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2001年5月31日

INSIDER No.18《FROM THE EDITOR》2001/05/31、麻布十番発

名古屋の中学生が“修学旅行”で訪ねてきた

 5月31日午後に、前々からの約束で、名古屋の桜山中学校の男女生徒6人が修学旅行の一環として本誌のオフィスを訪ねてきました。東京ディズニーランドをはじめいくつかの予定がある中で、この日の午後は30ほどのテーマごとに班を作って、自分らの将来の進路選択との関わりで興味ある人物やその職場を訪ねることになっていて、彼らは「ジャーナリストの仕事」というテーマで半年以上も準備をした上でやって来たわけです。「どうしてジャーナリストになったんですか?」「いちばんつらかったことは何ですか?」などと質問攻めに遭いながら1時間半ほどお話をして、それから「私の話だけでは偏るから」と、TBSの「ニュース23」デスクの金平茂紀さんのところまで案内して、インタビューとスタジオ見学をさせて貰いました。

 ちょうど5月28日付『東京新聞』こちら特報部欄に「様変わり、中学生の修学旅行/自分の“夢”探す東京行/増える“職場体験”型」という記事が出ていて、そこでは岐阜県の明智中学校の生徒がインターネット会社やボクシング・ジムやイルカ調教師養成学校などを訪問した例が載っていました。東京に修学旅行に来る中学校の9割がこのような企画を何らかの形で採り入れているそうで、これは大変結構な傾向だと感心しました。

●6月3日「サンデー・プロジェクト」で韓国レポート放映

 前に本欄で一端を述べましたが、5月連休の1週間韓国を訪れて嵐のような経済構造改革とIT革命の現状を取材したレポートが、6月3日「サンデー・プロジェクト」の特集コーナーで放映されます。何より驚くのは、韓国での超高速回線ADSLの普及ぶりです。日本では1.5メガのADSL利用者がようやく10万人を超えたところですが、韓国では2メガないし8メガを全世帯の6割が導入して、我々が知っている低速インターネットとは別次元の社会が生まれつつあります。そのあたりをじっくりお見せするつもりなのでお見逃しなく。

●大阪「有線ブロードネット」は闇の無法集団?

 前号(i-NSIDER017)本欄で「大阪の“有線ブロードネット”という会社は東京や大阪で100メガbpsの光ファイバー・サービスを何と月6100円で提供し始めている」ので、それが自宅近辺に及ぶのを待ったほうがいいのかな……と書いたところ、読者のNさんからは「光ファイバー賛成!ところが……」と題した次の便りがありました。

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 ADSLでなく光ファイバー網の敷設を半年待てというお話に賛成。というか、先見性などカケラほどもないアナログ人間の小生は、1時間半、営業マンの説明を受けて、「明日の日本は光ファイバーじゃ!」と、加入のハンコを押しました(6100円以外に3万円の敷設料が必要です)。 小生の住む世田谷は、「有線」の光ファイバー推進モデル地区になったようで、各丁目ごとに営業担当が数名張り付き、勧誘を行ったようです。下北沢、三茶など、有線得意の飲屋街を足がかりに打って出ようとしたのでしょうが、その後の経過がなしのつぶて。何が起きたのかは分からないが、2ヶ月近く経つのに工事は勿論、うんともすんともいってこない。ちゃんと取材したわけではありませんが、加入者数の絶対的不足、技術不足などでどうも苦しんでいるのではないでしょうか。1週間ほど前、光ファイバーを敷設する「有線」の専用車を見ました。65歳くらいの初老の男が、ひとり、小型トラックの運転席から出て、ツナギ姿のまま、たばこを吸っていた。つまり、これまでの有線ケーブルが光ファイバーでないのはもちろんのことで、また新たに光ファイバーケーブルを敷設することに、恐ろしく時間がかかっていると感じた。光ファイバー自体は「ソバの長さと同じくらい」の原価でも、敷設費は巨額に上るのではないでしょうか。また。個人家庭ならともかく、アパート、マンションだと戸数分のコネクター(?)設置が必要。しかも無理解な大家は「アパートのグレードが上がるんですから、1カ月1000円ほどのコネクターの電気代はそちらで持ってください」と営業担当にいわれ、「1カ月1000円もムダガネをかけるなら、そんな工事、やらなくていい!帰れ!」と、多分、追い返されているのではないか。ここに日本の考えられない無知蒙昧な保守性が横たわっていると考えられないでしょうか。光ファイバー網の敷設、とりあえず賛成。2時間の映画を3分で取り込める。つまり、レンタルビデオ屋はなくなる。それだけでも今の社会は激変すると思うのですが、この国は政治が積極的に「おふれ」を出さないと駄目なようで、また、世界から馬鹿にされるときが来るようでなりません。ま、それもいいか。

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 さらに読者のS議員からは、“有線ブロードネット”を札付きの無法集団として告発する「全国有線放送正常化協議会」など反対派の資料が届きました。

 それによると、同社の元である“大阪有線放送”は40年近く前から、全国の電柱に無許可で放送用の同軸ケーブルを推計16万キロメートル(地球4周半!)張り巡らせて業界を席巻、多くのローカル業者を倒産に追い込んだり吸収合併するなどして7割のシェアを持つまでに巨大化してきた問題企業で、81年には建設省から道路法違反で、85年には郵政省から有線ラジオ法違反で告発されて有罪・罰金刑に処せられているにも関わらず、なお違法拡大を続け、その勢いに乗って昨年夏には「第一種電気通信事業」の許可を受けて、今年3月から光ケーブルによるインターネット事業に乗り出したものです。

 亡くなった先代の宇野元忠社長も2代目の宇野康秀社長も、野中広務=元幹事長とは「密接な関係」にあり、IT革命をスローガンに掲げた森喜朗=前首相も昨年秋に同社を視察に訪れているなど、政権中枢に食い込む“政治力”がこのしゃにむにの事業拡大を支えていると考えられます。と言っても、敵対する全国有線音楽協会(東京中心18社加盟)の会長だった中尾栄一=元建設相も許栄中事件で逮捕されていますから、いずれにしてもヤクザと政治家には縁の深い業界なのでしょう。

 有線ブロードネットに申し込んだNさん、大変なところに踏み込んだのかもしれませんよ。でも誰が敷こうと光で高速通信がちゃんと出来るのなら、それでいいんですけどね。有線ブロードネットは、マイクロソフトのWebTVと提携したり、ヤフーが作ったインターネット・カフェに出資したりして一応、IT業界では認知されているし、この4月末にはナスダック・ジャパンに上場もしているし、ただのヤクザ企業というわけではなさそうで、国とNTTの緩慢と怠惰を打破するにはこのくらいのハチャメチャが必要という一面もあるかもしれません。平凡ですが「今後の成り行きが注目される」というところです。ちなみに、ネット上でのこの問題に関する無責任な掲示板では、宇野社長が中国系帰化人であることが差別的な言葉を用いて指摘されています。

 以下、全国有線音楽放送協会の「有線ブロードネットワークス(旧大阪有線)に関する問題点」と題した文書の要旨を紹介します。日付不明ですが、内容からして今年3月以降に出されたものです。

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有線ブロードネットワークス(旧大阪有線)に関する問題点

 (株)有線ブロードネットワークス(USEN)は、国内最大の有線放送であり、昨年夏には100%出資の子会社[(株)ユーズコミュニケーションズ]が第一種電気通信事業の認可を受けネット事業に本格参入、2001年3月に東京都内でサービスを開始した。このことは「光ケーブルで日本のITを進める企業の急成長」を仮装しながら、その本質は「日本の通信・放送業界を闇の無法者が完全掌握する」ことにほかならない。以下、問題点をあげる。

1.第一種電気通信事業の許可はなぜおりたのか

 (株)ユーズコミュニケーションズが平成12年7月27日付で郵政省より第一種電気通信事業許可を受けた。この会社は当時、100%USENが出資の子会社で(増資後の現在も75%ほど保有)、この許可に際して行われた電気通信審議会の諮問において委員から「親会社の旧大阪有線は違法状態にある会社ではないのか」と質問があった。これに対し郵政省からは「当該会社の違法状態及び債務不払いという問題についてはすべて正常化している」と説明があった。しかし現状は、電柱共架料については実数のごく一部の支払いで電力及び電話会社を押し切っているうえ、施設の物理的な違法状態はまったくの野放し。「偽りの正常化」にすぎない。

 郵政省は何の根拠をもって正常化していると答えられたのか。あるいは答えざるをえない政治的圧力でもあったのか。USENの宇野社長は先代から野中広務氏と密接な関係があることは、当業界では周知のことだ。

 視点をかえれば、この事業許可のために「正常化」という格好を作ったのは明白。これまで、度重なる業務停止命令や社長逮捕にも屈せず日本中に闇のケーブルを張り巡らせてきたゲリラが、ITの波に乗じて、一気に通信・放送の表舞台に立つために必要なものだった。この事業許可によってUSENは、これまで40年間の違法行為、現在も放置された設備の違法状態、そしてこれからも十分予想される法規制無視などもすべて帳消しにする。

2.USENの「正常化」はごまかし

 USENの施設が違法状態であることは、40年近い長期間にわたって音楽有線業界、電力会社、NTT、国などの道路管理者を苦しめ悩ませてきた。先般のいわゆる「正常化」は、実数のごく一部について数年分だけを支払ってよしにしよう、というごまかしの内容で、法治国家であるべき日本国が、無法企業の二代目社長にいいようにされた格好である。現時点でも多くの疑問点がある。

《疑問点》

■物理的違法状態は何ら改善されていない

 電柱については、その安全性を確保するという目的で、他社の線や機器類との隔離距離、地上高、使用する材質や規格等がこと細かく規程されてきた。USENのケーブルは今までそれらを一切無視し、電柱所有者及び管理者に無断で設備をしてきている。そのため、他社の施設にからみついたり、撤去すべき線が切り放されたまま。空中に放出される電波は、当然、他の施設に干渉、妨害、混線を引き起こす。

■スゴイところをタダで通っている

 本四架橋にはUSENのケーブルが通っているらしい。許可はされているのか、公団に占用料は支払われているのか。かつ、実数と整合しているのか。不明。市街地では、街頭、交通標識、信号機もケーブル敷設に“活用”されている。しかし、勝手に引かれた線でも切断すると、切った方が法律に触れてしまう。国道の占用料については一応の決着をみているが、国道管理者は実数との整合を確認しているのか。

■あまりに安い光ケーブル利用料

 USENのFTTH[家庭用光ファイバー]サービスが月5000円を切る。なぜここまで安くできるのか。民間企業によるFTTPの本サービスは世界初、しかもこの安さ。企業努力の域を超越した料金には疑問を持たざるをえない。理由はコストの安さによる。ケーブル網の敷設に係わる申請、許可、遵法施工、検査などは得意のゲリラ作戦で限りなくゼロに近い。世界のインターネットへつながるパックボーンは、どこといくらで接続するのか。

3.アピール

 30数年前、全国の有線音楽放送業者は、大阪有線の違法施設によって駆逐されてしまいました。業界は協会を組織して対抗し、関係各省庁や電力・電話会社等へも現状を訴え、業界の健全化を求めました。しかし大阪有線の手段を選ばぬ自己の営利優先の結果として、今日、法規制に基づかない、得手勝手な施設が日本最大の「ネットワーク」となってしまったのです。

 今、同じことがまた起きようとしています。遵法意識のきわめて薄いUSENが第一種電気通信事業者の金看板を手にしたことによって脅威にさらされています。順当な競争の中でのことであれば、私たちも対抗してがんばっていく道もありますが、これは「犯罪」なのです。USENは、違法ケーブルを武器とするマフィアにほかなりません。そこにはおそらく大物政治家とのコネクションがあるのですが、私たちには詳細を知るすべはありません。昨年秋に、USEN本社を視察に訪れ愛想をふりまいている森首相の写真がHPに見られるだけです[いまはみつからない]。

 すでに[USENの]全国規模のネットワークがあるのなら、「正常化」と追認してうまく使えばITの推進になっていいじゃないか、などとノンキな大臣が考えるかもしれません。それは、この国の社会秩序を大きく崩壊させていくことになります。たいへん怖いことです。法や規制が国の基本であるなら、金銭的にも物理的にも本当の意味での正常化が確認できるまで、第一種電気通信事業許可を棚上げしてください。

 USENへの許可がこのまま是認されるのであれば、電気通信事業に関するすべての法規制を取り払ってください。電柱、とう道、情報ボックスなどすべての構築物を公のものとし、電力・電話会社の管理から外し、必要な人は自由に無料で使用できるようにしてください。自己の施設の中では、どの周波数をどのようにでも使えるようにしてください。

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なお、有線ブロードネットのホームページはhttp://www.usen.com/index2.html。全国有線音楽放送協会はホームページを開いていないようです。▲

2001年5月17日

INSIDER No.17-3《Keyword》国公式参拝

 小泉首相は15日の国会答弁で、靖国神社への公式参拝について「戦没者に心からの敬意と感謝を捧げるためにお参りすることが、外国からどうして批判されるのか」と語ったが、この認識はシンプルに過ぎる。

 第1に、靖国神社は戦前は、他の神社とは違って陸軍省・海軍省の直接管轄下にあって、天皇のために戦死した軍人・軍属などを“神”として祀ることを通じて、民心を天皇制の下へと収斂させて対外戦争へと駆り立てた日本軍国主義の精神動員装置であった。境内の「遊就館」には祀られた死者の遺品ばかりでなく“戦利品”までが誇らしげに展示されて戦争賛美の気分を盛り立てた。そのような場所にわざわざ「公式」と銘打って参ることは、かつての戦争を肯定する意思を示す1つの政治的行為であって、単に戦争犠牲者を悼むという素朴な国民感情の発露とは別次元のことである。

 第2に、戦後、神社本庁傘下の一宗教法人として存続した同神社は、1978年10月に密かに極東軍事裁判のA級戦犯を合祀し、それによってかつての戦争を丸ごと肯定するという同神社の政治性はますます強まった。この合祀は、昭和天皇や自民党首脳にも相談も通知もないままに行われ、一説によれば天皇はたいそう立腹して、以後同神社に参拝することを止めたと言われている(天皇は戦後も8回参拝しているが、75年11月の戦後30年祭を最後に足を踏み入れていない)。だとすると、靖国参拝は、あの戦争を遂行しながら責任を取り切れなかったことを終生苦悩し続けた昭和天皇の気持ちにも反することになる。

 第3に、同神社には朝鮮出身者2万636人、台湾出身者2万7656人の軍人・軍属なども合祀されているが、「皇民化」政策の下で民族の誇りを踏みにじられて日本軍として戦って犠牲となった彼らは、日本軍国主義の象徴たるこの場所に“神”として祀られることを喜んでいないだろう。他方、中国、台湾、朝鮮はじめアジアの側から見れば、日本人に真っ先にお参りしてほしいのは侵略した側の犠牲者よりも侵略された側の数百万の犠牲者であるに違いない。これが戦後の日本とアジアの関わりが捻れてしまう原点であり、それをそのままにしておくのは政治の怠惰であることに政治家自身が気付かなければならない。

 参考とすべきは沖縄戦終結50周年を記念して建設された「平和の礎(いしじ)」だろう。そこには、1931年9月に「15年戦争」が始まってから45年9月までの間に県内外で戦争が原因で亡くなった沖縄出身者、沖縄戦で戦死した日本兵と米兵が、国籍や軍人・非軍人に関わりなく一人一人の名前が刻銘されていて、その総数は2000年現在で23万7969人にのぼる。ここでも、朝鮮出身の戦没者の遺族の中に刻銘を拒否する人が少なくないという問題が残されてはいるけれども、敵味方に分かれて戦った戦争の双方の犠牲者を一堂で弔うという多分世界でも例がない方法によって、沖縄の人々は日本が陥っている捻れを超えていく道筋を示してくれているのではないか。▲

INSIDER No.17-2《LETTER TO THE EDITOR》国立大学の独立行政法人化をめぐって(続)

 前号で、国立大学の独立行政法人化に反対するネットワークを推進する北海道大学の辻下徹さんのメールと資料を紹介し、その際に私の考えを添えましたが、それについて辻下さんから再び意見が寄せられているので、紹介します。

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高野孟様

 おっしゃったことについて感じたことを、少しだけ書かせて頂きました。お時間があれば、お読みください。

[国大の大学関係者、教官、学生が余りにも危機感がなく...]

 表面的には「危機感のなさ」という見方を私自身もとりたくなるのですが、長年の<負け戦さ>(*1)から醸成された底知れない「諦念」が背景にあって、大学存亡の危機にも超然として日々の仕事に打ち込む、というところに最後の自負心を守ろうとしているように感じます。極端な場合には、大学がだめになって困るのは自分たちではなく、社会自身ではないか、という気持ちすらあるのではないか、と思います。

(*1) 学問の自由・大学の自治を守る戦いにおける、長期的兵糧攻めによる負け戦さ。

[国大と言う公共空間は国の予算によって維持されて当然だとでも言うような特権的な意識にあぐらをかいて...]

「特権的な意識」(*2)が無いということはないはずです。国立大学に就職することは研究を目指すものには夢ですから(*3)。しかし、その特権に応じた負荷を感じている人も少なくなく、そこにあぐらをかいているような人は例外的ではないか、と思います。ただ、本人が真面目に一生懸命やっていても空転している(ように見える)ことは有るわけです。そこで評価の必要性が叫ばれるようになってきたわけです。

(*2) 特権の内容は「学問の自由」であり、自分の判断に従って研究を進められる、というものです。
(*3) 工学系では企業の研究所への就職の方が夢である、とも聞きます。
 
[自分たちで未来を切り開くという気概と構想力を世間に向かって示しつつ“下から”大学を改革することを余りにも怠ってきた]

「下からの改革」は一朝一夕になるものではないと思います。それは学問分野ごとに必ず発生する政治力を持つ主流派が、どこまで権威の持つ負の側面から自由であり、多数派であることから持つ人事権を公平に行使できるか、等にかかっています。これは、どうしようもないことで、これを外からの力で壊すとすれば、問題が単に、学問外部の権威や人事権の問題性に移るだけのことです。独立行政法人化や民営化の場合には、パイが小さくなりますから、主流派に属することがアカデミックな社会で「生き延びる」ための条件となるでしょう。結局競争原理は働かなくなることの方が多いのではないか、という予感がします....証明はできませんが。

[今のGDP5兆ドルを超える世界有数の超絶成熟先進国=日本にあっては「公」的価値を担うのはむしろ「民」]

「「公」的な知的空間を市民の支持によって維持する」ことは理想ですが、その前提条件となる「市民」は日本社会に十分育っているのでしょうか。「市民の支持」とは、実質は種々の大学ランキング等でしかない、となる危険性が大きくないでしょうか。

[「公」はイコール「官」であり「民」はイコール「私」であるという発展途上国的=社会主義的な概念設定の下で、前者に頼って生き延びようとして後者が入り込んでくることに対してに抵抗するという図式では、まったく何ら生産的なものは生まれないと思います。]

「生き延びようとして抵抗」しているのではないことはご理解ください。生き延びることを重視する人達は独立行政法人化に賛成しています。なぜなら、10年ぐらいは、独立行政法人化してもたいして変化せず、東大・京大のような大学では、定員削減を逃れ得をする(*4)からです(東大では教員から反対の声は殆どない、東大・京大を民営化するという話が出たときの大反対から3年も経過していないにもかかわらず)。

また、民が入り込んでくることに対して抵抗しているのではなく、民という名で財界や産業界が大学を支配することに疑義を唱えているのです。産学連携にも、大学の活性化の契機の一つとして賛成ですが、産学連携以外はままこ扱いになるような大学になっては困る、と思うのです。

(*4) 国立大学のままであれば、一律に10%(場合によっ て25 %〜30%という話もある)の定員削減があるが、独立行政法人化後は「定員」という概念がなくなるので、運営交付金が増えれば、定員が増える大学もあり得る。

[国大が自分で経営方針を立てて自分で責任をもって経営するという自律の原理なくしては「大学の自治」「学問の自由」もお題目になってしまうのではないでしょうか。]

 学内でのたいへんな準備の後で新たな構想を作り概算要求をしても、不採択通知だけで理由は全く知らされない、というようなことが長年続けば、大学運営に携わる人達は、考える前に文部省のお伺いを立てるようになるのは、理解できるような気がします。これは財政を通しての行政指導ですから、制度を変えて変化するような生易しい問題ではないと思うのです。独立行政法人化の場合は、人件費まで法的保障がなくなるわけですから、行政指導の強さは今の比でなくなることは明らかです。自分で責任をもって経営するという自律の原理は、政府が心を入れ替えない限り有りえないと思います。たとえ民営化しても、補助金・助成金等による行政指導は続くはずですから、民営化で自律の原理が大学にもたらされると思うのは、根拠のない楽観であると思います。

[単なる抵抗運動に終始して、「公」を担う主体を「官」から「民」へと転換するという(私が年来主張している言い方では)「脱発展途上国の100年目の大転換」の一翼を負うものとはなりえないのではないかと感じる]

 第2期「科学技術基本計画」のような、国公私を問わず大学全体を産業の発展のために総動員するという、現代版富国強兵策では「脱発展途上国」はなかなか難しいのではないでしょうか。「金を出すから口も出す」という現在の政府の体質を改めることの重要性を市民=納税者が理解することが、「脱発展途上国の100年目の大転換」のための核心ではないか、と思うのです。

 学セクタは政治的には無に近い存在です。政治的には、従順であるか抵抗するか、だけであり、それ以外にとれる態度といえば、何が起ころうと自分の生き甲斐である学問に没頭し、政治が学問を潰すならば、それは社会の好意で存在する学問というものの定めと諦める、それが、大半の学者の思いなのかも知れません。

 ただ、私は、やはり、今の学者には大学が破壊される(*5)ことについては責任がある、と思っています。学問に対する社会の好意はあるのに、それを無視して政府や財界が大学から学問を駆逐しようとしている(としか私には思えない)ことを看過することは、未来の世代に対して申し訳が立たない、と思うのです...もちろん、学問が趣味に過ぎない社会に戻れば、学問など金持ちの道楽に戻り普通の人の人生の選択肢には入らなくなるのですから、困る人は居ないわけですから、「申し訳が立たない」などというのは空想的ですが。

(*5) カルチャースクール、専門学校、専門家養成機関、あるいは、下請け研究機関等のいずれかに特化していくこと。▲

INSIDER No.17-1《FROM THE EDITOR》

●ADSLか光ファイバーか?

 韓国で超高速のADSL回線が行き渡って、同じインターネットと言っても我々が知っているのとは別の世界が広がっていることにいささかショックを受けたので(i-NSIDER No.14本欄参照)、日本でそれに少しでも近い環境を得るにはどうしたらいいか模索を始めました。

 ADSLとは、「非対称デジタル加入者線(Asymmetric Digital Subscriber Line)」の略で、日本でNTTが提供しているのは、電子メールの送信などデータ量の少ない上り(アップロード)には512Kbps、音楽や動画などこれからは大量のデータを取り込むのが当たり前になる下り(ダウンロード)には1.536Mbpsという、上りと下りで異なる速さを用いることで、既存のアナログ電話回線をより効率的に使って高速データ通信を実現する技術です(bpsは1秒あたりに送れる情報最小単位の量)。既にかなり普及している「総合デジタル通信網(ISDN=Integrated Services Digital Network)だと、上下とも64Kですから、ADSLになると理屈では上りで8倍、下りで24倍のスピードになるわけです。

 ところが実際には、(1)端末の設置場所から電話局までの距離が遠いと信号が減耗して速度が落ちる、(2)ISDNと周波数帯が重なるのでその干渉を受けやすい、(3)NTT直下のインターネット接続サービス「OCN」を通じると下りで平均650Kbps程度の速度が確保できるが、他のプロバイダーを使うとその半分の300K程度、酷いときには30Kほどまで落ちてしまうなど、不安定極まりなく、現実にどの程度の速度になるかはやってみないと分からないのが問題です。

 韓国では、同じADSLでも2Mbpsと8Mbpsのサービスがあって、前者で月3000円程度、後者で4000円程度で提供されている。日本では、99年12月にADSLが始まったときには高すぎて加入者がほとんどおらず、ようやく4000円になって需要が伸び始め、4月下旬で10万人を突破しました。NTTはさらにこれを3000円程度まで下げて、NTT東日本の場合で言えば2001年度末までに人口の8割の地域でサービス可能な状態を作るとの方針ですが、それでも1.5Mどまり、実効的には650Kで、それでもISDNに比べれば10倍の速さだとは言えるものの、韓国と比べたらちょっと勝負になりません。

 通常の電話は4KHz付近の周波数を使いますが、ADSLは同じ銅線の中でその通常の電話では使わない周波数帯域を使ってデータ通信を行う技術です。実際には、上りには30〜120KHz、下りには140〜1.1MHzを割り当てていますが、日本では先にISDNの導入が進んで、それに4〜320KHzの広い帯域を割り当ててしまっていたので、ADSLのデータのやりとりがISDNと帯域が重なって干渉を受けることになり、速度や品質が低下します。ISDN導入がそれほど進んでいなかった欧米や、全く進んでいなかった韓国はじめアジアでは、80KHz以下の帯域をADSLのためだけに使えるので、ISDNの30倍から100倍以上という速度を実現できるわけです。

 事柄は、NHKのアナログ・ハイビジョンとそっくりです。世界に先駆けて、その時代としては最先端のハイビジョン技術を実用化したのですが、米欧はそれを世界標準として受け入れることを拒んで、デジタル・ハイビジョン技術で逆襲に出て、それが世界標準になって気が付くと日本は一周遅れになっていて、アナログも止めるわけにはいかないがデジタルもやらないわけにはいかないという、思考停止的自暴自棄のようなことになってしまった。ISDNでも日本は世界最先端を行っているつもりで、NTTが全国の電話局の交換機をデジタル対応に置き換えるための莫大な投資をして、気が付くと韓国もそこをスキップしてADSLで遙かに先に行っていたのです。

 ADSLはしょせんは中間的な技術で、超高速の本命である光ファイバーが行き渡れば、100MHzというとてつもない速度・容量になって、単にインターネットが超絶的速さになるというだけでなく、CATVもその中で放送されて別の専用回線を敷く必要がなくなるし、電話もその中に取り込まれて、Voice over IPと言って、IP(インターネット通信手順)を使って音声やファックス画像をやりとりする技術が使われて、電話局の交換機そのものが無用の長物になって、全国あるいは全世界、距離に関係ない同一もしくは定額料金になると考えられています(そういう時代を目前にしてのマイライン競争の馬鹿らしさ。だって、電話局が要らなくなるのですから──燃料電池で一家に一台発電機という時代が水平線上に見えているのに、原発を新しく作るというのと同質の馬鹿らしさです──中央集権型の情報やエネルギーの供給体制は終わらざるを得ないのだという文明論的転換を理解できない悲劇と言えるでしょう)。

 そんな時代は早くても5年先だろうという判断でNTTは、1.5MHzのADSLをこれから普及しようとしているのですが、そんな世界の大勢から外れたことをモタモタやっていると、NTTが一気に解体的危機を迎えるという事態が数年中にもやってくるのではないか。すでに「フュージョン・コミュニケーション」という会社は、Voice over IPを用いて全国一律3分20円、米国3分30円という電話サービスを提供しているし、さらに大阪の「有線ブロードネット」という会社は東京や大阪で100MHzの光ファイバー・サービスを何と月6100円で提供し始めていて、今年秋にはそれを全国の政令都市にまで拡大すると発表しています。

 NTTも光ファイバー・サービスはやっていますが、これまでは、50MHzの「スーパーOCN」が利用料込みで、な、な、なんと月1000万円、6MHzでも月200万円。さすがにこんな冗談めかしたものを使う人はいないので、今年2月から10MHzで月1万3000円(プロバイダー料金を含め2万円程度)の光サービスを始めたものの、大阪勢の100MHz=6100円という切り込みに気圧されて、10MHzを半額の5〜6000円に値下げし、さらに100MHzを月8〜9000円程度でサービス開始する方向を打ち出しま
した。ところが、そのための「光サービス会社」をNTT持株会社でやるのかNTT東西でやるのかで内輪もめしていて、今夏の発足もおぼつかないという混乱状態です。

 結局、低速ADSLが10万人を超えたとか言っているうちに、NTTの外から100MHz光ファイバーの時代が5年先ではなくもう今年のうちに開幕してしまうのではないでしょうか。だったら日本としては、光ファイバー幹線が世界のどこよりも整備されているのは事実なのですから、そこからオフィス・家庭までをファイバーで繋ぐことを国家的公共事業として推進して、2〜3年のうちに光ファイバー最先進国に躍り出るという戦略でも立てて、韓国を見返してやったらどうなのか。

 ということで、私は中途半端な日本型ADSLや、それとほぼ同価格でやや遅いCATVのインターネット接続サービス(自宅近辺のの場合下りで512KHz)をあわてて導入するのは見合わせて、100メガ・ファイバーが安く使えるまで半年か1年待ったほうがよさそうだという判断に傾いています。民主党あたりは「公共事業を光ファイバーに集中して、一気に100メガ時代を!」というスローガンでも打ち出したらどうなのでしょう。光ファイバーそのものの物理的価格は「同じ長さのソバより安い」そうですから、たいした金額じゃないと思うのですが。▲

2001年5月10日

INSIDER No.16-3《Keyword》中台共同市場

 日本経済新聞10日付によると、中国訪問中の台湾の蕭万長=元行政院長は北京市内で講演し、中台両岸がEUを参考に「中台共同市場」を創設して経済統合を進めようと提唱した。彼は、世界経済のグローバル化や情報化に対応するには中台が協力関係を強めるべきであること、そのような経済交流の進展が台湾海峡の緊張を緩和し、双方の政治的基礎を固めることにつながることを強調した。

 蕭は、李登輝政権で昨年5月まで首相に当たる行政院長を務め、陳水扁=現総統とも良好な関係にある。李訪日問題で日本を非難している中国が、その時期にこういう人物を北京に招いてこんなことを語らせているところが、中台関係の奥深さである。

 米ブッシュ政権が「中国=主敵論」に傾いて、放っておけば台湾海峡の緊張が激化しかねない中で、中台双方がこのような回路で関係強化を模索し始めたことは重要なヒントであり、日本は韓国、北朝鮮、中国、台湾を包摂した東アジア経済・安保共同体づくりの構想を打ち上げてこの流れを促すべきである。▲

INSIDER No.16-2《LETTER TO THE EDITOR》国立大学の独立行政法人化に反対するネットワーク

 北海道大学の辻下徹さんという方から、政府が強引に推し進める国立大学の“独立行政法人化”に反対する全国ネットワーク結成についての情報と要請が届きました。私は、今の独立行政法人化には反対ですが、このような大学への攻撃を招いたのは大学関係者の怠惰のせいだと思っているので、このネットに入会もしくは賛同することは留保させて頂きましたが、反対することには反対でないので、以下、(1)辻下さんの私宛メール、(2)「国立大学独法化阻止国民ネットワーク」(仮称)結成の呼びかけ、(3)私の辻下さん宛お返事をそのまま紹介します。(3)に対してはその後辻下さんから意見が寄せられているので、それも次の号で紹介し、この問題で広く議論が起こるための一助にしたいと考えています。

《(1) 辻下さんの私宛メール》

高野 孟 様

 はじめまして。私は、北海道大学大学院理学研究科で数学の研究・教育に携わっている者です。

 よくご存知のように一昨年に自自連立時の合意事項「25%公務員削減」実現のための数合わせの方策として、行政組織の中で政治的に無力な国立大学を独立行政法人化することが検討されはじめました。これは、名前とは裏腹に、国立大学全体を(そして、やがては日本の大学)全体を行政に従属させるものであると同時に、過度の競争原理・効率主義を大学に持ち込み、大学を知の共同体の場から、一将成って万骨枯る殺伐たる弱肉強食の世界に変貌させ、自由で活気と希望と喜びに満ちた知的活動を日本から駆逐すると同時に、日本社会の病を察知し警告する器官としての機能(既に余り働かなくなっているとは思うのですが)を完全に失わせることが懸念されます。しかし、こういったリスクはほとんど言及されず、国立大学の独立行政法人化があたかも大学改革の有効な方法であるかのように語られていることを危惧し、個人的に種々の視点を与える情報・文書を捜しインターネット上でアクセスできるようにしております。最近では毎日平均1800件のアクセスがあります:http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/dgh/

 3月に次期科学技術基本計画が策定され、5年間で24兆円という予算の配分は徹底した競争原理の導入が条件となっており、国立大学独立行政法人化も、その中で重要な役割を期待されています。確かに、理工学も含め、研究活動は社会全体のありかたと調和することにより活性化するものですが、研究者が自由な判断・決断・活動とを許されてこそ、研究者集団と社会との相互作用は生きたものになります。身分まで不安定して学者同士を生存競争に駆り立てるようなことは線香花火的効果を除けば、単に次世代の中で学問を志す者を激減させる効果しかないように思います。しかし、これは、政策に影響力のある財界・官僚・政治家の方々には、例外を除いて、理解して頂けません。ジャーナリストの大半も、独立行政法人化反対の運動を単なる既得権墨守と位置づけています。

 この度、大学を越えた運動として、また、政治的な党派性と無関係な運動として、教育学者の山住正己氏を代表者(予定)とする「国大独立行政法人化阻止、国民ネットワーク」(仮称)が結成されることになりました。高野様には、競争原理を過信する学術・教育政策の持つ危険性をよく理解して頂けるのではないか、と思い、御手紙を差し上げました。趣旨(添付文書1)をご理解頂けましたら、是非参加下さいますよう御願い申し上げます。また、可能でしたら呼びかけ人あるいは賛同人になって頂ければ幸いです。

 なお、大局的に見ますと、独立行政法人化がたとえ阻止できたとしても、大学企業化政策は着々と進んでおり、大学は知の共同体を支える場ではなくなっていくことが懸念されます。昨年、大学を越えた知の共同体をインターネットを利用して形成する趣旨で、Academia e-Network(仮称)の設立を呼びかけました。

 現在は、理系研究者が中心ですが、少しずつ、一般の方々からの賛同も集まってきております。こちらも、もしも趣旨に賛同頂けましたら参加頂ければ幸いです。

 御忙しい中、大変恐縮ですが、どうぞ、日本社会の劣化を加速する行政による大学破壊を食い止めるために、高野様のお力をお貸し下さいますようにお願い致します。

辻下 徹

北海道大学大学院理学研究科
代数構造学講座 教授
〒060-0810 札幌市北区北10条西8丁目
TEL and FAX 011-706-3823
tujisita@math.sci.hokudai.ac.jp
http://fcs.math.sci.hokudai.ac.jp/tjst


《(2)「国立大学独法化阻止国民ネットワーク」(仮称)結成の呼びかけ》

呼びかけ人一同(末尾にリスト)
世話人 豊島耕一(佐賀大学)
電話/ファクス 0952 - 28- 8845
メール toyo@@cc.saga-u.ac.jp


 わが国の国立大学における「学問の自由」は、その100年の歴史の中でいま重大な 危機にあります。

 国立大学の独立行政法人化(独法化)は単に国立大だけの問題ではなく、また公私立 も含めた大学だけの問題にも止まりません。国民全体に関わるものです。そこで、政府のこの無謀な政策を止めさせるための、職業や立場、党派や国籍を超えた人々のネットワークを作りたいと思います。自由を愛するすべての皆さんの参加を呼びかけます。

◆独立行政法人化とは

 独立行政法人制度とは、従来の組織から「企画・立案」機能と「実施」機能を分離して、前者を行政当局に移行させるということを主眼としています。これは法律では大臣による「中期目標」の設定として規定されています。これに沿って独立行政法人は数年の期間についての「中期計画」を作成して大臣の認可を受けなければならず、またその計画の達成度を行政当局によって評価されます。それによって予算がコントロールされるだけでなく、大臣が廃校の権限まで持つようになります。

◆文部省も反対し続けていた

 国立大学を「独立行政法人」化するという政策が提案されて以来、当時の文部省はずっと反対を続けていましたが、一部の圧力に屈し一昨年この容認に転換しました。大学の自治と学問の自由に責任を負うべき国立大学協会も、これに呼応するかのように文部科学省内に作られた具体化のための「調査検討会議」に参加し、表向きの「反対」の言葉とは裏腹なきわめて曖昧な態度をとり続けています。このような両者の姿勢は「説明責任」を無視し、国民の信頼に背くものです。

◆独立行政法人化でどうなるか

 このような制度が国立大学に適用されれば、「独立」という接頭語とは正反対に大学は政府の直接的な管理・統制下に置かれることになります。これが学問の自由とそのための大学の自治を保障した憲法23条に、そして教育への「不当な支配」を禁止した教育基本法10条に反することは明かです。

 大学での教育と研究は大きな影響を受けるでしょう。教育内容は画一化され、研究も短期的な成果ばかりを求めるようになる恐れがあります。国立大学は現在、たとえば化学分野での論文数は世界十位までに日本の八校がランクされるなど、国際的にも重要な位置を占めていますが、このような水準を維持することも難しくなるでしょう。

 しかし何よりも重大なことは、大学の社会に対する批判的な機能が致命的な打撃を受けるため、国家がその重要な警報装置の一つを失うということです。学問の自由を、そして言論の自由を失った日本がどこに突き進んだかを、思い返してください。大多数の国民が戦争で塗炭の苦しみを舐めたのはわずか数十年前のことです。

◆国立大学だけの問題ではない

 授業料が値上げされ、教育の機会均等がさらに奪われる危険性も重大です。また、経営上の配慮から入学者の数を増加させ、それによって学生の勉学条件が悪化する可能性があります。これはまた、経営基盤の弱い私立大学から学生を奪うことになるという指摘もされています。

 独立行政法人に関する法律は国の機関に限定されているにも拘らず、公立大学まで「独立行政法人化」しようという動きもあります。さらに、国立大学という大学社会の一角で自由が奪われることは、私立大学にも少なくない影響を及ぼすでしょう。

◆大学の自由を拡大し、国民の意見を大学に

 国立大学の改革はむしろ、現在行われている様々な官僚的な規制を撤廃して大学と諸構成員の自由と権利を拡大する方向でなされなければなりません。その中でも学生の権利の拡大は重要です。そうすれば大学は、1998年のユネスコ高等教育宣言にあるように、独立した批判力を十分に発揮できるようになるでしょう。

 そのためにも、国民・納税者の意思を国立大学に反映させることは、「学問の自由」と矛盾しない方法で、むしろ積極的に追求されなければなりません。

◆まだ何も決まっていない

 いくつかのマスコミは国立大学の独立行政法人化が既定の事実であるかのように扱っています。しかし国会審議も始まらないうちの「事実上の決定」などということは我が国の法制度の根幹を否定するものです。多くの国民が声をあげることで、私たちの財産である国立大学の破壊を止めさせましょう。

 この文書に触れられた全ての皆さんに国民ネットワークへの参加を呼びかけます。

2001年5月1日

----------------- 入会フォーム --------------------

「国立大学独法化阻止 国民ネットワーク」(仮称) への参加、賛同をいただける方は、次の項目を世話人、豊島耕一までお知らせ下さい。
Tel/Fax 0942-43-6184、メール toyo@cc.saga-u.ac.jp
メール、ファクス、郵便、何れでも結構です。

---------------------------------------

氏名 (団体名)

住所

FAX

メール

次の何れかを選んで下さい。 (1) と (3) は氏名(団体名)が公表されます。
(1) 呼びかけ人に加わり、設立と同時に入会します
(2) 設立時に入会するつもりです
(3) 会員でなく賛同人(または賛同団体)になります

なお、入会金千円、会費なしの予定です。

---------------------------------------
◆結成総会
5月18日、16時30分〜18時30分
東大 本郷キャンパス内

◆呼びかけ人(省略)

《(3) 高野の辻下さん宛メール》

 国立大学独法化についてのお便りと資料をありがとうございました。帯広、韓国、沖縄と2週間の旅ガラスでお返事が遅れました。

 私は、いま進められている“上から”のカッコ付き「大学改革」としての独法化には反対です。しかし、こういうことが罷り通って、それへの反対運動が(おっしゃるように)多くの人々の理解を得られないような状況は、率直に言って、国大の大学関係者、教官、学生が余りにも危機感がなく、国大と言う公共空間は国の予算によって維持されて当然だとでも言うような特権的な意識にあぐらをかいて、自分たちで未来を切り開くという気概と構想力を世間に向かって示しつつ“下から”大学を改革することを余りにも怠ってきたことの裏返しだと思います。

 少し原理的ことを言うと、明治から100年余りの日本の発展途上国システムの下では、「公」的価値の形成はもっぱら「官」に委ねられていたのに対して、今のGDP5兆ドルを超える世界有数の超絶成熟先進国=日本にあっては「公」的価値を担うのはむしろ「民」であって、公立大学という「公」的な知的空間を「民」=市民の支持によって維持するには、その支持を集めるための競争原理が導入されるのは当然だと思います。競争原理と市場原理は一部は重なりますが、実は別物であって、市民=有権者=納税者の支持を競い合うという意味での競争原理と、「私」的な利益を追求する者たちの戦場としての市場が至上の決定者であるとする市場原理とは、一応はっきりと区別しなければなりません。

 そこで、国大が引き続き、「公」はイコール「官」であり「民」はイコール「私」であるとい発展途上国的=社会主義的な概念設定の下で、前者に頼って生き延びようとして後者が入り込んでくることに対してに抵抗するという図式では、まったく何ら生産的なものは生まれないと思います。国大が自分で経営方針を立てて自分で責任をもって経営するという自律の原理なくしては「大学の自治」「学問の自由」もお題目になってしまうのではないでしょうか。そういう意味で、独法化に反対するという貴会の趣旨には共感しつつも、それだけでは単なる抵抗運動に終始して、「公」を担う主体を「官」から「民」へと転換するという(私が年来主張している言い方では)「脱発展途上国の100年目の大転換」の一翼を負うものとはなりえないのではないかと感じるので、入会もしくは賛同は留保させて頂きます。

 しかし、貴会の趣旨には反対ではないので、以上のような内容の個人的コメントを添えて、貴殿からのメールと「結成のよびかけ」をINSIDERで紹介させていただきます。▲

INSIDER No.16-1《FROM THE EDITOR》2001/05/10横浜発

●旅から旅への2週間

 4月25日から連休を挟んで5月8日まで、帯広(講演と乗馬)、ソウル・浦項(韓国経済とIT革命の取材)、鴨川(田植え)、沖縄(「サンデー・プロジェクト」番組スタッフ&出演者の研修?旅行)と旅が続いて、その間自宅に着替えを取りに戻ったのは2晩だけという、ちょっと珍しいスーパー・ゴールデン・ウィークでした。昨日、今日は久しぶりに自宅で山のようになった新聞・雑誌、郵便物、ファックス、そしてメールを整理しながらこの原稿を書いています。

 韓国取材の一端はNo.14本欄で触れました。今週の『Newsweek』のカバー・ストーリーは「韓国をうらやむ日本人」で、女性のエステや超高速回線が各家庭にまで行き渡ったIT革命やソフト開発、『シュリ』に続いて間もなく公開される『JSA』などの映画、さらには政府が進める大胆な経済構造改革まで、かつては韓国を軽んじていた日本人が今では同国を羨望の的にしていると書いていますが、まさにその通りです。他方、韓国もまた日本ブームで、日本映画に長蛇の列が出来るし、日本語熱はますます盛ん。原宿のような若者の街=明洞(ミョンドン)では「日本ホンモノタウン」というビル1軒丸ごと日本の憧れ商品を集めたショッピングモールがオープン間近で、和服姿の若い韓国女性が辻々でビラを配っていました。10日付毎日新聞“記者の目”欄で澤田克己ソウル支局員が、教科書問題で「韓国の人々は頭から湯気を出して怒っているに違いない」と日本人が思っているのは「誤解」で、韓国人は確かに怒ってはいるが、感情的になって過激な行動をしているのは一部だけだと書いているのは、本当です。

 韓国取材の最終日の5月4日には、ちょうど訪韓中で前日に金大中大統領と会談した鳩山由紀夫さん以下民主党代表団の面々と梨花女子大裏のレストランで昼食を共にしました。彼らの感触では、大統領は、彼が就任以来進めてきた“未来志向”の日韓関係構築と日本文化の輸入解禁措置の積み重ねがこんなことで後退しかねないことに胸を痛めている様子だったと言います。とはいえ、野党や野党系マスコミがこの問題を金大中いじめの材料に利用しようという思惑でガンガン突き上げてくれば、韓国政府としては日本に対して強硬な“再修正”の申し入れをせざるを得ない。そうなると日本政府も一旦検定合格の判を押したメンツがあるからそれを突っぱねる。これでは結末の着けようがないですから、そこでこの教科書を作った人たちが、東京に立てこもって「内政干渉だ」などと叫んでいないで、堂々と韓国を訪れて向こうの一流の学者たちと学問的な公開論争をする──そのついでに韓国にも日本より優れたものがたくさんあることを謙虚に学んでくるのが一番いいと思うのですが、彼らはその勇気も持ち合わせていないようです。

 大統領のみならず一般の国民にも、18年前の教科書問題の時や、5年前の竹島(独島)問題の時のようなとげとげしい“反日”の空気は全くと言っていいほど感じられません。私は、教科書問題を糾弾するネット市民運動の1つで、日本の文部科学省などのサーバーにアタックをかけた張本人でもある「独島守備隊」本部や、その問題を告発する「殺気」と題したホームページを1人で立ち上げた中学3年生の自宅を訪れましたが、彼らも実に冷静で、「こんな教科書を作ろうとしているのはごく一部の右翼」「日本人全部を悪く言うような投稿に対しては『そうではない』と注意を与えている」などと語っていました。

 そういう流れからすると、韓国人が怒るような歴史教科書をわざわざ作って、そんなことで日本人の“誇り”が取り戻せるかに思っている一部右翼のちゃちなナショナリズムは、すでに日韓双方の若い世代によって蹴散らされていると考えていいでしょう。そのことに気付いていないのがこの人たちの哀れなところです。

 なお経済改革とIT革命を中心とした韓国取材の報告は6月3日の「サンデー・プロジェクト」で行う予定です。

 さて、安房鴨川の「鴨川自然王国」では5月5日、棚田保存トラスト会員や農作業ボランティア約40人が集合して、3反3畝ほどを膝まで泥に浸かりながら半日がかりで田植えしました。今年は1反は仮に全滅することがあっても無農薬・無化学肥料栽培を貫き、残りの2反余りは、稲水ゾウ虫予防のために育苗時に最小限の消毒を行い、またやむを得ない場合の農薬使用に関しては栽培委託農家の判断に任せる低農薬栽培とすることになりました。どちらにしても除草剤は使わないので、これから草取りが大変。炎天下、地獄の草取りを体験したい方は、6月2〜3日と6月30日〜7月1日の2回予定されていますので、どうぞ。

 田植えと宴会の後、サウナで酔いを醒まして夜中に1時間半、車を飛ばして東京全日空ホテル入り。翌朝の「サンデー・プロジェクト」に出て、そのまま田原総一朗さん夫妻をはじめ同番組の出演者やスタッフと共に梅雨入りした沖縄へ。名護の海辺のリゾート・ホテルで釣り、ダイビング、ゴルフなど思い思いに過ごすのんびりした2泊3日でしたが、2日目の夜は希望者8人でタクシーを1時間飛ばして那覇・国際通りの喜納昌吉&チャンプルーズのライブハウス「チャクラ」に出動。10カ月ぶりにナマの「花」に泣いて「ハイサイオジサン」で踊って、その後は喜納さんの妹が最近開いたおしゃれなラウンジ・パブで彼の延々と続く神懸かり的な“お説教”を聴いて……といういつものパターンで深夜1時過ぎまで古酒を煽り続けたのでした。

●『週刊現代』に書評を書いた

 『週刊現代』の今週号に森永卓郎『成功するEメール、失敗するEメール』(講談社)の書評を書きました。「情報を発信している人のところには情報が集まる」という著者の捉え方に賛成です。

 それから、毎日新聞社『週刊エコノミスト』の5月21日発売の号の「小泉“新世紀維新”内閣とは一体何なのか」という特集に、アンケートへの回答という形で私見を述べました。

●玉木正之「スポーツと日本人」が楽しみ

 スポーツ評論家/音楽評論家/作家の玉木正之さんがNHK3チャンネル23時「人間講座」で6月6日から毎週水曜日“スポーツと日本人”9回シリーズを放映します。「ヨミウリとかナベツネとか名前は出さないが、相当思い切った企業スポーツ批判をやれそうだ」とご本人も張り切っていて、これは楽しみです。玉木さんと私は、古い本誌読者の方はご存じですが、Jリーグ創立の時から「反ナベツネ・親川淵チェアマン」で共同戦線を張ってきました。発展途上国型の国家スポーツ・企業スポーツから先進国型の市民スポーツへ──というのが、私が玉木さんや川淵さん、それにラグビーの平尾さんなどと共有するコンセプトです。

●麻布の「がま池」が危ない!

 「DEEP AZABU」という麻布“地元学”探求の個人ホームページを開いている岩田隆之さんから久しぶりに次のお便りがありました。

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   現在麻布では、がま池の存続問題が表面化しているようです。私のペ−ジDEEP AZABUにも地元有志の『麻布山の水系を守る会』から下記のメ−ルが届きインタ−ネットによる署名運動を展開している事を知りました。是非皆様にも一度、同会のホ−ムペ−ジをご覧いただき、趣旨に賛同なされた方には一人でも多くの方のご署名をお願い致します。

『麻布のガマ池をできれば港区に買いとって頂き、せっかくの自然を保護しながら、みんなで楽しめる公園にしたいという主旨で署名を集めています。この度、麻布山の水系を守る会としてホームページを立ち上げ、港区長宛てに署名を集めています。是非ご覧になって、ご賛同いただけたら、ご署名おねがいいたします。できるだけ多くの署名を集めたいので、ご家族がお知り合いの方々にも広めていただけたら幸いです。http://www.beat4u.co.jp/gamaike/

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 私も早速署名しました。港区の住人はもちろん、そうでない方もどんどん署名に参加してください。なおDEEP AZABUはhttp://www.246.ne.jp/~pap0456/azabu.htmlです。これだけ麻布にこだわったサイトも他にないので、是非ご覧下さい。▲

2001年5月 9日

INSIDER No.15《NEW CABINET》小泉内閣の前途多難──疑似改革派政権の限界

「小泉首相は大変ですね。金泳三前大統領と同じで、何もやらないうちから余り人気が高いと、あとは下がるしかない訳ですから。何かをやらなければたちまち人気が落ちるし、何かをやっても最初の期待通りではないからといってまた人気が落ちて、最後は焦ってくだらない人気取り政策に走ることになる」

 在ソウルの知日派知識人は、発足早々の小泉内閣が87%の史上空前に達したとの読売新聞調査を聞いて、そう述べた。初めての軍人出身でない大統領として93年に登場した直後の金泳三の支持率は、奇しくも87%で、以後は何をしてもしなくても人気は下落する一方となり、それを何とか挽回しようと任期半ば過ぎに打った手が、旧朝鮮総督府の建物を取り壊して韓国民の“愛国心”に媚びるという低劣な政策だった。

 もちろん小泉政権が金泳三と同じ運命を辿ると決まった訳ではないが、国民の期待という移ろいやすいものだけに直接に依拠して、旧権力構造に棲む妖怪変化たちの決死の抵抗と戦わなければならないポピュリスト政権は、しばしばそういう詰まらないコースに填り込むものだという、それは1つの歴史の教訓である。

●戦略論的レベル

 小泉政権は、改革派政権であるには違いないが、本来、改革派政権はこのような形で生まれるべきでなかったにも関わらず、図らずも中途半端に生まれてしまったことの限界を初めから抱え込んでおり、その意味で疑似改革派の政権である。

 今回の自民党総裁選は、経済政策の根本をどう据えるかという戦略論的レベルでは、「構造改革なくして景気回復なし」と主張する小泉と、「日本は不況である」との前提に立って財政主導によるバラマキ的景気刺激策を続けるべきだという小渕政権以来の路線を推進する亀井静香とが基本的な対抗軸を形成し、橋本龍太郎と麻生太郎がやや亀井寄りながら中間派に位置するという構図で行われた。

 本誌が何度か指摘してきたように、この構図は3年前の総裁選と基本的に同じである。(1)当時、政権の座にあった橋本は、構造改革・財政再建なのか景気対策なのか、どっちつかずのままウロウロを繰り返して国民の不評を買って参院選に敗北、辞任し、それを受けた総裁選では、(2)小渕が「私は(橋本のように)ためらうことなく景気対策一本で行く」と宣言し、(3)対抗馬の1人だった梶山静六は「小渕の言うような通常の景気対策をいくら重ねても日本は元気にならないのであり、金融構造の外科手術的改革を先行させなければならない」と主張し、(4)もう1人の小泉は「郵貯民営化」の持論を展開して、日本最大の銀行であり世界最大の国営銀行である郵貯の資金運用が第2予算である財政投融資に膠着させられている現状を打破するところから財政構造の改革を始めるべきだと主張した。今回の総裁選は、(4)の主張を薄めて(3)とミックスしたような小泉と、(2)をそのまま引き継いだ亀井が対抗し、(1)の橋本は相変わらずで、さらに(2)と(4)の中間に麻生がいた訳で、人は変われど同じ構図である。それで今度は小泉が勝ったのだから、これはひとまず構造改革派の勝利である。

 当選後の初会見で彼は、「私は『構造改革なくして景気回復なし』との認識に基づき、この内閣を『改革断行内閣』とする」と宣言し、不良債権処理をはじめ緊急経済対策の実施、ITなどの分野での規制改革の推進、先端科学技術への研究開発投資の促進などを強調しつつ、さらに構造改革そのものについて次のように述べた。

「民間に出来ることは民間に委ね、地方に任せられることは地方に任せるとの原則に照らし、特殊法人、公益法人の改革、地方分権の推進など徹底した行政改革に取り組む」

●戦術論的レベル

 この言いぶりが、大枠で間違ってはいないが、恐ろしく曖昧であることについては次号で触れることにしよう。問題は、今回の総裁選が現実には、自民党が参院選に勝つには誰がいいかという戦術論的レベルで戦われ、(1)小泉の応援団長を田中真紀子が買って出て、ますます「何かやってくれそう」な雰囲気を振り撒いた“変人連合”と、(2)「何も出来そうにない」ことが過去の実績で示されている凡人=橋本との間で擬似的な対抗軸が作られて、しかも(3)戦略的に敵であるはずの亀井とは本選前に早々に妥協し、(4)同様に味方でないはずの麻生とは党人事で妥協して政調会長という政策の要のポストを与えてしまった。小泉が真の改革派であろうとするなら、このような訳の分からない勝ち方をすべきではなかった。

 もちろん自民党の党内政治は権謀術数の世界であり、小泉のような一匹狼が勝つには「何でもあり」のしたたかさを発揮する以外にないのは事実である。しかし、それによって戦略論的レベルの対抗軸がますます曖昧化し、ただ単に、あれこれの思いつき的発言を乱発しながら国民の支持を集め、それを頼りこれから始まる橋本派を中心とする利権政治家たちによる舅の嫁いびり風の陰惨な報復に対して抵抗を試みるだけのポピュリズム政治に終始するのであれば、何のために勝ったのか分からなくなる。

 本当の改革は、自民党が政権に就いたままでは出来るはずがない。自民党は、解体されるべき過去100年の“お上にお任せ”の国家運営システムの寄生者であり、その意味でまさに構造改革の対象であってその主体とはなり得ない。そこのところが腹にすわっていなかったが故に加藤紘一が挫折した後では、小泉にとって現実的な改革者の道は、橋本の下で参院選が惨敗に終わるのを見て加藤や石原伸晃ら若手改革派を引き連れて自民党を離れ、“小泉新党”としてかつての細川新党に匹敵する人気を集めながら衆院選を戦って、民主・自由両党などと共に非自民の本格的な構造改革政権を作ることにあった。それならば、上述の戦略論的レベルの転換の意味は広く国民に理解されることになったに違いない。

 現に石原らは、そのような展開を予想して離党を覚悟していた。ところが小泉が勝ってしまい、石原は入閣して小泉流ポピュリズムの一端を担って自民党の参院選勝利を目指す羽目になった。運命の皮肉と言えばそれまでだが、さて小泉や石原が本物の改革者であろうとすれば、守旧派との全面戦争に打って出て、結局、自民党をより深く分裂させる結果となる。彼らが半端な改革派ブリっ子にとどまるなら、単に自民党支配を延命させ構造改革を遅らせるだけになる。そのどちらに傾くかは、彼らがどのような構造改革プログラムを打ち出すかでおおよその見極めがつくことになろう。▲

2001年5月 1日

INSIDER No.14《FROM THE EDITOR》2001/04/28ソウル発

●ソウルの「PC-VAN」を見て驚愕した

 5年ぶりの韓国取材で連休をソウルで過ごしています。韓国の金融・財閥改革、それと裏腹のIT革命が日本のそれとどう違うかがテーマで、その一環として昨日は、ソウル市内だけで3万軒を超えてなお増え続けているパソコン喫茶「PC-VAN」の1つを覗きに行きました。薄暗い照明の下にPentiumIIクラスのパソコンが6列65台がびっしりと並び、土曜日の午後ということもあり中学生から20歳代のサラリーマン風まで若い人たちで満席。1時間200円程度(ここは盛り場の真ん中にあってちょっと高級でコーヒー飲み放題でこの値段ですが、普通は1時間100円)で、超高速のADSL回線を使って思い思いにオンライン・ゲームやビデオ・チャットなどを楽しんでいます。

 今一番人気のオンライン・ゲームは米製の「スタークラフト」というバトル系。たくさんあるサーバの1つを選んで入ると、「現在このサーバには6万3861人がアクセスし、1987組のゲームが行われています」と表示があります(もちろん刻々と変化する)。すでに行われているゲームに「私も混ぜて」と入ってもいいし、自分で新しいゲーム空間を設定して相手を募集してもいい。新しく立ち上げると、数秒を経ずして応募者が現れて、「こんにちは」「何がこんにちは、だ。俺は389勝137敗のツワ者だ。お前なんか叩きつぶしてやる」「いやいや、お手柔らかに」と早くも火花が散ります。30秒ほどで4人が揃ったところで(2人から6人までやれる)ゲーム開始。右手でマウス、左手でキーボードを目にも止まらぬ早業で操作して、それぞれに器材を選択して陣地を構築し、そこに燃料を掘って補給体制を整え、やがて頃合いを見て相手に攻撃を仕掛けるのですが、その間も素早く自分の陣地に戻って構築を進め、また別の相手からの不意打ちに対処しなければなりません。何も知らない我々には、何が何だか分からないスピードですが、案内役のホアンさんは「2週間くらい毎日数時間やれば基本を覚えて、オンラインで参加できるようになりますよ」と事もなげに言います。

 スタークラフトは、全世界で450万枚売れたうち韓国で300万枚売れたということで、最近は米ゲーム会社も英語版のゲーム新発売と同時に韓国語版も出して、日本語版は後回しなのだそうですが、それもそのはずで、このようなゲームをオンラインで楽しむには、2〜8メガの容量を持つADSLがくまなく普及していなければ話にならない。しかも、対戦相手を決めるまでの対話はリアルタイムの韓国語のチャットだし、ゲーム途中で例えば自分の同盟者に「10秒後に総攻撃を仕掛けるぞ」「了解」といった瞬時の会話を交わすのは英語ですから、キーボードを10本指のブラインドタッチで完全に使いこなせなければとうてい参加の資格はない。日本では、ほどんどがせいぜいISDNの64キロ回線、ようやくサービスが始まったADSLの加入者は数万人で、キーボードも両手の人差し指だけでポツポツと打っている人が多いという有様です。このPC-VANでゲームを体験して、それで飽き足らない人が自宅にもADSLを導入することで(2〜8メガで月3〜4000円で使い放題)、韓国はアッという間に超高
速回線の普及度世界第2位にのし上がった訳ですが、日本の場合は同じ世代の若者たちはスタンドアローンのゲーム専用機に夢中になっていて、最近のゲーム機にはインターネット接続機能が付いていても肝心の回線が低速ではゲームは出来ません。これでは、10年経っても日本が韓国に追いつくことはないでしょう。

 今日は、ロッテワールドで開かれるオンライン・ゲームのチャンピオン大会を観戦する予定です。こういう大会はしょっちゅう開かれていて、テレビの中継もあります。一定の成績を収めると賞金が貰え、さらに実績を重ねると「プロ」の資格認定があるということで、最年少は5歳の子供。小学生でも年に数百万円の賞金を稼ぐ子がたくさんいるそうで、日本なら大問題ですが、ゲームをやっているとパソコンやキーボードの操作はもちろん、英語や日本語も覚えてしまうし、大学によってはゲームの達人の優先入学制度を設けているので、親にしてみれば、子供が金は稼ぐし技術を身につけて大学に入れるならこんなにいいことはないと、暖かく?見守っているのだと言います。

 韓国最大の企業「サムスン電子」は、半導体、携帯電話、オーディオ・ビデオ、家電で日本の大手電機メーカーと世界市場を競っていますが、サムスン電子1社の純利益60億ドルはすでに日本の日立、東芝、松下、NEC、三菱電機、富士通、ソニーの大手7社の純利益合計を上回っているという驚くべき事実に、多くの日本人はまだ気付いていません。しかも、そのような韓国電子産業を担う次世代の人材がこのように超高速オンライン・ゲームを通じて膨大に育成されていることを思うと、日本の「ITブーム」などまるで児戯に等しいことが分かります。「日本のモノづくりパワーは21世紀に大いに花開くだろう」という私の年来の主張も大きく揺らいでしまった今回の韓国取材でした。▲

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