« 2006年7月 | メイン | 2006年9月 »

2006年8月25日

ジョンべネ事件の「真相」

 ジョンべネ事件の犯人逮捕報道に呆れた。タイで容疑者が逮捕されたことにコメントをする「識者」の無知さ加減にである。あるコメンテーターはDNA鑑定が飛躍的に精度を増したので今回の逮捕につながったなどと語っていた。そんな事実はない。DNA鑑定は容疑者がアメリカに移送されたこれから行われるのだ。10年前にいちばん多く時間を割いて報じていたのは、現場となったコロラド州ボルダーを除けば、日本のテレビだった。当時はワイドショーが主体だったけれど、今回は「ニュースステーション」までがこの事件を大々的に取り上げていた。オウム事件以来変化したのはニュース番組のワイドショー化だ。日本のさまざまな問題を差し置いて、ジョンべネ事件を取り上げる根拠は、世間の関心なのだろう。事件には多くの謎があるからだ。

 はたして逮捕された男は本当に犯人なのか。雪深い夜、どのように侵入したのか。両親がいる空間のなかで、暴行したうえ、部外者の知るはずもない地下室に遺体を放置することができたのはなぜか。薬物を使用したというが、遺体から検出されていないことも自供の信用性を疑わせる。元妻は事件当時二人でアラバマ州にいたと証言している。物証もなく、供述だけで逮捕したものの、これから刑事訴追できるのかどうかも怪しい。アメリカでは大きな事件が起きるたびに「自白マニア」が登場する。ジョンべネ事件でも、これまでに数人が犯行を「自白」しているのだ。

 そもそも捜査当局は、密室の事件だったため、両親の事件への関与を疑っていた。被害者が暴行されていたため、こんなストーリーが組み立てられた。父親が性的暴行を行っているところを母親が発見。そこで背後からゴルフクラブで殴りつけようとした。しかし、それが被害者に当たり、死亡してしまった。加害者同士がかばいあっているという構図だ。身代金要求の脅迫状は、捜査かく乱のために書かれた……。何度も事情聴取を行ったが、両親の事件への関与を裏付けることはできなかった。

 ところが、タイで逮捕された容疑者は、事件のドキュメンタリーを制作したコロラド大学教授とメールの交換を続け、そのなかで犯人しか知りえない情報があり、そこで浮上してきたというのだ。何だか警察庁長官銃撃事件で犯行を「自供」したものの、起訴できなかったK元巡査長のケースを想起してしまう。逮捕後に会見を行ったタイの捜査当局幹部は、当初報道された「自供」内容をのちに否定した。

 この事件の背景には、性を強調する美少女コンテストと幼児性愛というアメリカの病理がある。「ニューズウィーク」日本版(8月30日号)は、この事件を特集し、「美少女コンテスト批判は的外れ」というコラムを掲載した。はたして「的外れ」なのだろうか。5歳、6歳から女性の性をグロテスクに強調し、その影響を受けた幼児性愛者が事件を起こすという爛熟腐敗の社会構造を変えていかないかぎり、こうした事件はあとを絶たない。ジョンベネ事件から学ぶべきことは、アメリカの社会病理を再生産しつつある日本の問題なのだ。

Profile

有田芳生(ありた・よしふ)

-----<経歴>-----

1952年京都生まれ。
フリーランスのジャーナリスト。

BookMarks

オフィシャル・ウェブサイト
「有田芳生の今夜もほろ酔い」



当サイトに掲載されている写真・文章・画像の無断使用及び転載を禁じます。
Copyright (C) 2008 THE JOURNAL All Rights Reserved.