「社会保障と税の一体改革案」のマヤカシ
政府と民主党政権は7月初めに「社会保障と税の一体改革案」をまとめた。これで、「2010年代半ばまでに消費税率を10%まで引き上げ」は、たとえ政権が代わろうと既定路線になったが、これで、未来への展望は開けるのだろうか? ここでは3回に分けて、年々膨らむ医療費の面から、この改革案(?)を考えてみたい。
■「社会保障と税の一体改革案」のマヤカシ(1)
──消費税の増税がすべて社会保障費に回るわけではない。隠された負担増も!
まず、多くの国民が誤解しているのが、増税さえできればいまの医療制度が続くと思っていることだ。結論から言うと、消費税5%アップぐらいでは、いまの医療制度は早晩崩壊する。
なぜそうなるかは後述するとして、今回の改革案は、またしても改革にはなっていないばかりか、明らかなマヤカシがある。それは、「消費税の増税で社会保障費を賄う」という部分だ。つまり、消費税増税の目的が、将来の社会保障を賄うためということ自体がウソなのである。
これは、小学生でもわかることで、たとえば、今回の改革案を良く読めば、引き上げ幅5%のうち、社会保障費に充てられるのは、わずか1%にすぎない。残りの4%は、税収不足のカバーで財政再建のための費用である。このことを、なぜか多くのメディアが書かない。
そこで、現在の社会保障費というのは、いったいいくらかかっているのか見てみよう。わが国の社会保障費は、全体ではすでに100兆円を突破している。2010年度の国家予算が約92兆円だから、すでにこれを上回っているのだ。
政府は7月2日の集中検討会議で、社会保障給付費の将来推計を公表した。これによると、2011年度で108兆1000億円の給付費は、15年後の2025年度にはなんと1.4倍の151兆円まで増加する。つまり、これを増税だけで賄うことなど絶対できないのである。このことをまず、頭にしっかりと叩き込んでほしい。
では、医療費はどうだろうか? 2008年度の医療費は過去最高の34.8兆円(2010年11月厚労省発表)だから、これまで毎年約1兆円ずつ増加してきたので、現在は37兆円ほどに達していると思われる。それが先の政府試算によると、2025年度は、なんと53兆3000億円になっている。
つまり、2015年に首尾よく消費税が10%にできたとしても、現状の日本の医療制度は崩壊してしまう計算になる。
では、ここで「「社会保障と税の一体改革案」の中の医療に関する部分を見てみよう。今回の改革案では、表向きには社会保障の「充実」を掲げ、長期療養者の負担減、低所得層への手厚い給付を打ち出している。しかし、その一方で一般の人々、所得が多い人々には高負担を強いるという内容になっている。
それでは負担軽減策にはどんなものがあるのだろうか?
まず、ガンなどで長期療養する患者の医療費が高額になるのを考慮し、「高額療養費制度」(毎月の医療費が限度額を超えると超過分が払い戻される制度)の限度額を下げること。また、介護分野では、65歳以上が払う介護保険料のうち、低所得者の保険料を引き下げることになっている。保険料は現在、高齢者の収入に応じて金額に6段階以上の差を付けて徴収しているが、低所得者の負担を公費を投入して抑える考えだ。
さらに、同じ世帯で医療、介護、保育、障害者福祉など複数の制度を利用しても負担が重くなりすぎないように、「総合合算制度」の創設も盛り込んでいる。
ところがその一方で、次のような負担増が用意されている。
現在、70〜74歳の医療費の窓口負担については、公費を投入して1割に抑えているが、これを法律通りに2割に引き上げる(ただこの案は最終的にうやむやになった)。また、医療費の1〜3割を窓口で支払う定率負担に加え、外来患者が定額を負担する制度をつくる。これを100円とすると、3割負担の人で1万円の医療費がかかった場合、現在は3000円を払うが、合計3100円払うことになる。
さらに、40〜64歳の介護保険料の算定方法の見直しもある。現在は給与水準に関係なく1人あたりの負担額が決まっているが、給与が高い大企業の社員ほど多く負担するようにする。このように、改革案には、「充実」と引き換えに「負担増」も盛り込まれているのだ。
そこで、ここで再び社会保障費全体に話を戻すと、政府はこのうちの負担軽減を、前記したように「充実」と呼び、これに約3.8兆円かかるとしている。そして、負担増のほうは「効率化」と呼び、こちらは約1.2兆円節約できるとしている。
つまり、約3.8兆円から約1.2兆円を引いた額、約2.7兆円を消費税増税で賄おうとしているわけだ。消費税は、1%の税率アップで約2.5兆円の増収が見込めるとされるから、これでおよその辻褄が合う。
が、これは単に辻褄が合っているだけの話にすぎない。日本の社会保障制度全体の今後を考えた場合に、適正かどうかは明確ではない。また、負担増に関しては、政府も大手メディアもほとんど喧伝していない。本来なら、徹底して無駄を省く、つまり「効率化」を徹底すべきなのに、そちらの議論は少ないのである。
私は、かねてから、日本の医療費は無駄が多すぎると主張してきた。また、混合診療が一部を除いて認められないことも、医療費増大の原因になっていると指摘してきた。この具体的な話は次回以降にするとして、このようなことをおざなりにして消費税を上げ、さらに負担増を盛り込むとは、あってはならない話である。
「消費税を上げる理由を社会保障の充実としているのだから、いまさら、もっと無駄を省けるなどと口が裂けても言えない」とは、ある厚労省幹部の弁だ。また、ある政治家も「負担増をひと言でも言えば選挙に勝てない」と、本音をもらす。これでは、本来の改革は進まない。
コメント (3)
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投稿者: 《THE JOURNAL》編集部 | 2011年7月15日 10:35
>>私は、かねてから、日本の医療費は無駄が多すぎると主張してきた。
仰るように、無駄が多いと思います。
「薬価」にしましても、その中には「医師」たちへの「よいしょ」費も含まれているでしょうし、医療機器の価格設定にしましても、そうでしょう。
色んなところで、無駄が入り込んでいると思います。
投稿者: 打出喜義 | 2011年7月15日 20:02
医療費を抑える方法は簡単です。生活習慣病と無駄な内科の検査の自費診療です。町医者の医療行為はめちゃくちゃです。私欲しかありません。やめさせるには、自費診療に移行するしかありません。本当の高血圧症、高脂血症の患者は少ないので、公立病院でしか診てはいけないようにするしかありません。開業医は田舎でもモラルのかけらもありません。
投稿者: 大塚白左衛門 | 2011年7月18日 13:40