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2006年1月29日

「ハーレム男」の古典的手法

 57歳の自称占い師の男が11人の女性と同居し、結婚、離婚を繰り返していることが話題となっている。女性は一人の50代を除けば残りは20代。男性はこの集団に誘われた20歳の専門学校生を脅迫した容疑で逮捕された。事件の概要を語った捜査幹部が「うらやましい」と正直に語ったように、「ハーレム男」と呼ばれた男性の生活ぶりは、ワイドショーだけでなく、ニュースでも繰り返し報じられている。しかし、その内容は興味本位の域をまったく出ておらず、必要な分析などが行われることなく、すぐに消費されていく。

 男が自宅で占いをはじめたのは2000年4月から。まず占いカウンセラーを募集した。そこに来た数人の女性たちが数ヶ月後に同居をはじめる。占い志向の女性たちは、当初人間関係で軋轢を生じる。ところが同居女性が5人、6人と増えてくるにつれ、矛盾は拡散していった。慣れや諦めが生じたからだ。その女性たちがコンビニや薬局などで働き、そこで「とても当たる占い師がいる」と勧誘をはじめる。

 男は不安を煽る古典的手法を使っていた。暗い部屋に通されると、そこにはテーブルがあり、ランプが点っている。向かい側には頭からすっぽりと頭巾をかぶった男がいた。暗闇のなかで眼だけを出した男は、ランプを手にすると、「あなたには悪い霊が付いている。このままでは大変なことになる」と低い声で語りかける。そこで泣き出して逃げるものもいれば、恐怖心や興味から居着くことになるものもいた。

 そして20歳の専門学校生が民家にやってきた。女性が素直に対応しないものだから、男は「わたしは元自衛隊員だ。回りにはスパイがいっぱいいる。ここでのことを話したらミンチにされるぞ。死ぬか事故に遭うか、大変なことが起きますよ」と脅した。女性がこの経験をメールで友人に知らせたところ、警察が動きはじめ、男の「ハーレム生活」が明らかとなったのだった。

 スタンガンなどが発見されたことなどから、この集団内部で何があったかは、これからの捜査で明らかになるだろう。いちばんの問題はなぜ若い女性たちが一人の男の元で同居するようになったかということだ。テレビ映像を見てもわかるように、女性たちは男を中心に穏やかな生活を続けていた。麻原彰晃を「父や母のような存在」、文鮮明を「真のお父様」と信者たちが本気で思っているように、このミニカルトも男を実際の夫としているのだ。

 出発点は家族関係や悩みにある。娘がどこで何をしているかに関心を持たない家族の希薄さ。大学生活に悩みを持った女性の孤立感。そうした問題を男の周囲の女性たちが親切にケアしていた。男が使った手法は、市販されている占い本程度の水準である。それでもこころを捕えられてしまうところにこそこんどの事件の核心がある。「合同結婚式に出るひとの心境がわからない」と語っていた女優が、合同結婚式に参加したきっかけは、父の死と仕事の悩みが重なったことにあった。人間とは弱いものなのだ。 

2006年1月 8日

麻原裁判は終わるのか

 麻原彰晃こと松本智津夫被告の裁判について、弁護団が依頼した精神科医の判断では「続けられぬ」と報じられた。この精神科医は野田正彰•関西学院大学教授。報道によれば野田氏は「裁判を続けられる状況にない。治療して精神的に落ち着かせる必要がある。治療は長くても半年で済む。被告が反応できるようにしたうえで裁判をするのが普通ではないか」とコメントしている(「朝日」1月7日付)。この報道を受けて、あるラジオニュースは「松本被告の裁判が終わることになりそうです」と報じた。まったくの間違いである。

 松本弁護団が精神鑑定を依頼をしたのはこれで3人目。昨年末に弁護団が主催して開かれた「どうする!麻原裁判控訴審」でわたしが質問したところ、精神科医の接見時間はわずか30分だったという。この接見時間は監獄法施行規則によるものである。野田氏がどれほどの時間を費やしたかは不明だが、裁判所が特別に許可しないかぎり、やはり30分の接見だったはずだ。ちなみに松本被告の実の娘たちも接見を繰り返しているが、その時間は30分以内である。はたしてこれほど短時間の接見で「治療は長くても半年で済む」などという判断が下せるものか。はなはだ疑問である。

 弁護団は松本被告の人身保護請求を出していたが、昨年11月30日に東京地裁で却下された。その地裁判決では被告に拘禁反応があると認められている。裁判所は松本被告の精神情況に何も問題がないという判断はしていないのだ。そもそも高裁は1審判決の是非を判断するのが目的だから、被告人が弁護団との接見を拒否したとしても訴訟が停止されることはない。

 しかし、松本被告の1審での態度や弁護士、家族との接見時の反応が、これでは裁判などできるものではないという判断を導く様子であることは否定できない。問題は、その行動が詐病によるものか、それとも精神に異常をきたしたからかというところにある。詐病の可能性があることはこのブログでも書いた通りだが、そこで発言した内容は、共同通信の配信でも、『創』2月号の紹介(篠田博之、森達也、編集部)でもまったく触れられていない。戦後の「BC級戦犯」では、死刑判決を受けた人物が、何度もの精神鑑定を受けて「異常」との判断があっても、実は詐病だったことがあることはすでに紹介したとおりだ。


 裁判所は公開の原則に立って、この2月にも提出される精神鑑定の結果を明らかにすべきである。もし「訴訟能力あり」との判断が下されて、松本弁護団が控訴趣意書を提出しなければ、そのまま1審「死刑判決」が確定する可能性がある。その経過のなかで弁護団が辞任するならば、裁判手続きが振り出しに戻るだろう。かりに「訴訟能力なし」との判断であれば、治療行為がはじまり、裁判は一時停止される。いずれにせよ弁護団の依頼した精神科医の判断でもって裁判が終わるなどということはありえない。

Profile

有田芳生(ありた・よしふ)

-----<経歴>-----

1952年京都生まれ。
フリーランスのジャーナリスト。

BookMarks

オフィシャル・ウェブサイト
「有田芳生の今夜もほろ酔い」



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