬、埼玉、神奈川、山梨、新潟、長野、静岡の一部を含む1都6県に及ぶ広大な空域を「横田ラプコン(Rader Approach Control=レーダー管制空域)」として占領し続けている。高度は、7000メートルから6100、5500、4900、4000、3700メートルまで段階になっていて、羽田や成田と西日本各地と結ぶ航空便は、往きは離陸後に急上昇してこの巨大な箱の上を飛び、復りは南に迂回して大島、房総半島上空から進入しなければならない。この急上昇や遠回りの影響を受ける羽田・成田の発着便は、最近初めて国交省が試算したところ、1日約470便に達し'09年から便数が増えると約650便が影響を受ける。

 羽田発で西に向かう便は、急上昇のため飛行時間が3分余計にかかり、羽田着の便は遠回りのため約9分余計にかかり、ソウルや北京から成田着の便も遠回りで約7分余計にかかる。仮に東京都西部から伊豆半島にかけての現在5500〜3700メートルの空域を3000メートルまで返還させただけでも、年間約80億円の燃料節減となり、09年以降では約109億円となる。また単にお金の問題だけでなく、異常接近の危険も大幅に低減する。逆に言えば、我々は世界一高い国内航空運賃と超過密空域の慢性的な事故の危険性という大きな負担を払い、さらに横田米空軍基地そのものの維持・運営費を“思いやり予算”として税金から支出して、これを支えているのだが、それによってどういう“安全保障”を得ているのか。もちろん基地の機能は単体で評価することは出来ないが、横田は主として第374空輸航空団が運用する極東最大の軍事輸送のハブ空港であり、平時でも年間2万便の輸送機が離発着する。このようなものを独立国の首都に置いて広大な空域を外国軍に占有させておくことが合理的なのかどうかは、正面切って議論されなければならない。

 これまでも日本政府は、最初は全部が7000メートルだった横田ラプコンを、南側については少しずつ返還を求め、その結果、上述のように3700メートルまでの階段状になってきた経緯がある。日米安全保障協議委員会が昨年10月にまとめた在日米軍再編に関する中間報告では「横田空域における民間機の航行を円滑化するための措置を探求する」「米軍の管制空域の削減や横田基地への日本の管制官の併置を検討する」などとしており、さらに3月末をめどにまとめる最終報告では、もう一歩踏み込んで同空域の「航空管制業務の全面返還実現に向けて協議する」との内容を盛り込む方針である。しかし他方では、府中の航空自衛隊司令部をここに統合し、MD配備を含む日米共同作戦センターを設置するという計画があって、むしろ横田は、一部の空域を民間開放する替わりに日米両軍の統合の拠点として基地機能が強化されようとしている。

 米軍が航空管制するラプコンは、沖縄、岩国の上空にも存在する。沖縄の嘉手納ラプコンは沖縄本島をほぼスッポリ覆う巨大なもので、そのため那覇に離発着する民間機は米軍の誘導を受けて海面すれすれの低空で飛ばなければならない。が、嘉手納ラプコンは2007年に返還されることが決まっている。しかし横田についてはまだで、日本は首都圏の空を外国に売り渡してそれを主権侵害だと思わない世界唯一の呑気な国であり続けることになる。▲

2006年3月27日

INSIDER No.348《MEDIA》Web2.0とは何か——梅田望夫『ウェブ進化論』を読む

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 前々号と前号でネットが新聞やテレビを殺すのか?という『NEWS WEEK』特集を取り上げたが、シリコンバレー在住のITコンサルタント=梅田望夫の近著『ウェブ進化論』(ちくま新書、06年2月刊)を読むと、ネット世界はさらに先へと進んでいて、戦いの最前線はすでにWeb1.0の次元に留まるのか、それともWeb2.0の次元に踏み込むのか、というところに移りつつある。

●Web2.0の本質

 昨年半ばからWeb1.0時代からWeb2.0時代への進化ということが盛んに言われるようになったが、その定義は様々である。梅田はこう定義する。

 「ネット上の不特定多数の人々(や企業)を、受動的なサービス享受者ではなく能動的な表現者と認めて積極的に巻き込んでいくための技術やサービス開発姿勢」がその本質だ、と。不特定多数の中には、サービスのユーザーもいれば、サービスを開発する開発者も含まれるが、その誰もが自由に、別に誰かの許可を得なくとも、あるサービスの発展や、引いてはウェブ世界全体の発展に参加できる構造。逆に個々の表現者の立場から言えば、1人ひとりの表現行為が他者の表現行為と自由に結びつけられることで、共同作業による創造行為の可能性が拓かれる。そういうことを実現するための技術やサービスの総体がWeb2.0である。

 先頭を切っているのはグーグルである。グーグルは昨年6月、従来からの地図検索サービス「グーグル・マップス」のAPI(アプリケーション・プログラム・インターフェイス)を無料公開し、同時に全世界の精密な衛星写真を見ることが出来る「グーグル・アース」という新しいサービスを開始した。APIとは、開発者向けのプログラム開発用ツールで、これを使えば世界中の誰もがグーグル・マップスのシステムをそのまま利用して、地図上にマークや吹き出し窓を配置して様々な情報を埋め込んだ新しいサービスを作り上げ、それを自分のウェブで公開することが出来る。

 実際、例えばHousing Mapsというサイトは、グーグル・マップスの上に案内広告の巨大サイト「クレイグリスト」の中の不動産情報を重ね合わせて、全米主要都市別に売買・賃貸・貸室・又貸しの分類で物件を探すことが出来るようにしているが、これはどうもポールという人が個人で開設しているものらしい。
http://www.housingmaps.com/

 あるいは、Chikago Crimeというサイトは、グーグル・マップスのシカゴ市街図に、警察がウェブで公開している市内の犯罪についてのデータベースの情報を重ねて、ストリート毎にどんな犯罪が起きたかを検索できるようにしている。これもジャーナリストでデータベース作りの経験もあるA・ホロヴァティという人が勝手に作って無料公開している。
http://www.chicagocrime.org/

 日本でも、(株)はてなが「はてなマップ」というサービスを始めた。これは地図上にたくさんの人たちが自分の関心ある事柄についての写真や文章を自由に貼り付けることが出来るもので、例えば「フットボール」というキーワードで地図を呼び出すと全国のJリーグ各チームの本拠地のスタジアムがマークされていて、そのうち1つをクリックするとそこの情報やアクセスを参照することが出来る。グーグル・マップスを1つの情報共有空間として、そこに不特定多数の人々が参画することで、情報の項目も件数も無限に増殖していくわけで、このようなものをグーグル自身が閉鎖的に抱え込んで自分らで開発した情報だけを順次アップしていく場合に比べて、何万倍か何億倍か、いや無限大の広がりの中でグーグル・マップスが活用されることになるのである。

earth060329.jpg

 グーグル・アースは、世界のどんな場所でも家の1軒1軒まで識別できる衛星写真、起伏に富んだ地形の立体画像、さらに大都市の場合は建物の意味を示す情報まで含む詳しい3次元画像まで提供する。私が家を建設中の鴨川の山林あたりは、詳細画像の対象地域ではないが、それでも森の中の林道や畦道の1本1本まで「あっ、あの小径も見える!」と思わず声をあげてしまうほどである。これに一番ショックを受けたのは金正日かもしれない。グーグル・アースは、ソフトウェアを無料でダウンロードし(Mac用もあり)、それを開いてブロードバンドでアクセスすれば無料でいくらでも楽しめる。
http://earth.google.com/

●知の世界の再編成

 グーグルがやろうとしていることは、普通我々がイメージしている「検索エンジン」という域を遙かに超えている。彼らの言葉を引けば「世界中の情報をオーガナイズし、それをあまねく誰もがアクセス出来るようにすること」「すべての言語のすべての言葉の組み合わせに対して、それらに最も適した情報を対応させること」である。そのために、同社の30万台ものコンピューターが日々刻々と更新されていく世界中のウェブサイトの情報を自動的に取り込み、ウェブ相互間に張り巡らされるリンクの関係を自動的に分析・評価するシステムが四六時中働いている。彼らはこれを「ウェブ上の民主主義」と呼ぶ。ユーザーの要求に対して「最も適した情報」を対応させるのは、学界の権威や情報分析のプロではなく、人間でさえもなくて、その情報を世界中のウェブサイトがどう評価しているかについての自動解析なのである。自動化された知の世界の再編成……。これがグーグルの凄さの核心である。

 アマゾンも2.0世代の企業である。アマゾンのウェブ・サービス(開発者向けにプログラム用のデータを公開するサービス)を活用すれば、外部の開発者はアマゾンが扱うすべての商品のデータにアクセスすることが出来、それを自由に選んだり組み合わせたりして独自の新しいサービスを生み出すことが出来る。米国ヤフーeベイなども同様に開放的であることによって無限の拡張性を追求しようとしている。

 それに対して、ヤフー・ジャパン楽天は(そしてライブドアも)、梅田に言わせれば、日本の中で誰よりも上手にWeb1.0ビジネスを成功させたものの、その後はネット事業を2.0へと進化させようとはせずに、日本の中でエスタブリッシュメント化していく方向を採った。今のやり方は、孤島の魅力を高めてより多くのユーザーと広告スポンサーを惹きつけようとしているだけで、その島の上や周辺に誰もが勝手に橋を架けたり港を建設したり出来るようにする自由を保証していない。だから、楽天やライブドアがテレビ局やプロ野球など既存エンターテインメントのコンテンツを獲得しようとしたのは、ネット世界の進化とは関係のない、むしろリクルート、ピア、マツキヨ、ツタヤなど「生活密着型のサービス産業」における起業家精神の系譜の中に位置づけられることだと、彼は言う。

 さて、Web0.0世代とも言うべき新聞・テレビなど既存メディアにとっては、グーグルの目指す知の世界の再編成は恐らく理解不能だろう。世界中のウェブから関連する情報を拾い集めて並べたところで、そんなものはミソもクソも一緒の玉石混交で、何の役にも立たないと考えるに違いない。確かに、誰もが表現者であり発信者であるウェブ世界では、玉石混交問題は解決しなければならない大きなテーマではあるけれども、それを権威やブランドを持つ既存メディアのプロフェッショナルだけが振り分けられると考えるのは時代錯誤なのかもしれない。既に米国のブログ世界では、プロのジャーナリストが繰り出した情報より、不特定多数の中からレベルの高い参加者が自発的に集まって議論した結果として得られる情報のほうが質が高い場合があることが立証されている。逆に、『朝日新聞』の一連の誤報や記事捏造問題が示しているように、既存の有名メディアに所属するジャーナリストがプロフェッショナルであるとは限らず、むしろアマチュア以下のレベルだったりもする。ネットの意義は「不特定多数無限大の人々のつながりを持つためのコストがほぼゼロになった」ことであり、単なる不特定多数ではなくそれが無限大に繋がっていって、そこに玉石混交問題を解決する技術的手段の進化が加われば、ごく少数の専門家の経験や知恵を超えた「群衆の叡智」が働き始めるのかもしれない。そこでは、専門家やプロフェッショナルが無用になるのでなく、彼らがまずその群衆の叡智の可能性を理解した上で、自分らもまたその群衆の一員として知の集積と創造に参加しつつ、しかし、何らかの知的イニシアティブを発揮するという具合に立ち位置を再設定すべきなのだろう。

 梅田の著書は今ウェブの世界で何が起きているのかについて、実に多くの示唆を与えてくれる。ここで覗いたのは、8つの章のうちほとんど「第2章 グーグル」の部分だけである。ご一読をお勧めする。▲

2006年3月18日

INSIDER No.347《MEDIA》ネットはテレビを殺すのか?——『NEWSWEEK』メディア特集の続編

 先週の特集「ブログは新聞を殺すのか?」に続いて、今週の『NEWSWEEK』は第2弾として「ネットはテレビを殺すのか?」と題した特集を組んでいる。新聞だけでなくテレビもまたネットニュースの台頭で従来の地位に甘んじていることは出来なくなった。その状況は、日本でも基本的に変わらない。

 以下、同特集の拾い読み。

▼かつて米国では、6時半になると家族全員がリビングルームのテレビの前に集まって、地上波3大テレビ(ABC、NBC、CBS)のニュース番組を観るという習慣があった[つまり、テレビ局が国民のニュースを視聴する時間と場所を支配していた]。が、70年前後には3大ネットワーク合計で35.2%あった夕方のニュースの視聴率は下がり続け、今では19%を切っている。

▼1つの要因は、80年にCNN、89年にCNBC、96年にFOXと、ニュース専門のケーブル配信局が相次いで開局し、ライフスタイルや好みに応じて視聴時間を選んでニュースに触れることが出来るようになったことである。もう1つの要因は、ヤフーやグーグルやMSNなどネットニュースが台頭して、視聴時間だけでなく視聴場所も自由に選べるようになったことである。加えて、9・11の後、ブッシュが「我々の味方になるか、さもなければ敵だ」と言われて怯えた旧メディアが[戦争翼賛報道に走り]ますます国民の信用を失い、ネットニュースを勢いづけた。

▼その先に姿を現しつつあるのは、テレビ、新聞、ラジオ、雑誌という「報道機関」の枠組みが壊れ、それら既存メディアとヤフー、グーグル、MSN(マイクロソフト・ネットワーク)などネット企業が入り乱れて、ネットユーザーの好みやライフスタイルに合った新しいニュースプログラムをいかに作り出すかのボーダレス化した戦いである。

▼その中で、テレビの場合は、広告収入に頼るというビジネスモデルそのものが揺らいでいる。1つには、ハードディスク・レコーダーの普及、とりわけCMを自動的にスキップする機種の登場で、マス広告の意義が薄れていく。もう1つには、例えば家庭用品大手のP&Gが「ホームメード・シンプル」という女性向けの情報を充実させたオンライン雑誌を出して好評を集めているように、広告主であった企業がネットで直接消費者向けのメディアを持ち、その分宣伝費を削るようになる。そもそもテレビが何百万という単位で視聴者を確保し、そのスケールによって広告枠に高い値を付けられるのは、電波を飛ばせるのはテレビ局だけという単純な事実に基づいている。ケーブルによる多チャンネル化によってその特権性は拡散し、ネットニュースの登場によってその崩壊が始まった。

▼ネット上のビデオ形式のブログ、携帯電話向けのテレビ放送など、ニュース視聴のユビキタス化はさらに進展しつつあり、そうなると個々人は持ち歩いている携帯端末でニュースを受信するだけでなく、今目の前で起きている事件を音声や映像でリアルタイムで発信するようにさえなってくる。04年に米国とカナダで始まった携帯電話向けのテレビ放送サービス「モビTV」は、月9.99ドルの利用料でABCやNBCのニュース、CNN、経済ニュース専門のCNBC、スポーツ専門のESPN、ウェザー・チャンネルなど30チャンネルのニュース番組を視聴出来るもので、加入者は50万人を突破した。電池の容量が許せば、人々はこれを「つけっぱなしにしておくテレビ」として利用し、しかも必要に応じて目の前の出来事や自分の意見をテレビ局に伝える双方向メディアとして活用するようになるだろう。

※モビTV http://www.mobitv.com/

▼もちろんテレビ局の側もこの状況への対応を模索している。ABCは04年に、ネットを通じてニュース映像を検索して必要なものだけを視聴できる有料サービス「ABCニュース・ナウ」を開始し、年39.95ドルもしくは月4.95ドルを払う加入者はすでに500万人を超えた。CNNは昨年12月に「CNNパイプライン」というネット向けの有料ライブ・チャンネルを立ち上げた。これはケーブル放送本体から全く独立して、4種類の生中継の画像のみを流すもので、年29.95ドルまたは月4.95ドルの利用料で視聴できる。余計な編集や解説は排除するのが趣旨で、ホワイトハウスの会見などもそのまま流し、タイで大規模な反政府集会があった時には通訳なしでタイ語のまま中継した。NBCはニュースとブログを連動させようとしていて、代表的なニュース番組「ナイトリー・ニュース」のキャスター=ブライアン・ウィリアムズはブログを通じて、その日の番組で報じたニュースへの感想や背景開設などを毎日書き、視聴者のコメントに対応している。またブッシュ大統領の一般教書演説の際には、それをライブで中継しながら、同時にホワイトハウス担当記者がブログで数分おきにそれを茶化したり皮肉ったりしながら解説した。

※ABCニュース・ナウ http://abcnews.go.com/Video/VideoLive/
※CNNパイプライン http://us.cnn.com/pipeline/
※NBCナイトリー・ニュース http://dailynightly.msnbc.com/

▼ネットニュースは、既存メディアから配信されたニュースにリンクを張る「アグリゲーター(集める人)」の役割に徹していて、記者や特派員はもちろんプロの編集者さえ持たないのがほとんどであり、そこに弱みがある。ところが、ヤフーは違っていて、昨年9月に初の本格的なオリジナル・コンテンツ「ケビン・サイトのイン・ザ・スポット」をスタートさせた。ケビン・サイトはNBCやCNNで活躍したジャーナリストで、彼がデジタルビデオカメラ、パソコン、最低限の通信機器をバックパックに詰めて1人でバルカン半島やアフガニスタンやその他世界中の紛争地点を歩き回り、映像と音声と文章をミックスしたブログの形式で毎日リポートし、さらにそれを巡って視聴者と、あるいは視聴者同士で、議論を展開する。専従スタッフは、彼の他はプロデューサーとリサーチャーの計3人だけ。ネットの特性を活かして、トップレベルのジャーナリズムと同じことを極めて低いコストで実現でき、しかも双方向のコミュニケーションまで1つのパッケージにした、画期的なモデルである。

※ケビン・サイトのイン・ザ・スポット http://hotzone.yahoo.com/

 以上が今週の『NEWSWEEK』特集の要点である。この後に日本の動向についての記事が1本あるが、さして見るべきものもないので省略する。

 ある意味で3大ネットワークは自業自得で、80年代を通じてコスト削減を理由に海外支局を閉鎖し特派員をカットして、ニュース、特に国際ニュースを軽視してきた。そこを埋めたのがCNNで、91年湾岸戦争では同局だけが最後までバグダッドに特派員を置いて一人勝ちした。ネットニュースの波が押し寄せる中で、より徹底的に現地生中継を強化しようというのがCNNパイプラインであるけれども、ヤフーがネットニュースの側から特派員を世界に派遣するというのは凄い切り返しで、ネットニュースの新しい可能性を示したと言える。実を言うと、本誌がブログ集合サイト《ざ・こもんず》を通じて目指している1つはこれで、今後、各ブログを必要なところから映像化、というか文章と音声と映像をミックスしたものにすると共に、肝心な時には各ブロガーが現地に飛んでライブでレポートをするようにしたいと考えている。それには、現在の実験運用段階ですでに月間150万ページビュー程度に達している《ざ・こもんず》がさらにその10倍ほど、つまりライブドア並みの読者を得、それに見合ったサポーター企業を獲得することが必要で、私としては来年には部分的にでもそういうことを始めたいと考えているので、皆様の応援をお願いしたい。▲

2006年3月13日

INSIDER No.346《MEDIA》ブログは新聞を殺すのか?——『NEWSWEEK』の特集が面白い!

 『NEWSWEEK』先週号のカバーストリー「ブログは新聞を殺すのか?」は、18ページを費やした総力特集で、米国における新聞とインターネット・ニュースとの相克の最新動向を描いていて面白い。

 このタイトルはややセンセーショナルで、ブログは新聞を殺さないし、その必要もない。ただし、新聞がブログを含むネット・ニュースのパワーを正しく認識することなく既存の権威と権益に安住していると頓死してしまうかもしれないのであって、その意味では、「新聞はネットに真剣に対応することなしに生き残れるのか?」というのが正確な設問だと言える。

 これは、ホリエモンがニッポン放送=フジテレビ株の買収に乗り出したときに、「テレビを殺す」と言って大いに顰蹙を買ったことを思い起こさせる。当時、本誌も書いたように、別にホリエモンが殺さなくても、テレビは今のままでは放って置いても自ら死んでいくのである。ホリエモンはもう少し丁寧に、「放送と通信の融合という問題を、あなたがた既存のテレビ界の方々が、今のような中央キー局のテレビ支配が今後とも永続するかの前提に立って、最近インターネットとかいう便利なものが出てきたらしいので、それをテレビ・ショッピングくらいなら使ってやってもいいかな、くらいにしか認識していないのはとんでもない間違いで、そんな程度の認識で旧体制にあぐらをかいて安逸をむさぼっていると、ネット企業がテレビ局を買収することになりますよ。つまり、放送が通信を融合するのでなく、通信が放送を融合する時代が来ているんですよ」と言えばよかったのだ。

 新聞も同様で、米国でも日本でも多くの新聞がそうであるように、当日・前日分の記事の要約をウェブに載せるという程度で新聞が通信を融合したつもりになっていると、ヤフー・ニュースを筆頭とする大手ネット・ニュース、ブログによるプロのジャーナリストやアマの個々人の自由闊達な発信、プロとアマが協働する“市民記者”参加型のニュース・サイト、草の根市民のコミュニティ通信——といった通信側での新しいメディア形態の大展開に到底太刀打ち出来ず、ある日突然、自分が頓死したのに気付くといったことになりかねない。

 以下、『NEWSWEEK』記事の要点を私流に拾い読み(正確な要約ではない)。

▼米国の日刊紙の発行部数は、85年に6277万部であったのに対し、それ以降は部数減少が止まらず、04年には5463万部にまで落ちた。紙数も75年の1756紙が04年には1457紙に減った。大手でも、多少とも部数を伸ばしているのはUSAトゥデー、WSジャーナルだけで、NYタイムズ、ワシントン・ポスト、LAタイムズなどは横ばいないし下降気味で、各社とも社内のリストラを繰り返している。

▼その最大の原因は、時間と空間の制約なしにニュースを発信するネットニュースの人気が高まり、新聞購読者数を遙かに上回るビジター数を持つようになったことである。米国の新聞は大手といえども基本的にローカル新聞であって、発行部数は最大で70万部程度、家族その他で回し読みしたとしてその2〜3倍である。それに対してヤフー・ニュースの“ユニーク・ビジター数”(同一人物の複数回利用を1人と数える利用者数)は3000万人近くもある。マイクロソフトNBCニュース、AOLニュースなども2000万〜2600万人程度のユーザー数を持つ。もちろん新聞社やテレビ局のウェブを利用する人もいるが、そのユニーク・ビジター数は500万〜800万人程度の辺りに固まっており、それと紙版の読者を合わせてもネット・ニュースにはかなわない(しかも多くは新聞購読者とウェブ利用者は重なっている)。例外はNYタイムズで、NYタイムズ・デジタルのユニーク・ビジター数は05年3月に800万程度から突然、3000万に跳ね上がり、現在は3500万でだんとつトップになった。これはNYタイムズが人気のニュースネットである「アバウト・ドットコム」を買収したためである。

※ヤフーニュース http://news.yahoo.com/
※マイクロソフト・ネットワーク http://www.msn.com/
※アメリカ・オンライン http://www.aol.com/
※グーグルニュース http://news.google.com/

▼新聞のメリットの1つは、家や車の売買、求人・求職、イベント告知などの案内広告だが、この分野でもネット上の案内広告専門サイト「クレイグズリスト」の隆盛が凄まじく、国内123都市、海外35カ国80都市で地域別・ジャンル別に月間800万件以上の新規案内広告を掲載して月間30億ビュー(同一人物が複数回利用すれば複数回で数える)に達している。この影響で、新聞への企業の広告費はまだ増勢にあるが、案内広告費は2000年以降急減している。

※クレイグズリスト http://craigslistfoundation.org/

▼さらに、ブログやSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)による大小無数の発信が広がり、その中には新聞やテレビなど旧体制の大手メディアの報道をこてんぱんに批判して人気キャスターを降板に追い込んだりするケースもしばしば現れて、ネット側の上げ潮と旧メディアの老化のコントラストを印象づけた。組織としての新聞など報道機関と個人のブログが単独で対抗することなど出来るはずがないが、ブロガーがネット上で数十万、数百万と連携した場合にはそのようなことが可能になる。ブログは、受信と発信が混然となった完全な双方向性が最大の特徴で、無限の対話と情報交換を通じて真実に辿り着いていくことが可能な、下からの民主主義の担い手である。新聞やテレビもウェブを開いて読者・視聴者の意見を受け付けたりもするけれども、それは従来の投書欄や視聴者参加番組とたいして変わらない擬似的双方向性であって、本質的には上からの一方向性のメディアである。そこをどう超えていくことが出来るのかが新聞に問われていると言える。

▼ネットニュースブログは、しかし、今のところ対抗的メディアであって、新聞が消滅してしまっては成り立たない。大手ネットニュースが採っている手法は「アグリゲーター(収集者)」で、たくさんの新聞、雑誌はじめウェブサイトにある情報を掻き集めて要領よく参照できるようにしたもので、端的な話、自分でバグダッドに支局を開設することが出来るわけではない。ブログにしても、新聞やテレビの報道を批判することは出来ても、自身が組織だった報道機関に成り代わることは出来ない。しかし(記事の末尾のこの問いかけは面白い)、もし何百人ものブロガーに資金を提供する企業や投資家が現れたら? そうなったら話は別だ。ブログと新聞の違いはなくなるだろう……。

 日本の新聞は米国ほど減退していない。スポーツ紙も含めた日刊紙の部数は90年代後半以降、5700万部台で、スポーツ紙を抜いた一般紙で4700万部台で、微増微減を繰り返している。が、例えば『朝日新聞』を見ると、01年830万部、02年826万部、03年824万部、04年825万部と、じりじりと後退している感じで、それは『読売新聞』でも同様で、『毎日新聞』ではもっと深刻である。1世帯当たりの部数を見ると、90年代半ばには1.2前後あったのが一貫して減り続けて04年には1.06、このままでは1.0を切る日も近いだろう。

 日本でも、特に若い世代を中心に、新聞を購読はおろかたまにスタンドで買うことさえもなく、専らネットでニュースをチェックする人が確実に増えている。日本のネットニュースは米国に比べ未成熟ではあるが、例えばグーグル・ジャパンのニュースは、その謳い文句に寄れば「610以上のサイトから最新ニュースを収集・検索」するもので、画面構成もなかなか洗練されていて、使い勝手がいい。ヤフー・ニュースは新聞各紙頼りでやや平凡だが、ライブドア・ニュースは市民記者スタイルを採り入れたり、海外のユニークなサイトと連携したり、それなりの工夫が見られる。また竹内謙が主宰する「JANJAN」のような市民参加型の独立ネット新聞も現れた。手前味噌ながら、本誌が立ち上げた本邦初のプロが発信するブログ集合体《ざ・こもんず》も話題を呼びつつある。 

※グーグル・ニュース http://news.google.co.jp/
※ヤフー・ニュース http://headlines.yahoo.co.jp/
※ライブドア・ニュース http://news.livedoor.com/
※日本インターネット新聞 http://www.janjan.jp/
※《ざ・こもんず》 http://www.the-journal.jp/contents/

 それに対して、「アサヒ・ドットコム」はじめ新聞側のウェブは、当日を中心に最新記事のごく短い要約を見せるだけで、「詳しくは新聞紙面で」という誘い水程度で、ほとんど意味がない。米国における通信と新聞の相克はそのまま日本の明日を暗示していると言える。▲

2006年3月12日

INSIDER No.345《IRAQ》泥沼の内戦状態に近づくイラク——ブッシュは打つ手なし

 本誌にとっては予想通りのことではあるが、イラク国内情勢は、昨秋の新憲法制定とそれに基づく総選挙実施にもかかわらず、宗教的・部族的抗争はますます激化し、今や周辺国をも巻き込んだ全面的な内戦状態に転がり込む寸前に達している。米国にとって状況は、ベトナム戦争末期の“泥沼化”よりさらに複雑かつ深刻で、ブッシュ政権の「出来るだけ早くイラク人の政府を作って秋の中間選挙前までに米軍を撤退させる」というシナリオはすでに破綻しているというのに、他に打つ手は思い浮かばない有様である。

●スンニ派取り込みに失敗

 事態を悪化させた最大の原因は、“イラク人の政府”づくりのプロセスにスンニ派を取り込むことに失敗したことである。

 実を言えば、スンニ派の“処遇”は占領当初から最大の問題で、それはイラクがオスマントルコ以前からフセイン政権に至るまで一貫してスンニ派が支配する国柄だったからである。イラン系のシーア派が南部で次第に勢力を伸ばしてスンニ派が少数派となった後でも、その国柄は変わることがなかった。少数派のスンニ派が多数派のシーア派を支配し、加えて北部には独立を志向するクルド族がいて、しかも社会構造としては何千年という歴史の中で培われた部族長の割拠支配がある国で、それを一応の“国民国家”として統治しようとすれば、フセインのような(スンニ派系の出身ではあるが)世俗的な(ということは狭い宗派的対立から相対的に自由な)独裁者が富と権力を一元的に握って上から押さえつける以外に方法がなかったわけで、本誌が何度も書いているように、フセインは別に個人の趣味で独裁をやっていたわけではない。

 ところが単純思考の米英は、その権力を軍事力によって物理的に破壊してしまい、アラブ諸国の中では相対的に(サウジアラビアと比べれば遙かに)マシな民主的要素を持っていた(例えば女性の社会的地位、教育水準の高さなど)イラク社会が、内側から民主主義を押し広げることを通じて自ら独裁を克服していく道筋を乱暴に遮断した。それで、米国流の青臭い“民主主義”を外から注入すれば数ヶ月で事が片づくなどと考えたのが間違いの始まりだった。スンニ派の合意を取り付けることなしに“民主的”な選挙を実施すれば、シーア派が勝つのは分かり切っていて、その選挙結果を基に政権づくりを進めればイラクはシーア派の国への国柄を転換することになり、米国が忌み嫌うイランとの連携に走るかもしれない。

 もちろん、ワシントンでも国務省〜CIAのラインはそのことを認識していて、占領と同時にスンニ派宗教者や有力部族長との対話を重視する方向を採用し、同派とシーア派およびクルド族との“和解”こそがイラク人政府の形成のカギであると考えていた。しかし、ホワイトハウス=ネオコン派〜ペンタゴンのラインは、スンニ派を“フセイン政権の残党”としか見ておらず、シーア派およびクルド族を主体としたイラク“国軍”と警察を急いで作り上げて治安維持(ということは実質的にスンニ派武装勢力およびそれと結んだアルカイーダの外国人テロリスト退治)を担わせようとした。これではスンニ派が、米国がシーア派とクルド族を手先として自分たちを抹殺しようとしていると受け取るのもやむを得ない。

 米軍事学者のスティーブン・ビドルが『フォーリン・アフェアズ』最近号の論文「バグダッドを見てサイゴンを考える」で要旨次のように述べているのは正しい。

▼ベトナム戦争で米国が相手にしたのは、毛沢東流の人民戦争であり、彼らは抑圧された大衆の側に立って、外国勢力に支援されたごく少数の支配階級の政権を打倒するという民族的・階級的利害を標榜した。この場合には“ベトナム化”によって治安責任を現地政府に委ね、また戦闘が鎮まらない内にも早々に選挙を実施させて政権の正統性を確立しようとしたことは正しかった。

▼しかしイラクで起きているのは、部族間対立の中でお互いに恐怖心に駆り立てられていることによる内乱であり、そこでは、スンニ派は復権を望み、またかつてのスンニ派支配に対するシーア派やクルド族の報復を恐れている。他方、シーア派とクルド族は確かに報復を求め、同時にスンニ派が復活すれば大量虐殺の憂き目に遭うのではないかと恐れている。この場合は早急な“イラク化”は混乱を招くだけである。

▼スンニ派はイラク“国軍”と警察を、「シーア派とクルド族の民兵が巨大化したもの」にすぎないと受け止めている。彼らは、占領者のエージェントである“国軍”に保護を求めるつもりなどない。だから、“国軍”が増強され、訓練が進み、装備が充実すればするほど、スンニ派との緊張は激しくなり、さらには、各派間で権力を分け合うことを憲法的に保障する取り決めで妥協する(それこそが部族間抗争の唯一の長期的な解決となるはずだが)チャンスを潰すことになる。

▼米国が今更スンニ派を“国軍”に参加させて各派混成部隊を作ろうとしても、それは隊内の反目から機能しないだろうし、かといって、スンニ派だけの部隊を作ることは全く何の解決にもならない……。

 こうして、スンニ派の扱いを間違えた米占領政策は、今のやり方をいつまで続けてもまともなイラク人の政府を作ることが出来ず、従ってそれを中途半端なままで放置して米軍を撤退させることも出来ない。

 ビドルが推奨する最善の道は、米国がシーア派とクルド族を中心とするイラク軍警の増強を直ちに中止して、スンニ派を含めた部族間協和の仲介役に徹することであるけれども、実際の米政策はそれと正反対のほうに向かっている。

●外国勢力も介入強化

 今年に入ってからの内戦激化は、以上のような米国の誤りの連鎖を背景として起きたものである。

 事態悪化の序曲となったのは、1月29日にバグダッドとキルクークでキリスト教の教会7カ所に対する同時テロ攻撃である。6カ所は自動車爆弾、1カ所は仕掛爆弾で、キリスト教徒多数と通行人のイスラム教徒若干に被害が及んだ。誰も犯行声明を出さなかったので、真相は不明だが、7カ所への同時爆弾テロの仕掛けは相当時間をかけた周到な準備が必要なことは明らかで、アル・ザルカウィ指揮下のアル・カイーダ組織によるものと推測されている。最近彼らは、イラク国内のシーア派とキリスト教徒を同列に置いて排撃するキャンペーンを繰り広げてきた。

 アル・カイーダは、およそ1カ月後の2月22日には、イラク中部のシーア派の聖地アスカリ廟を爆破して、抗争激化への引き金を引いた。同廟は、ムハマンドの直系子孫であるイマームの遺体が安置されているところで、それはスンニ派にとっても聖地であり、スンニ派民兵がそこを破壊するはずがないため、外国勢力の仕業と推測された。シーア派民兵は直ちに全面的な報復に出、以後1週間にスンニ派のモスク37カ所を破壊したほか86カ所を攻撃し、1300人のスンニ派の聖職者や住民を殺した。

 言うまでもなく、フセイン治下のイラクにはアル・カイーダの組織など存在しなかった。米英が政権を破壊して無政府状態を作り出したために、プロのテロリストあるいはコマンドがヨルダンから入り込んで、スンニ派の中の過激派を組織して、当初は「アル・カイーダ・メソポタミア」と称していたが、最近では「2大河川の国のアル・カイーダ」と名乗っているらしい。一般のスンニ派住民のほとんどは、1日も早く平安な生活が戻ることを願っているし、また部族間・宗派間対立が深刻だとは言っても、ある統計ではイラクの夫婦650万組のうち200万組がスンニ派とシーア派の組み合わせだし、またそれらのどちらかとクルド族の取り合わせも少なくなく、殺し合いを望んでいない。しかし、スンニ派には米国の後ろ盾を得たシーア派主体の軍警による“民族浄化”的な大虐殺が迫っているのではないかという慢性的な恐怖感があり、そこに過激派やアル・カイーダの扇動が効果を持つ余地がある。アル・カイーダは、イラクの地を米帝国との戦闘の主戦場にしようと思っていて、そのためにはスンニ派のシーア派やクルド族への憎しみを煽って内戦状態を作り出したくて仕方がない。そのため、キリスト教徒やシーア派への大がかりな攻撃を挑発的に行っているのである。

 もっとも、田中宇が「国際ニュース解説」3月3日付で書いているように、ザルカウィもアル・カイーダの国内組織も実態は不明で、実在するのかどうかも疑わしく、実は米占領軍の中の「スンニ派殲滅」路線を採る強硬派がイラク人武装勢力を雇って破壊活動を行い、それを「ザルカウィの仕業」と宣伝しているにすぎないという見方もある。

 他方、シーア派の母国イランでは、イラクに行って殉教者になろうというキャンペーンが展開されており、ウェブサイトを通じて志願者を募っている。「シャヒード祈念世界イスラム組織本部」と称するそのサイトにはすでに5万4000人が志願登録したと言われており、彼らの目的は何かと言えば、イラクのスンニ派の攻撃からイラク国内の聖地を防衛することであり、また傲慢なる欧米異教徒、腐敗したイラク占領軍、シオニストと対決することである。すでに真っ先に登録した数千人の青年「殉教志願兵」がイラクで自爆作戦に従事するためイラン政府の出動許可を待っている。これは、イラン政府および宗教保守派がイラク内戦に本格的に介入する組織的な準備に着手したことを示す兆候と受け取られている。▲

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