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INSIDER No.337-2《FROM THE EDITOR》あけましておめでとうございます・その2

 さて、私的には、今年も昨年と同様、日本を代表する世界的な指揮者=岩城宏之さんの「ベートーベン全交響曲連続演奏会」のコンサート会場で新年を迎えました。東京・池袋の芸術劇場で、12月31日午後3時半に開演、交響曲第1番が鳴り始めて、途中何度もの小休憩と夕食のための大休憩を挟みながら、第9番が始まったのが丁度1日0時。休憩ごとにワインや焼酎をしたたか飲んで、夢うつつの中で第九を聴きながらの迎春は至福でした。

 このベートーベンの1番から9番までを一夜で連続演奏するという珍しい企画は、作曲家=三枝成彰さんのプロデュースで2003年末に(たぶん世界で初めて)実現しました。その時は、数人の指揮者が交代で振ったのですが、その1人だった岩城さんが後に、「どうせやるなら全部1人で振りたい」と言い出して、そうは言っても岩城さんは1932年生まれで70歳を超えていて、しかも癌だ何だで26回だか手術を繰り返してきた満身創痍。「大丈夫なのか」という周辺や関係者の心配を他所に、「去年は出来なかっただろう。来年は出来ないかもしれない。一度だけやらせてくれ」と言い張って、04年12月31日、上野の文化会館で1人で一晩に1番から9番までを振り抜くという快挙を成し遂げられたのでした。私と家内は、知人を介して岩城さん・木村かおりさん(ピアニスト)ご夫妻とはお付き合いがあり、時折食事をご一緒させて頂いたりしているのですが、舞台上で倒れたりしないだろうかともう心配で心配で、演奏内容よりもそちらのほうに神経が行ってしまうという風でした。

 ところがその後、昨年夏にお目にかかった時に、「今年末ももう一度やることにした。というか、いっそのこと死ぬまで毎年やり続けようと思って」とおっしゃられて、「えっ?そんな無茶はされない方がいいのでは…」と思う反面、一個のアーティストが、何歳になっても、体にどんな不安があっても、そのことに命を懸けようとする激しい意欲に気圧されて、この方の尽きせぬチャレンジ精神にはどこまでも付き合ってみたいという思いに駆られたのでした。実際、今回の演奏は前回にも増して素晴らしいもので、私には特に、ベートーベンが自分のスタイルを確立した3番、円熟の域に達した7番、8番が好ましく感じられました。岩城さん自身は、どれか1つを選べと言われれば8番が好きだと言っておられました。

 オーケストラは、岩城さんがまずコンサートマスターに篠崎史紀さん(NHK交響楽団コンサートマスター)を指名、三枝さんと3人で相談しながら11カ月かかって編成した「イワキオーケストラ」。N響はじめ各楽団の首席奏者クラスがずらりと並んだ豪華な顔ぶれで、今日本で聴ける最高のオーケストラと言えるかもしれません。第9のソリストはソプラノ=釜洞祐子、アルト=坂本栄、テノール=佐野成宏、バリトン=福島明也のみなさん、合唱は晋友会合唱団で、これまた考え得るベストな取り合わせ。そうした第一級の出演者が、マエストロ岩城の快挙を全力を尽くして支えようと気持ちを1つにしているのですから、迫力のある音になって聴衆に襲いかかってくるのは当然なのでした。

 私は今年、まだ還暦2歳。岩城精神に見習って人生第2ラウンドに挑戦し続けなければならないという覚悟を新たにしつつ、胸膨らむ思いで会場を後にしました。岩城さん、ありがとうございました。

 なお、04年末のこの演奏会の模様は、エイベックスから5枚組CD『岩城宏之ベートーヴェンの1番から9番までを一晩で振るマラソン』として発売されています(AVCL-25060〜4、6900円)。岩城さんはエッセイストとしても著名でたくさんの本を出していますが、比較的新しいものをいくつか挙げれば……、
『岩城音楽教室 美を味わえる子どもに育てる』(光文社・知恵の森文庫、05年8月刊、600円)
『オーケストラの職人たち』(文春文庫、05年2月刊、550円)
『音の影』(文藝春秋、04年8月刊、1680円)
『森のうた 山本直純との芸大青春記』(講談社文庫、03年6月刊、600円)など。 ▲

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