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2010年1月24日

医療崩壊は業界内部の問題・刑事免責の理由にはならない

 さらにもう一点、必要に応じて警察が医療事故に介入すべきだと考える理由として、行政処分のあり方を指摘したい。

 医療事故を含め、医師らに対する行政処分を決める機関として医道審議会が置かれている。しかし、同審議会が対象とする医療関係者は、これまで事実上、「刑事処分が確定した者」に限られてきた。最近では処分基準をより厳しくしているようだが、医師に対する行政処分はもともと刑事事件を前提にした制度なのである。

 医道審議会に医療界の外から委員として参加していた「さわやか福祉財団」理事長の堀田力氏は、日本経済新聞(二〇〇三年十月二十七日付朝刊)のコラムで、「ええっ! 薬を間違えて患者を殺してしまって、業務停止三カ月! それじゃ患者はうかばれないよ」「研究機関がいろいろやるのは必要であろうが、患者の了解をとり、万全をつくしてやった結果ならともかく、不注意なミスによる死が許されるはずがない」などと記している。身内である医療関係者以外にとっては、これが通常の感覚というものである。

 医療機関の自浄努力はいまだ十分発揮されているとは言えず、行政処分は時間がかかるうえに、軽い。国による被害者救済の制度は未整備のまま。訴訟に打って出ることも、通常は証拠の収集など一般人にはハードルが高いものである。そうであれば、患者にとっての頼みの綱は刑事告訴しかないではないか。他に術を持たない遺族らは、追いつめられ、警察に駆け込んでいることを忘れてはならない。

 医師が、人命を預かり、病気を治す重要な職業であることは論を待たない。医療制度のあり方は、国の最重要インフラの一つである。ところが、医療行政の失敗などのツケを払わされる形で医療の現場、特に救急救命や産科の一線は過酷な労働を強いられ、疲弊しきっている。勤務医の多くが、労働実態に見合った報酬を得ていないのも事実である。

 だが、繰り返しになるが、そうした医療関係者が置かれている厳しい状況と、医療事故に真摯に向き合い、遺族や社会に対して真相を明らかにし謝罪することとはまったく別の話である。

 医療崩壊の原因の一つは、多くの医師が救急救命や産科、外科などを敬遠し、リスクの少ない診療科や開業医に流れている点にある。これは、あえて突き放して言えば、医療界内部の問題である。業界が自分たちの内部を律することができなくなり、社会的要請に応えられなくなった現象を「崩壊」と呼び、それを人質にとって刑事免責を持ち出している、と言うと言い過ぎであろうか。

 医師は特権意識を捨て、サービス業として「顧客第一」の姿勢を貫かなければならない。そうでなければどんなに医師の数を増やし、設備を充実させ、患者に「様」を付けて呼ぼうとも、真に国民の信頼を得られる存在にはなりえないだろう。

2010年1月11日

警察への通報規定をなくせば再び医療事故は闇に葬られる

 これは現行の刑法の枠組みにも変更を迫る暴論と言わざるを得ない。「訴訟や刑事事件になると、医師側と患者側が対立構造になってしまう。裁判になると医療者は本当のことを言えなくなる」という主張まで見受けるが、これは「医師は公判ではウソをつく」と言っているのと同じで、刑法どころか法治国家のあり方さえ無視する、まさに開いた口がふさがらない理論である。

 他の職業と比較して考えてみたい。たとえば観光バスや高速夜行バスの業界は、規制緩和による新規参入で安値競争が起きている。一台当たりの売り上げ単価は以前より減り、運転手の労働条件は厳しくなった。しかし、お客は格安のレジャーを楽しみにしており、公共交通機関としての社会的役割も大きい。多くの運転手が、お客を奪い合い、精神・肉体両面で無理を重ねて働いている。だが、人身事故を起こしてしまえば刑事責任を問われる。当たり前の話である。

 まだ独り立ちさせられない未熟なパイロットに旅客機の操縦を任せ、その結果、機器の操作を誤り、重大な事故を招いたらどうなるか。パイロットは当然捜査の対象となり、技量の劣るパイロットに運航を任せた会社の刑事責任も問われることになるだろう。

 マスコミが表現の自由や取材の自由について声高に主張することはあっても、自分たちを名誉棄損の適用から除外しろと言うことはないはずだ。

 一部医療関係者の意見に惑わされ、医療安全調査委員会から警察へ通報規定をなくしたり、極めて限定したケースに限ったりすることになれば、その組織はもう、医師を刑事責任の追及から守るための隠れみのとしか呼べない。医療界は再び、医療事故を届け出ることも遺族らに十分説明することもなかった一九九九年以前に戻ってしまうに違いない。

 医療関係者の多くが、「警察がこれほど医療事故に介入する国は、先進国では日本だけ」と口をそろえる。それはその通りなのだろう。しかしこれは「警察が介入しなければ事実が解明されず、反省も教訓もくみ取らない体質の医療界は日本だけ」ということの裏返しでもある。「日本では、医療事故を起こした医師を刑事罰に問う、と欧米の医師に話すとびっくりされる」という論文を読んだこともあるが、ぜひ、「日本では医療事故があってもカルテを改ざんして、遺族にまともな謝罪をしない」「腕が悪く、手術で患者を何人も死なせているリピーターの医師がずっと医療現場にいる」という話をしてあげて欲しい。もっとビックリされること請け合いである。

Profile

富家 孝(ふけ・たかし)

-----<経歴>-----

医師・医療ジャーナリスト。
1947年大阪市に生まれる。
1972年慈恵医大卒。
開業・病院経営・日本女子体育大学助教授を経て、現在、オフィス51取締役。
新日本プロレス・ドクター。
慈恵医大相撲部総監督。

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