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INSIDER No.16-1《FROM THE EDITOR》2001/05/10横浜発 »

INSIDER No.15《NEW CABINET》小泉内閣の前途多難──疑似改革派政権の限界

「小泉首相は大変ですね。金泳三前大統領と同じで、何もやらないうちから余り人気が高いと、あとは下がるしかない訳ですから。何かをやらなければたちまち人気が落ちるし、何かをやっても最初の期待通りではないからといってまた人気が落ちて、最後は焦ってくだらない人気取り政策に走ることになる」

 在ソウルの知日派知識人は、発足早々の小泉内閣が87%の史上空前に達したとの読売新聞調査を聞いて、そう述べた。初めての軍人出身でない大統領として93年に登場した直後の金泳三の支持率は、奇しくも87%で、以後は何をしてもしなくても人気は下落する一方となり、それを何とか挽回しようと任期半ば過ぎに打った手が、旧朝鮮総督府の建物を取り壊して韓国民の“愛国心”に媚びるという低劣な政策だった。

 もちろん小泉政権が金泳三と同じ運命を辿ると決まった訳ではないが、国民の期待という移ろいやすいものだけに直接に依拠して、旧権力構造に棲む妖怪変化たちの決死の抵抗と戦わなければならないポピュリスト政権は、しばしばそういう詰まらないコースに填り込むものだという、それは1つの歴史の教訓である。

●戦略論的レベル

 小泉政権は、改革派政権であるには違いないが、本来、改革派政権はこのような形で生まれるべきでなかったにも関わらず、図らずも中途半端に生まれてしまったことの限界を初めから抱え込んでおり、その意味で疑似改革派の政権である。

 今回の自民党総裁選は、経済政策の根本をどう据えるかという戦略論的レベルでは、「構造改革なくして景気回復なし」と主張する小泉と、「日本は不況である」との前提に立って財政主導によるバラマキ的景気刺激策を続けるべきだという小渕政権以来の路線を推進する亀井静香とが基本的な対抗軸を形成し、橋本龍太郎と麻生太郎がやや亀井寄りながら中間派に位置するという構図で行われた。

 本誌が何度か指摘してきたように、この構図は3年前の総裁選と基本的に同じである。(1)当時、政権の座にあった橋本は、構造改革・財政再建なのか景気対策なのか、どっちつかずのままウロウロを繰り返して国民の不評を買って参院選に敗北、辞任し、それを受けた総裁選では、(2)小渕が「私は(橋本のように)ためらうことなく景気対策一本で行く」と宣言し、(3)対抗馬の1人だった梶山静六は「小渕の言うような通常の景気対策をいくら重ねても日本は元気にならないのであり、金融構造の外科手術的改革を先行させなければならない」と主張し、(4)もう1人の小泉は「郵貯民営化」の持論を展開して、日本最大の銀行であり世界最大の国営銀行である郵貯の資金運用が第2予算である財政投融資に膠着させられている現状を打破するところから財政構造の改革を始めるべきだと主張した。今回の総裁選は、(4)の主張を薄めて(3)とミックスしたような小泉と、(2)をそのまま引き継いだ亀井が対抗し、(1)の橋本は相変わらずで、さらに(2)と(4)の中間に麻生がいた訳で、人は変われど同じ構図である。それで今度は小泉が勝ったのだから、これはひとまず構造改革派の勝利である。

 当選後の初会見で彼は、「私は『構造改革なくして景気回復なし』との認識に基づき、この内閣を『改革断行内閣』とする」と宣言し、不良債権処理をはじめ緊急経済対策の実施、ITなどの分野での規制改革の推進、先端科学技術への研究開発投資の促進などを強調しつつ、さらに構造改革そのものについて次のように述べた。

「民間に出来ることは民間に委ね、地方に任せられることは地方に任せるとの原則に照らし、特殊法人、公益法人の改革、地方分権の推進など徹底した行政改革に取り組む」

●戦術論的レベル

 この言いぶりが、大枠で間違ってはいないが、恐ろしく曖昧であることについては次号で触れることにしよう。問題は、今回の総裁選が現実には、自民党が参院選に勝つには誰がいいかという戦術論的レベルで戦われ、(1)小泉の応援団長を田中真紀子が買って出て、ますます「何かやってくれそう」な雰囲気を振り撒いた“変人連合”と、(2)「何も出来そうにない」ことが過去の実績で示されている凡人=橋本との間で擬似的な対抗軸が作られて、しかも(3)戦略的に敵であるはずの亀井とは本選前に早々に妥協し、(4)同様に味方でないはずの麻生とは党人事で妥協して政調会長という政策の要のポストを与えてしまった。小泉が真の改革派であろうとするなら、このような訳の分からない勝ち方をすべきではなかった。

 もちろん自民党の党内政治は権謀術数の世界であり、小泉のような一匹狼が勝つには「何でもあり」のしたたかさを発揮する以外にないのは事実である。しかし、それによって戦略論的レベルの対抗軸がますます曖昧化し、ただ単に、あれこれの思いつき的発言を乱発しながら国民の支持を集め、それを頼りこれから始まる橋本派を中心とする利権政治家たちによる舅の嫁いびり風の陰惨な報復に対して抵抗を試みるだけのポピュリズム政治に終始するのであれば、何のために勝ったのか分からなくなる。

 本当の改革は、自民党が政権に就いたままでは出来るはずがない。自民党は、解体されるべき過去100年の“お上にお任せ”の国家運営システムの寄生者であり、その意味でまさに構造改革の対象であってその主体とはなり得ない。そこのところが腹にすわっていなかったが故に加藤紘一が挫折した後では、小泉にとって現実的な改革者の道は、橋本の下で参院選が惨敗に終わるのを見て加藤や石原伸晃ら若手改革派を引き連れて自民党を離れ、“小泉新党”としてかつての細川新党に匹敵する人気を集めながら衆院選を戦って、民主・自由両党などと共に非自民の本格的な構造改革政権を作ることにあった。それならば、上述の戦略論的レベルの転換の意味は広く国民に理解されることになったに違いない。

 現に石原らは、そのような展開を予想して離党を覚悟していた。ところが小泉が勝ってしまい、石原は入閣して小泉流ポピュリズムの一端を担って自民党の参院選勝利を目指す羽目になった。運命の皮肉と言えばそれまでだが、さて小泉や石原が本物の改革者であろうとすれば、守旧派との全面戦争に打って出て、結局、自民党をより深く分裂させる結果となる。彼らが半端な改革派ブリっ子にとどまるなら、単に自民党支配を延命させ構造改革を遅らせるだけになる。そのどちらに傾くかは、彼らがどのような構造改革プログラムを打ち出すかでおおよその見極めがつくことになろう。▲

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