« 2009年7月 | メイン | 2009年10月 »

2009年9月 7日

あえて言う「がんばれ自民党!」

 政権交代に向けて着々と準備を進める鳩山民主党代表。一方の自民党は結党以来の本格下野で虚脱状態といってもいい。しかし、あえて今、「がんばれ自民党!」と言いたい。こう書くとザ・ジャーナルの読者は「何を言ってんだ。水に落ちた犬は叩け、だろう」とか「二木は日刊ゲンダイを辞めてから自民党寄りになったらしいが、やっぱりな」と思われるだろうが、ちょっと待ってほしい。本来、政権交代可能な2大政党制(正確には2大政党グループ)が前提だから、民主圧勝で万々歳というわけにはいかない。与党政権をチェックすべき野党との対立がはっきりしてこそ国会である。

 300議席が119議席へと3分の1の凋落。麻生の後継を決める総裁選も「誰を出すか」「地方票はどうする」と大騒ぎだ。しかも、プライドだけはまだ与党で、長年使っていた国会内の広い部屋の明け渡しに抵抗したり、衆院選惨の敗翌日に消費者庁を立ち上げたり、なんとも往生際の悪いこと。民主政権が官僚主導を改めるために事務次官会議の廃止を掲げているのに、野田聖子・消費者行政担当大臣は「消費者庁の内田俊一長官は事務次官会議でも他省の次官にものが言える人だ」と言っている。国家公務員法では長官の更迭はよほどの理由がない限りできないことを見越した"嫌み"以外の何物でもない。たとえて言えば、長年住んでいた家を明け渡すのが悔しくて、腹いせに玄関にウンコをしていくようなものである。

 ハッキリ言って、今の自民党にはそんなブザマなことをやっている場合ではない。総選挙前、自民党幹部はこんなことを言っていた。

「政権交代は仕方がない。しかし、再び政権を奪い返すためには、最低180議席は確保しなければならない。来年の参院選で"逆ねじれ"状態にして、鳩山政権にブレーキをかける。そのためには180議席が"自民党の復元力"の最低ラインだ」

 しかし、結果は119議席。これでは参院選候補は"いい玉"は集まらない。となると4年後の衆院選に向けた陣形を早急に作る必要がある。選挙結果は「ふがいない自民党にお灸をすえる」というレベルではなかった。「とにかく土俵の外に出てってくれ」という怒りだ。これは失政と失言の麻生首相一人の責任ではない。自民党には党としての明確な「旗頭」がなくなってしまったということだ。

 ここから先は、自民党の加藤紘一氏の受け売りに、私の脚色を加えたものだが、自民党は長い歴史の中で、その時代に即した旗頭を提示してきた。1955年、自由党と民主党が合同して自由民主党ができた時の旗頭は「反共」と「経済成長」の2本だった。その直前、社会党は右派と左派が合体している。これは当時、革命中国ができ、ソ連が勢いを増して社会主義国が次々と誕生していた。日本国内でも社会主義勢力が浸透していて、当時の保守層は「このままでは日本も社会主義の国になる」という危機感を抱き、保守2党がいがみ合っている場合ではないという気運が保守合同を促したのである。

 さらに敗戦から10年たち、GHQもいなくなり、戦後の経済復興が現実課題になった時期でもあった。だから保守合同した自民党は「反共」と「経済成長」の2本の旗を立てたのである。これは成功して、日本は高度成長の道をひた走りに走ったのである。

 2本の旗がポッキリと折れたのが1990年、ソ連の崩壊とバブル経済の崩壊である。日本が社会主義の脅威にさらされることがなくなり、経済成長のベクトルも潰えた。そこにリクルート事件、佐川急便事件、金丸5億円脱税と金権スキャンダルが続出して、93年の細川政権誕生で自民党は野党に転落する。つまり55年から掲げてきた2つの旗は使命を終えたのである。

 ところが、細川政権は8党・会派の寄り合い所帯のまとまりのなさで、羽田政権を含め1年足らずで瓦解、自民党は社会党と手を組む奇策で政権復帰した。この時に自民党が掲げた旗は、「やっぱり野党の寄せ集め政権ではダメだったでしょ」と、「責任性」と「統治能力」の2本である。しかし、これも98年の、金融危機の対応のまずさで潰えて、不人気の森内閣で自民党の生命は終わりかけた。

 しかし、稀代のトリックスターの小泉は「自民党をぶっ壊す」との逆説的延命策にでたのである。小泉政権の5年5か月は、「改革」の旗を掲げて長年、自民党を支えてきた各種団体・組織を抵抗勢力に見立てて潰して行き、国民の拍手喝采を浴び続ける手法だった。いわばタコが自分の足を食べて生き続けるスタイルである。その頂点が郵政民営化だった。この「改革」の旗も小泉政権が終わってみれば、残ったのは、政権維持の基盤を失った自民党と、凄まじい格差社会だ。安倍政権は立てる旗がないから「改憲・右翼」を掲げたものの、小沢民主党の「生活が第一」というリアリティの前にひとっ叩きにされ、福田、安倍、麻生とズルズルと溶解していったのである。

 さて惨敗自民党がなすべきことは何か。「党の顔は誰がいいか」を探す前に、「これからどんな旗を立てるべきか」の徹底検討である。あえて言えば民主党のリベラルに対抗する「まっとうな保守」の旗である。自民党流にいえば、性急な改革に対して日本の文化と伝統を"保ち守る"ことを系統的に構築することだ。もちろん、小泉・竹中に破壊され、民営化されたた郵政を本来の形に戻すことも含まれる。少なくとも旗を立てる能力もないまま、いまだに自民党を牛耳ろうとしている派閥の権化は消えるべきだ。自民党の若手がこんなことを言っていた。

「誰とは言わないが、本当に成仏してほしい。腐った巨木は燃やして灰にして、それを肥料にして新しい芽を出す。自民党に必要なのは焼き畑農業です」

 私は民主党政権誕生を歓迎する立場だが、しかし、「政権交代可能な2大政党グループ」こそ、当たり前の民主主義なのだから、民主党に拮抗する政党がなければ意味がないし、何よりも政治に緊張感が生まれない。あえて言う。「がんばれ再生自民党!」である。

Profile

二木啓孝(ふたつき・ひろたか)

-----<経歴>-----

1949年、鹿児島県出身。
明治大学在学中から出版社勤務。
1979年、小学館「週刊ポスト」専属記者。
1983年、「日刊現代」入社。編集局配属。
1995年、編集部長。政治、企業事件、宗教問題をテーマに取材・執筆。
2007年、「日刊現代」を退社。現在、BS11編成制作局長。

-----<出演>-----

『インサイドアウト』
(BS11)
『NEWSゆう+』
(大阪ABC)
『おはようコール』
(大阪ABC)
『パックイン・ジャーナル』
(朝日ニュースター)
『アクセス』
(TBSラジオ)

BookMarks

-----<著書>-----


『宗男の言い分』
2002年7月、飛鳥新社


『殺人心理』
2000年10月、アスキー


『永田町の通信簿』
1996年12月、作品社

『手に取るように政治が分かる本』
かんき出版

→ブック・こもんず←



当サイトに掲載されている写真・文章・画像の無断使用及び転載を禁じます。
Copyright (C) 2008 THE JOURNAL All Rights Reserved.