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INSIDER No.339《POST KOIZUMI》見えてきたポスト小泉の構図——流れは“安倍政権”へ

 昨日の「サンデー・プロジェクト」での安倍晋三官房長官は、9月総裁選出馬について「しっかりと(官房長官として)実績を積んで、それを評価して貰いたい」と、あくまで慎重な口ぶりながらもポスト小泉への意欲を滲ませた。小泉純一郎首相は4日の年頭会見で総裁選について問われて、こう述べた。
 
 「今まで、国民の大きな人気や支持よりも、国会議員の中でのバランスに配慮して指導者を選ぶべきだという声もありましたけれども、これは両方が大事な時代になったのではないでしょうか。片方だけでいいというわけではありません。その辺はよく考えて、自民党の国会議員も、また党員も、国民も、この自民党の総裁選に関心を持ってくれるのではないか」
(会見全文は首相官邸ホームページ内=http://www.kantei.go.jp/jp/koizumispeech/2006/01/04press.html

 「国民の大きな人気や支持」を得られない者は後継者に成り得ないと言っているに等しいわけで、さらに翌5日に武部勤幹事長に対して、総裁選について「ルールに従って進めないといけないが、国民が実感として総裁選に参加しているというものにするため、党内で知恵を出してほしい」と指示したことと併せて考えれば、小泉が少なくとも現時点では、中身はともかくワイドショー的に圧倒的に人気がある安倍こそ後継者にふさわしいと考えていることは確かである。

●竹中、中川が安倍を支える

 竹中平蔵総務大臣はかねて「レコード大賞を目指さない歌手がいてもいいでしょう」という言い方で自身の総裁選出馬を否定してきた。昨日のサンプロでもそれを繰り返し、さらにポスト小泉の条件として、(1)小さな政府を実現する人、(2)官僚の言いなりにならない人、(3)国民から支持される人の3つを挙げたが、この(2)は谷垣禎一財務大臣ではダメだという意味であり、(3)は安倍がいいという意味である。竹中は、安倍政権を実現して自分は財務大臣あたりを引き受けて事実上のNo.2に収まり、“小泉改革”の継承・発展を図る役柄に徹することで腹を固め、恐らく小泉とも「それが改革を断絶させない最良の道だ」ということを確認し合っているのだろう。

 「竹中首相」説については、9日付『日本経済新聞』で同社コラムニスト=田勢康弘が「まさか」とは思うが「このところ何代か、3カ月前に有力視された人物が首相になった例はない」のだから「寸前暗黒なのだ」と書いていて、確かに8カ月先までに何が起きるか分からないというのは本当だけれども、竹中としては、宰相の脇にピッタリとくっついて“改革”を立案し実現していくことに、もう病みつきになるほどの快感を感じているに違いない。

 中川秀直政調会長も8日、広島県での講演で、小泉後継候補について「小泉改革路線をしっかり踏襲し強化する人を選ばなければならない。『官僚内閣制』や大きな政府に戻ったのでは日本の将来はない。官僚の言いなりにならない人がいい」と、竹中と同じようなことを言っており、自分は幹事長になって竹中とコンビを組んで安倍を支えていく覚悟である。森喜郎前首相は昨年早々と「安倍温存」論を打ち上げたが、その意図は、ポスト小泉には福田康夫元官房長官を据えて対中国・韓国の関係修復に全力を挙げ、その後を安倍に引き継がせて森派の天下を続けようというところにある。そのため、党側の鍵を握る実権派の中川に「福田支持」を訴えたが、中川は「申し訳ないが私は安倍で行く」とキッパリと断ったと言われている。

 今後、竹中・中川は、公務員削減と省庁再編見直し、それとも絡んだ通信・放送融合とNHK改革、消費税アップを睨んだ財政再建と年金改革などの諸課題の議論を通じて、何かと言えば安倍に花を持たせ「官僚の言いなりにならない改革者=安倍」を演出していくことになるだろう。

●対抗は谷垣=与謝野?

 こうして、現時点では安倍の本命がほぼ確定した。対抗は旧宮沢派のプリンス=谷垣で、彼はサンプロで「財政再建が次の政権の最大課題となる」と語り、6月までとされている「歳入歳出一体改革」案の策定に取り組む自分が次に相応しいことを間接的にアピールした。そしてサンプロ後、その足で成田に向かい1週間の訪米に旅立った。言うまでもなく、ワシントンに向かってポスト小泉最有力候補としての存在感を示すのが狙いで、9日にはニューヨークのジャパン・ソサエティーで講演を行うほか、アナン国連事務総長、ニューヨーク証券取引所のセインCEO、スノー財務長官、グリーンスパンFRB議長らと相次いで会談、さらにチェイニー副大統領やラムズフェルド国防長官とも会えるよう調整しているという。

 意欲満々というところだが、肝心の財政再建とその一環としての消費財アップ議論では財務省官僚に引きずられすぎていると批判を浴びている。批判者の筆頭は竹中で、彼はこの日のサンプロでも、「日本はデフレをまだ脱却できていないため、実質成長率は高いが名目成長率が低い。次は名目成長率をOECD平均の4〜5%まで高く出来る人に任せるべきだ。名目が高くなれば税収が上がり、消費税アップも10%程度で済む」との持論を展開し、名目成長率がそうは上がらないという前提で消費税を12〜15%程度まで上げることを目論む財務省の考え方を否定した。

 これに対し谷垣や彼に同調する与謝野馨経済財政相は、名目成長率が上がれば長期金利も上昇し、800兆円近い政府長期債務の利払い費も増大するというマイナス面を重視し、竹中シナリオは楽観的すぎると反論している。日銀による量的緩和策の解除問題とも関わるこの問題は、ポスト小泉への政局とも絡んで厳しい議論になっていくだろう。そこで竹中が財務省路線に勝てば、安倍本命がますます確定する。

●対中国・韓国関係はどうするのか

 しかし、“安倍政権”は短命に終わる可能性が大きい。国内改革では竹中に支えられて一定の成果を挙げ得たとしても、安倍では対中国・韓国との関係修復はまず不可能だからである。中川は修復派で、だからこそ森は福田とコンビでその課題に当たるよう説得したのだったが、彼は断った。ということは、安倍になっても、例えば自分が外相になるなどして近隣外交を取り仕切ることで打開が可能と踏んでいるのかどうか、真意は分からない。

 安倍自身は、この点で小泉路線に忠実なつもりかもしれないが、昨日のサンプロで田原総一朗も指摘したように、小泉は過去の戦争について「間違った戦争だった」と認め、A級戦犯に関しても彼らが戦犯であることに疑問の余地はないと明言した。それに対して安倍は、過去の戦争については「評価は歴史家に任せるべきこと」と見解を示さず、また戦犯についても(中国などの)「誤解に基づく部分もある」として戦犯と認めることを避けた。これでは、中川がどうしようと今よりさらに関係が悪化するのは必然で、日本外交が立ち行かなくなる危険さえある。実際、安倍のホームページの「対中国外交政策」のフォーラムには「反日国家=中国と断交せよ」とか「中国、韓国、北朝鮮の食品を輸入禁止にしろ」とかいったどうにもならない野蛮な発言で溢れかえっていて、この人の本当の支持層がどういう人々かが如実に示されている。

 来年の参院選は、(1)元々6年前の参院選が小泉・田中真紀子コンビで勝ち過ぎだったことに加えて、(2)昨年総選挙で与党を勝たせ過ぎてしまったという有権者の“反省”ムードがあり、(3)消費税アップが(料率はともかく)事実上決まっている中での選挙となることから、与党には極めて厳しい選挙となる。そこにさらに(4)アジア近隣外交の行き詰まりへの懸念が広がることになれば、参院選惨敗、安倍政権は発足10カ月にして早くも倒壊ということにもなりかねない。と言って安倍が今更ハト派に変身する訳にもいかず、その時に修復派の福田や山崎拓、それに加藤紘一らが組んで谷垣をも巻き込んで流れを作れば、強力な対抗軸となるかもしれない。

 こうして総裁選は、内政では財政再建路線、外交では対中国・韓国関係をめぐる対立が基本的な座標軸を形成することになろう。民主党は、前原誠司代表が「中国は現実的な脅威だ」などとタワゴトを口にする失態を演じて、外交面でオルタナティブを提起する役目を放棄したため、この路線論争の埒外に追いやられることになろう。▲

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