INSIDER No.24-1《FROM THE EDITOR》2001/07/26横浜発
●加藤秀樹「構想日本」に注目!
大蔵省出身の加藤秀樹さんが主宰する市民派シンクタンク「構想日本」がいまなかなか面白い。加藤&構想日本が『中央公論』8月号に書いた「道路公団“健全経営”のカラクリ」は力作で、“伏魔殿”と言われる特殊法人の典型例として道路公団を採り上げて、同公団の外見上の“健全経営”は、「償還主義」と「全国プール制」によって赤字を限りなく将来に先送りできるカラクリと、償却費や除却費のコストを算入せずに赤字を黒字と表示することが出来る大福帳的な財務会計方式とによって粉飾されたものであって、普通の企業と同じ基準で査定すれば、すでに旧国鉄の民営化時点を大きく上回る大赤字で、その将来の返済不能債務は44兆円に達すると予測しています。同公団がろくに情報開示もしていない中で、ここまで会計手法のカラクリを突き止めて問題点を浮き彫りにしたのは画期的と言えるでしょう。
ただし、付け加えれば、公団の収入が料金収入だけになっているのがもう1つのカラクリで、社団法人道路施設協会を媒介として旧建設省OBや道路族議員ファミリーが巣くう関連サービスの子会社が60以上もあって、それらは大儲けをしている実態がある。あのサービスエリアのまずくて高い食堂や、ランプの電球を切れても切れなくても取り替える作業といったすべてを公団が直接手掛ければ収入が飛躍的に増大するはずで、だとするとそれら子会社群の収支まで連結ベースで解明しないと、本当のバランスは分からないことになります。
加藤さんらの提言は、(1)現在の建設中事業をすべて取りやめる、(2)償還主義と全国プール制から決別する、(3)財務状況の実態を明らかにし、一般的な企業会計原則を適用する、(4)経営責任を明確にする──ということで、それには、道路審議会が言っているような「国と公団の役割分担」といったことでは何の問題解決にもならず、“民営化”が有力な選択肢となるが、そうかと言って民営化がすべてを解決するわけでもない。採算性に乗らないけれども人々の暮らしに必要だという道路を誰の負担で建設し維持するのかという問題が残るからです。
「構想日本」のホームページ(*1)では。加藤さんらの精力的な政策提言活動の全体を見ることが出来ます。最近が彼らが始めた注目すべき仕事は、現職国会議員の政策的な意見をアンケートによって集約した政策データベース(*2)。各議員のプロフィールやホームページへのリンクもあって、有権者が政治家を評価する上で有用です。もう1つ面白いのは「教育プロジェクト」の中にある「地域の学習支援ネットワーク」で、私がかねて大いに注目している千葉県習志野市「秋津コミュニティ」の地域社会と学校の融合・連携活動をはじめ、先進的な事例が紹介されています。
(*1) http://www.kosonippon.org/
(*2) http://db.kosonippon.org/
なお、特殊法人の会計処理の改善については、財政制度審議会が昨年10月から取り組んでいた見直し作業が終わって6月19日に「特殊法人等に係わる行政コスト計算書作成指針」が公表され、民間企業と同様の財務諸表を作成・開示することを求めています。『週刊東洋経済』7月7日号の「郵貯と特殊法人」特集の中で会田一雄=慶応大学教授がこれについて解説していますが、これはあくまでガイドラインで、法的な拘束力を持たないとのこと。これで本当に特殊法人の経営実態が白日の下に晒されるのかどうか。
●菊池哲郎「“少子高齢化社会”を寿ぐ」に賛成!
菊池哲郎=毎日新聞論説副委員長が『出版ダイジェスト』7月1日号に書いた「“少子高齢化社会”を寿ぐ」という一文がなかなかよくて、趣旨に賛成ですが、ほとんど誰の目にも触れないと思うので本誌に転載します。ご本人にはまだ断っていませんが、27日に一杯飲む予定なので、その時に事後承諾ということで、よろしく。この文章の後半は、本誌No.2(1月9日号)で新聞各紙の正月社説の中で「最優秀賞というか、ほとんど唯一の収穫」と誉めあげた毎日新聞1月4日付の「景気主義の呪縛から脱出」と同趣旨ですが、それもそのはず、この社説の筆者は菊池さんだったのです。
少子化と高齢化で年金システムの破綻や医療費増大は避けられず、新規労働力の減少による経済の停滞も免れないという世の常識となっている旧厚生省の悲観的シナリオが、相当に怪しいものであって、いくつかの前提を置き換えれば、まったく別の楽観的なシナリオも描きうるのだということは、本誌もかねて主張してきたことです。例えば、旧厚生省シナリオでは、高齢化した人々がみな寝たきり老人になるかの前提で組み立てられていますが、ジョン・K・ガルブレイス=米ハーバード大学名誉教授が昔から言っているように、肉体労働よりも知識労働の比重が大きくなる先進国社会では60歳を過ぎた高齢者の5人に3人は元気で、その元気な年寄りに社会の中で適切な働き場を確保することが“高齢者対策”の第1であり、次に5人に2人の元気でない人たちへの介護や医療のサービスの提供が問題になるのであって、その順番を間違えてはいけません。あるいは、高齢化比率の予測も、“日本人”だけで考えるとどうしても上のほうが膨らんだ頭でっかちのグラフしか描けませんが、日本が外国人の専門家や労働者を1000万人ほど積極的に受け入れて“多民族社会”になっていくという仮定を挿入すれば、話が全然違ってくるのです。
このように、一見もっともらしいシミュレーション結果がその前提となっている諸条件の吟味を抜きにしたまま、もはや確定的な未来であるかに信じ込まれてしまうという傾向は、それが悲観的な内容であればあるほど強くて、例えば今話題の京都議定書の「地球温暖化」シナリオに関してもそういう一面があることを認めないわけにはいきません。もちろん、だからと言って米ブッシュ政権のこの問題への独善的態度を許していいことにはなりませんが、一方では、本当に二酸化炭素が温暖化の主因であるのかどうか、主因であったとしてそれが本当に今世紀末に3〜4度の気温上昇をもたらすのかどうかについては、今週の『ニューズウィーク』(8月1日号)の特集「地球温暖化はでたらめだ」でMITの気象学者リチャード・リンゼン教授が語っているように、学問的に確定したことではないし、他方では、本誌が着目してきたように、燃料電池(という名の水素発電機)の自動車だけでなく一般家庭への導入によって化石燃料を直接燃焼させる20世紀型のエネルギー・システムが廃絶に向かうという仮定を立てれば、それだけで全く別の展望が浮上してきます。ブッシュ大統領がどこまで分かっているか不明ですが(リンゼンは「分かっている」と言っている)、そういう恰好できちんと国際社会に対して問題提起をして論争を呼び起こせばもっと建設的な議論になっているはずなのに、「米国経済にとってマイナスだ」という国益エゴのレベルでしか語っていないから単純な反発を招くだけになるのです。この問題については、本誌でも近く論じることにしましょう。
●知床半島をシーカヤックで一周した!
7月21〜22日に「日本最東端の町」斜里と羅臼を訪れて、秘境=知床半島をシーカヤックで一周する旅に挑戦しました。
カヌーは、川で5回、海で1回しか経験したことのない初心者の私ですが、このうち1回を除くすべては東大工学部で情報論・都市論を講ずる月尾嘉男先生のお供。同先生は、私よりやや上で、あと1〜2年で定年というお歳ですが、カヌーは月に1〜2回こなしてレースにも出場するベテランだし、登山やスキーのクロスカントリーも大好きというタフなアウトドアマンです。どちらが目的でどちらが手段かよく分からないのですが、全国各地の町興し・村作りグループとつながりを持って「釧路湿原塾」「四万十僻村塾」「伊王島離島塾」といった名前の塾を作って塾長になり、そのそれぞれで年に何回か、私のようなゲストを連れて行って講演と討論の会を開き、その謝礼代わりに現地側が1日か2日のカヌー・ツァーなどを準備するという巧みな仕掛けを張り巡らせていて、私もそれに何度かお付き合いさせて頂くうちにカヌーの楽しみに引き込まれてしまいました。
今回は「知床半島塾」ということで、金曜日に現地入りして夜は町の文化ホールで午来昌=斜里町長や町幹部の方々もご臨席頂いて講演会を開いたあと、同塾運営委員長で町議でもある河面孝子さんの別荘で、メンバーである斜里町の元気なおばさまたちや羅臼町の町興しに取り組んでいる猛者連、それに明日のカヤック・ツァーに同行して頂ける両町のベテラン3人を交えて大宴会。と言っても、「明日は天気がどうかなあ」「今日も岬のほうは波が高くて漁船が出なかったそうだ」「この前の時は波と風で進めなくなって、舟を置いて海岸を20キロ歩いて漁師に助けを求めたものな」などとベテラン諸氏が言い、月尾さんも「僕は、何度もチャレンジして3年目にようやく半島一周に成功したんだから、初めて来て巧く行くと思ったら大間違いだぞ」と脅すので、落ち着いて酒も飲めません。
実際、犀の角のような形をして北北東に突き出した知床半島は、真ん中に羅臼岳(1661メートル)を主峰とする知床連山がそびえ立ち、西の斜里町側は冬ともなればオホーツク海の流氷が押し寄せて岩をガリガリと削りとった断崖絶壁の奇観が続き、東の羅臼町側は国後島まで最短部分で25キロという狭い根室海峡に面していて、風や潮の流れは複雑怪奇だし、天候もしばしば激変します。しかも、羅臼町から北へ30キロ弱の相泊港から出発してしまうと、その先の「知床国立公園」に指定されている半島北半分には道路も港も人家もなくて、漁師たちが漁期に寝泊まりする「番屋」がところどころ岸壁に貼り付くように建っているだけで、遭難した場合に助けを求める術もありません。本当を言えば、私のような初心者が舟を出すなど飛んでもないような場所なのです。
翌朝は3時に起床、5時前に出発して車で相泊まで行って艇を出したのが7時20分。海面までたれ込めていたガスも次第に上がり始めて、やや追い風の静かな海面を滑るように漕ぎ出しました。思いのほか順調な航海で、途中「ペキンの鼻」と呼ばれる岩場で周りにいくらでも転がっているウニをちょっとだけ“試食”して休憩したのを挟んで、4時間ほどで知床岬を回ることが出来ました。「ここが日本の最東端か」と感慨が湧きます。すぐ目の前の海からアザラシが3頭、丸い頭を出してこちらを見ているのは歓迎の意味なのでしょうか。遠くにはミンククジラが1頭泳いでいるのが見え、左の無人燈台近くの奇岩の上にはオジロワシが端正な姿で辺りを睥睨しています。自動車はもちろん自転車で入る道さえない日本最後の秘境は、こうしてカヤックを操って自分が自然の一部に溶け込むことによってしか、心ゆくまで味わうことを許されないのだと悟りました。
その日は15時にカパルワタラの番屋に艇を上げて、投泊。年に何度も半島一周を試みるベテラン諸氏でも「今まで経験がない」と言うほどの好天気に、何度も感謝の杯を捧げました。翌朝は5時に出発、伝説に包まれた奇岩、岸壁から噴き出す滝、神秘の洞窟などを経巡りながらルシャ川の河口付近まで来ると、岸辺で餌を漁るヒグマの親子2組と3歳くらいの痩せた1頭を次々に目撃することも出来ました。この辺りで確認されている生息数は17頭。そのうち5頭と出会ったのですから相当な幸運でした(もっとも、ヨチヨチ歩きの小熊は未登録かもしれないので、19頭中の5頭になるかな)。心配された逆風や波乱もなく、休憩を挟んでウトロ港まで7時間のゆったりとした航海でした。
《関連情報》
(1)『銀の海峡──魚の城下町らうす物語』
カヤック・ツァーに同行して頂いた羅臼町の渡辺憲爾課長からプレゼントされた、町当局発行の町紹介の本。東京の築地市場でもワンランク上の価格で取り引きされる羅臼産の海産物を獲る漁師たちの暮らしやその食卓、森繁久弥から加藤登紀子に受け継がれた「知床旅情」の歌とそれに惹かれて羅臼と深く付き合うことになった画家の関屋敏隆さんの活動、オホーツク人から古アイヌ人そして和人へと移り変わってきた魚の町の1000年の歴史──などがよく分かります。博多の明太子は、羅臼のスケソウと羅臼の昆布がないと出来ないって、知ってました? 文章も編集も写真もなかなかよくて、町当局が作ったとは思えない出来の新書版です。定価300円、連絡先は01538-7-2111羅臼町。
(2)斜里町立知床博物館編『しれとこライブラリー』
斜里町立の知床博物館が編集した「しれとこライブラリー」シリーズ『知床の鳥類』『知床のほ乳類I』『知床のほ乳類II』がすばらしい。知床の原生の自然を長年にわたって調査研究してきた成果が豊富な写真やデータと合わせて紹介されていて、目を開かれることがたくさんありました。各巻1800円、北海道新聞社刊。
(3)羅臼海産物のネット通販『知床三佐ヱ門本舗』
羅臼のキンキ、ほっけ、ウニ、昆布をはじめ第一級の海産物を手軽に入手したい方は、『知床三佐ヱ門本舗』(*3)へアクセスを。電話は0120-4015-99。主宰する町田さんは、斜里町での講演会とその後の宴会にも参加して頂きましたが、聞くと大前研一「アタッカービジネススクール」の第1期生で、大前さんに勧められてネット販売を始めて成功しているとのこと。私もさっそく注文しました。
(*3)http://siretoko.com/
(4)北海道地図刊『知床連邦』
知床半島の地図で優れものは、北海道地図(株)が発行する2万5000分の1山岳マップシリーズの『知床連邦』。山岳地図なので、海岸線がすべて表示されていないのが残念ですが、同半島の主要部が美しい立体地図で表現されていて楽しいです(1700円)。海岸線をすべて辿るには、やはり国土地理院の2万5000分の1地形図ですが、半島全部をカバーするには8枚ほど必要。こういう場合に便利なのは、同院が発行する『数値地図25000(地図画像)』のCD-ROMで、「標津」を1枚買えば24枚分の2万5000分の1地図がデジタル・データで収められていて、何枚かを連結させたり、拡大・縮小表示したり、距離や面積を測定したり、経路やメモを書き込んだりと、いろいろ加工することが出来るし、それを画像として保存したり出力することも出来るので、まことに便利。1枚7500円は安くないですが、8枚もの地図を座敷一杯に広げなければならないことを思えばそれほど高くないということになるでしょうか。『数値地図』そのものはWindows95用ですが、(財)日本地図センターで出している『Mac DE ミール』というソフトを求めれば、Macでもそのまま使えます(1万円)。いずれも八重洲ブックセンターB1の地図売場に常備されています。▲