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2007年1月30日

「パワー・フォー・リビング」って何?

 最近、マスコミで大々的な宣伝を繰り返している「パワー・フォー・リビング」が話題になっています。夕刊紙や週刊誌などでその実態が報じられているので、すでに内実をご存知の方も多いことでしょう。10億を超える宣伝費を使っているのは「アーサー・S・デモス財団」。申し込めば無料で書籍を送ってくれます。

 98年から99年にかけてアメリカで行った宣伝には33億円が投じられました。大統領選挙のメディア対策費を超える巨費です。そのとき配布した書籍を少し新しくしたものがいま配布されているのです。内容はキリスト教プロテスタント福音派の教えで、とくに偏ったものでもありません。

 そこにどんな意味があるのでしょうか。保険会社で富を得たデモスが亡くなるとき、遺書に残したのが「パワー・フォー・リビング」の宣伝だったのです。たとえていえば安倍晋三総理が遺書のなかで『美しい国へ』を配ってくれというようなものです。

 この財団は組織された教会ではなく、信者もいません。したがってカルトではありません。アメリカで長くカルト問題に取り組んでいるスティーブン・ハッサンもそう見ています。いまのところは広告代理店、広告を掲載したメディアが経済的利益を得て喜んだだけといえるでしょう。今回のキャンペーンは2月4日で終ります。

2007年1月21日

「でっちあげ」の構図

 読んでいて不安になってくる本に出会ってしまいました。福田ますみ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』(新潮社)です。テレビ、週刊誌、新聞で報じられていることがどこまで事実なのか。いやいや、そんな他人事ではありません。あのとき何とコメントしたのだろうかと朧な記憶を蘇らせていたのでした。「もしそれが事実だとしたら」という限定的な言葉を添えていても、厳しく糾弾したはずです。報道されていたことが捏造であったならば、あのときのコメントは無実の人物を傷つけただけでは済みません。マスコミも世間もすでに忘れている「事件」が起きたのは、いまから4年前のことでした。

 全国ニュースとして「事件」が知られることになったきっかけは「週刊文春」でした。それまで朝日新聞西部本社版や西日本新聞で報じられていた「事件」が、これでいっきょに全国的な社会問題となっていきました。どんな「事件」だったのかは、「週刊文春」のタイトルを見れば思い出される方も多いでしょう。「『死に方教えたろうか』と教え子を恫喝した史上最悪の『最悪教師』」。福岡市で起きた衝撃的な「事件」です。家庭訪問した教師が、教え子の曽祖父にアメリカ人がいたことを知り、「血が穢れている」といじめを行ったというのです。

 両親が校長や教育委員会に抗議したため、やがて教師に6か月の停職処分が下されました。抗議から処分までの間にも「問題教師」は教え子に暴力を振るい、あげくのはてに「死に方を教えたろうか」とまで言ったというのです。週刊誌がトップニュースで、しかも実名で報じたことで、テレビが追いかけました。ワイドショーだけでなくニュースでも「こんなにひどい教師がいる」という報道が行われたのです。福岡市の教育委員会によって全国ではじめての「教師によるいじめ」が認定されたのですから、まさに驚くべきニュースだったのです。両親は福岡市と教師を相手取って1300万円の損害賠償裁判を起します。弁護士の数は何と503人(のちに550人)。

 ところが……。裁判で霧が晴れるように明らかとなっていくのは、「事件」が冤罪だということでした。両親の虚言に基づく学校への抗議。事実を正確に確認せずに「親の言い分」を鵜呑みにしていく学校現場や教育委員会。「教育という聖域」で起りうる異常な現実がそこにはあったのです。教師の釈明を聞きながら、それをアリバイ的なコメントとして使うだけで、「殺人教師」を追いつめていくマスコミ報道は、この福岡での「事件」だけの問題ではないでしょう。わたしが関わる「ザ・ワイド」(日本テレビ系)は、テレビで最初に教師の言い分を取材して報じたのですが、「事件の構図」は、それでも「教師による異常ないじめ」という大枠だったはずです。

「あるある大事典」の納豆騒動が問題になっていますが、「事件」報道でも捏造は行われるのです。事件現場にいればどう報じていただろうか、コメンテーターとして発言するときに、これまでの方法でいいのだろうか、一般の視聴者、読者としてどうニュースを受けとめるべきなのだろうかなどなど、さまざまなことを考えさせられるのでした。どこまでも批判的な眼を失ってはならないとは思うのですが、情報に流されることなく立ちどまる難しさを改めて突きつけられました。

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『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』(新潮社)

Profile

有田芳生(ありた・よしふ)

-----<経歴>-----

1952年京都生まれ。
フリーランスのジャーナリスト。

BookMarks

オフィシャル・ウェブサイト
「有田芳生の今夜もほろ酔い」



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