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2004年9月29日

INSIDER No.228《DOUBLE-CROPPING》人生二毛作開墾記・その13──家づくりを考え始める前に地盤という難問が

 忙しさに取り紛れて本連載も3カ月ほど間が空いてしまったが、その間、私が8月を中心に20日間ほど現地に滞在し、ある時は孤独に、ある時は鴨川自然王国のスタッフに手伝って貰い、またある時は私が団長を務める草ラグビーチーム「ピンク・エレファンツ」の仲間や大学のゼミの学生が大挙して応援に来てくれたりもして、1年前に購入したときには荒れ果てて立ち入ることさえ出来なかった2000坪近い山林も、ようやく「敷地」と呼べるような落ち着いた風情を漂わせるところまで整備された。1年がかりの草刈りである。

 とりわけ、家を建てる予定の部分を含む最下段の300坪ほどを、パワーシャベルを5日間レンタルして「天地返し」を施したのは、予想通りの大成功で、この猛暑にもかかわらず雑草はほとんど全く生えてこなかった。天地返しというのは、パワーシャベルで表土を1メートルほども掘り返して、その後に手作業で茅や葛や野バラの絡み合った根っこを丁寧に取り除く作業で、2メートルほどの高さのピラミッド型の根っこの山が5つも6つも出来るほどの、手間のかかる炎天下のつらい作業だったが、農薬を使わずに根っこを退治するにはそうするしかない。

 さらに、その300坪ほどの周りの、隣地を含めた雑木林も荒れ放題だったので、順次切り開いて、だいぶ風通しがよくなった。林道を隔てた北側は一部は他人(行方不明らしい)の土地、一部は自分の土地だが、雑木や枯れ木、それに奥の竹林から次第にこちらに侵入しつつあった竹を切り倒し、藪を払い、雑草を刈ると、急に明るくなって、林越しに遠くの田んぼの緑が透けて見えるようになった。他人の土地の部分は、後ろに榎と欅の大木数本に混じって桜が1本あり、手前は中小の紅葉が40本以上も林立する紅葉林である。境のあたりにムクゲがあって、夏の間中、白い花を咲かせ続け、その先の私の土地の部分は、手前にタラノキが何本もあり、奥の方は数十本のネムノキの群落である。5〜6月の花の時期には、あの何ともボーッとした桃色の花が風に吹かれて波のように揺れて美しい。

●「地滑り防止区域」の不安

 このように、だいぶ整ってきたので、いよいよ家を建てる算段に入らなければならない。どういう家を建てるかについては、私が基本設計・デザインをし、庭園デザイナーのSさん監修と施工設計をお願いすることになっている。と言っても私はズブの素人だから、言葉とラフなスケッチでイメージを伝えて、それを元にSさんが本当に建てられるものに設計し、景観デザインと併せて全体を取り仕切って貰うということである。

 が、設計の話に入る前に、Sさんの最大の心配事は、この土地の地盤である。前にも書いたように、ここら一帯の金束地区は全体が「地滑り防止地区」に指定されており、とりわけ私の土地の東隣の斜面は、16年前に大きな地滑りを起こしている。しかし私の土地は、明治以来、知られる限り地滑りを起こしたことがないし、榎をはじめ50〜60年は経っている大木が数十本もある上、上の方は昔は石切場だったと言われる岩盤で「まず心配ない」という土地の古老の言葉を信じて、しかし多少ともリスクがあることは百も招致で、買うことを決めたのである。

 しかしSさんは慎重で、念には念を入れようということで、館山市にある県の土地改良事務所などを駆け巡って、かつての東隣の地滑りについての調査結果やその後の土留め工事記録など図面一切を手に入れてきた。分かったことは、東隣の土地の場合、表面1.5メートルほどが粘土質(雨が降るとぬかるみ乾くとカチンカチンになって、田んぼには適すが、家を建てたり畑にするには余り有り難くない——元は棚田だから仕方がないのだが)、その下に3〜3.5メートルほどが水分を含みやすい礫層で、さらにその下、つまり表面から5メートルほどで硬い基盤層に行き着くという構造になっていて、その礫層の部分はいつ地滑りを起こしても不思議はないということだった。

 Sさんは何度も役所に通って、担当者と専門的な話も交えて熱心に話し合ってくれたが、役所は、地滑りを起こしたところやその危険があるところがあれば、その一帯の地区丸ごとを地滑り防止区域に指定して必要な施策を行うのであって、その区域の中でもここは相対的には危険が少ないですよとか、このくらい頑丈な基礎を作ればここでもまあ大丈夫でしょうとかいうことを口にするはずがなく、区域内に家を建てるのはお勧めしませんという態度で終始一貫している。そりゃあそうだよね、うっかりしたことを言って後で事故が起きたら責任を問われかねないんだから。

 この過程でもう1つ分かったのは、面白いことに、こういう区域にRC(鉄筋コンクリート)構造を使わないで、2階建て以内の木造建築物を建築する限り、建築確認申請が要らないのだ。「この土地にこれこれの家を建てますが、仮に地滑りが起きて潰れても自己責任です」という趣旨の念書を出して、それについて役所はいいとか悪いとかの判断も、建てるのであれば最低限こういうふうにしなさいといった指導も、一切行わない。危ないと言っているところに、それでも建てようと言うなら勝手にしなさい、ということである。

●カラマツの杭を80本打ち込む!

 そこで私は、9月上旬、鴨川自然王国に稲刈りに行った機会に、同王国とも長年にわたり関わりが深い地元建設会社のK社長に相談した。このあたりは地滑り防止区域ばかりだから、彼も当然、そういう場所での工事経験は重ねている。

——こういう区域では、普通どんなふうに基礎を作るの?

「昔の民家は皆、穴を掘り、まず貝殻や小石を入れ、だんだん大きい石を入れて突き固め、その上に大きな石を乗せて基礎とし、その石に直接、柱を立てた。寺社の場合はカラマツの杭を打ってその上に大きな石を置いた。今はほとんどの民家はその寺社式を踏襲して、4メートルのカラマツの杭を打ち込んで、その杭を固定するようにコンクリートのベタ基礎を打つ。少々地盤が動いたくらいでは、その杭とコンクリ基礎が一緒にずれるだけなので、基本的にはまったく問題はないよ」

——何年か前に、黒川さんが建てた立派な本格木造の家を私も見に行ったが、あれはどうだったの?

「あそこも、地盤が高野さんの土地と似ていて、表面が青粘土、中が礫でゆるいところだったので、建坪50坪に対して80本の4メートルカラマツ杭を打った。そのうち5〜6本は途中で大きな石に当たったらしくてそれ以上入らなかったが、それはそれで効いているからいいんだ」

——じゃあ、仮にウチが40坪の家になるとして、どうすればいいのかな。

「杭は1坪に対し2〜2.5本が標準なので、やはり80本でしょう。家のほぼすべての柱の下に杭が打ってあるという状態になる。カラマツはこのへんにはないから取り寄せて、80本として、材料込みで40万円というところかな。コンクリ・ベタ基礎は、建物のほうの予算に入るのでまた別だ」

 なるほどねえ。考えてみれば、地滑り防止区域指定などというものが行われるようになる前も、この土地の人々は1000年かそれ以上もこのあたりの山あいに家を建てて暮らしてきたのであり、それは例えば海に面した漁師の家が津波に襲われるかもしれず、川岸の農家が洪水で流されるかもしれないリスクと同じ程度のことなのだろう。東京で構造計算バッチリのマンションに住んでも、直下型地震が来たらお終いなのだから、リスクを完全に除去することなど出来はしない。とすると、棟梁の意見に従って、昔からこのあたりに住んできた人たちが採ってきた方法で多少ともリスクを軽減することで十分ではないのか。

 私は、最初にこの土地を見た時の自分の直感——隣が地滑りしたというのはやや気になるけれども、その不安を吹き飛ばして余りあるほどの榎をはじめとした森の景観のすばらしさに一目惚れのように惚れ込んでしまった、その気分に立ち返ることにした。そして、まだ悩んでいるSさんに言った。

「Sさんはとても真面目な方だから、プランナーとして良心的に気配りして頂いていることはよく分かるし感謝しているけれど、私は、あの榎や欅のたたずまいが与える安堵感を直感として重視しています。あんな木々が流されて倒されることがあるのなら、それは運命というもので、そのついでに家が傾くことがあったとしても仕方がないと思います。私は、あの榎と共に人生二毛作目を生きて、榎が死ぬなら私も死ぬでしょう」

 Sさんは言った。「別の医者から、酒をやめないと命に関わりますと言われたことを主治医に話したら、それは人生哲学の問題で、私なら死を選ぶねと、その酒好きの医者は言いましたっけ。遅かれ早かれ、鴨川の土に還ることを選んだ人に、これ以上何を申し上げることがありましょうか。全力を尽くして期待に応えます」と。

 それでようやく、「いい家」のプランニング作業の入り口に立つことが出来た。▲

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