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INSIDER No.23《ELECTION》政策論議をもっと深化させないと──今のところ自民党の一人勝ち? »

INSIDER No.22-2《keyword》痛み

 7月8日「サンデー・プロジェクト」の電話調査では、構造改革に伴う“痛み”に耐える覚悟が出来ているという人が56%に達した。これは驚くべき数字で、一般に想像されているより遙かに多くの人々が、過去3年間に小渕・森両政権が振りまいてきた“不況論”イデオロギーの呪縛から自由になり始めていることを示している。

 両政権の政調会長としてバラマキ的な景気拡大策の旗振り役を務めてきた亀井静香や、同じく経企庁長官としてスポークスマン役を演じてきた堺屋太一の論法では、(1)日本は、「戦後最悪の失業率」や「年間3万人の自殺者」に示されるような深刻な不況のどん底にあり、(2)破滅を回避するには“痛み”を伴うような不良債権処理や構造改革は出来るだけ先送りして、(3)公共事業をはじめとする政府支出の拡大による需要喚起を図って、2%、出来れば3%の成長軌道に乗せることを最優先しなければならない──ということになっていた。これにさらに、リチャード・クーのような、目先の相場を釣り上げることしか眼中にない株屋の手先が応援団に加わって、全国民が四半期の景気指標やNY・東京の株価が1%上がったとか0.5%下がったとかで生き死にが決まるかのように一喜一憂するという馬鹿げた状況が作り出された。

 失業率は確かに戦後直後の経済混乱期の最悪記録が4.7%だから、それが4.8や4.9になれば「戦後最悪」には違いないが、食うや食わずの発展途上国時代のその数字と5兆ドルのGDP規模を基本的に維持している超巨大成熟経済時代のそれとは質的に違うことを踏まえなければならないし、国際的に見れば、2001年第1四半期で4.7%という日本の失業率はサミット7カ国の中で「米国の4.2%に次いで失業率の低い国」と認識しなければならない(米国=4.2、日本=4.7、英国=5.2、カナダ=7.0、ドイツ=7.9、フランス=8.6、イタリー=10.0:OECD統計)。また自殺者が90年代を通じて2万人から2万3000人台だったのが98年と99年に3万人台に跳ね上がったの事実だが、それが経済的な困窮や破綻によるものであるという証拠は何もない。成熟国では一般に贅沢な理由による自殺は増えるのであって、中小企業の経営者がバブル的な土地や株の投機に手を出してにっちもさっちも行かなくなって首をくくるといったケースは、贅沢病の範疇である。

 経済規模が出来れば2〜3%成長し続ければそれに越したことはないけれども、右肩上がりの発展途上国時代が終わった後では、そうでなければ国が立ち行かないといことはないのであって、むしろ、多少の上下変動があったにせよ基本的に5兆ドル超というとてつもない経済規模を維持していることの凄さに自信を持たなくてはならない。というのも、全世界約190カ国のGDP総合計は30兆ドルであり、日本は一国でその6分の1を占める超絶的な地位にあるからである。伸びているかいないかだけを問題にする発展途上国型の経済観念の囚われ人の感覚では、日本は依然として弱い存在であり、改革で血を流したりしたらたちまち頓死してしまうということになるのだが、1人当たりのGDPでも1人当たりの消費でも米国と抜きつ抜かれつ世界一を争っているいる日本をそのように捉えること自体が精神的な衰弱の現れである。

 亀井的な旧自民党勢力がいつまでもそんなことを言っているのは、まだ理解できる。彼らにとっては、日本が「不況で大変」であることのほうが都合がいいのであり、全国民がそう思い込んで不安に怯えている状態であればこそ、ケインズ主義的バラマキ政策を続けて、不況対策に名を借りて予算をいじくりまわして利益誘導政治を温存することが可能になる。というよりも、利益誘導政治を続けたいがために、日本は不況で今にも死にそうなのだという話にしておくほうが好都合だったということであり、無能なエコノミストやアホなマスコミがすっかりそれに乗せられて、人々をマインド・コントロールにかけることに協力してきたわけである。

 しかし、ともかくも構造改革派である小泉が政権を握って、町村信孝=自民党幹事長代理さえこの日の番組で「ケインズ主義的な需要喚起柵からの脱却」と言い出している中で、悲惨なのは共産党で、筆坂秀世=政策委員長が亀井そっくりの論法で「改革反対」「弱者救済のための景気対策を」と叫んで失笑を買った。社民党さえもが小泉と改革の方向と速度と手順を競い合う野党戦線に加わりつつある中で、このイデオロギーは自民党守旧派と共産党を最後の共有者としながら絶滅に向かうのだろう。

 ところで、この日の討論で“痛み”に関して欠けていた論点が2つある。1つは、小泉内閣のタウンミーティングで参加者が言った「聖域なき構造改革には異論がない。ただ、何に耐えないといけないのかわからない」という意見である。改革が具体論に下りていない今では、実際にどういう痛みが襲うのか分からないのは当然で、それが見えてきたときに果たして5割を超える人々が痛みを引き受けようという潔い姿勢を貫けるのかどうか。

 もう1つは「痛みはまず誰に?」という問題である。民主党の参院選向け法定ビラは「改革の痛みは責任の重い人から──改革にともなう痛みは、不良銀行の役員や天下り官僚など責任の重い人から。国民だけに痛みを押しつけさせません」とあるが、これは面白い論点である。3年前の金融国会で同党がまとめた早期健全化法案では、資本注入に当たっては経営責任だけでなく株主責任(減資など)も問うべきだとしていたが、自民・公明両党が作って通した現行の健全化法ではその部分がすっぽり抜け落ちて、経営責任は問わないまま大手15行への資本注入が行われた。それがその後、不良債権処理がろくに進まなかった最大の原因である。痛みはまず責任者にという原則を明確にすることで初めて、人々は少々の痛みに怯むことなく改革を支持しようとするのではないか。▲

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