3月26日投票の千葉県知事選挙で、超がつく保守・土建王国の千葉に初の市民派知事が誕生する公算が大きくなっている。旋風の目は、連合が擁立し民主党と社民党が推薦した、まったく無名と言っていい団塊世代の新人候補で都市計画プランナーの若井康彦。県議会の大半を占める自民党系2会派が混乱を重ねて、告示前1カ月になっても候補を絞り切れず、ほかには共産党の医師=河野泉が立候補表明しているのと、一部環境派市民団体が元さきがけで現無所属の堂本暁子参院議員に出馬を求めているが、まだ流動的であるため、若井が県経済界や自民党系の一部県議の支持も得て勝つ可能性が大きい。パターンは違うが、長野県や栃木県で起きたのと同質の市民革命が千葉県でも起こるかもしれないということである。
●自民党のドタバタ
現職の沼田武知事が昨年11月、4月までの任期一杯で退陣する意向を表明したあと、自民党側では岩瀬良三参議院議員が一部の県選出国会議員らの支持を得ていち早く出馬を表明した。岩瀬は、県商工労働部長、教育長を務めたあと県商工会議所専務理事を経て95年に千葉選挙区から初当選して現在1期目。しかし「県議会議員会」と「ちば21」の2派66人の自民党系県議の間ではまったく信望がなく、県議たちと一部国会議員はもう1人の参議院議員=倉田寛之を推す動きに出た。倉田は県議出身で3期目のベテラン。岩瀬が抜けた後の千葉選挙区で今年の参院選を戦うということで公認も得ており、知事選に出るつもりは毛頭ない。出たい人は出したくなく、出したい人は出たくないという状況の中で、県に縁のある現職自治官僚、大学教授、マツモトキヨシの息子などの名前も挙がったが消え、また自民党本部からは元労働省女性局長の藤井龍子を強く推してきてが県連側が拒むといった混迷が続き、結局、告示を1カ月前にして県連会長の中村正三郎衆議院議員(元法相)と同幹事長の飯島重雄県議が辞任する騒ぎにまで発展した。
岩瀬は、自民党の推薦が取れなくても出馬する意向で、近く記者会見を開いて政策を発表する構えである。国会議員のうち中村や臼井日出男らは岩瀬推薦に踏み切るべきだとの考えだが、県議側には依然として岩瀬嫌いが強く、飯島ら一部はむしろ「若井のほうが遙かにマシ」という考えで若井陣営に接近している。ところが、若井本人も、支持する連合千葉や民主党も「自民党との相乗りはかえってマイナス」との判断で、「もし自民党が推薦を決めれば『相乗りは迷惑だ』という声明を出す」(民主党県連)という強気の態度をとっている。このため、自民2会派の代表による「知事選対策協議会」は13日までに「岩瀬か若井か」で結論を出す予定でいたが、「若井に乗るしかない」「いや、若井を推薦して断られたら大恥ものだ」「ここまで来たら岩瀬推薦しかない」「それより立候補断念のほうがマシだ」などと紛糾して結論に至らなかった。
若井側が断ると言っているのに推薦するわけにはいかず、結局は中村らの意向に沿って岩瀬擁立に向かう公算が大きいが、実働部隊である県議たちが元々嫌いな岩瀬のために、しかもこのゴタゴタで白けきったあとに、熱心に選挙に取り組むわけがなく、むしろ「もう誰を推しても間に合わない」とあきらめムードが広がっているという。
●岩井急浮上の背景
民主党側の候補者選びも難航していた。民主党の本部や県連は、当初、党副代表の岩國哲人代議士(東京比例)に出馬を要請していたが、彼にその気はなく、他方、連合千葉は野田市の根本崇市長に話を持ちかけ、また民主党県連と提携関係にある市民団体「21世紀の千葉を創る県民の会」は堂本の擁立を熱心に働きかけるなど、バラバラ状態だった。その中で、連合中央幹部の個人的な繋がりから突然浮上したのが岩井で、民主党と連合は一気に彼でまとまった。しかし「県民の会」は堂本を擁立して「環境」一本で戦うことにこだわり、このため民主党県連と同会の候補者一本化は成らない見通しとなった。
岩井は、1946年千葉県佐倉市生まれ、市川市の小学校から名門・千葉大付属中学、都内高校を経て東京大学工学部都市工学卒業後、東京で「地域計画研究所」の代表を務め、東京下町の防災計画や千葉を含めて全国各地の都市計画や地域振興計画、さらには海外各国の国土計画の立案を担当した地域計画のプロである。5年前に、熊本県阿蘇地域の12市町村が出資する財団法人「阿蘇地域振興デザインセンター」の人材公募に応じてその事務局長に就任、地域づくりのコーディネーターとして多彩な活動を繰り広げつつ、国土庁地域活性化センターの地域振興アドバイザーや「九州ツーリズム大学」講師なども担当した。『若者と都市』『生活リゾートの創造』『分権の時代と地域づくり方法論』など著書も多数ある。
岩瀬や堂本の67〜68歳と比べて一回り若く、共産党の河野の60歳よりまだ6つ年下という若さに加えて、都市計画・地域振興計画のプロであり、しかも最近5年間の阿蘇暮らしを除いて千葉県で人生の大半を過ごしていて同県の抱える問題について詳しい。先週行われた立候補表明の記者会見では、どんな県政の懸案事項について聞かれてもそれなりの考えをすらすらと述べて、「阿蘇の山の中から出てきたというが、どんな奴なんだ」と思っていた記者連中をビックリさせたという。環境一本の堂本や批判するばかりの共産党候補には出来ない芸当である。
長野県の田中知事の場合は、情熱と勇気だけで県政の伏魔殿に切り込んで行ったのだが、若井にはプロとしての豊富な知識と土地勘、そして自治体を動かして何事かを実現していくためのノウハウがある。もちろん“土建王国=千葉”の構造改革は並大抵のことではなく、田中以上の激しい戦いを強いられるだろうが、その王国を支えてきた自民党県議団は、公共事業の利権配分をめぐって2会派に分裂している上、今回の候補者選びのゴタゴタでますます四分五裂状態に陥っていて、その中の少なくとも一部は改革側に身を移して若井と手を組もうとするかもしれない。
こうして、千葉県知事選は、あの千葉に政治変革が始まるのかどうかという関心にとどまらず、7月参院選の行方を占う前哨戦の1つとしても全国的な注目を集めることになろう。▲
《関連情報源》
千葉日報 http://www.chibanippo.co.jp/
毎日のように県議選の動きを報じている。
阿蘇地域振興デザインセンター http://www.asodc.or.jp/
若井がこれまでの職場で作っていたホームページ。
自民党千葉県連 http://www.chibajimin.jp2.net/
あまり更新されておらず、知事選には触れていないが……
千葉県庁 http://www.pref.chiba.jp/