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2005年11月30日

INSIDER No.329《ざ・こもんず》のサイトを立ち上げました!

 かねてお知らせしてきたように、日本初のブログによるジャーナリズムの一大発信拠点となるはずの《ざ・こもんず》は、11月初めから実験に着手、試行錯誤しながらシステムの構築を進めてきましたが、このほどようやく「インサイダー」はじめいくつかのメニューで部分的に運用を開始し、すでに一般の無料講読会員の登録を受け付けています。皆さんも、下記の手順で登録し、まずは覗いて見て下さい。

 「インサイダー」の内容は、今後、《ざ・こもんず》内の「高野孟の『インサイダー』」で無料で読むことが出来るばかりでなく、読者のみなさんがブログのコメントやトラックバックの機能を使って意見を述べたりリンクを張ったり、「インサイダー」そのものを双方向的な情報交換の場として活用することが出来ます。もちろん、「インサイダー」だけでなく、メニューの他のブログやこれから来春に向けて順次登場するであろう映像系のコンテンツも、同様にお楽しみ頂くことが出来ます。

 これまで有料でメルマガ版もしくは印刷版でご購読頂いてきた読者の皆さんには、現在の購読期間が終了するまではメルマガもしくは印刷版をお届けし、購読料を途中返還することは致しませんのでご了解ください。また、《ざ・こもんず》へ見に行けば無料で読めるにもかかわらず、引き続きメルマガもしくは印刷版での講読を希望される方は、これまで通り購読期間を1年ごとに更新して購読料をお支払いください。

●「インサイダー」の10年サイクルの最後の局面!

 「インサイダー」は1975年11月、故・山川暁夫氏が主宰する日本初の本格的な硬派ニュースレターとしてスタートし、80年2月からは高野が編集長を引き継ぐとともに(株)インサイダーを設立して代表となり、爾来今日まで、最初から数えれば30年、私の代になってからでも25年、現代史の同時進行ないし近未来先行のドキュメンタリーを書き綴ってきました。最初はだいぶ気張って、壁紙のような特殊なA2判の紙に2色刷りして4つ折りにした凝ったデザイン、すぐにお金が続かなくなって、A4判のクリーム色の市販紙に簡便印刷機で自前印刷して肩をホッチキスで留めた安価なスタイルに転換、高野の代になってまた最初の壁紙に戻ってA4判8ページ単色刷り、2001年からはメルマガを主な形にして不定期刊行に移行し、どうしても紙でという読者のために従来通りA4判ホッチキス留めの簡易印刷版も発行——といろいろ変遷があったものの、それらの合本を平積みすると腰の高さにも達するほどになります。我ながら、よく書いたものだと思い、そして私の40年近いジャーナリスト人生で“代表作”と呼べるものがあるとすればこの合本の山がそうなんだろうとしみじみと思う今日この頃です。

 「インサイダー」がニュースレターという形態を採ったのは、金も組織もないフリーのジャーナリストが集まって自前の発信メディアを持とうとすれば、それしか方法がなかったからでした。とはいえ、その形態では広がりには自ずと限界があり、思い切って部数を増やそうとすればそれなりの営業態勢を採らなければならないが、そのゆとりはない、という中で、赤字にはならないが儲かりはせずの状態がダラダラと続き、他方、数千人の読者の名簿を管理して毎月更新の請求書を発行して振り込んで貰うための事務量はバカにならず、正直なところ「もう面倒だ、止めよう」と思ったことも何度もありました。しかし、情報の創造者であるジャーナリストが自前の発信メディアをいかにして持つことが出来るかは、私の生涯のテーマの1つであり、そのような観点から、1980年代半ばには、日本初のパソコン通信だったアスキーネット上の配信を試みたり、英語版の刊行に挑戦したりし(いずれも挫折)、さらに90年代半ばには、これまた日本初のインターネット上の日英両語の硬派週刊誌「東京万華鏡」を立ち上げるなど、色々模索を続け、そして2001年からはメルマガという一層コストのかからない発信形態に移行するといった経緯を辿ってきたのでした。それでも、赤字ではないが儲かりもせずの状態は変わらない。他方、「東京万華鏡」のほうも、パートナーだった故・島桂次=元NHK会長の死後はスローダウンして形が残っているだけの有様。私も還暦が過ぎて、これからの10年間、どうしようかなと惑っている時に2つの大きな示唆に出会いました。

 1つは、今年6月に市民記者3万人が参加するニュースサイトとして世界的に注目を集めている「OhMyNews」の呉ヨンホ社長が韓国語版、英語版に続く日本語版創設のリサーチのため来日し、インターネット文化の先駆的伝道師で「東京万華鏡」創設時の技術担当だった伊藤穣一さんの紹介で3人で会うことがあり、呉さんからはインターネットを活用した市民派総合ニュースサイトの可能性について、また伊藤さんからはブログという新しい発信形態の可能性について、多くのヒントを得ることが出来たことです。もう1つは、7月末に福岡での講演で同地の若手経済人のリーダー格である妹尾八郎=高光産業社長と出会い、彼が開発した中小企業のホームページ活性化のためのビジネスモデル特許の説明を受けて、我々の持つコンテンツ能力とこのビジネスモデルを結合すれば、日本どころか世界にもまだ存在しない全く新しいインターネット・メディアが出来るかもしれないという煌めきを得たことです。それから《ざ・こもんず》の企画が生まれるのに1カ月もかかりませんでした。そして11月から実験を始め、今こうしてサイトの一般公開に踏み切ることが出来たわけです。

 《ざ・こもんず》宣言を読んで頂くとお分かりかと思いますが、これを通じて、情報の創造者である我々は、発送や集金の事務の煩わしさから解放されてコンテンツの制作と発信に専念することが出来、しかもこれまでの発行形態の限界を遙かに突破して何十万、何百万もの読者と結びつくことが出来ます。主に地方の中小企業であるサポーター企業は、《ざ・こもんず》をサポートしそのコンテンツをあたかも自分のものであるかのように抱えることで自社のホームページを活性化し、顧客との結びつきを格段に拡大し強化することが出来ます。そして読者は、「インサイダー」はじめ当代一流のジャーナリストや書き手のブログや映像発信をすべて無料で楽しむことが出来るのです。

 ブログの書き手あるいは映像の作り手である《ざ・こもんず》の入会権者は、「インサイダー」の30年の歴史の中で様々な形で協力関係を結んできたプロフェッショナルの方々です。今メニューに並んでいるのはまだその一部で、どういう形で参画できるか検討中の方、これから声をかけて加わっていただきたい方もたくさんいるので、いずれここには50〜100ものそれぞれに独立したブログが立ち並ぶ、飛んでもない巨大発信源に発展していくと確信します。サーバーの能力整備の問題があるので映像系のコンテンツは来春までに可能なものから順次スタートして行きますが、これはこれでまた無限とも言える拡張可能性を秘めていて、将来はこのサイト自体が1つの自立したテレビ局でもあるというふうになるのでしょう。そうなったら、次には英語やアジア諸国語での発信も考えなければならないのかもしれません。私はこのようにして《ざ・こもんず》を育て上げることをジャーナリストとしての最後の10年間の仕事とするのだと思います。

 面白いことに、入会権者の皆さんの《ざ・こもんず》の趣旨への理解は驚くほど速く、それは皆さんがそれぞれなりに追求してきた自立メディアの模索の中で私と同じような思いを抱いていたことの反映でしょう。例えば、朝鮮半島問題の第一人者である辺真一さんは、「インサイダー」より少し後にやはり月2回刊のニュースレター「コリア・レポート」を創刊し、事務所も一緒だったり隣だったりして兄弟のような関係にあったのですが、やはり印刷版のニュースレターの限界を感じ、それでも息子さんが成長してウェブの運営を担当してくれるようになって「もう少し頑張ってみようかな」と思いつつ迷っていたところで、私が電話で《ざ・こもんず》の構想を1分間も説明しないうちに「分かりました。『コリア・レポート』を無料化して、一緒にやります」というお返事でした。メニューの「辺真一の『コリア・レポート』」は、今日くらいからアクティブになって始まっているはずです。

 このように、《ざ・こもんず》には私ばかりでなく、たくさんのジャーナリストや書き手の“思い”が結集していくことになるでしょう。読者、そしてサポーター企業の皆さんもそのあたりをご理解いただいて、この新しいメディアの誕生に加担してくださるよう心から訴えるものです。

●まずは講読会員登録をして下さい!

 本誌読者の皆さんは次の手順で講読会員登録をして下さい。

(1)まずは「東京万華鏡」:
http://www.smn.co.jp/
にアクセスして、
《ざ・こもんず》:
http://www.the-journal.jp/
をクリックして、サンプルページをご覧下さい。

(2)それはサンプルページなので、「インサイダー」はじめ記事の中身はまだ読むことが出来ません。左上の「《ざ・こもんず》とは?」をまだ読んでいない方は、そこをクリックして、このプロジェクトの趣旨をよくご理解下さい。

(3)次に、その下の「講読会員登録(無料)」をクリックして、その最下段にある企業&HP名から(どれでもいいのですが、例えば)「東京万華鏡」を選んで(将来は、ここに数百〜千のサポーター企業名が並びます)、そこで「>>新規会員登録<<」を選んで、必要事項を記入して、IDとパスワードを取得してください。

(4)取得したら「東京万華鏡」の画面の入力欄で、IDとパスワードを記入して、ログインのボタンを押してください。

(5)すると「e-otegami.net」の「xxxx様のマイデスクトップです」という画面が出てきます。ここでは、上記のxxxx@e-otegami.netというメールアドレスを使ってフリーメールを利用したり、色々なことが出来ますが、それは後回しにして、とりあえず「ざ・こもんずはこちらから!」をクリックしてください。

(6)これでようやく《ざ・こもんず》のアクティブな画面に到達します。

(7)メニューがたくさん並んでいますが、今日現在、アクティブなのは「高野孟のインサイダー」「金平茂紀の業務外日誌」「マッド・アマノのTHE PARODY TIMES」をはじめ5〜6つです。後は準備が出来次第、順次オープンします。

(8)読者の皆さんは、最初に登録してIDとパスワードを取得したHP(皆さんの場合は「東京万華鏡」)を経由してしかログインすることが出来ません。2回目以降は、上記の(4)〜(6)の手順でログインしてください。

(9)今までのところで巧く行かないことがあれば、の管理者=森川:morikawa@smn.co.jpに問い合わせて下さい。

「e-otegami.net」は、高光産業を中心とする「NCにっぽんドットコム」のサービスです。NCにっぽんドットコムは全国350社の中小企業が加盟し80万人の顧客登録を持つネットワークです。高光産業とインサイダーの共同プロジェクトである《ざ・こもんず》は、少なくとも当初、読者登録のシステムとしてNCにっぽんの「e-otegami.net」を利用させて貰うことになっており、一旦そこへ入らないとアクセス出来ないという仕組みはやや煩雑ですが、これも実験段階の1つのプロセスとしてご了解ください。

 では皆さん、《ざ・こもんず》の世界へどうぞ!▲

2005年11月24日

INSIDER No.328《FROM THE EDITOR》

●巨大企業はサイコパス(人格障害)集団なのか?

 カナダのブリティッシュ・コロンビア大学法学教授=ジョエル・ベイカンの著書『私たちの社会は“企業”に支配されている』(早川書房、04年11月刊)を原作に、同じくカナダの2人の社会派映画監督が制作したドキュメンタリー映画『ザ・コーポレーション』が、12月10日からのロードショー公開を前にあちこちで話題になっている。

 映画では、巨大多国籍企業による反社会的暴力とそれに対する闘いの事例が7つ採り上げられ、米国の超過激派=マイケル・ムーア監督やノーム・チョムスキーMIT教授らの証言も交えながら、コーポラティズムに覆われた我々の社会のあり方を根源から問いかける。事例の1つは、米国最大のテレビ・ネットワークであるフォックス・テレビで遺伝子組み換えの牛の成長ホルモン剤の弊害を告発しようとした2人の記者が解雇され、内部告発者保護法に基づいてフォックス社と争った事件。米国で唯一、認可された牛の成長促進のための遺伝子組み換えホルモン剤が、米モンサント社のrGBH(商品名=ポジラック)で、93年に販売を開始、今では全米の乳牛の25%以上にこれが投与されている。

 確かに、これを飲ませると牛の代謝作用が高まって搾乳量が増えるものの、一方で乳腺炎に罹るリスクも高くなって膿汁が牛乳に混入する。それを抑えるには抗生物質を大量に飲ませなければならず、その影響でこの牛乳を飲んだ人に乳癌や大腸癌が発生しやすくなるという問題が明らかになった。そこでフォックスの調査報道記者であるジェーン・エイカーとスティーブ・ウィルソンはこの問題を取材して番組を制作したが、放送直前にモンサント社から「これを放送すればフォックス社は重大な影響を被るだろう」との圧力がかかり、会社側は広告収入が断たれることを恐れて、2人の記者に番組内容をねじ曲げるよう命令した。それに従わなかった2人は結局、解雇され、その後、内部告発者保護法に基づいて会社を相手取って訴訟を起こした。2人は一旦は勝訴するが、フォックス社が上告して判決を覆した。

 映画は、こうした事例に共通する現代企業社会の病を「サイコパス」すなわち人格障害と診断する。企業を1人の人格として精神分析すると、極端に自己中心的、慢性的な嘘つきで罪悪感がない、冷淡で他人への共感や思いやりがない、人間関係を維持できない、社会規範や法に従えない、自分の行動に責任を負えない……等々、まさに反社会性人格障害そのものだと言うのである。

 監督の1人であるジェファニー・アボットはインタビューに答えてこう語る(リンククラブ・ニュースレター12月号)。

 「利益追求を至上命題とする企業では、公共の利益を守る姿勢は保ちにくい……。ところが過去30年間のネオリベラリズムによって、さまざまな規制緩和や民営化が行われ、企業の活動範囲は広がっています。政治活動においても、ロビー活動を行い、企業が政府をコントロールする状態が起こっているのです」

 単に「大企業は悪である」と決めつけて非難するだけでは解決にならない。企業の経営者の中にも、環境問題はじめ社会との関わりを重視して自制的な経営に切り替えようとする者が増えているのは確かだが、それはまだ個人的な良心のレベルに留まっている。内部告発は有力な是正手段ではあるけれども、フォックスの2人の記者の体験が示すように、常に決め手になるとは限らない。大企業や多国籍企業が余りにも大きな実質的権力を握って人々の生活と生命を操作するようになった時代に、この化け物を社会はどうコントロールすべきなのだろうか。

 それにしても、企業の人格障害として挙げられている特性は、平気で残虐犯罪を引き起こす昨今の青少年にそのまま当てはまる。現代社会を覆う企業社会の人格障害が、遺伝子組み換え食品をはじめさまざまな商品を通じて知らぬ間に青少年の体と心を蝕んで、人格障害を蔓延させているのだとすると……恐ろしいことである。

 この映画の上映は12月10日より東京・渋谷のUPLINK XおよびFACTORYで。
日程および作品解説は下記で。

http://www.uplink.co.jp/corporation/

2005年11月16日

INSIDER No.327《BUSH》内外で行き詰まるブッシュ政権——“自殺行為的な国家運営”?

 米ブッシュ政権は内外共に行き詰まり、大統領の任期3年余りを残してすでに半ば“死に体”と言っていい惨状をさらけ出している。

 ズビグニュー・ブレジンスキー元大統領補佐官は10月13日付『インタナショナル・ヘラルド・トリビューン』に寄せた論説に「ブッシュの自殺行為的な国家運営」というタイトルを付けた。彼は、論攷の冒頭で歴史家アーノルド・トインビーの名著『歴史の研究』の「帝国崩壊の究極の原因は、自殺行為的な国家運営(suicidal statecraft)にある」という一節を引き、9・11以後の米国の政策を見ていると、ブッシュ大統領の歴史上の位置づけにとって悲しむべきことに、いやそれ以上に、米国の将来にとって不吉極まりないことに、このトインビーの気の利いた科白が当てはまるような気がしてならない、と述べている。民主党系外交マフィアのドンが、やんわりとした表現ではあるけれども、ブッシュの出鱈目が米帝国崩壊の始まりになるかもしれないという懸念を公然と口にするとは、尋常なことではない。

●イラク侵攻の失敗

 この行き詰まりの根源は、言うまでもなく、イラク政策の無惨な失敗にある。米国の侵略と占領の結果としてのイラクの今の現実が、同国内はじめロンドンからアンマン、バリ島に至る世界各地でのテロの激化、イラク新憲法制定の過程にスンニ派を包括することに失敗したことによる政治的再建の見通し困難と国家分裂=内戦の危機の増大、10月でついに2000人を超える米兵の死者が出てさらに増え続けていることによる米国内の厭戦気分の拡大など、完全に泥沼状態に陥っていることだけではない。そのような結末しかもたらさなかったイラク侵攻そのものがそもそも、政権中枢による不確かな情報根拠での無理矢理の開戦決断——と言うよりも、チェニー副大統領、ローブ大統領次席補佐官、ラムズフェルド国防長官ら、初めからイラクで戦争を起こしたくて仕方がなかった“主戦派”が、あろうことか、大統領と議会と世論に対して偽情報(ディスインフォメーション)工作を仕掛けたらしいことが明るみに出たことで、政権への内外の不信は極点に達した。

 開戦の最大の理由とされた「イラクの大量破壊兵器が今にもテロリストの手に渡ろうとしている」という情報が、まったくの虚偽であったことはとっくに明らかになっている。加えて今回は、もう1つの理由だった「イラクがニジェール政府からウランを購入した」との情報も、イタリアの実業家が金目当てで捏造して米英伊の情報機関に持ち込んだものであることが明るみに出た。米CIAは初めからこれを信用せず、ジョセフ・ウィルソン元駐ガボン米大使を現地に派遣して調査に当たらせた上、「信憑性に欠ける」との報告書を政府に提出した。しかし、同じ情報が英政府からホワイトハウスにもたらされたことから主戦派は欣喜雀躍し、これを開戦理由に付け加えて03年2月のブッシュ大統領「一般教書演説」にまで盛り込んだ。自分の調査結果を無視されたことに怒ったウィルソンは、米紙への寄稿でそのことを暴露し、ブッシュ政権のイラク政策全体への批判も展開した。それで焦った主戦派は、03年7月、チェニーの首席補佐官ルイス・リビーを通じて保守派の政治評論家に「ウィルソンの夫人バレリーはCIAの工作員で、ニジェールで実際に調査したのも夫人だった」と暴露した。

 CIA工作員の身分を明かすことは国家機密漏洩に当たることは言うまでもなく、それをホワイトハウス高官が行うなどということがあっていいはずがない。しかも、ウィルソン発言の信用性を傷つけるために夫人がCIA工作員であることを持ち出すというのは、「CIAの人間の言うことは信用できない」という前提が広く認知されていなければまったく意味のないことで、そんな判断も立たないほど主戦派は当時、錯乱状態にあったということである。このリビーの稚拙としか言いようのない情報リーク工作の全貌が特別検察官によって暴かれ、彼は10月に辞任させられたが、世間は誰もリビーの単独犯行とは思っておらず、今後操作はチェニーやローブにも及ぶ可能性がある。またこの一件への関わりの有無はともかく、この2人や、さらにハリケーン被害救済をめぐる政権の失態に責任があると指摘されているカード大統領首席補佐官までまとめて更迭し、この際、人心一新を図るべきだとの声は与党=共和党の中にも広がりつつあり、そうなれば政権はほとんど壊滅状態に陥る。

 再選を果たした大統領が2期目にスキャンダル噴出で危機に陥るという前例は少なくない。ニクソンはウォーターゲート事件で辞任させられ、レーガンはイラン・コントラ事件でブッシュ(父)副大統領逮捕の寸前まで追い詰められ、クリントンはモニカ嬢との不倫で弾劾を受けた。ブッシュはこれらの事例の“歴史の研究”に力を入れているそうで、そこからこの苦境を何とか切り抜ける方策を見出そうというのだが、レーガンやクリントンの場合と決定的に違うのは、『毎日新聞』10月31日付から3回連載の「暗雲ブッシュ政権」が指摘しているように、「両大統領は大規模な部隊を海外に派遣していなかった」ことである。単に海外派兵をしているというのでなく、それが飛んでもない失敗に終わりつつあることで内外の批判を浴びていることが、この政権の致命的な弱点で、例えばハリケーン被害対策の遅れも、こういう場合に活躍する州兵をイラクに派遣していたからだ、という具合に、悪いことはみなイラク事態と結びつけて論評され、すべてが悪循環に嵌っていくのである。

 各種の世論調査で、ブッシュ大統領の支持率は36%(ニューズウィーク)、36%(FOXテレビ)、37%(AP通信)など史上最低に落ちている。

●“反米”のグローバル化

 イラクの現状打開については、名案はない。ライス国務長官を中心に、イラク政策の目標を再設定しようという動きがあるやに伝えられているが、ブレジンスキーに言わせれば「10月8日の大統領演説を聞く限り、彼が昨年の選挙キャンペーンで侵攻を合理化するために持ち出したデマゴギー的なレトリックに逆戻り」している有様である。

 むしろ、来秋の中間選挙での惨敗を避けるために、形だけでもイラク人の政府が出来たことにして、早ければ来春にも米軍撤退を始めてしまい、イラクを混乱状態のまま事実上放り出すという方向に走る危険が大きい。それは、米国内では“歓迎”されるかもしれないが、国際社会からは「こんな無責任なことがあるか」一層激しい非難を集めることになろう。

 イラク政策だけでなく“中東民主化”構想も破産する。ブレジンスキーは「今や米国は、アラブ諸国と全世界のイスラム圏で、イギリス帝国主義の継承者、イスラエルのアラブ抑圧のパートナーと見られており、そうである限りテロリストへの同情は強まるばかりだ」と指摘している。実際、アンマンで9日に起きた爆弾テロは、ヨルダンこそが米“中東民主化”構想の鍵と位置づけられていただけに、「米の中東戦略を痛打」(『読売新聞』11日付解説の見出し)した。

 元補佐官はさらに、米国がイラクやキューバの収容所で捕虜やテロリスト容疑者に対して恥ずべき虐待や拷問を行ったことが暴露されたにもかかわらず、現場の責任者だけ罰して国防総省や国家安保会議のトップの責任をうやむやにしていること、国際刑事裁判所の設立に反対する利己的な態度を続けていること、核不拡散政策に関連しては、イラクは攻撃したが北朝鮮とは交渉し、インドには原子力計画に協力を申し出るといった恣意的で一貫性のない姿勢を示し、そのためイランの核開発を抑えることが出来なくなっていること——などを列記し、それらが相俟って、欧州でも東アジアでも中南米でも、米国の政策への批判と、米国との紐帯に頼らずにそれぞれの地域的なまとまりを形成しようとする傾向が広がっていて、このままでは米国は敵意に満ちた世界の中で孤立していくだろうと懸念を表明している。

 “民主主義のグローバリゼーション”で米国の安全を確保しようという狙いにもかかわらず、かえって米国への不信と憎悪がグローバル化しかねないという心配は、ブレジンスキーが03年に執筆した『孤独な帝国アメリカ』(朝日新聞社、05年10月刊)の主要なテーマだが、今やブッシュ政権はその心配が現実と化す方向に転がり始めているのである。

 ブッシュは11月4〜5日アルゼンチンのマル・デル・プラタで開かれた米州サミットに出席し、北米自由貿易地域(NAFTA)をさらに中南米全体に拡張する「米州自由貿易地域(FTAA)」の推進を訴えたが、会場の周辺と首都ブエノスアイレスでは激しい反米デモが吹き荒れ、首都では米系企業が焼き討ちされる事態にまで至った。キューバを除く北米・中南米34カ国の首脳が集まった議場内でも、「中南米の貧困をなくそう」と呼びかけるブッシュに対して「この地域に貧困を作ったのは米国ではないか」というあからさまな対米批判の声が飛び、急進的反米派のウーゴ・チャベス=ベネズエラ大統領は「この会議をFTAAの墓場にする」と演説、実際にFTAA交渉推進の合意がベネズエラはじめブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイなどの反対で不成立に終わると「本日の最大の敗者はブッシュ。彼の顔に敗北の刻印を押してやった」」とまで言い捨てた。

 今週のアジア4カ国歴訪では、ブッシュはアルゼンチンほどの手荒い扱いは受けないだろう。しかし、旅の主目的である韓国・釜山でのAPEC(アジア太平洋経済協力会議)の首脳・主要閣僚会議は、鳥インフルエンザ対策の行動計画を採決する以外には大して意味のある議論が行われず、むしろその形骸化が、翌月にクアラルンプールで開かれる「第1回東アジアサミット」の重要性を際だたせることになろう。将来の“東アジア共同体”の形成に向かっての、小さいが、しかし歴史的な第一歩となるはずのそのサミットには、もちろん米国は招かれていない。

 結局、ブッシュ父の「唯一超大国」という幻想の上に、「単独行動主義」の花を咲かせようとしたブッシュ息子の試みが失敗に帰した、ということである。上述ブレジンスキーの著書の原題は『選択/(米国は)世界の支配者か、リーダーか』だが、9・11を契機に一気に世界の軍事的支独裁者に成り上がろうとした米国の身の程知らずの挑戦は大破綻を来たし、それを米州サミットやFTAA、APECや日米安保など2国間軍事同盟の再編、NATOの支配権維持など既存の制度への関わりを通じて取り繕おうとするあれこれの試みもまた巧く行きそうにない。もちろん米国は依然として十分に世界最大の大国であるけれども、“超”の付かない大国として自分自身を軟着陸させる身を切るような努力を払うことなしには、再び世界から尊敬されるリーダーとなることはないのではないか。▲

2005年11月10日

INSIDER No.326《IRAQ》暴かれるイラク侵略米軍の化学兵器使用

 2004年11月初めに行われたファルージャへの総攻撃で米軍が化学兵器を使用したのではないかという疑いは、当時から指摘されていたが、イタリアの国営放送RAIが11月7日に放送したドキュメンタリー番組「ファルージャ/隠された大量殺戮」は、攻撃に参加した米軍兵士の証言や焼けただれたイラク人の死体の写真など強力な証拠を揃えて米軍の蛮行を暴露した。この伊放送局のスクープを、イギリスの『インデペンデント』紙11月8日付をはじめ欧州のメディアは大きく取り上げている。米軍とその傀儡政権は、いまサダム・フセインを、化学兵器を用いてクルド人を大量虐殺した罪で裁こうとしているが、米国に彼を裁く資格などあるはずがないことが、改めて明らかになった。下記「ライニュース24」のサイトは、番組の要旨を掲げている。もちろんイタリア語だが、写真やビデオ・クリップでその片鱗を見ることが出来る。

※伊RAI「ライニュース24」
http://www.rainews24.it/

※英インディペンデントの記事
http://news.independent.co.uk/world/middle_east/article325560.ece

 米軍がファルージャで化学兵器を使用しているという報道は、総攻撃直後の昨年11月10日にイスラム・オンラインから流れていた。「伝えられるところによれば、米軍はファルージャへの大攻勢で化学兵器と毒ガスを使用している...米軍は、抵抗勢力にガスを浴びせ、国際法で禁止された化学兵器で攻撃している」

※イスラムオンラインの当時の記事
http://islamonline.net/English/News/2004-11/10/article05.shtml

 米政府は12月に、この報道を「広く流布されたうわさ話」に過ぎないと一蹴、USinfoサイトは「燐弾は国際法で禁止されていない。照明用に、敵に向けてではなく空中に発砲される形で、ファルージャでも少量が使われた」としていた。

 しかし、番組では、その燐弾が市街地に雨あられと降り注ぐ映像が示され、空中ではなく敵に向けて、少量ではなく大量に、使用されたことを裏付けている。さらにこの侵攻に参加した元兵士は、「白燐弾が使われるので、注意しろという命令を聞いた」と証言している。米軍内ではウィリー・ピートという愛称で呼ばれる燐弾は「皮膚につくとその場でやけどを起こし、筋肉を溶かし、骨まで燃やしてしまう...オレは女子供の焼けただれた屍体をいくつも目にした。燐弾は爆発して、(飛び散った黄燐が)雲のようになる。(爆発から)150メートル以内の人間はまず、だめだね」

 番組は、ファルージャ人権研究センターが提供したイラク人被害者の写真を公開したが、それを見ると、衣服はほとんど元のままなのに、皮膚が溶けたり、高熱でぐちゃくちゃになったりしている。ファルージャの生物学者のモハマド・タレクは番組のなかで次のように証言している。

 「炎の雨がファルージャに降り、様々な色の物質に打たれた人の体は燃え始め、私たちが目にしたのは、奇妙な傷のついた屍体、衣類はそのままで焼け死んでいる人たちだった」

 番組はさらにマーク77と呼ばれる改良型のナパーム焼夷弾がファルージャ攻撃で使われていたことを明らかにし、ナパーム弾を軍事目標以外に用いることを禁止した1980年の国連特定通常兵器使用禁止制限条約への違反であることを指摘している。▲

2005年11月 9日

INSIDER No.325《FROM THE EDITOR》

●『ニュースがすぐにわかる世界地図』06年版が発売された!

 私が企画に参与し図解特集の主要部分を執筆した『ニュースがすぐにわかる世界地図』06年版が小学館から発売された。05年版と同様、(1)いま焦点になっているテーマを図解特集で取り上げて地図やチャートを使って解説し、(2)通常の世界地図帳に各国・地域の最近の主な出来事を要約した簡単年表を書き込み、(3)国際情勢理解のためのキーワード事典を付す——という3部構成。今年はさらに、巻頭に田原総一朗が登場、「田原総一朗のニュースの読み方/よくも悪くも中国・アメリカ」と題して、日本にとって対中国、対米国の関係をどうマネージすべきかを4ページにわたって語っている。

 特集テーマは「ブラックホール・チャイナの脅威」で、中国のGDPが2016年には日本を、2041年には米国をも抜いて世界ナンバーワンになるとの予測を出発点に、この巨大化する中国と世界は、そして日本はどう付き合っていくべきなのかを、政治・経済両面からさまざまに分析し、結論として、今年12月クアラルンプールで開かれる「第1回東アジアサミット」をきっかけに胎動しつつある「東アジア共同体」=「30億人の形成に向かって日中両国が共同のイニシアティブを発揮すべきことを説いている。特集末尾には、中国戦後史、統治の仕組み、首脳部の変遷、領土、省別データ、中国をさらにくわしく知るためのブックガイドなどが要領よくまとめられており、資料として便利である。

 定価1680円。お近くの書店でお求めを。▲

Profile

現在、INSIDERニュースレターの内容は、ご覧の《THE JOURNAL》内でブログの形で公開されております。
誰でも無料で閲覧し、またそれについて感想や意見を書き込むことが出来るようになっておりますが、従来通り、お手元に電子(Eメール)版配信もしくは印刷版郵送の形で講読を希望される方は、引き続きEメール版:年間6,300円(税込)、ペーパー(紙)版:年間12,600円(税込)をお支払いください。[法人購読の場合は年間105,000円(税込)になります]
ウェブ上で無料で閲覧できるものが、Eメール版・ペーパー(紙)版が有料なのはどういうわけだと思われるかもしれませんが、後者の場合、読者名簿管理と請求の事務、配信と郵送の手間が必要であり、とりわけ印刷版の場合は紙代、封筒代、印刷代、郵便代のほか宛名を印刷して封筒に貼り、印刷されたものを三つ折りして封入し、糊付けし、紐で束ねて郵便局に運び込むのに膨大な手間とコストがかかっていることをご理解下さい。
また、無料で閲覧できるならそちらに切り替えたいという方もおられると思いますが、残余の購読期間は引き続きEメール版もしくはペーパー(紙)版を配信させて頂き、購読料を途中返還することは致しませんのでご了解下さい。

BookMarks

TOKYO KALEIDO SCOOP
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INSIDER(インサイダー)
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