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奈良・供述調書漏示事件の周辺

草薙厚子さんが書いた『僕はパパを殺すことに決めた』(講談社)は、2006年に奈良県で起きた16歳(当時)の少年による事件を扱ったものだ。少年は自宅に放火、義母と妹、弟が焼死している。草薙さんに供述調書を渡したことが刑法の秘密漏示の容疑だとして少年を鑑定した精神科医が逮捕された。ここには重層的な問題がある。

 まずは取材プロセス。草薙さんがこれまでと同じく少年事件の再発防止のために取材を行ったことは、いささかも疑わない。鑑定医から話を聞き、可能ならば供述調書にも目を通したいと思うのは当然のことだ。そして医師から調書を見せてもらうことに成功した。はじめはボイスレコーダーに録音したがとても間尺に合わなかった。そこでカメラで撮影したという。3000枚もの調書をカメラで撮影したとはとても思えないが、草薙さんはそう記者会見で語っている。

 問題はそこからだ。調書を読めば事件の背景に父親による異常な暴力行為があったことが推測できる。しかし調書は取調官の感情が入ったもので、物語(ストーリー)としての恣意が入り込む。調書が事実ではないのだ。したがって父親から取材することで、真相に迫っていく必要が取材者にはある。ところがそれはかなわなかった。その段階で講談社の法務部と相談をしていたならば取材源の逮捕とはならなかっただろう。単行本の主要部分が供述調書で成立していることで、取材源が特定されるからだ。そこにはノンフィクションの叙述方法とともに、編集体制の問題がある。

 253ページのなかでポイントを絞って調書の一部が何か所か引用されているぐらいならここまで大きな問題とはならなかったはずだ。あるいは調書を利用しつつ、たとえば「そのときの会話を再現しよう」と書いて、記録されたやりとりを紹介するのはよく取られる手法だ。少年直筆の「殺人カレンダー」を裏表紙に刷り込んだことも刺激的だった。そこで権力の発動となった。長勢甚遠法相(当時)は6月5日の会見で「司法秩序を乱し、少年法の趣旨に反する」と批判し、流出元の調査を省内に指示、最高検も動かざるをえなくなる。

 大阪高検は消極的だったと聞くが、捜査が開始された。調書から草薙さんや編集者、さらに第三者の指紋も検出された。ライターだという。そこで嫌がらせのような噂話が流される。さらに事件周辺から意外な人物が浮上した。法務省が研究を依頼している京大医学部教授(逮捕された鑑定医とは別人)である。家宅捜索が行われたけれど、マスコミには名前も出てはいない。「落とし所」が検討され、精神科医が逮捕となった。

 逃亡の恐れのない取材源が逮捕されるという事態のもとで、少年事件などの取材者、被取材者が精神的に萎縮することが充分予想される。草薙さんがこの問題をリポートした「週刊現代」はこれまで音無しだ。こうした事態にあって講談社は問題の所在を多角的に検証する責任があるはずだ。

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有田芳生(ありた・よしふ)

-----<経歴>-----

1952年京都生まれ。
フリーランスのジャーナリスト。

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「有田芳生の今夜もほろ酔い」



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