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2010年2月18日

名医の条件

 私は年間約百回の講演を行う。その際に聞かれるのは「名医」についての質問が圧倒的に多い。また私は年間平均で約千百通の紹介状を書く。それは「手術を受けたいがどのような医者がいいか」「あの先生に診て頂くためにはどうしたらいいか」という求めに応じてのことである。

 外科医は「切ってナンボ」の世界。術後の結果も「成功・不成功」が端的にわかりやすい。どれほど素晴らしい研究であるかよりも、同じ手術を何回かこなしてきたかという手術職人としての技術が求められる。それが外科医なのだ。

 外科医の場合は、野球でいえば出場試合数(出場症例数)や打率(成功率)などがハッキリしている。つまり、「名医の基準」が素人にもわかりやすい。実際、手術症例数の多さは、手術成功率の高さにも結びついている。

 もともと腕のいい外科医は、手術の依頼数も多いから、さらに腕が磨かれる。現場に立つ回数が多いためありとあらゆる手術上の困難を前もってシミュレーションできるし、手術中のハプニングへの対応にも長けている。

 例えば心臓外科の世界では、年間百五十~二百の手術を高い成功率でこなす医師は国内に約三十人しかいない。正直なところ、それ以外の医師から心臓手術を受けるのは危険とさえいえる。手術症例数はそれほど大事なのだ。個人差はあるにせよ、外科医の心技体が充実するのは、概ね三十五~五十五歳である。

 一方、世間ではいまだに権威があるとされる大学の、しかるべき地位にある人を名医としたがる誤解がはびこっているのは不思議だ、例えば有名大学の講師というだけで、手術の腕とは関係なく関連病院の外科部長に迎え入れられる、などというケースがよくある。大学医学部には官僚世界の天下りシステムにも似たセーフティネットがあって、そんなことがまま起こる。数ある医療事故の中でも、そうした経験の浅い有名大学出身外科医の凡ミスは、事例として少なくないのだ。名医には世間的ヒエラルキーによる威厳はまったく意味がない。事実上、自己申告で獲得できる「認定医」や「専門医」等の肩書きも何らの意味を持たない。

 アメリカ帰りというような世間的な「ハク」も名医とは関係ない。日本とアメリカではそもそも医療のシステムが違うし、アメリカで本当に成功して、富も名誉も得た人が途中で日本に帰ってくるはずもないからだ。

 いずれにせよ、今はインターネットで、手術症例数なども簡単に検索できる時代だ。

 いたずらな肩書や権威に惑わされなければ、自らのちょっとした努力で、名医は意外と簡単に見つかるものなのである。

Profile

富家 孝(ふけ・たかし)

-----<経歴>-----

医師・医療ジャーナリスト。
1947年大阪市に生まれる。
1972年慈恵医大卒。
開業・病院経営・日本女子体育大学助教授を経て、現在、オフィス51取締役。
新日本プロレス・ドクター。
慈恵医大相撲部総監督。

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