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« 水をためない底抜け欠陥ダムへの旅
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空港戦略の転換 バラマキから選択・集中へ »

世にも奇妙な公共事業「成功」例 ── 宮崎県の土地改良事業

 どちらで食事をするか二者択一の選択である。選ぶのは、住民だ。

 ひとつは、豪華な内装の洒落た店。全国展開する有名レストランで、食材も料理人も最高級揃いである。しかし、選べるメニューは少なく、しかも店側からの注文が多い。客は自分の好みや希望を聞いてもらえないどころか、団体客中心で、少人数だと入店さえ拒否される。調理に凝るのか仕上がりが遅く、客をいらいらさせることが、日常茶飯事。店側はそれを全く意に介さない。店長と店員ともに転勤が多く、すぐに別な店に移ってしまう。それで客を客とも思わぬ体質が蔓延している。  

 料理は客の苛立ちがピークに達したころ、運ばれてくる。それも食べきれないほどの量が。当然のことながら、値段は目の玉が飛び出るほど高くなるが、店側から補助金が出るため、食事した客の支払いは少なくてすむ。それで、繁盛している。だが、店の補助金を実際に負担するのは、利用者たちだ。食事をした客やその家族が事前に支払っていたカネや、彼らが後日、支払わされるカネを回しているにすぎない。

 もうひとつの店は、小規模でこじんまりとした家庭的な食堂だ。メニューの数は多く、味付けや量の要望も聞いてもらえる。目の前で調理するので、素材や料理人に注文をつけやすい。素材も地元産が中心で、厨房も地元の人が担当する。途中で注文品を変更することもできなくはない。大勢の客を対象とする店ではないので、小回りがきくのである。食べたいものを食べたい量だけ食べたい時に食べられるのが、利用者にとってはうれしい。利用者側から新たなメニューの提案もできる。

 しかし、店舗の外観や規模では全国展開の有名レストランに見劣りする。有名なシェフなども店にはいない。しかも、値段は安いものの、全て食べた人たちの自腹となる。

 逆にいえば、そうであるからこそ、客が注文をつけやすい。もし、そうした店がまずいものばかり出していたら、店の経営者は真っ先に責任を問われる。また、店員が不正を働いたり、怠けていたら、厳しく叱責される。常に客の視線にさらされているから、ごまかしようがないのである。

 全国展開する有名レストランがいわばこれまでの公共事業で、家庭的な食堂が地域主権型の公共事業といえる。中央集権と地域主権の違いを当方、こんな風に考えている。日本は一応、主権在民なので、客が店からいろいろ注文をつけられるのではなく、店に自分たちが求めるものを注文できるはずだと思っている。現実はそうなっていないが。

 宮崎県中部で現在、不可思議な公共事業が進行中だ。農水省と宮崎県がすすめている「尾鈴地区畑地灌漑事業」である。川南町を中心とした畑地約1580ヘクタール、対象農家約1600戸に農業用水を引く、土地改良事業だ。

 土地改良事業は圃場の整備や農業用排水の整備(灌漑)などを行うもので、農家の申請によって始められる。事業対象となるには一定の面積が必要で、水田は3,000ヘクタール以上、畑は1,000ヘクタール以上とされている。対象区域に入ると、農家に自己負担が生じるため、事業開始には対象区域農家の3分の2以上の同意が必要だ。農水省が利水ダムや幹線水路、県などが支線水路などを整備する。幹線と支線は一体的な事業ながら、それぞれで同意を取らねばならない。広大な農地を整備する大事業となるため、総事業費が1,000億円を超えるケースも多い。

 川南町は畑と水田が混在する農業の町で、台地にありながらも湧水やため池、先人による水路などにより高い農業算出額を誇っている。そんな川南町で畑地灌漑事業が計画されたのは、1980年代の後半である。バブル経済の真っ最中のあの頃だ。きっかけは、農家からの要望だった。既存の青鹿ダムの水を使用していた農家が施設の老朽化に困り、改修を行政に求めたのである。ところが、話が農家の知らないうちに大きくなっていった。既存施設の改修だけではなく、新たなダムをつくり、そこからパイプラインで地域全域に水を引く壮大なものに変質していった。主導したのは、農水省だ。受益面積は1922ヘクタール(当初)とされ、行政による同意取りが始まった。まずは国営事業分である。

 困惑したのは、知らぬ間に事業の対象地にされたいわゆる受益農家である。水は足りているという農家も多く、また、新たにダムからの水を使うことになれば、負担金を払い続けなければならなくなるからだ。同意を渋る農家が続出し、今度は行政側が困り果てることになった。それでも農家を説得して回り、1996年にやっと国営事業の同意を85%まで取り付けた。とりあえず国の分だけでも同意してくれと、半ば拝み倒しての取得である。

 こうした国営ダムの建設が始まった。切原ダムである。幹線水路と合わせて事業費は約290億円とされた。既存の青鹿ダムの改修と切原ダムの建設は順調に進んだ。だが、支線水路と末端の給水栓を担当する県営事業の同意取りは難航を極めた。もともと農家の多くが新たな水を求めていた訳ではないからだ。

 県営事業は区域を10に分け、順次、工事に着手することになっていた。総事業費は約100億円。先行したのは、既存の青鹿ダムの水を利用している尾鈴北第一地区だった。老朽化した施設の改修を求めていた地区で、県営事業への同意取りは簡単に行くものと思われていた。ところが、ここでも同意を渋る農家が続出した。困り果てた行政側は「選択方式」という奇妙な案を農家に提示した。給水栓を実際に畑に設置するか否かは農家の判断に任せ、設置しない場合は経常経費の負担金を取らないから、県営事業への同意だけはしてくれと、説得して回ったのだ。

 行政側の必死の努力(?)が実を結び、2001年末までに82.7%の同意取りに成功(?)した。尾鈴北第一地区の土地改良区も発足し、末端のパイプラインの敷設工事も始まった。ところが、行政側はまたしても大きな壁にぶちあたってしまったのだ。給水栓を設置する農家が一向に増えないのである。既存の青鹿ダムの改修はすすみ、水使用も可能となっていた。

 事態を憂慮した行政側は知恵を絞りに絞り、アッと驚く打開策を捻り出してきた。それが「開閉栓方式」である。給水栓の設置を町が税金で行い、開栓しない限り、設置費用や経常経費の負担金を徴収しないというものだ。水を実際に使うようになったら、設置費用(補助金を差し引いた農家負担は4,100円)と経常経費負担金を支払ってもらう仕組みだ。つまり、水を使わない限り、農家の負担は生じない。水を使うようになるまで、設置費用を税金で建て替え、経常経費負担金は税金で肩代りする大盤振る舞いである。行政側は夏場に農家を個別訪問し、説得して回った。将来、畑を貸したり、売ったりする場合に給水栓が設置されていれば、有利ではないかとの説明が功を奏したのか、給水栓の設置が広がりつつある。行政側はこの方式を他の9地区にも採用し、県営事業の同意取りに汗を流している。国営の切原ダムの完成が2011年度に迫っており、使われない水を溜める利水ダムにする訳にもいかず、国と県と町は必死なのである。

 これほどの本末転倒ぶりに当方、腰を抜かすほど驚いている。これがはたして公共事業といえるだろうか?そして、農水大臣はどう考えているのだろうか。本当に日本社会は奥深い。

 この続きは再来週発売の週刊ダイヤモンドに書く予定です。

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» 望まれない農業用ダムの実態(宮崎県)税金の無駄 送信元 【宮崎県 川南町 切原ダム】 尾鈴畑かんブログ 【必要なダム?】
 日本テレビの「リアルタイム」という報道番組で切原ダムに関する内容が放映されまし [詳しくはこちら]

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平成の吉田松陰様

いつもひねりが利いていていいですね。また期待しています。

筒井康隆の「アフリカの爆弾」を思い出しました。

シュールだ!事実は小説よりも奇なりというが。これほどのシュールな感覚はそうそう味わえない。うんんんんん確かに奥が深い。民俗学的な問題としても興味深いなぁ。もっと当事者個人にご登場願えるともっと面白いんじゃないかしら。社会学者のきだみのるの「気違い部落周游紀行」を髣髴とさせたりして。ちょと褒めすぎか。

YouTubeで切原ダムを検索すると、「改革派」東国原知事の人となりの知れる動画があります。

興味深いですよ。

《gatos》様ご紹介のYouTube、たくさんあったので一部だけですが、見ました。
おっしゃる通り、興味深いだけでなく、反対側の方らしい関係者との対話での不誠実な対応に、実に不愉快になりました。相変わらずの調子いいお笑い芸人ならではの、見せ掛け知事の本領発揮でしたね。
署名してしまった住民への取材内容を見るまでもなく、まずは“事実の把握”を約するのが首長のとるべき態度でしょう。こんなことばかりが、日本国中に蔓延して今日まで来た結果、今の1千兆円近い借金を背負うことになったのでしょうね。
仕組みそのものがお上(霞ヶ関?)の支配下でしか生きられないようになっていたのですから、一部の是非を論じることと並行して、基本的なルール革命が不可欠なことは言うまでもありません。
新政権には、スキャンダル追求のみの論戦?が充分予想される臨時会をまずは乗り切って、その後は多少の豪腕を振るってでも日本的民主国家の基礎工事を済ませてくださることを期待しています。ともあれ、私は民主党を信じてこの4年間、応援する気持で見守って行きたいと思っています。

gatos様ありがとうございます。
東国原知事の立ち位置が良く判りました。

東国原知事の立ち位置については週刊ダイヤモンド8月15・22日号の宮崎特集をご一読していただければ、おわかりかと思います。インタビューだけではなく、特集全体をお読みいただくと一層ご理解いただけるかと思います。

宮崎県民です。よくぞ書いてくれました!

週刊ダイヤモンドに掲載されるのだろうと思いますが、とにかく現場の写真を見て下さい。数百億もかけて塞き止めようとしているのは、ちょろちょろ流れるかわいい小川、、何のためにここにダムを?見れば必ず絶句します。

ちなみに、宮崎県民のほとんどは、この切原ダムの話を知りません。地元メディアは見事に丸め込まれていて、この大問題がほとんど報道されないためです。

相川様、週間ダイヤモンドのバックナンバーが入手出来ましたら読まさせていただきます。
ありがとうございました。

大型公共事業は背景を探ると無駄ばかりのような気がします。
先般ご指摘の大蘇ダムと言い東郷ダムと言い、そして切原ダム…あきれてものが言えません。

政治行政はそのシステム上、TOPが頻繁に入れ替わる為、長期間を要す大規模事業には、責任の所在が不明確になる、結果、誰も責任をとる人がいないと言う無責任でやりたい放題がまかり通るのですね。

大型公共事業が利権の温床となる土壌を持つこと、そして政治行政システムのブラックホールに税金が限りなく吸い取られていくという構図が思い浮かびました。

今後の記事にも期待しています。

相川俊英さん

今更ながら、相川さんは良い仕事をされていますね。高く敬意を表します。
特に、今朝のSundayProjectのような「好事例」と、このご投稿のような「悪事例」の両面にメスを入れておられるバランス感覚が素晴らしいと思います。

1.その上で、TV視聴者(活字では論点が錯綜して一寸難しいだろうと・・)という素人の贅沢なお願いというか示唆というかを申し上げれば・・、
1)「好事例」のレポートに、悪事例を対比的に入れ込む、
2)逆に、「悪事例」のレポートに、好事例を対比的に入れ込む。
3)好悪が夫々にImpactが強まるのではないでしょうか。
4)その比較には、「過去のレポート事例」を登場させればそれら事例のUpDateというかFollowUpとして視聴者に思い出させる効果もあろうかと・・。
5)相川さんの調査結果が、「二度美味しくなる」ことも・・(笑)。

2.東国原氏については、宮崎県民ではない私には予てから「民主的・進歩的知事としては、県議会や県庁幹部達との軋轢が報道されないこと」を訝しく思っていたので、「汚い馬脚が露見した」感じで、漸く疑いが晴れました(通常の意味とは逆ですが・・)。多謝申し上げます。

ふむふむ・・

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Profile

相川俊英(あいかわ・としひで)

-----<経歴>-----

1956年群馬県生まれ。
早稲田大学法学部卒業。
1992年よりフリージャーナリストに。
1998年から週刊ダイヤモンド委嘱記者に。
地方自治を主なテーマとして全国を取材・執筆、サンデープロジェクトの特集レポーターも務めている。

BookMarks

-----<著書>-----


『長野オリンピック騒動記』
1998年1月、草思社

『ボケボケパラダイス』
1996年12月、筒井書房

『コメ業界は闇の中』
1994年4月、ダイヤモンド社

『東京外国人アパート物語』
1992年11月、新宿書房

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